最終更新時刻:2008年10月7日(火) 20時16分

ビジネスシーンにおけるネットリサーチ活用の今

石丸健太郎(富士総合研究所)

2003/06/06 10:00  

 「普段うちで買い物をするお客様が、今週どんな休日を過ごすのか知りたいね」

 とある流通系企業、金曜午後の会議でふと発せられた役員からの言葉である。この情報が週明け月曜の会議に使えればスピード経営に繋がるというロジックだ。

 昨今の変化の激しい市場においては、生活カレンダーに沿った例年通りの行動傾向だけ把握していれば顧客満足が得られる時代は終わっている。いかに的確なスピードとタイミングで消費者のニーズを把握できるかが、まさにその企業の生命線とも言える時代である。

 さて一見無理難題に思えるこの発言を聞いたマーケティング担当S氏は、なぜか顔色一つ変えずに職場へ戻る。彼は素早く調査すべき項目をまとめると、画面に向かいワープロ感覚で設問を入力する。するとウェブ上にアンケート形式のページがあっという間にあらわれた。彼の強力な武器はネットリサーチである。

ネットリサーチの利点はそのスピード

 インターネットがもはや当たり前の時代、いろいろな商品やサービスに付随して一般消費者を対象とした会員を保有する企業は少なくない。彼らはいわばモニターであり、応援してくれるファンであり、将来のリピーターでもありうる。しかも彼らが日ごろ感じている要望(ときにはクレーム)といった意識の高い建設的な意見は、土日2日の実査期間でも充分過ぎるほど良質な回答を期待できる。これだけスピーディーに情報収集できる手段はネットリサーチをおいて他にはない。しかも1次情報がすでにデジタルデータである為、ネットリサーチ専用システムを利用すればリアルタイムに集計が可能となり、その後のレポート作成を強力に支援する仕組みもあらかじめ準備されている。紙媒体等の従来型調査との比較では、調査スキーム一連における低コストが謳われる事がしばしばだが、むしろそのスピードが生み出す価値こそ決定的な違いといえるだろう。




適材適所を把握する

 面接、郵送、電話/FAX、グループインタビューなど従来型調査にもそれぞれメリットデメリットが存在するように、当然ネットリサーチも万能ではない。一般的な世論調査のような極めて代表性が問われるケースには現時点では不向きとされている。ただし自ら積極的に回答することが前提のネットリサーチでは、比較的社会に関心の高い人たちが回答を寄せる傾向にあることが言われており、先行指標としての活用は充分期待できる。

「サンプルの偏り」そのものを逆手にとって、そもそもインターネット利用者層がそのままターゲットとなりうる商品・サービスに関する評価などを行ったり、従来型調査において取りこぼしていた層に対する補完としても、組織化された団体に対する定期調査、制度改正・広告投入直後のタイムリーな意識調査、全国各地に点在する対象者へ同時に行う実態動向調査、継続的な定点観測などにも活用する手もある。

 けっして従来型調査と相反するものではなく、タイプの違う調査手法だということだ。過信しすぎる危険性を常に念頭におく必要はあるが、逆に従来手法に固執し「ネットリサーチなぞ、信用に足らん」では、古代エジプトの石板にも刻まれている「近頃の若い者は」と同系の議論というものだ。

回答者にやさしいという視点

 従来型調査において、ますます回収率が厳しい状態に向かいつつある理由の一つとして、生活時間帯の相違から生じる捕捉困難な状況や回答拒否といった問題がある。その点ネットリサーチであれば、回答者の生活を乱すことなく、マイペースな回答ができる。

 下のグラフは筆者が管理しているリサーチシステムの、とある期間の時間帯別アクセス数の平均統計の一部である。深夜、昼食時、夕食時を基点にそれぞれカーブが上がっては収束する様が見て取れるが、全時間帯を通じて回答者のアクセスがあることがお判り頂けるかと思う。

 今や同じ家族の中でも生活時間帯のズレがあることが珍しくない。回答時間を強いることなく実施できる点は魅力的である。

 また特に自由回答に対する回答者への負荷もネットリサーチでは軽減される。試行錯誤しながらの書き直しの手間や漢字熟語の正確な記述などを無意識に強いられる紙への回答、グループインタビューにおける他者とのコミュニケーションで生じる主張のぶれ、調査員に回答を急かされる心理的負担、などといった回答負荷もクリアされ、構えることなく忌憚ない意見を書くことができよう。

ネットリサーチと親和性の高いテキストマイニング

 リサーチの目的は大きく分けて次の2つがある。仮説の検証と新たな発見を得るための探索だ。前者では「商品ABどちらのシェアが高いか」といった定量的なデータに基づく手法が用いられ、後者ではそもそも主催者側が発想し得ない新たな知見を獲得するためにフリーアンサー(生の声)といった定性的なデータを重視した手法となる。ネットリサーチにおいてはこの双方の要素を融合させたリサーチが期待できる。

 しかしながら同じデジタルデータではあっても、定量データであれば統計的な手法に即座にかけられるが、定性データはそのままでは分析にかけることは困難だ。そこでクローズアップされるのがテキストマイニングと言う手法である。もし「マイニング」というキーワードに聞きなじみのない方でも、こんな話なら聞いたことがあるかもしれない。

 あるアメリカのスーパーで、週末の夕方、なぜか若い男性客の多くが「おむつとビール」を同時に購入する傾向をPOSデータの中から発見した。そこで一見何の関連もなさそうなこれらの商品同士を近くに配置換えしたところ、売上がさらに伸びた。お駄賃をえさに買い物を頼まれたダンナは、おむつと一緒に、ついでにビールも買って帰る、というわけだ。

 上記はデータマイニングに関するよく知られた話ではあるが、そもそもマイニング(mining)とは炭坑技術における「採鉱」が出自であり、膨大に集まった種々雑多なデータに隠れた有益な関連性を発見する手法である。この奇妙な規則性に気づき、宝を掘り当てたわけだ。

 生の声が集まるフリーアンサーはまさに宝の山であり、多くの知見やビジネスチャンスが眠っている。しかし自然言語の塊であるテキストの中からこの「気づき」をうまく発見するためには、何らかの形で定量的な尺度に置き換える必要がある。そこで、意味を有する最小の単位にまで文章を分解する形態素解析を行う。こうすることで単語レベルでの出現頻度で特徴的なキーワードの分類を行うことが可能になる。例えば対極にあるキーワードとの距離から対照的な特徴を可視化したり、品詞を形容詞に絞って抽出を行うことで商品イメージの特徴をあぶり出すといった具合だ。

 今ではこうした一連の分析をビジュアルに行えるツールも存在する。しかしながら、一番重要なのはあくまで「気づき」であり、ツールはそのための支援でしかない。本当に価値のある宝を発見するためには、問題意識をもつ調査主催者が自ら分析を行い、生のデータにまみれながら試行錯誤を繰り返すことが大切である。

 以上見てきたように、実査・集計を手軽に行えるネットリサーチと、集まったデータの中からビジネスチャンスを発掘するテキストマイニングとの組み合わせが、インターネット時代のビジネスシーンにおける強力な武器となるはずだ。

 さて週があけて月曜日の朝、マーケティング担当S氏はどうしただろう。片手には綺麗にグラフ化された書類を携え、少し笑みを浮かべながら会議室へと急ぐ姿が窓に映る。どうやら彼も「おむつとビール」を見つけたのかもしれない。

富士総合研究所 システムコンサルタント 石丸健太郎

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