試される先見性、Appleのもう1つの顔ストアサービス--松村太郎のApple一気読み

 5月13日~5月19日のAppleに関連するCNET Japan/ZDNet Japanのニュースをまとめた「今週のApple一気読み」。

 Appleの年次開発者会議WWDCに先立ってサンフランシスコで行われたGoogleの開発者会議「Google I/O」では、Google+ログインのプラットホーム強化、新しいAPIや翻訳やベータテストなどアプリ開発環境の強化、そして地図プラットホームの強化などが発表された。

 中でも注目は、地図プラットホームに関連するAndroidアプリ向けのAPIだ。低消費電力でのGPSなどを使った位置情報取得や、端末もしくはユーザーの活動状況の判別といった、ユーザーが実空間の中で「どこで」「なにを」しているのかをアプリへ受け渡せる機能を提供し始めた。またAppleからも登場が噂される定額音楽ストリーミングサービス「Google Play All Access」も発表し、Androidやウェブでの音楽環境を提案している。

 スマートフォンやタブレットのユーザー数、SNSサービスGoogle+とアカウントサービスの強化、そして音楽ストリーミングと、トレンドとなるプラットホームの強化を手がけてきたGoogleに対し、Appleはどのような対抗策を打ち出してくるのか、注目だ。

 それでは先週のニュースを見ていこう。

試される「酷な」先見性

 Intelの元CEOであるPaul Otellini氏へのインタビューで、過去、iPhoneが発売される前、AppleからiPhone向けチップ供給に関する打診を断っていたことを明かした。Appleが搭載しようとしていたチップの供給コストは、Intelにとって非常に安い価格であったとしており、生産量拡大での埋め合わせも難しく映っていたという。実際は、Intelで検討されていた生産量の100倍になった。

 iPhone導入以前、Appleも含めたコンピュータの大半は、Intelチップを搭載した「パソコン」であった。Appleの打診はこうした前提を大きく崩すものであり、わずか5年でそれを達成すると考える事ができた人はApple社外では少なかったのではないだろうか。あるいは、Appleがもう少し上手いくイメージを持たせることができていたら、判断は変わっていたかもしれない。

 こういった判断を求められるのは、なかなか酷な話だ。おそらくOtellini氏も、当時の状況や経営を総合的に判断すれば正しい選択だったはずだ。起きた事実に飛躍があるといってもよいだろう。しかし時にこうした飛躍を予測し信じなければいけない局面がどんな業界にも存在しているのも事実だ。特に日本企業にとっては、大きな教訓になっていくはずだ。

 変革を起こす、それを認めてサポートする、変革の起きそうなトレンドについていく──。いずれにしても、依然続くであろう変化の大きな時代では、新たな未来を作るという意識を少しでも持っていた方がよさそうだ。

インテル前CEO、初代「iPhone」へのチップ供給を見送ったことを明かす(5月17日)
ゲイツ氏、ジョブズ氏との思い出を回顧--「驚くべきセンス」に感服(5月14日)

Appleのもう1つの顔--ストアサービス

 先週iTunes Storeの10周年に関しての記事をご紹介したが、今週はApp Storeでアプリダウンロード数が500億本を突破したことが発表された。1秒あたり800本以上、1カ月に20億本がダウンロードされる巨大な市場へと成長しているApp Storeでは、開発者に90億ドル以上の利益を支払っており、iPhoneやiPadなどのモバイルデバイスの原動力になっている。

 AppleはMac、iOSデバイスというハードウェア関連のビジネスが以前として収益の大きな部分を占めているが、iTunes Store、App Store、iBookstore、Mac App StoreといったApple IDにまつわるデジタルコンテンツビジネスは、Appleのハードウェア向けに最適化された体験を準備しており、ハードウェアの魅力を高める役割を存分に果たしてきた。

 その役割は引き続き大きくなっていくと思われるが、コンテンツ管理・購入の窓口となるiTunesや各ストアの機能は、すでに他社のサービスとの競争状態に入っている。特に音楽の分野、アプリの分野では、Androidというこれまた巨大なユーザーベースを持つGoogleと競合し、Apple、iTunesならではの魅力を作り出さなければならない局面に来ている。

 少なくとも、機能で劣ることはあってはならない。音楽ストリーミングサービスに関しては、Googleが先週、Google Play Music All Accessを発表した。iTunesにも噂されているが、既に多くのユーザーが楽曲を購入あるいは取り込んでいるiTunesを生かすなど、既存ユーザーが納得する便利さを提供できるかどうかに注目が集まる。

 特にiTunesに関しては、レコード会社の目の色が他社とは違う。Appleが他社とは違ったスタンダードを試して差別化するチャンスもここにある一方で、レコード会社が自分たちにとってきちんと収益確保ができるかどうか目を光らせていることも事実だ。

米司法省、アップルとの電子書籍の独禁法訴訟で新たな文書を提出--米報道(5月15日)
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「App Store」のアプリダウンロード数が500億を突破(5月16日)
「iTunes」がアップデート--「Mini Player」のアルバムアート強化など(5月16日)
アップル、「App Store」ダウンロード数の500億本到達を正式発表--ギフトカード1万ドル分獲得者も明らかに(5月17日)
アップル「iRadio」、音楽レーベルとの交渉で問題が浮上か--楽曲スキップ機能の扱いで(5月18日)

Apple IDをいかに活用するか

 Appleがストアを展開する際の1つの武器になるのがApple IDだ。音楽、アプリ、電子書籍といったデジタルコンテンツの購入から、開発者登録、実店舗やオンラインのApple Store、そしてクラウドサービスiCloudなど、ユーザーからは一見関係なさそうに分断されているようにも映るこれらのサービスを束ねているのは、実は1つのApple IDとなっている。

 ストアサービスの戦略を語る上で、Appleはクレジットカードを登録しているIDを2億件以上持っている点で、最も自由度の高いサービス展開を可能にするポジションなのだ。

 例えば実店舗のApple Storeへ行くと、クレジットカードとApple IDが紐付いていれば、決済をしたときのレシートはメールで受け取れる。またアプリを使って自分でバーコードを読み取って決済することも可能だ。すでにApple IDによる体験の設計は、デジタルのサービスの枠を飛び越えて、いわゆるO2O(Online to Offline)を実現する決済サービスの土壌として有望視することができるのだ。

 だからこそ、セキュリティは非常に重要だ。

 Apple IDは段階的に、パスワード以外の本人確認手段を組み合わせた2要素ログインを導入している。携帯電話に、都度、4桁の数字のコードをSMSで送信し、ログインする際にそのコードを入力するという方法だ。もしもパスワードが破られても、手元にデバイスがあれば、そのコードを見ることができず、また誰かがログインしようとしていることを察することもできるようになる。こうした機能と使い方の普及は不可欠であろう。

 また、Apple IDとApple製品を紐づけて、保証プランを組むという、Apple Storeを核とした付加価値、安心感による差別化も進もうとしている。中国などで問題になった製品の保証プランについて、Appleが変更を行おうとしているという記事が先週流れた。

 筆者としては、これまでMac、iPhone、iPadと、個別に組まなければならなかった保証プランを、Apple IDで包括的に管理できるようにして欲しい。しかもグローバルで。例えば、月額、年額の一定額で、製品の補修や技術的なサポートが受けられるプランを個人やビジネス向けに用意するというのはどうだろう。

アップル、製品保証プランの変更を計画か(5月13日)
「Apple ID」の2要素認証、利用可能地域が拡大か(5月13日)

その他

アップルのクックCEOと面会できる権利、61万ドルで落札(5月15日)

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