最終更新時刻:2008年10月6日(月) 19時43分

北城恪太郎氏--「オープン志向の挑戦が企業を強くする」

インタビュー:末松千尋(京都大学経済学部助教授)
構成/文:野田幾子、写真:吉成行夫
編集:山岸広太郎(CNET Japan編集部)

2004/02/19 10:01  

日本IBMの社長時代、1990年前半の企業改革に取り組んできた北城氏。グローバルな大企業として初めてLinuxを採用したIBMのオープンソース戦略はどんなものであったのか。現在は日本IBM会長、そして経済同友会代表幹事として日本経済を牽引する立場にある同氏に、オープン時代の企業経営のあり方について聞いた。


経済同友会 代表幹事
日本IBM 代表取締役会長
北城 恪太郎 氏

1967年、日本IBMに入社。システムエンジニアとして電力会社などのシステム構築に携わる。1992年1月、同社代表取締役社長に就任、1999年11月よりアジア19カ国を統括するIBMアジア・パシフィックプレジデントを兼務。同年12月、代表取締役会長に就任。IBMグループ全体の世界戦略を担う世界経営会議メンバーでもある。また、2003年4月には経済同友会代表幹事に就任した




IBMの戦略転換は市場のニーズを汲んだ結果

末松: 1990年代、大規模な企業変革を行っていたIBMにいったい何が起きていて、そこにLinuxはどう絡んできたのかを、まず聞かせてください。IBMがLinuxを採用に踏み切った当時の背景はどういったものだったのでしょうか。

北城: 1993年よりIBMの会長を務めていたルイ・ガースナーの基本的な考え方は、「市場、つまり顧客が受け入れるものにIBMは力を入れていく。そしてIBMが成長し続けるために、できるだけオープンな基準を採用したい」というものでした。ある一社が決めた基準ではなく、多くの人々が広い範囲で利用できるものを基準として会社経営を伸ばしていきたいと。近い将来、市場ではオープンなソフトとサービスが成長して、IT産業で重要なポジションを占めるだろう……という読みに合わせ、IBMの事業構造もそちらにシフトしていったのです。

 実は日本IBMも、私が経営のトップにいた1990年の時点で既に「サービスへ移行しよう」ということは決めていました。半導体や磁気ディスク、通信の技術革新のスピードを予測した際、今後10年の間は技術が進歩し続けるだろうというのが研究所の意見だったのです。同じ価格でより高性能でより小さな製品が出てくる。それ以上に需要が伸びなければ結局は事業が縮小してしまうので、サービスへ展開しようと判断した。それをIBM全体として推進したのがガースナーでした。

 オープンということで言えば、インターネットはTCP/IPやHTMLなどの通信手段がひとつのオープンな基準となり、広く世の中の人に取り入れられました。一社独占ではなく、皆が共通の基準を利用できることから発展したという背景があります。

 ネットワークにおけるオープンの基準がインターネットだとすれば、ネットワークを利用するコンピュータのOSとしてオープンなのはLinuxであり、なおかつそれは多くの人々に支援されている。それを推進していくことが事業規模の拡大にもつながるし、事業の範囲が増えればIBMも参加する意義があると考えて、全社的にはオープンなものを推進する流れになったのです。

末松: 当時、IBMには、Linuxと対立する事業もありましたね。

北城: ええ、確かにOSを担当する事業部を初めとするいくつかは対立してしまいますが、事業全体を拡大するのに力を入れていった方がいいという判断でした。LinuxのようなオープンなOSは既存のOSと対立はしても、逆に新しいハードウェアの販売に可能性を見いだせるのではないかと踏んだのです。

 また、オープンソースの開発に自社の開発者が参加することで技術者のノウハウも蓄積されるし、それはサービス事業を展開する上では大きな財産になる。結果としていまはサービス事業が会社の売り上げの半分を超えるくらいの規模になりましたから、サービス事業の拡大に貢献できることは誰にとってもいいことだったということです。

末松: 「市場のニーズに応えた」ということですが、IBMがLinuxを採用すると決めた段階でのLinuxは、まだ小さなムーブメントでしかありませんでしたよね。ベンチャー企業ならともかく、IBMのような超大企業が最初に採用するには大きなリスクが伴っていたでしょう。「市場を開拓する」という意味合いはなかったですか?

北城: そうかもしれませんね。こういう新技術を使って本当に大丈夫だろうか、システムを構築しても支援されなかったらどうする──という不安はどの企業も抱えていたと思います。もし途中で衰退してしまったら、企業として採用した場合にミスだったということになりますからね。そういう意味ではIBMが積極的にLinux採用の方針を出したことが、その後の発展に大きく貢献したと思いますよ。

末松: Linuxの採用にあたって、具体的にどのようなリスクを想定されましたか。

北城: まず、Linuxが順調に発展するかどうかが定かでなかったこと。今後、機能がどれだけ拡充するか、どれだけ皆に受け入れられるか……この不透明さはかなり大きなリスクでした。また、いつかはLinuxが他OSの事業領域を浸食してしまったり、Linux上で動くアプリケーションソフトが無償になる可能性も考えられますからね。

末松: 現段階でも既に、Linuxから始まったGPLの製品領域も拡大し、ソフトウェアがどんどん無料化していきつつありますね。

北城: 実際の導入前に我々が心配していたのは、無料ソフトとアプリケーションソフトの接点であるインタフェースのところについてでした。知的所有権の観点からLinuxから派生したソフトと見なされてしまえば、データベースやアプリケーションソフトも無料化しなければならなくなるだろうし、その点について何度も議論を重ねています。

 例えば、将来的にはLinux上で動くデータベースも無償のソフトが非常に伸びるかもしれない。それは当然あり得ることだけれど、逆にOSという、社会に対してインフラストラクチャー的な基盤の上でいろんなデータベースソフト同士が競争していくことは、いいことなのではないかと思います。その方が発展につながるし、自分たちの製品は信頼性や性能、セキュリティ、機能などで差別化が十分にできると見ていましたから、ソフトウェアそのものが無料になる可能性があるから採用しない、という考えはありませんでした。

末松: なるほど、ある程度確信を持った決断だったのであり、リスクに関しても分析ができていたということですね。オープンソースがソーシャル・ムーブメントとしてどんどん拡がっていったとしても、一私企業として大きなリスクではないと。

北城: 拡がっていったら拡がっていったで、我々はそれを新しいビジネスの領域としてとらえるでしょう。且つそれが顧客にとって成果があり期待されているとしたら、それを踏まえて新しいビジネスモデルを考えます。その中でコンサルテーションかシステム開発か、あるいはIT以外の分野に進出したビジネス変革までをサービスするというような、新しい事業展開ができると思うんですね。

 要するに新しい動きを閉じこめるのではなく、革新を広めていく。企業カルチャーとしては変化に強く柔軟であり、常に最先端でいられるという自信を持っていますし、それは顧客のビジネスに貢献することで結果的に自社が発展する、という考えを礎にしていることが大きいと思います。

特集

グーグルの米国エネルギー問題解決策--22年計画「Clean Energy 2030」の内容
自社での節電を積極的に進めているグーグルが、米国政府に国内のエネルギー問題を解決する計画を提案した。
物理学をラップで--YouTubeで人気の大型加速器(LHC)動画が生まれるまで
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)の素粒子物理学の実験をわかりやすい言葉で歌ったラップが「YouTube」でヒットし、多くの注目を集めている。ここでは、そのラップが生まれるまでを紹介する。

オピニオン

■インタビュー

Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏
コンシューマー市場向けの取り組みを強化すると発表したマイクロソフト。日本におけるWindows VistaやWindows Media Centerの現状をどう見ているのか、コーポレートバイスプレジデントのブラッドブルックス氏に話を聞いた。
「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力
発表後初の週末となった9月13日に、新iPodファミリーの店頭イベントを開催したビックカメラ有楽町店本館で、店長の石川勝芳氏に、iPodの販売状況と店内での取り組みについて伺った。

■コラム

台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より
Universal McCannが調査報告で論じた「新たなスーパーインフルエンサー」の台頭。ここでは、インターネットだけでなく実世界でも大きな影響を及ぼすスーパーインフルエンサーについて検証する。
松下からパナソニックへ--第2の創業で3年ぶり安値から切り返すか松下からパナソニックへ--第2の創業で3年ぶり安値から切り返すか
創業90周年を期して“第二の創業”と位置づけている松下電器産業は10月1日に社名を「パナソニック」に変更するが、株価は3年ぶりの安値水準に沈んでいる。
メディア化するポータルが瀕死の雑誌を飲み込もうとしているメディア化するポータルが瀕死の雑誌を飲み込もうとしている
雑誌を発行する出版社は、崩壊しつつあるビジネスモデルの再生を電子媒体に求める。電子雑誌のビジネスモデルの根幹はコンテンツの内容と広告モデル、そしてコンテンツの内容に基づく他のビジネスへの広がりをどのように築くことができるかだ。

企画特集

KDDI「SaaSソリューション」KDDI「SaaSソリューション」
〜社内コミュニケーションの課題への解決策とは〜
エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」
【第1回】開発者に訊く!各機能と開発の狙いとは

ブログネットワーク

アルファブロガー

村上敬亮 情報産業の未来図ネットワーク型産業構造への衣替え?
村上敬亮 情報産業の未来図
クロサカタツヤの情報通信インサイトグッバイ、レバレッジ!(1)
クロサカタツヤの情報通信インサイト
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」9月イベントお知らせ
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
ケータイ時代のスタンダードiPhonista Nightの事後報告
ケータイ時代のスタンダード
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

ネットのニュース.logiPhone2.2では、絵文字に対応?
ネットのニュース.log
それでも開発は続くよすでに土砂降りのIT業界
それでも開発は続くよ
オープンソースJoomla CMSCMSでのSEO対策効果を実験している
オープンソースJoomla CMS
電子政府パブリックコメントの抜粋平成 14 年の、医療体制に関する意見募集を偶然発見
電子政府パブリックコメントの抜粋
レンタルサーバの裏事情割賦販売制度の副産物
レンタルサーバの裏事情
Windowsラブなただの主婦XPへのダウングレード権がさらに延長
Windowsラブなただの主婦

リサーチ

■リサーチコラム

薬事法規制の厳しい健康食品に代わり、増え続ける化粧品メーカー
薬事法規制が厳しくなる今、特に規制が厳しい健康食品にかわって化粧品を販売しようとする企業が増えている。そこで、覚えておきたい化粧品と薬事法の関係について簡単にまとめた。
携帯電話の待ち受けに関する調査--最も利用される画面は「自分で撮影した写真」
携帯電話の待ち受け画面に関する調査を実施したところ、10・20代は飽きやすく待ち受け画面を頻繁に変更する傾向にあり、30・40代は季節感や臨場感を重視することが明らかとなった。
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査--電子マネーコアユーザーは、高所得者層
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査したところ、電子マネーを活用するのは高所得者層に多く見られた。また、1度に1万円以上チャージするユーザーは10%強であることも明らかになった。

■調査レポートダウンロード

中小企業における情報セキュリティ対策の問題点とその解決策としてのUTM
NECソフトアンケートレポート 次世代ネットワークNGNに期待することは?

■調査発表

半導体光増幅器の世界市場予測と分析 2007-2012年
人気の広告は何?オンライン広告.com、先週の人気オンライン広告ランキングを発表
調査結果「制汗デオドラントの利用シーン、『出勤・外出時』」が6割半」

イベント情報

コンプライアンス基礎講座(標準編)
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社

CNET Japan セレクション

ココが変わった、新型「ニンテンドーDSi」--「ニンテンドーDS Lite」と比較
任天堂が11月1日に発売する新型ゲーム機「ニンテンドーDSi」はどんな点が新しいのか。既存のニンテンドーDS Liteと比較するとともに、新機能を紹介する。
フォトレポート:本体が分離するNTTドコモの「セパレートケータイ」の謎に迫る
NTTドコモは家電展示会「CEATEC JAPAN 2008」において、端末が2つに分離できる携帯電話「セパレートケータイ」を展示している。どのような仕組みなのか、何ができるのかを、写真で紹介する。
話題のスマートフォン、写真で見るBlackBerry Bold
RIM製スマートフォン「BlackBerry」の新モデル「BlackBerry Bold」を2008年度第4四半期にも発売すると発表したNTTドコモ。話題のBlackBerry Boldを写真で紹介する。
こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち
幕張メッセで開催されている展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、幅広い分野の最新技術が一堂に会している。ここではその中でもユニークな新技術や展示を紹介する。
「iPhone 2.2」アップデートの概要が明らかに--App Storeのインターフェースなど変更
アップルは、新たな「iPhone 2.2」アップデートのリリースに向けて準備を進めている。Safariに加え、App Storeのインターフェース変更などが予定されている。
ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術
幕張メッセで開催されているデジタル家電の展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、携帯電話関連の新技術が数多く展示されている。その様子を写真で紹介する。

今日の見どころ

こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち

ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術

まるで「宇宙ケータイ」--太陽電池で発電する、au端末のコンセプトモデル

レビュー

[レビュー]2011年画質を備えた高画質、多機能Blu-ray--ソニー「BDZ-X95」
ソニーのBlu-ray Discレコーダー新製品が登場した。2007年から引き継がれる「やりたいことから選ぶ」シリー
今週の新製品総チェック:よりモバイルPCとして進化した「Let's note」が登場
松下電器産業の「Let's note」、デルのデスクトップPCとPC新製品が数多く登場した。Let's noteは9時間駆動
今週の新製品総チェック:フルサイズCMOS搭載のキヤノン「EOS 5D Mark II」が登場
キヤノンからもフルサイズCMOSセンサを搭載した「EOS 5D Mark II」が登場した。合わせてコンパクトデジカメ
今週の新製品総チェック:第4世代iPod nano登場、ソニー「α」、松下「LUMIX」に新機種も
デザインを一新したiPod nano、容量増されたiPod touchなど、新iPodファミリーが登場した。その後を追うよ

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。