ゲーム実況はゲームの楽しみ方を変えるのか--その魅力と問題点 - (page 2)

ゲーム実況者が語る成り立ちと現状、そしてこの先

 ここではるしげ氏からもう少し踏み込んだゲーム実況の成り立ちやスタイルについて説明した。同氏によれば、2007年以前からも一部でゲーム配信を楽しむスタイルがあったが、2007年のニコニコ動画の登場からゲーム実況動画が投稿され始める。当時はごくわずかだったが、2008年に投稿者が増え始め、2009年にはニコニコ動画内でゲーム実況のブームが起き、メーカー公式やプロ実況者が誕生するなど、新しい試みもはじまった。以降、現在までにニコニコ動画のイベントなどを通じて広く認知されたという。

 ゲーム実況のスタイルは大きく分けて3つあるとしている。まず、実況者のパーソナリティの魅力により、話す内容やしゃべり方、リアクションで見せていく「タレント型」。面白いゲームの紹介や攻略法などの解説、スーパープレイを見せていく「紹介・解説型」。俗に縛りプレイと呼ばれる、自主的な制限をしたゲームスタイルによるプレイや、通常とは異なる遊び方や特殊なプレイをする「企画型」だ。もっともこれらはハッキリと区別されるものではない。人気の実況プレイヤーや再生数の多い動画については、これらの要素が複合的に組み合わさった形であり、ユーザーからのコメントによって、その面白さが膨らんでいくとしている。

  • はるしげ氏が考える、ゲーム実況の面白さのポイント

 登壇者それぞれがゲーム実況を始めた経緯についても触れられた。ガッチマン氏はもともと、ホラーゲームが苦手な友人に魅力を伝えようとし、ただ単にゲームをプレイするだけでは怖がるため、しゃべりを加えたことがきっかけ。現在もプレゼンテーションプレイというスタイルで、公式のゲーム実況を行っている。実況者:ヒラ氏はもともと最終兵器俺達のファンだったところからグループに加わった。顔出しをしていないながらも人気となっている要素は、グループメンバーの個性が魅力的で、なおかつ想像が膨らむところからだと語る。

 はるしげ氏は、もともとプレイのログ(記録)を残すところから次第にゲーム実況になっていったと、始めた経緯を振り返る。またログを残すことを意識すると、効率の追求や雑なプレイをしなくなり、丁寧にゲームをプレイするようになって、より世界観やキャラクターに愛着が持てるようになる。またゲームのストーリーとは別に、ゲームのプレイ自体に物語性があり、ゲーム実況化することにより物語性の魅力が発見されたのではと語った。

 ゲーム実況の盛り上がりがネットでもリアルでも感じられるようになった昨今ではあるが、当事者たちがこの先の未来が明るいとは考えていないようだ。実況者:ヒラ氏は現状でもアンダーグランドなところがあるとしつつ、このままでは趣味レベルでは残るものの、タレントなどの有名人にゲーム実況者が置き換えられる可能性が高いと見ている。

 ガッチマン氏もエンターテイメント性が進むと実況者:ヒラ氏が言ったような流れになることは同意しつつ、ガッチマン氏が公式としてここ2年間取り組んできた「ゲーム実況は販促手段のひとつ」というプレゼンテーションをするスタンスでいくならば、ゲームを理解してもらうための説明書やチュートリアルに変わる形で残っていく可能性はあるとしている。

 はるしげ氏は実況プレイヤーが増えすぎている現状から、動画ごとの再生数が減ってきて新規の実況プレイヤーも減っている状況とし、趣味レベルでも減っていくのではとの見解を示した。一方で池谷氏は、突出した人が目立たなくなっているが裾野が広がっている状態で、動画投稿機能が標準搭載されたゲーム機の普及によってハードルが下がり、突出した人気を持つことは難しくなるものの、ゲーム実況やプレイ動画が楽しみ方のひとつとしてより普及していくという見方をしている。

 ユーザーとメーカーとの関係性については「最初に感じたのは、メーカーがユーザーを拒否しているのではなく、ユーザーがメーカーを拒否する傾向が強かった」(ガッチマン氏)。この考え方は少しずつ変わってきているとしながらも、お互いに深く入らない微妙なバランスで成り立っているという。もっとも、逆にお互いが深入りすると宣伝色が強いものになってしまうため、独立性を維持しながらも協力を得ていくという距離感を模索している感じだ。

 ゲーム実況におけるメーカーの取り組みの例として、はるしげ氏はスパイク・チュンソフトがPS3用ソフト「テラリア」の先行プレイ企画に触れた。これはゲーム実況動画を作ってくれるユーザーを事前に募集してプロダクトコードを付与。発売日と同日に実況動画を公開するという取り組みだった。そのときにアップされた動画本数は少なかったものの、自主的に投稿されたと思われるものを含めると最終的におおよそ1000本近い動画が投稿されたという。このことから、メーカーとの取り組みでもさまざまな可能性はあるとしている。

 池谷氏は、ゲームを遊んで笑ったり感動したり絶叫したりと、そういうリアクションも含めた姿がユーザーに響くゲームの姿に近いとし、ゲーム実況はゲームの本質を伝える手段のひとつであると見解を示した。これについて黒川氏も映画のCMを例に挙げ、見終わった人が「とても感動した!」というような感想を伝える宣伝手法に近いという見方をし、ゲーム実況は従来のハイライトシーンをつなげるゲームCMやPVとは異なる、リアリティやライブ感を持ったものとしてユーザーに伝わっているとした。実際にいくつかのゲーム関連のCMでも、プレイしている有名人の様子を放送している事例もある。

  続けて黒川氏は、今の時代は「商品を使っている様子」「使っている自分がかっこいい」「遊んでいる自分が楽しい」といった、商品を使うシーンを含めて売っているものだと語る。テレビゲームのプロモーションやアプローチも、これまで一方的に情報や映像を見せられるものだったが、ゲーム実況のように、自分の楽しみを他の人に共有して知ってもらい広がっていくというのはリアリティがあり、この手法をうまく活用していくことは、メーカーにとって必然ではないかとしている。

 黒川氏が考えるゲーム実況のこの先については、もともとメーカーかつ宣伝担当も経験した視点から「メーカー側も本当はうまく利用していきたいと思っているはず。その思惑があるなかで、そう遠くないうちに一定のレギュレーションのなかで認めることになる。一方で限られた実況者にしか認められない可能性もあり、そこがムーブメントの変わり目になるのではないか」とまとめている。

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