変化するデル、快進撃はいつまで続く?

 PC業界を見渡しても、Dellの社長Kevin Rollinsほど、大きな影響力を持ちながら、その名を知られていない人物はいないだろう。

 コンサルティング会社Bain & CompanyのパートナーだったRollinsは1996年にDellに入社した。2001年には社長に就任し、Dellが世界シェアNo.1のコンピュータメーカーへと成長する過程で大きな役割を果たしてきた。

 しかし、日々のビジネスを率いるRollinsは、会社が成長するほど自分の仕事も難しくなると見ている。アナリストたちはDellの今年度の収益は350億ドルを突破し、600億ドルという同社の目標額にさらに近づくと予測している。Dellのこうした快進撃は、薄い利幅と先の見えないPC市場で苦しむ競合他社に、さらなる難題を突きつけるものでもあった。このほど、CNET News.comはRollinsにインタビューを行った。

---(会長兼CEOの)Michael Dellとの関係を教えてください。

 私とMichaelの仕事は、かなりの面でだぶっていると思います。それぞれの担当分野はありますし、切り分けようともしていますが、それでも相当の仕事を2人で共に進めていますね。できる方がやることにしています。新規事業のアイデアなどは2人で出し合っています。ただ、日々のビジネスを動かしているのは私と言っていいでしょう。Michaelは会社を技術の側面から動かしています。戦略関係の問題には2人であたっています。

 Dellは着実にネットバブルから脱皮しつつありました。財務状況もすばらしかった。しかし、数字はやがて横這いになりました。株価も伸びず、そのまま1、2年が過ぎたでしょうか。ストックオプションで稼いだ社員の多くは、会社を辞めても困らない状態にあったはずです。社員を引きとめ、意欲を維持するために何らかの手を打つ必要がありました。どんな会社にも浮き沈みはあります。社員を奮いたたせるような新しいビジョンを描くために、私たちはさまざまな決定を下しました。このビジョンは、Dellの企業文化を適者生存から育成の方向へ変えるものでした。

 Michaelと私も経営スタイルの変更を余儀なくされました。我々はこれまで通り、社員には多くを求め、高い目標を課すべきだと考えていましたが、一方的に無理をいい、目標を押しつけるのではなく、目標の達成に手を貸すべきだということになりました。それでもだめなら仕方ありません。経営の成熟という意味では、これは大きな転換点でした。ここから生まれたさまざまな取り組みによって、Dellは今後、我々が描いたビジョンに向かって大いに成長していくはずです。

---ご自身の経営スタイルはどう変わりましたか。

 (360度)アンケートを実施し、我々のやり方を直属の部下たちに評価してもらいました。このアンケートで明らかになったことの1つは、我々は厳しすぎたということです。感謝の言葉が足りず、適切なフィードバックも与えなかった。このため、社員は会社を1つのチームと捉えることができず、まるで独裁国家のように感じていました。この結果を受けて、我々は経営スタイルの変革に取り組みました。私自身は前よりもはるかに社員と関わるようになったと思います。社員の意見を求め、真摯に耳を傾け、私が間違っているときは素直に誤りを認めるようになりました。もっとも、この点はいつまでたっても十分とはいえないでしょうが。

---財務面の成功を除くと、Dellとはどんな会社なのでしょうか。

 まさにそれが、Dellの文化を明確にする必要があると考えた1つの理由です。Dellのビジネスモデルについては隅の隅まで知りつくしていたのに、会社の文化となるとそうではありませんでした。そこでアンケートを実施し、検証を行い、人々に意見を求め、フィードバックを集めることで、Dellの根底にあるものをあぶりだしていったのです。

 「Dellの魂(Soul of Dell)」というコンセプトは、Dellの仕事や経営に関する我々の信念をまとめたものです。この理念を掲げてから2年がたち、「Dellの魂」は今、社員が意思決定を行う際の重要な基盤となっています。何らかの決定を下すときはいつもこの理念に立ちかえり、「これはDellの魂と合致しているだろうか」と問いかけます。Michaelと私も例外ではありません。これによってリーダーシップの形も大きく変わりました。会社にチームスピリットが生まれたのです。現在の社員はこうした指針や信念を掲げ、かつすばらしい業績を上げている会社の一員であることを誇りに思っています。

---そうした変化は、新製品の発売といった意思決定とどう結びついているのでしょうか。具体的に教えてください。

 それまでの意思決定は、「今度はこれこれの製品を発売する」といったきわめてトップダウン的なものでした。現在は、たとえば新製品のアイデアがあるときはチームを集めてこういいます。「こうした方向に進もうと考えているが、君たちの意見を聞かせてほしい。このアイデアを実現するにはどうすればいいだろうか。会社には今、このすべてを実現する力があるだろうか」。つまり、今後の方向性やロードマップ、適切な投入時期などを1つのチームとして、協調的に考えるようになったのです。

 Dellは家電業界に参入しました。すぐにでも幅広い製品を投入することは可能でしたが、それは手に余るというのがチームの意見でした。多くのことを短時間でやろうとすれば、会社はパンク状態に陥る---そう判断したのです。そこで我々は規模を縮小し、緻密なスケジュールのもとで、確実に製品を投入していくことにしました。新しいプロジェクトをはじめるときは、十分なスタッフを確保できるかどうかをまず考えます。これは変化といえるでしょう。以前は「とにかくやるんだ」の一点張りでしたから。

---では、今の懸念事項は?

 今も昔も、Dellのビジネスモデルは日々の業務の精度にかかっています。唯一無二の技術を武器に独自仕様のコンピュータを開発・販売して安泰というビジネスではないのです。

 我々は日々確実に業務をこなしていかなければなりません。毎日毎日、一人ひとりのお客さまのニーズに応え、確実に商品を出荷し、高い品質基準をクリアしていかなければなりません。一連の「しなければならないこと」の繰り返し、それがDellのビジネスです。これを成し遂げるためには厳しい規律が必要です。大勢の社員も教育しなければなりません。今年は15%から20%の増収となっていますが、社員数も世界全体で4万1000人に達しました。毎日のように、Dellで働くのははじめてという人が入社してきます。新人にはDellの一員として、業務を着実にこなすことの重要性を理解してもらう必要があります。これは並大抵のことではありません。絶対にミスを犯さない、絶対にお客さまの気分を害さない---こうした緊張感を維持するのは大変なことです。しかし、我々はそれを実現しています。ミスを犯すこともありますが、非常にまれです。これが最大の課題でしょう。日々の業務にきわめて高い精度が求められるモデルだということです。

---「小さいことにくよくよする」のが重要だというわけですね。

 本人の弁によると、Sam Walton(小売チェーンのWal-Mart Storesの創業者)はマスコミにWal-Mart成功の秘密を聞かれるたびに違った答えを返したそうです。

 彼の回答はやがて、毎日100のことをうまくやるというコンセプトに要約されました。Dellもそれに似たところがあります。ただ、Wal-Martはたくさんのことを正しくやるのみですが、Dellは商品を売るだけでなく、自社で開発や製造もしていますので、まったく同じというわけではありません。しかし、日常の業務に精度が求められる点ではよく似ています。ミスや不具合は許されません。そうした言葉は我々の辞書にはないのです。

---Dellは常にSun、Hewlett-Packard、IBM、Cisco Systemsと比較されます。ソニーと比較する人もいるほどです。これらの競合企業、特にHPについてどう思われますか。

 いずれも強敵です。エンタープライズ分野ではIBM、HP、Sun、個人向けPC分野ではHP、あるいはGatewayが重要なライバルといえるでしょう。一方、世界に目を向ければ中国にはLegend Group(現在はLenovo)、ドイツにはFujitsu Siemens、韓国にはSamsungがいます。どの市場にもDellの事業と競合する手強いライバルがいる。新たに参入した消費者製品分野もソニー、Samusung、Panasonicなど、アジア企業を中心に強敵が目白押しです。誰も彼もが敵に見えるといった状況ですね。

 しかし、Dellが他社と少し違うのは非常に厳格な財務規律がある点だと思います。我々が利益の見込めない分野に参入することはありませんし、拡大のために拡大することもありません。しかし、ほかの企業はどうでしょうか。多くの企業は財務規律を持っていないように見えます。どれほど金を失っても、利益の出ない事業、あるいは利益は出てもすぐに失われてしまうような事業から手を引こうとしない。これでは長期的な成長に必要な経営規律はないのではないかと考えざるをえません。そうした規律があるなら、こうした事業にとどまっているはずはないからです。

 すべての企業にあてはまるわけではありませんが、HPについていえば、業績はアップダウンを繰り返しています。我々は過去の経験から、たとえ取引額としては問題なくても、2四半期ほど様子を見てから、その事業が持続可能かどうか、採算が合うかどうかを判断するようにしています。拡大するのは簡単です。難しいのは拡大しながら利益も出すことです。先に述べたような企業の多くは、この難しい方の目標を達成できていません。

---オンデマンドコンピューティングについてどう思われますか。

 熱心な推進派とはいえません。オンデマンドコンピューティングというのは、時代を逆戻りするものだと考えています。「我々を信頼して車の鍵を全部渡しなさい。そうすれば目的地に連れていってあげよう。とにかく我々を信じなさい」といっていた時代です。非常に効率の悪い企業にとっては、最初はいい話に思えるかもしれません。しかし長期的にみると、これはきわめて高くつく選択です。我々なら、ユーザーが高いコストをかけずに自分で扱うことのできる、シンプルで使いやすい製品を作るでしょう。Dellは標準、シンプル、使いやすさを重んじています。これに対して、オンデマンドコンピューティングの示唆しているものは何でしょうか。「君たちは愚かだから、自分で管理することはできない。能力のある我々に任せなさい。君たちには無理だ。大丈夫、高くはしないから」とこうです。

 しかし、いったん鍵を他人に渡してしまえば、値段がどれほどのものになるかは分かったものではありません。業界標準の問題についても同じことがいえます。今ではIntel/Dellサーバを組み合わせてスーパーコンピュータを作ることもできます。IBM製の豪勢なメインフレームを購入した上に、ソフトウェアやサービスアップグレードに莫大な金を払い続ける必要はないのです。我々はオンデマンドコンピューティングのお得感を錯覚のようなものだと考えていますが、そう考えるユーザーも着実に増えているようです。

 基本的に、オンデマンドコンピューティングの概念というのは「我々に任せておけば必要なものを売ってあげる」というものです。しかし、このテクノロジーがもたらす手軽さは、必要なものを購入できるという以上のものではありません。マシンルームの棚に新しいサーバが増えるかもしれませんし、ストレージ機器が追加されるかもしれません。しかし、そんなことをわざわざアウトソースする必要があるでしょうか。もっとシンプルになれば、自分でできるはずです。

---Dellの次のターゲットは家電市場ではないのですか。今でもサーバ、ストレージ、サービス製品を主力商品と位置づけているように見えますが。

 ご指摘の通りです。Dellの事業には2つの領域があります。第1の領域はこれまで通りエンタープライズ分野、つまりストレージ、サービス、そして「スケールアウト」アーキテクチャです。「スケールアウト」というのは、まずは必要なものだけを買い、ビジネスの拡大に合わせて徐々に機器を追加するという考え方です。大きな箱を買って中を埋めるのではなく、まずは1つの箱を買って、徐々に箱を増やしていく。1000〜2000ドル程度のサーバを組み合わせることで、必要なキャパシティを実現しようというのがスケールアウトです。

 Dellの事業にはもう1つの領域があります。現在は家電市場がこれにあたります。Dellは米国の消費者向けPC市場でシェアNo.1を達成しましたが、その過程でデジタル家電というまったく新しい市場にも目を向けるようになりました。デジタル家電はコンピュータと同じ部品で構成されているので、コンピュータと連動させることが可能です。今のところは映画や音楽が主な用途となっています。

 先日、我々は発売を予定している家電製品のラインアップを発表しました。今後、製品が増えていくごとにDellの製品カテゴリは充実し、「Dell」はホーム市場の主要なブランドと認知されるようになるでしょう。こうしたデジタルホームの中枢、あるいは中心を占めるのがDellのPCです。

---なるほど忙しくなりそうですが、その次の注目市場に乗り遅れる心配はありませんか。

 エンタープライズは今も重要な市場ですが、消費者市場で次に来るのはデジタルホームです。これは巨大な産業です。一方、法人市場も健在です。法人向けのノートPCとワイヤレス、もっといえばワイヤレステクノロジーを導入したデジタル製品が台風の目となるでしょう。また、企業・家庭を問わず、アプリケーションは絶対に必要となります。

 我々はただ座って、まだ見ぬ敵をあれこれ心配するようなことはしません。我々が気にしているのは、Dellの弱点はどこかということです。一般的にいって、弱点というのはもっとも攻撃に弱い場所ですから、そうした分野の強化につとめています。たとえば、我々は以前プリンターを扱っていませんでした。このため、HPなどの企業はプリンター事業で利益を上げ、主力事業ではないPC事業を補っていました。そこで我々はこう考えました。「Dellもプリンター事業に参入するべきではないか。同じ条件のもとで競争を続けるためには、製品ラインにプリンターを加える必要がある」

 我々は収益ポイントを探すことには熱心ですが、敵探しにはあまり興味がありません。もうかる場所に企業は群がるというのがDellの基本信条です。思わぬ伏兵に出し抜かれることを必要以上に恐れたことはありません。デジタルの時代には同じものを作り、それを急速に発展させることはそれほど難しくないからです。むしろ問題は、プロフィットプールを分析すること、産業のどの部分で最大の利益が発生しているのかを見極めることです。これは思わぬ伏兵に襲われるリスクよりも、はるかに重大な問題です。実際、伏兵が存在した例はほとんどありません。

---最近、ウェブサイトのデザインを一新されましたね。さらに使いやすくするためですか。

 サイトの使いやすさについては、ユーザーの意見を集めたり、使い勝手のよい(ショッピング)サイトと比較したりしながら常に気を配っています。Dellにとって、(サイトの)ショッピング機能はビジネスの核になるものですから、これからも学習を続け、6〜9カ月ごとに変更を加えていくつもりです。Dellサイトは今後も進化し、変わり続けていくでしょう。我々が目指しているのは最高のオンラインショッピング経験をユーザーに提供することです。

---人気のある構成の例を価格別に表示できるようになりませんか。低価格帯、中価格帯、高価格帯の構成を表示できるようにするとか。

 基本的に、そうした情報は載せたいと考えています。それは我々のためでもあります。我々はサイトにどんな情報を載せるかだけでなく、何がもっとも売れるかも管理したいと考えているからです。もちろん、超低価格PCのように、お客さまが関心を持つ可能性のある構成例を載せることもできるでしょう。お客さまもそれを買いたいと考えるかもしれません。しかし、それでは当社の利益は出ない。ですから、そうした構成は売りたくないのです。

 我々が目指すのはAmazonのようなモデルかもしれません。つまり、ベストセラーは何か、ほかの人々は何を欲しがっているのかを伝えることです。買い物客というのは、「みんなは何を買っているのか」を知りたがるものですからね。我々もそこに向かっています。

---Dellサイトの使い勝手を向上させるために、ほかにどんなことができるでしょうか。たとえば、価格の表示ミスは顧客をいらだたせる原因の1つです。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]