「技研公開2015」見どころ 試験放送を2016年に控えた8K--「究極のテレビ」の現在地は

  • 東京、世田谷のNHK技術研究所では5月31日まで、一般公開を実施している

 最先端の放送技術の研究開発成果を紹介するNHK放送技術研究所「技研公開2015」の一般公開が5月28日、東京・世田谷区の同研究所で開幕した。「究極のテレビへ、カウントダウン!」をテーマに据えた今回は、試験放送開始を2016年度に控えた8Kスーパーハイビジョン関連を多数展示。例年以上に「放送技術開発の主役」を印象づけた。

 間近にせまった試験放送を踏まえた内容という意味では、入場口直後の「8K衛星放送実験」(展示番号1)は注目すべき展示と言える。港区お台場で撮影した映像をリアルタイムに技研まで伝送、設置された8Kテレビで受信するというデモで、8Kのカメラシステム(同1-1)や映像・音声信号インターフェース「U-SDI」(同1-2)、8K符号化・複合装置(同1-3)、12GHzの放送衛星を使用した8K衛星伝送システム(同1-5)など、最新の研究成果を結集して実現させたものだ。

  • 「8K衛星放送実験」

 2020年時点では家庭向け8Kテレビの普及は難しいとみられることから、東京オリンピック中継はパブリックビューイング(PV)がメインになると考えられるが、それを実現するための要素技術が詰まったデモ展示と言える。「五輪中継PVはだいたいこんな感じ」というイメージでデモを見学するといいかもしれない。

 2016年度の試験放送開始や2020年東京五輪PVはともかく、単純に「究極のテレビ」を体感したいと望むならば、毎年恒例「8Kスーパーハイビジョンシアター」(技研講堂)や「フルスペック8Kスーパーハイビジョンプロジェクター」(同11)、「8K対応ハイブリッドキャスト」(同3)あたりがお勧めの展示だ。

 2015年の「8Kスーパーハイビジョンシアター」で用意されたコンテンツは、NHK交響楽団公演によるチャイコフスキー「悲愴」第3楽章。2014年に続いて劇場中継型コンテンツだが、1台のカメラで舞台全体をとらえる映像を中心とした前回と異なり、様々な角度から撮影した映像をスイッチングした「より制作番組らしい」構成となっていた。特に楽団後ろから指揮者をメインに捉えた映像はあたかも楽団メンバーの視点を再現しているようで、高画質、高音質と相まってなかなかおもしろい。

  • 「8Kスーパーハイビジョンシアター」。450インチの大迫力

 「フルスペック8Kスーパーハイビジョンプロジェクター」は、8Kフル解像度にフレーム周波数120Hz、そして広色域表色系を大画面で表示できるプロジェクタによる映像を450インチの大スクリーンで再生する展示。その圧倒的な映像美と色表現は「究極のテレビ」の名にふさわしく、今回の全展示中もっとも強いインパクトを受けた展示の1つと言っていい。

 特に注目は、スーパーハイビジョン向けの色域規格BT.2020規格をサポートした広色域表色系によって実現された色表現。「エメラルドグリーンの海」など、人間の視覚情報として捉えることはできても映像としては表現できなかった色彩が8Kフル解像度で表現されており、高臨場感映像が持つ真の実力を従来との比較を含め体感できるはずだ。

  • 入口から8K衛星放送実験をアピール

 最後に「8Kハイブリッドキャスト」。2014年の同展示は、文字通りの8K+ハイブリッドキャスト、つまり8Kの高精細映像に「きれいなデータ放送」ことハイブリッドキャストを実装しただけの展示に留まっていたが、一転、今回はサービスをかなり作りこんできた。

 今回の展示で特に重視されていたのが「通信経由の動画再生」。現状のハイブリッドキャストでもさほど多用されていないが、通信経由で放送本線とは別の動画を送り、かつ放送本線とタイミング同期をとることができるのはハイブリッドキャストの大きな特徴の1つ。この機能を活用したマルチビュー的なサービスとタブレット端末連携、そしてそれらを8K映像で実現しているという点でかなり近未来的な印象を受けた。

 デモ展示では、NHKの年末恒例番組「紅白歌合戦」を題材に具体的な使用ケースを紹介。例えば、今回展示した機能「スナップショット」は、自身が気になる歌手が出演中に実行することで動画にしおりを挟むことができるサービスで、一度チェックしておけばその歌手の出演シーンを何度でも通信経由で再生することができる。同番組放送時における他局とのチャンネル切り替えが数多く発生しがちなことを考慮した内容であり、ある意味「ザッピング視聴を容認した」姿勢がNHKらしくユニークなサービスと言える。

 また、複数の8Kカメラで撮影した映像を視聴者側が任意でスイッチングできるサービスもおもしろい。某アイドルグループのように舞台上の登場人物が多いケースで、特定人物に特化した映像を「選べる」というものだ。今回はそれぞれ異なるカメラ映像を切り替える仕様としていたが、8Kの高画質を考えれば、舞台全景をとらえて各部分を切り出す(8K映像からの切り出し加工映像は2~4K画質相当を維持)というパターンも考えているという。

 2020年の東京五輪まで、次世代放送サービスのカウントダウンは本格的に進んでいく。そうした中で直近の8K進捗状況を確認するもよし、将来に向けた「究極のテレビ」を確認するもよし。2015年の「技研公開」も多くの見どころが詰まっている。

 なお、一般公開は5月31日(日)17時まで。

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