最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

グリッドコンピューティングとユーティリティコンピューティングの違いは?

Philip Brittan

2003/11/05 10:01  

 IBM、Sun Microsystems、Oracle、Hewlett-Packardといった大手プラットフォームベンダー各社は、「グリッドコンピューティング」や「ユーティリティコンピューティング」という名の特効薬をせっせと売り込んでいる。

 しかしこの特効薬が普及するためには、コンピュータ業界がその定義を明確にし、この2つの関連した、しかし同じではないコンセプトをめぐる長年の混乱を解消する必要がありそうだ。

 何台ものコンピュータの計算能力をひとつにまとめ、有効活用しようというのがグリッドコンピューティングの考え方だ。ひとつにまとめたコンピュータ資源は、複数のアプリケーションやユーザーに同時に振り分けることができるので、個々のサーバの障害や負荷に左右されることなく、信頼性の高いITインフラを構築することができる。

 一方、ユーティリティコンピューティングの大きな特徴は、コンピュータ資源がいわゆる「ブラックボックス」として提供されることだ。また、プラグをコンセントに差し込めば好きなだけ電力を使うことができるように、企業がコンピュータの処理能力を気にせずビジネスに集中できることが、ユーティリティコンピューティングの売りとなっている。

 どちらのアプローチも企業の総コストを削減することを謳っている。しかし、ユーティリティコンピューティングとグリッドコンピューティングが同じものだと考えてはいけない。目指す顧客層はおそらく同じではないからだ。

 大手ベンダーは両方のアプローチを推進しているが、既存製品のラインアップにあわせて、切り口は微妙に調整されている。たとえば、IBMとHPはインフラツール、ハードウェア、管理サービスに力を入れ、Oracleはグリッド対応ソフトウェアとホスト型業務アプリケーションを提供し、Sunはハードウェア資源の「仮想化」に注力している。

 ユーティリティモデルを導入するということは、基幹アプリケーションを他社の手に委ねることになるため、企業がそれだけのリスクをとる可能性は低いと見る向きも多い。企業はデータやアプリケーションにいつでもアクセスできるか、データの機密は完全に守られるかを知りたがるだろう。しかし、現状はそうなっているとはいいがたい。

 企業にとって、顧客データベースは最も重要な資産のひとつだ。しかし皮肉なことに、現在ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)として一番成功している企業は、オンラインのCRM(顧客関係管理)で知られているSalesforce.comだ。Salesforce.comの成功に刺激されて、Siebel SystemsもオンラインCRMソフトウェアの提供を開始した。Oracleもオンライン版のCRMやERP(統合業務)システムを提供している。企業活動に欠かすことのできないもうひとつの機能である給与支払についても、Automatic Data ProcessingやPaychexといったアウトソース企業が登場して久しい。

 ITインフラは手放そうとしない企業も、さらに重要なインフラである通信は外部に委託している点を指摘する業界アナリストもいる。多くの企業は通信機能のほぼ100%を電話会社に依存しているが、通話が他人に漏れる心配をしている者はいない。

 ユーティリティコンピューティングのもうひとつの課題は、デスクトップソフトウェア並みの使い勝手を実現することだ。第1世代のASPはウェブページとCitrix Systemsのセッションという形でサービスを提供したが、これはユーザーが使い慣れているデスクトップソフトウェアに比べるとはるかに使い勝手の悪いものだった。しかし、今では充実したシンクライアントなどの技術が登場したため、遠隔地にあるアプリケーションでも、デスクトップソフトウェアに匹敵する性能と操作性を実現できるようになっている。

 グリッドコンピューティングやユーティリティコンピューティングを定着させるためには、それぞれにふさわしい顧客セグメントを絞り込む必要がある。巨大企業の場合は、インフラ(電力や通信、給与支払のような機密情報を扱う機能も含む)を自社で管理したいと考える傾向が強いため、ユーティリティコンピューティングの導入は先の話になるだろう。一部の大企業では、ITインフラは社内に置くが、管理はIBM Global Servicesなどの外部に委託するという形で、ユーティリティモデルへの移行が進むかもしれない。

 中小企業にとっては、ユーティリティコンピューティングが複雑なIT管理や莫大な初期投資から救ってくれる救世主となるだろう。逆にユーザーやサーバの数が少ない中小企業では、あわててグリッドテクノロジーに投資する必要はない。これとは対象的に、ITインフラは社内に置きたいが、信頼性と資源の分散は実現したいと考える大企業にとっては、グリッドテクノロジーがきわめて合理的な選択肢になる。コンピュータ資源を毎日フル稼働させなければならない金融業界では、すでにグリッドコンピューティングの導入がはじまっている。

 ITの進化という意味では、グリッドコンピューティングやユーティリティコンピューティングへの移行は自然な流れであり、いずれ普及することは間違いない。しかし当面は、導入を躊躇する企業に対していかにアプローチするかということがベンダー各社の課題となりそうだ。

筆者略歴
Philip Brittan
企業ネットワークアプリケーション用のグラフィカルユーザーテクノロジーを開発するDropletsの共同設立者兼会長。ソフトウェア開発とソフトウェア企業経営の分野で15年以上の経験を持つ。これまでにソフトウェア開発会社Sphere Software Engineeringを設立・経営したほか、金融ソフトウェアメーカーAstrogammaでは主任開発者、CEOを務めた。

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