野々下裕子
2007/07/10 11:00
オープンソースを支えるのは、力のあるプログラマの存在だけではない。サイトやサーバ管理といった、目立たない部分を手助けする人達の存在なくしてはコミュニティは運営できない。
下農淳司さんは、Mozillaコミュニティの中でプログラマとしてはもちろん、サーバ管理や運営のアドバイスといった後方支援でもコミュニティを支えている人物だ。コミュニティのリーダーになったり、ブログで情報を発信するといったことは特にしていない。けれども、さまざまなコミュニティにさまざまな面で関わっている人物として知られており、仲間からの信頼も厚い。
現在、宇宙物理学の大学院生である下農さん。「天文学では必用な道具を一から作ることもあり、そうしたものづくりの楽しさはオープンソースで何かを作り上げる楽しさに似ています」
「Mozillaコミュニティと関わるようになったきっかけは、MozillaにDOM(Document Object Model)が導入された頃に、サンプルを作って公開しようという動きがあって、英語版の仕様を訳したり、作業を手伝ったことでした。それから、つながりのできたコミュニティの活動に参加していますが、主なところでは、2004年夏からはもじら組のサーバ管理やMDC(Mozilla Developer Center)で英文の日本語翻訳などを手伝っています」
日々のコミュニティでの活動はもちろん、勉強会やイベントにも積極的に参加して盛り上げる。関西在住だが、時間があれば遠方のイベントにも駆けつける。Mozilla以外に、関西のLinuxユーザー会やDebian JPなどに参加するなど、技術も人脈も幅広い。困った時に頼りになる存在なのだが、本人はマイペースでコミュニティの活動を楽しんでいる。
「オープンソース系のコミュニティの特徴は、自律的に運営されていて、できることを自分で探して手伝うというノリなんです。つまり、できる人ができる範囲で手伝うのが基本なので、負担を感じずできるんです。とはいえ、具体的に指示されないと手伝いにくいという人にとっては、逆に参加しにくく感じるかもしれません。コミュニティは常に人手不足なので、そうした人達も参加できるような、新しい仕組みを作っていければいいとは感じています」
たとえば、現在関わっているMDCでは、翻訳だけでも気軽に参加できるような仕組みを開発できないかと考えている。MDCではMozillaの仕様の開発に関われる人達が少しでも増えるように翻訳のスピードを上げる努力をしているが、そのためにはマンパワーだけでなく、翻訳作業がしやすくなる仕組みを合わせて用意することが大切だという。
「他にも、日本と同じく英語以外の言語で運営されているのに、急に参加者を増やして元気になったポーランドの動きを参考にしたり、いろいろなアイディアを取り入れようとしています。一つの課題に対して、さまざまな角度から解決方法を考えて、それを試せるのがコミュニティのおもしろさの一つであり、勉強にもなっています」
現在、下農さんは、宇宙物理学を専攻する大学院生として望遠鏡の設計などに関わっている。実験や試験観測のため、国内外にある天文関係の施設へ出張することも多く、時には「すばる望遠鏡」のあるハワイ島へ行くこともあるそうだ。
「子供の頃からものづくりに興味があったんですが、できれば世の中にないものを一から作りたいと考えるうちに、望遠鏡の開発に関わるようになっていました。夜空の星を観測する天体望遠鏡であれば、すでに世の中にたくさんありますが、宇宙の特定の物質を観測するといった道具を新しく開発しようとすると、パーツはもちろん、機材を動かすソフトもすべて一から作らなくてはいけない。それも予算や時間が決まっているので、常日ごろから情報収集をしたり、柔軟な発想が求められるんです。そうした目標に向けて課題をクリアする方法を考えていくのが大変だけどおもしろいんですが、コミュニティでの活動もどこかそれと似たようなところがありますね」
下農さんのような縁の下の力持ちをもっと評価しようと、Mozillaでは2006年後期から「コミュニティ支援プログラム(Mozilla Community Program)」を実施している。コミュニティを支援する貢献者に対して、イベント参加の交通費やコンピュータなどを支給するというユニークなプログラムで、下農さんは、今年の春に来日したプログラムの担当者と知り合ったのがきっかけで推薦され、もう一人の方と一緒に、日本人で初めて支援を受けられることになった。
「支援プログラムがあることを知ったのはつい最近で、主にbugzillaでの活動内容が評価対象とも聞いていたので、認定されるとは思っていませんでした。僕よりも日本のコミュニティに貢献している人達はもっとたくさんいるので、連絡が来た時はびっくりしましたが、僕ぐらいでも認定してもらえるというモデルケースだと思っています。もっと多くの人が推薦されるようになって、日本のコミュニティ全体が盛り上げるきっかけになればいいですね」
下農淳司さんが現在関わっている主なコミュニティ