プログラマ経験で見い出した娯楽のあり方と新たな挑戦--探偵オペラ ミルキィホームズ - (page 2)

娯楽やエンタメは「何も考えず楽しんで切り替えができるもの」

  • テレビアニメ第3期の「ふたりはミルキィホームズ」では、新キャラとして常盤カズミ(中央右、黒い帽子)と、明神川アリス(中央左、白い帽子)の2人が追加。2人は「ミルキィホームズ フェザーズ」を結成する

 2007年ごろから自分の幅を広げるために当時設立されたばかりのエンタメ系スクールに休日を利用して通っていたころ、ブシロード代表取締役社長である木谷高明氏に出会い、オリジナルコンテンツ立ち上げとともにプロデューサーとして誘われ、NINJA GAIDEN II完成後にブシロードに入社。ともに企画・原作を手がけるクロノギアクリエイティヴのスタッフとともに合宿などを行い、ミルキィホームズの世界観や設定を作り上げていった。ちなみに探偵ものになったのは、もともと木谷氏が「ギャラクシーエンジェル」と「名探偵コナン」を足して2で割ったものを希望していたことに端を発している。

 作品によって物語がギャグテイストであったりシリアステイストとあるものの、探偵ものでありながら、作中では誰かが死んでしまうという展開はないのが特徴。これは中村氏が初期段階から思い描いている娯楽のあり方、エンタメ作品としてのビジョンに基づいている。中村氏は物事を忘れたり切り替えができるものが娯楽というのものであり、何も考えずにコンテンツに接して楽しんでもらうこと、またそのカンフル剤になることをモットーとしているという。

  • 声優陣が作中の衣装をまとってイベントやライブに出演。ちなみに6人のときのユニット名は「ミルキィホームズ シスターズ」となっている。左からエリー役の佐々木未来(みこい)さん、アリス役の伊藤彩沙さん、ネロ役の徳井青空(そら)さん、シャロ役の三森すずこさん、カズミ役の愛美さん、コーデリア役の橘田いずみさん

 「泊まり込みが続いて精神的にきつかった時に、深夜3時ぐらいにかわいい制服のファミレスに行ったら桃源郷のように思えて(笑)、それだけで癒やされるわけです。もちろん、敵にトドメを刺すゲームにもカタルシスはありますが、かわいい女の子を前面に押し出したキャラクターコンテンツを考えるのであれば、死を想像させる方向は違うのかなと。つらいと思うときに物事を忘れたり切り替えをできたりするのが、娯楽というものの一番の目的なんじゃないかと。そこに意味はなくても、ふと一息付けるようなことができるとするなら、コンテンツとして存在する意味がある。生活のスイッチャーになれることを考えています」(中村氏)

 そんな中でも一定のメッセージ性は盛り込まれている。例えばテレビアニメ第1期であれば、トイズを失ったミルキィホームズがその能力を取り戻すために奮戦し、ゲーム第1作目であればプレイヤーである小林オペラがトイズの能力を失い、ミルキィホームズの力を借りて事件を解決する姿が描かれている。能力が無いなら無いなりに何ができるのかと主題として置いている。またテレビアニメ第2幕では、制作時期に東日本大震災が発生したことから、トイズと学院の立場を失ったミルキィホームズが、自ら農村を作り生活力を持って立ち直るという、復活と再生のメッセージが込められている。

 ちなみに、ミルキィホームズが軌道に乗ると確信したのは、実はアニメの放送やライブではなかったという。2010年末に行われた格闘イベント「Dynamite!!」で、コスプレファイターとして知られる長島☆自演乙☆雄一郎選手が入場する際に、アニメのオープニング曲とともにミルキィホームズのメンバーが自らダンサーとして登場した出来事があり、その観客やSNSでの反応を見て確信したと振り返った。

  • 2012年に行われた日本武道館での単独ライブ。大変なことが多かったが、ターニングポイントのひとつと中村氏は振り返った

 「SNSでの反応は『あのアニメの』という感じで、何それ?という反応があまりなかった。あと通販サイトでのアニメ映像商品のランキングもぐんぐん上がっていって。それを見てちゃんと存在が知られていることが目に見えて感じて、これはいけると思いました」(中村氏)

 展開を初めて5年。初期からも“ミルキアン”と呼ばれる熱心なファンが存在し徐々に拡大。ファンクラブ運営も行い第3期まで迎えている。一方で中村氏は、今はキャラクターコンテンツを継続的に展開するにあたって、新しいファンを取り入れるのが難しい時期でもあると感じているという。それは単に古参と新参のファンというくくりの問題ではなく、そのコンテンツの世界に入っていくことに対して、まわりを様子見しながらファンになるという風潮があり、そこに業界全体の危機感を感じているという。

 「ことアニメやゲームなどのジャンルでは、今はさまざなな情報が氾濫してひとつの意見が増長しやすい傾向にあります。それに触れていると、後からコンテンツの世界に入ることが怖くなって、好きになっていいのかな?と様子見してしまう。まわりが入って行くから僕も入れるという状態というのは、コンテンツを好きになるなり方としては変です。みんなで楽しいものは楽しい、好きなものは好きと言える世界にしていかないと、新しい何かのジャンルが発生したときに、一気にそちらに持っていかれる危険性が、いまのこのアニメやゲームというジャンルははらんでいると思います」(中村氏)

新たな時代の楽しみ方を提示し、挑戦を試みるセカンドステージ

 今後については9月20日に東京ゲームショウ2014内幕張イベントホールにて、ライブイベント「ミルキィホームズファーストライブ(にかいめ!)Welcome to Second Stage」を開催。そのなかでセカンドステージとも言うべき今後の展開を発表するが、その中には広報戦略的なことやテクノロジとしての新たな挑戦も含まれる予定。ひとつキーポイントとして挙げていたのは、“楽しみ方の体験の変化”だ。この5年でも携帯電話の主流がスマートフォンに変化し、テレビのサブデバイス的な存在になったこと。またテレビ番組をTwitterなどで実況しながらリアルタイムで楽しむといった、新しい視聴体験も生まれてきた。テレビとネット、スマホアプリの親和性が高まっているなかで、中村氏はその次に何が来るかを模索しているのが今であり、新しい時代のコンテンツの楽しみ方も提示したいとしている。

 「例えば、もともとテレビはリアルタイムかつ同時性に優れている媒体であるはずなのに、ドラマなどのコンテンツに依存してしまったために、アーカイバーとして有能なネット媒体に一気に押されてしまった。それがTwitterや掲示板の実況という形でそのリアルタイム性の価値が見直されてきていると思います。そして今、リアルタイム視聴の更なる楽しみを模索するサバイバルが行われようとしている面白い領域です。これまでのミルキィホームズは、2009年からのものを継続している状態で、コンテンツの展開が時代に則しているかというと、必ずしもそうではないのかもしれない。いろんなものが変わりゆくなかで、新時代なりの楽しみ方について、僕たちなりのやり方を提示しようと。楽しみ方の回答というよりは、回答にたどり着くための一歩だと思っていただければ。そしてそこに挑戦するのがセカンドステージだと考えています」(中村氏)

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