最終更新時刻:2008年10月7日(火) 20時09分

GoogleのIPOを待ち受けるもの

Tom Taulli

2003/06/25 10:00  

 IT業界というのは奇妙なところだ。画期的なイノベーションに支えられていることは間違いないとしても、誇大宣伝と金銭欲も重要な動力源となっている。

 実際、この業界を活気づけているものはIPO(新規株式公開)の魔力だといっても過言ではない。これまでApple Computer、Microsoft、NetscapeのIPOは、どれも歴史の大きな節目になってきた。

 なぜIPOにはそれほどの力があるのだろう。まずは心理的な影響力だ。IPOは投資家がリスクを取ることをいとわないほど、その会社を評価していることを表している。また、IT業界のバリューチェーンにとってもIPOは欠かせない。IPOがちらついている案件なら、エンジェル投資家やベンチャーキャピタリストも財布の紐をゆるめるからだ。

 2000年のITバブル崩壊以来、IPO市場が死のスパイラルにはまりこんでいることは異論の余地がない。つい最近まで、IPO市場は最悪の停滞期にあった。しかし、この干ばつ状態もついに終わりを迎えたようだ。最初の恵みの雨は、おそらくGoogleからやってくるだろう。

 IPOで最も重要なのはタイミングだ。Googleの場合、タイミングはまさに完璧である。株式市場は今年の最高値を更新したばかりだし、投資家は1%の金利もつかない銀行口座にうんざりしはじめているところだ。また、Amazon.com、Yahoo、eBayといったネット企業の株価が急騰している。Googleはまだ若い会社だが、その評価はこれらの有名企業に勝るとも劣らない。アナリストの中にはGoogleの昨年の売上を3億ドル、今年は7億ドルに達すると予測する者もいる。しかも、利益率はかなり高いはずだ。

 Googleの右肩あがりの成長カーブが、機関投資家や一般投資家を興奮させることは間違いないだろう。どんなに高い初値がついても驚く者はいないはずだ。

 不安材料があるとすれば、IPOや公開企業に対する規制が次々と打ち出されていることだ。米経済誌のForbesによると、GoogleのCEOであるEric Schmidtと幹部職員たちは「Ericの刑務所送り回避(Keeping Eric Out of Jail)プロジェクト」を立ち上げ、新しい規制への対応を進めているという。

 公開企業にとって、経営陣がお縄を頂戴するほどおそろしいことはない。最近成立した米国企業改革法はCEOとCFOに対し、自社の財務報告書が正確なものであることを報告するよう義務づけている。不正が発覚した場合は多額の罰金が課せられ、場合によっては当人が禁固刑を受けることになる。

 GoogleがIPOに踏み切ることになれば、新しい規制環境下で行われるはじめての大規模なIPOとなる。つまりハイテク企業のエグゼクティブは、Googleや引受会社に知り合いがいるからといって、IPO株のおこぼれにあずかってひと儲けしようなどとは思わないほうがいいということだ。「スピニング」と呼ばれたこのゲームは終わったのである。

 規制の動きはアナリストにも及んでいる。皮肉にも、本来の業務に戻ることがアナリストに求められているのだ。アナリストの仕事は分析であって、投資銀行部門の業績を後押しすることではない。「買い」推奨は惰性ではなく、根拠のある分析に基づいて行うべきものなのだ。

 先日、ニューヨーク証券取引所(NYSE)と全米証券業協会(NASD)は合同で、ある提言をまとめた。これによると、Googleの公開価格はこれまでとは違う方法で決定されることになりそうだ。新規上場では普通、公開価格は上場予定会社と引受会社のかけひきで決定されるが、今回の提言は独立した価格設定委員会の設置を求めるものだ。この委員会が公開価格の設定プロセスに立ち会うことになれば、価格が不当に安く設定されるケースは少なくなる。そうなれば、上場企業はこれまで以上の資金を市場から調達できるようになるだろう。

 提言にはこのほかにも、取引初日の成り行き注文の禁止やIPO銘柄の割り当ての透明化、「ラダリング」(IPO株の配分を受けた投資家に、株価が上昇したあとも株式を購入することを義務づける行為)の禁止、「フリッピング」(IPO株を公開直後に売却して利益を得る行為)の制限緩和などが盛り込まれている。

 また、一般投資家へのIPO株割り当てを増やす施策が含まれていることも重要なポイントだ。

 このような条例はどういった市場環境を生み出すのだろう。企業改革法の制定によって、粉飾決算を行った経営者は刑務所に送られることになる。アナリストによる株価つり上げは規制の対象となり、顧客企業の幹部にIPO銘柄を優先的に割り当てることも禁じられた。ラダリングがなくなれば、不当な株価操作も減るだろう。企業にとってはIPOで調達できる資金が増え、個人投資家にとっては、IPO株の割り当てを受けるチャンスが広がることになる。

 悪くない話だと思うが、どうだろうか。

筆者略歴
Tom Taulli
南カリフォルニア大学ビジネススクール教授(ファイナンス、M&Aを指導)。近著に「The Complete M&A Handbook」(Random House)がある。また、MergerForum.comでM&Aに関するサイトを運営している。

特集

経済危機時代の技術起業家たち--変えるのは製品ではなく戦略
経済危機のただ中にある現在、新興企業の資金調達は厳しくなっているが、起業家たちはこの状況でも楽観的だ。
グーグルの米国エネルギー問題解決策--22年計画「Clean Energy 2030」の内容
自社での節電を積極的に進めているグーグルが、米国政府に国内のエネルギー問題を解決する計画を提案した。

オピニオン

■インタビュー

Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏
コンシューマー市場向けの取り組みを強化すると発表したマイクロソフト。日本におけるWindows VistaやWindows Media Centerの現状をどう見ているのか、コーポレートバイスプレジデントのブラッドブルックス氏に話を聞いた。
「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力
発表後初の週末となった9月13日に、新iPodファミリーの店頭イベントを開催したビックカメラ有楽町店本館で、店長の石川勝芳氏に、iPodの販売状況と店内での取り組みについて伺った。

■コラム

ソフトバンク株価の下落加速--iPhone一巡し資金繰りを懸念ソフトバンク株価の下落加速--iPhone一巡し資金繰りを懸念
日経平均が約4年10カ月ぶりに1万円の大台を割り込む中、ソフトバンクの株価が、全般相場の低迷にも増して下落が加速している。
ユーザー中心アプローチの時代ユーザー中心アプローチの時代
企業におけるネットマーケティングの成否の分かれ目は、ユーザ行動特性の理解と「ユーザ中心」に基づく戦略・設計にある。ビービットの500を超えるユーザビリティコンサルティングの実績をもとに、ビジネス成果を最大化するネットマーケティングの本質に迫る。
台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より
Universal McCannが調査報告で論じた「新たなスーパーインフルエンサー」の台頭。ここでは、インターネットだけでなく実世界でも大きな影響を及ぼすスーパーインフルエンサーについて検証する。

企画特集

KDDI「SaaSソリューション」KDDI「SaaSソリューション」
〜社内コミュニケーションの課題への解決策とは〜
エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」
【第1回】開発者に訊く!各機能と開発の狙いとは

ブログネットワーク

アルファブロガー

外資系エグゼクティブの日々I am Jamming!
外資系エグゼクティブの日々
村上敬亮 情報産業の未来図ネットワーク型産業構造への衣替え?
村上敬亮 情報産業の未来図
クロサカタツヤの情報通信インサイトグッバイ、レバレッジ!(1)
クロサカタツヤの情報通信インサイト
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」9月イベントお知らせ
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
ケータイ時代のスタンダードiPhonista Nightの事後報告
ケータイ時代のスタンダード
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

WEB製作者の為のSEO対策スパム
WEB製作者の為のSEO対策
ケータイのこちら側iPhoneがついに”emoji”に対応
ケータイのこちら側
オープンソースCMS GeeklogがWEBの標準になる日OSC2008Tokyo/Fallで勉強会大集合開催
オープンソースCMS GeeklogがWEBの標準になる日
インターネットの裏側を探しましょ月5000円を得るための代償
インターネットの裏側を探しましょ
ネットのニュース.logiPhone2.2では、絵文字に対応?
ネットのニュース.log
それでも開発は続くよすでに土砂降りのIT業界
それでも開発は続くよ

リサーチ

■リサーチコラム

薬事法規制の厳しい健康食品に代わり、増え続ける化粧品メーカー
薬事法規制が厳しくなる今、特に規制が厳しい健康食品にかわって化粧品を販売しようとする企業が増えている。そこで、覚えておきたい化粧品と薬事法の関係について簡単にまとめた。
携帯電話の待ち受けに関する調査--最も利用される画面は「自分で撮影した写真」
携帯電話の待ち受け画面に関する調査を実施したところ、10・20代は飽きやすく待ち受け画面を頻繁に変更する傾向にあり、30・40代は季節感や臨場感を重視することが明らかとなった。
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査--電子マネーコアユーザーは、高所得者層
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査したところ、電子マネーを活用するのは高所得者層に多く見られた。また、1度に1万円以上チャージするユーザーは10%強であることも明らかになった。

■調査レポートダウンロード

中小企業における情報セキュリティ対策の問題点とその解決策としてのUTM
NECソフトアンケートレポート 次世代ネットワークNGNに期待することは?

■調査発表

第22回価格.comリサーチ「デジイチ徹底調査!―あなたのこだわりは?―」結果
調査結果「成人の適齢は?『20歳』4割半、『18歳』は2割半」
調査結果「携帯灰皿、喫煙者の9割が所有」

イベント情報

コンプライアンス基礎講座(標準編)
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社

CNET Japan セレクション

ココが変わった、新型「ニンテンドーDSi」--「ニンテンドーDS Lite」と比較
任天堂が11月1日に発売する新型ゲーム機「ニンテンドーDSi」はどんな点が新しいのか。既存のニンテンドーDS Liteと比較するとともに、新機能を紹介する。
フォトレポート:本体が分離するNTTドコモの「セパレートケータイ」の謎に迫る
NTTドコモは家電展示会「CEATEC JAPAN 2008」において、端末が2つに分離できる携帯電話「セパレートケータイ」を展示している。どのような仕組みなのか、何ができるのかを、写真で紹介する。
話題のスマートフォン、写真で見るBlackBerry Bold
RIM製スマートフォン「BlackBerry」の新モデル「BlackBerry Bold」を2008年度第4四半期にも発売すると発表したNTTドコモ。話題のBlackBerry Boldを写真で紹介する。
こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち
幕張メッセで開催されている展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、幅広い分野の最新技術が一堂に会している。ここではその中でもユニークな新技術や展示を紹介する。
「iPhone 2.2」アップデートの概要が明らかに--App Storeのインターフェースなど変更
アップルは、新たな「iPhone 2.2」アップデートのリリースに向けて準備を進めている。Safariに加え、App Storeのインターフェース変更などが予定されている。
ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術
幕張メッセで開催されているデジタル家電の展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、携帯電話関連の新技術が数多く展示されている。その様子を写真で紹介する。

今日の見どころ

こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち

ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術

まるで「宇宙ケータイ」--太陽電池で発電する、au端末のコンセプトモデル

レビュー

[レビュー]2011年画質を備えた高画質、多機能Blu-ray--ソニー「BDZ-X95」
ソニーのBlu-ray Discレコーダー新製品が登場した。2007年から引き継がれる「やりたいことから選ぶ」シリー
今週の新製品総チェック:よりモバイルPCとして進化した「Let's note」が登場
松下電器産業の「Let's note」、デルのデスクトップPCとPC新製品が数多く登場した。Let's noteは9時間駆動
今週の新製品総チェック:フルサイズCMOS搭載のキヤノン「EOS 5D Mark II」が登場
キヤノンからもフルサイズCMOSセンサを搭載した「EOS 5D Mark II」が登場した。合わせてコンパクトデジカメ
今週の新製品総チェック:第4世代iPod nano登場、ソニー「α」、松下「LUMIX」に新機種も
デザインを一新したiPod nano、容量増されたiPod touchなど、新iPodファミリーが登場した。その後を追うよ

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。