「ネット版わらしべ長者」の素敵なエンディングと貨幣経済の「外側」

坂和敏(編集部)2006年07月13日 23時13分

 カナダのKyle MacDonaldという青年ブロガーが、手元にあったごく普通の赤いペーパークリップを振り出しに物々交換を繰り返し、最終的に一件の家を手に入れようとしている・・・。この試みについては、以前CNET Japanでもお伝えしていた通りですが、このネット版わらしべ長者ともいえる試みが、ブログ開始から満1年目にあたる米国時間7月12日についに目標に到達しました。

 MacDonald氏のブログ「one red paperclip」によれば、同氏はこの1年間に、ペーパークリップ >> 魚の形をしたペン >> ドアノブ >> バーベキュー用コンロ >> 小型発電機 >> ビール(Budweiser)のネオンサイン >> スノーモービル >> Yahkという土地への旅行 >> 配達用バン(トラック) >> 音楽レコーディング契約 >> フェニックス(アリゾナ州)にあるアパートの賃貸契約 >> 有名ロッカー、Alice Cooperのコンサートへの登場 >> ロックバンド「KISS」にあやかったスノーグローブ(水の中で白粉が舞う置物) >> 映画出演権 >> 家(カナダはサスカチュワン州キプリングという町にある2階建ての一軒家)という取引をしてきたとのこと。MacDonald氏は、これらの取引について、その1つひとつの記録を文章のほか、「Flicker」にあげた写真や「YouTube」に置いたビデオ、さらには「Google Maps」などのツールを使いながら公開しています。

 CNET News.comではさっそくMacDonald氏に取材したインタビュー記事を公開していますが、それをみると本人がかなり「マーケティング」を意識しながらこの試みを進めていたことがわかります("This was always about the journey. The house was just a marketing hook, really, to see if it was possible."というコメント有り)。同時に、「自分はなんてクレイジーなことをやっているのだろうか」という疑心暗鬼も多分にあったようです。

 さらに、たった1個のペーパークリップから始まったこの遍歴には、ちょっとしゃれたオチ(?)がついています。一種の「町おこし」のために、映画出演権と交換で家を提供したキプリングの町では、このイベントを記念して「Google Earth」でみてもわかるほど巨大な赤いペーパークリップをつくり、ちょうど1年後の7月12日にそれをお披露目する計画が持ち上がっているとのことです。また、さっそくこれを題材にした書籍の出版や映画化の話も進んでいるというのは、いかにも米国らしいところでしょうか。

 インターネットの力を借りた「現代の奇跡」ともいえそうなこの話に、ややもすると「さまざまな事柄が、お金という一元的な価値に置き換えられてしまえる」というふうな錯覚に陥りがちな現代--たとえば、株価という一元的な物差しで企業という多面的な存在の価値を計ろうとするのも、そうした錯覚の現れかもしれません--でさえ、実はまだまだ多様な価値感が存在している、ということをあらためて思い出させられた気がします。

 もちろん「この突拍子もない企てに自分も一枚かんでみたい」「この青年になんとか目標を達成してもらいたい」といった心理が、実際に物々交換を申し出た人々だけでなく、その動向に注目していたブログの読者のなかにも働いていたことはほぼ間違いないでしょう。が、そういった部分はあったにせよ、仮に1個のペーパークリップに「値段」を付けてしまっていたなら、それはたった数セントにしかならず、最初の(ペンとの)交換もままならなかったはずです。

 そんな多様な価値感に基づいた交換を可能とするような仲介サービスが、ウェブ上にはすでにいくつか登場していますが、次回はこれらのサービスについて紹介してみたいと思います。

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