SkypeとBaiduへの投資で大儲けしたVCの話

Michael Kanellos(CNET News.com)2005年10月05日 16時34分

 シリコンバレーで「Tim Draper」という名前が話題にのぼると、「気弱」とか「引っ込み思案」とかいった形容詞が続くことはまずない。

 ベンチャーキャピタルのDraper Fisher Jurvetson(DFJ)を率いるDraperは、今夏にAlwaysOnが開催したカンファレンスで(彼自身も一部作詞を手がけた)自分自身についての歌を唄った。彼は、この曲の歌詞のなかで、新興企業の経営者たちを、19世紀末から20世紀にかけてエリス島の移民局にやってきた移民たちになぞらえている。さらに、彼はある種生意気で、ノグゼマ製のスキンケア用品を使うような男であり、人を惹きつけるか人を怒らせて歯ぎしりさせるかのどちらかのようだ。

 にもかかわらず、彼と彼の経営する会社は、このところ異例の成長ぶりを示しているが、その原因は、他のベンチャー投資家たちが尻込みしてできない意図的な戦略にある。それは、海外への投資だ。

 DFJは、中国の検索会社Baiduに最初に投資した海外企業の1つである。Baiduは8月に株式公開を果たしたが、その株価は取引初日に27ドルから122.54ドルへと一気に354%も急騰した。DFJはBaiduの株式の28%を所有しているが、これだけでも約10億ドルに相当する(株価の動きにも左右されるが)

 DFJは、Skypeの株式も10%以上保有している(Skypeは先ごろ、40億ドルでeBayに買収された)。Draper は、7月の時点で、「Skype(ルクセンブルクに本拠を置き、エストニアにも事業部があるネット電話プロバイダー)が1000億ドル企業になる可能性がある」と主張していた。この予測は結果的にはずれたが、アナリストらは、Skypeの買収額について、売上が6000万ドルしかない赤字企業にしては破格のものだったと分析している。

 別の見方をすると、DFJが行った2つの投資は、この数週間で約15億ドルにも価値が膨らんだ計算になる。30人そこそこの企業にとっては悪くない金額だ。

 「誰かが覚えていてくれたとはありがたいことだ」とDraper は電話インタビューで語った。

 テクノロジー企業の幹部らは、何年も前からグローバル化の長所を言い続けてきているが、それにもかかわらず、海外の新興企業への直接投資は依然としてかなり低い水準に留まっている。大半の海外市場では、会計や法律の基盤がまだ安定していないという意見も多い。有望な経営者に関する情報も断片的にしかない。ごく最近まで、PCメーカーのLenovoやその他の新興市場の有名ブランドは、グローバル化を進めるなかで苦しい戦いに直面してきた。

 Hotmailへの投資で成功を収めたDFJは、グローバル化の持つ可能性に目を向けた。Hotmailはアメリカの企業ではあったが、同社を創業したSabeer Bhatiaは、インド南部の都市バンガロールからの移民である。彼は、母国の野菜市場で培った交渉術のおかげで、Microsoftからの提示買収額を1億6千万ドルから4億ドルに引き上げさせることができたという。

 「誰でも完全な情報を手に入れることができるようになったため、起業家たちが世界中至るところに存在するようになったことを我々は認識し始めていた」とDraperは言う。

 世界中の起業家たちに投資するというこの目的を実現するため、DFJは他のベンチャーキャピタルと提携して、世界中にその触手を伸ばしていった。たとえばDFJ ePlanetは、欧州、イスラエル、アジアの新興企業を漁り、DFJ Southern Crossはオーストラリアをターゲットにしている。これらの提携会社の中には、極めて独立性の高い経営を行っているところもあれば、DFJ本社(カリフォルニア州Menlo Park)の情報収集局と化しているところもある。

 DFJは今、ウクライナに目を付けており、ベンチャー基金を設立する予定だ。

 「ウクライナには旧ソビエトで技術者として働いていた人たちが大勢いる」(Draper)。Draper は最近、ウクライナの首相Viktor Yushchenko(選挙中に毒を盛られた人物)と会談した。この首相自身、主任科学者として、反スターウォーズ計画とチェルノブイリ原発事故の汚染除去計画に携わっていた人物だ。

 「世界中の政府が互いに競合関係にあることを認識しており、ハイテクを、豊かな国を実現するために必要なチケットと考えている」(Draper)

 DFJは、米国内でも、電話番号が408、650、415で始まるエリアの住人らが外国とみなしているような地域で、提携会社と活発な投資活動を行っている。Southern California Zone Ventures内の提携会社を通して、サンディエゴのインターネットビデオ企業DivXに投資したのもその一例だ。

 同社が、DFJ Atlanticを介して投資したバージニア州のMobile365も、目下急成長を遂げている。Mobile365は、異なる携帯電話会社の端末にコンテンツやSMSメッセージを配信するためのネットワークを構築した。ほかにも、ニューヨークの提携会社からの情報で、宅配便の簡素化を目指すMimeoという企業にもかなりの額を注ぎ込んでいる。

 今、仮に宅配便で25人に小包を送ろうとすると、25枚の宛名書きを印刷し、25個の小包を自分で用意する必要がある。ところが、Mimeoを使えば、「print」ボタンを押すだけで、厄介な作業はすべてMimeoで面倒を見てくれる。このサービスでは、利用者が梱包を終えた荷物を、選択した航空運送業者まで配送してくれる。

 「Kinko'sとFedExのサービスを組み合わせたようなものだ。実際、彼らの集荷場はテネシー州のFedExのすぐ隣にある」(Draper )

 Draper が、サフランの香りの式服に身を包んで、謙虚さの美徳を説きながら、静かに歩き回るのを見ることは当分ないだろう(当分は鼻持ちならない態度で自分のやり方を押し通していくに違いない)。しかし、視野を広げることがいかに大きな利益をもたらすかを、彼が今、身をもって示していることは確かだ。

著者紹介
Michael Kanellos
CNET News.comの編集者。ハードウェア、科学、研究開発分野、新興企業などの分野を幅広くカバーしている。コーネル大学とヘースティングズカレッジで弁護士の資格を取得。弁護士、フリーのライターなど、さまざまな仕事を経験している。

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