最終更新時刻:2008年10月7日(火) 12時40分

AppleのiTunes Music Storeはまだ半人前

Evan Hansen

2003/05/27 20:12  

 Apple Computerが新たに始めたミュージックストアのおかげで、オンラインで音楽を購入するのがずっと簡単になった。これは音楽ビジネスの今後の方向を示す有望な兆しといえよう。ただし、このサービスは、まだインターネットで実現できる音楽体験を提供し始めただけに過ぎず、半分くらいの出来という感じもする。

 Appleは交渉の末、レコード会社から素晴らしいライセンスを獲得した。その点で、同社は天才的ともいえる。他の会社は、これまで同様の権利を求めて交渉し、失敗に終わっているわけで、Appleの最高経営責任者(CEO)Steve Jobsが多少自慢するのも当然のことだろう。しかしiTunes Music Storeは結局のところ、ただの音楽提供サービスにすぎず、みんながあれこれ音楽を試して、ある音楽のことを知り、最終的にそれを購入するまでのプロセスは、全くとは言わないまでも、ほとんど変わっていない。これは残念な点である。

 正しい形でアプローチすれば、オンライン音楽には、今まで強引なマーケティングで消費者を獲得してきた音楽業界を、豊かに変貌させるパワーがあるはずだ。

 現在音楽業界では、リリースされる全楽曲のわずか2%が、全売上の80%を占めている。オンライン配信には、このバランスを修正し、何百もの無名アーティストを出世させ、業界のスターを生み出すメカニズムに飽きて関心を失った多数の人々を、新たなファンにさせる可能性があるのだ。

 そのために重要なのは、消費者により多くの、よりよい情報を提供することだ。未来の音楽ストアは、そのための主力手段となれるし、そうなるべきだ。

 Amazon.comは、おすすめ商品やカスタマーレビューを導入して、書籍販売のかたちを徹底的に作り変えた。これを考えると、Appleやレコード会社が誰の目にも明らかな革新をやり残していることが分かるだろう。

 偉大なオンライン音楽ストアにあるべき--そして、きっと間もなく実現する--機能を想像することは、それほど難しくはない。Appleがその機能を実現しないのなら、Amazonのような競合ストアやVirginなどの大手CD小売店が、ライセンスの問題さえクリアできれば、ほぼ間違いなく手をつけるだろう。このアイディアは非常に魅力的なので、シリコンバレーのベンチャーキャピタルがフル装備の新オンライン音楽販売サービス事業計画を募集しているとさえ噂されている。

 音楽業界はマーケティングに関してはなかなかのやり手なので、オンライン音楽配信のアイディアが実際に軌道に乗りだせば、すごい勢いで参入して大騒ぎを始めるだろう。しかし今のところ彼らはまだ、実験すら始めていない。

 レコード会社各社は海賊行為を恐れるあまり、長い間オンライン配信への足並みを揃えてきた。彼らは、違法コピーを防止すべく複雑なデジタル著作権管理(DRM)機能を要求したはいいが、一方で金を払ってくれる顧客に不便を強いて嫌気を起こさせてしまい、最大の販売チャンスをほとんど無駄にしてしまった。

 Jobsが言うように、インターネットは音楽を販売するためのものだ。音楽業界幹部は、無料ファイル交換ネットワークを致命的脅威と捉えている。しかし実際は、DRMという消費者に不便な手段に訴えずに、本当の価値を提供できる製品やサービスがあれば、このようなネットワークは抑制されると考えるのが自然だろう。

 Appleを公平に評価すれば、同社はみんなが実際に買う気になる--とくに、1曲99セントという価格がさらに値下げされれば--ような形でデジタル音楽を提供する権利を勝ち得た、ということになる。

 しかし一方で、他のオンライン音楽サービスのなかには、音楽のパッケージのしかたや販売方法を改善しようと、もっと多くのことを試しているものもある--Jobsたちが無益だと蔑んでいるサービスもそうだ。

 私が言っているのはiTunes Music Storeのマーケティング部門から不当な非難を浴びている、契約ベースのサービスのことだ。私自身、実際にほとんどの契約サービスを試してみた上で、1つお薦めしたいものがある。Listen.comのRhapsodyサービスがそれだ。これは、iTunes Storeが試そうともしないようなさまざまな方法で音楽を提供している、素敵なサービスだ。

 Jobsによると、Rhapsodyのような契約サービスは、顧客を海賊ユーザーのように扱うから良くないのだという。音楽ファイルはパソコンでしか利用できないし、ファイルは所有できず、レンタルするしかない。こんなサ―ビスは許しがたいはず、と言うのがJobsの主張だ。

 Rhapsodyは完全というには程遠い。ストリーミング配信システムを採用しているので、ブロードバンド接続でも時々音切れしてしまう。音楽カタログには抜けている部分がある。ユーザーのハードディスクのMP3ファイルと同期できない。それに月額約10ドルという価格は、大衆受けするにはおそらくまだ高すぎるだろう。

 しかし欠点はともかくとして、Rhapsodyや他の一部の契約サービスでは、素晴らしいものがたくさん提供されている。Rhapsodyの音楽リストは膨大で、音楽の百科事典を開いているかのようだ。ほぼどんなアーティストの楽曲でも、すぐに試聴できる。それも、iTunesのような30秒間の試聴ではなく、1曲丸ごとが数週間に渡って利用可能だ。1ドル払えば、曲をCDに記録できるし、いったんCDに記録した曲をパソコンにコピーすれば、所有権の問題も解決される。

 Rhapsodyは、オンライン音楽ストアが単なる音楽ダウンロード以外にもっといろいろと提供できるという事実、そして、実際そうすべきなのだということを強調している。

 では、未来の理想的オンライン音楽ストアとは、どのようなものなのだろうか?

 無制限のMP3ダウンロードと、信頼できるレビューやおすすめ音楽などアーティストや音楽についてのたくさんの情報、それから購入前に試聴するたくさんのチャンス、コンサートのスケジュールやチケット、歌詞や楽譜へのアクセスなどは、少なくとも提供されるべきだろう。

 オンライン音楽ストアに、内容のある記事を組み合わせることは簡単だ。オリジナルのコンテンツを提供してハイブリッドなマガジン形式のサービスにもできるし、VerveやRolling Stoneなど既存の出版物とタイアップしてもいい。

 それから、ある楽曲の制作に使用されたツールやテクニックに関して、短い記事を提供するのもよいだろう。アーティストは、その記事の中で、使用した機材のメーカーに有料広告リンクを販売することもできる。機材メーカーは広告リンクを掲載することで、自社製品についての有用で信頼できる情報をもとに、非常にターゲットの絞られた、反応の良いユーザーと接点を持つことができるわけだ。

 オンライン音楽ストアは、どこまで革命的になれるだろうか。音楽のリアルタイム価格設定スキームというのも、最近議論されているアイディアの1つだ。これは、ニューシングルの価格は発売直後の数日間は3ドル以上に跳ね上がるが、いっぽうで人気のない曲はかなり値下げされるという具合に、音楽を人気に応じて価格設定しようというものだ。需要に応じた価格設定によって、見落とされそうな作品の売上が伸びるかもしれないし、少なくとも新しいものを試す敷居が低くなるだろう。それにトップセラーは、人気に応じた報酬が得られる仕組みになる。

 このアイディアがうまく機能するかどうかは、私にはわからない。でもこのアイディアは、サービス革新の目標を高く掲げるものだと思う。これに比べると、Appleの音楽ストアはかなり控えめな感じがする。

筆者略歴
Evan Hansen
CNET News.comのMedia部門エディター。CNETに加わる前は、American Lawyer Mediaでビジネス、ハイテク技術、法律担当の記者をしていた。

特集

経済危機時代の技術起業家たち--変えるのは製品ではなく戦略
経済危機のただ中にある現在、新興企業の資金調達は厳しくなっているが、起業家たちはこの状況でも楽観的だ。
グーグルの米国エネルギー問題解決策--22年計画「Clean Energy 2030」の内容
自社での節電を積極的に進めているグーグルが、米国政府に国内のエネルギー問題を解決する計画を提案した。

オピニオン

■インタビュー

Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏Windows VistaにとってXPはライバルか?--マイクロソフト グローバルマーケティング担当Brad Brooks氏
コンシューマー市場向けの取り組みを強化すると発表したマイクロソフト。日本におけるWindows VistaやWindows Media Centerの現状をどう見ているのか、コーポレートバイスプレジデントのブラッドブルックス氏に話を聞いた。
「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力「iPodを日本で一番売りたい」--ビックカメラ有楽町店に聞く新iPodの魅力
発表後初の週末となった9月13日に、新iPodファミリーの店頭イベントを開催したビックカメラ有楽町店本館で、店長の石川勝芳氏に、iPodの販売状況と店内での取り組みについて伺った。

■コラム

ユーザー中心アプローチの時代ユーザー中心アプローチの時代
企業におけるネットマーケティングの成否の分かれ目は、ユーザ行動特性の理解と「ユーザ中心」に基づく戦略・設計にある。ビービットの500を超えるユーザビリティコンサルティングの実績をもとに、ビジネス成果を最大化するネットマーケティングの本質に迫る。
台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より台頭するスーパーインフルエンサー--Universal McCann調査より
Universal McCannが調査報告で論じた「新たなスーパーインフルエンサー」の台頭。ここでは、インターネットだけでなく実世界でも大きな影響を及ぼすスーパーインフルエンサーについて検証する。
松下からパナソニックへ--第2の創業で3年ぶり安値から切り返すか松下からパナソニックへ--第2の創業で3年ぶり安値から切り返すか
創業90周年を期して“第二の創業”と位置づけている松下電器産業は10月1日に社名を「パナソニック」に変更するが、株価は3年ぶりの安値水準に沈んでいる。

企画特集

エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」エンタメCGM「gooメーカー☆メーカー」
【第1回】開発者に訊く!各機能と開発の狙いとは
KDDI「SaaSソリューション」KDDI「SaaSソリューション」
〜社内コミュニケーションの課題への解決策とは〜

ブログネットワーク

アルファブロガー

外資系エグゼクティブの日々I am Jamming!
外資系エグゼクティブの日々
村上敬亮 情報産業の未来図ネットワーク型産業構造への衣替え?
村上敬亮 情報産業の未来図
クロサカタツヤの情報通信インサイトグッバイ、レバレッジ!(1)
クロサカタツヤの情報通信インサイト
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」9月イベントお知らせ
末吉隆彦 ロケーションウェアの「空」と「実」
ケータイ時代のスタンダードiPhonista Nightの事後報告
ケータイ時代のスタンダード
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance新サービスをローンチしました
江島健太郎 / Kenn's Clairvoyance
鈴木健の天命反転生活日記パラレルワールドとしての電脳コイル
鈴木健の天命反転生活日記

読者ブロガー

オープンソースCMS GeeklogがWEBの標準になる日OSC2008Tokyo/Fallで勉強会大集合開催
オープンソースCMS GeeklogがWEBの標準になる日
インターネットの裏側を探しましょ月5000円を得るための代償
インターネットの裏側を探しましょ
ネットのニュース.logiPhone2.2では、絵文字に対応?
ネットのニュース.log
それでも開発は続くよすでに土砂降りのIT業界
それでも開発は続くよ

リサーチ

■リサーチコラム

薬事法規制の厳しい健康食品に代わり、増え続ける化粧品メーカー
薬事法規制が厳しくなる今、特に規制が厳しい健康食品にかわって化粧品を販売しようとする企業が増えている。そこで、覚えておきたい化粧品と薬事法の関係について簡単にまとめた。
携帯電話の待ち受けに関する調査--最も利用される画面は「自分で撮影した写真」
携帯電話の待ち受け画面に関する調査を実施したところ、10・20代は飽きやすく待ち受け画面を頻繁に変更する傾向にあり、30・40代は季節感や臨場感を重視することが明らかとなった。
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査--電子マネーコアユーザーは、高所得者層
電子マネーによるライフスタイルの変化に関する調査したところ、電子マネーを活用するのは高所得者層に多く見られた。また、1度に1万円以上チャージするユーザーは10%強であることも明らかになった。

■調査レポートダウンロード

中小企業における情報セキュリティ対策の問題点とその解決策としてのUTM
NECソフトアンケートレポート 次世代ネットワークNGNに期待することは?

■調査発表

調査結果「成人の適齢は?『20歳』4割半、『18歳』は2割半」
調査結果「携帯灰皿、喫煙者の9割が所有」
半導体光増幅器の世界市場予測と分析 2007-2012年

イベント情報

コンプライアンス基礎講座(標準編)
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社
申告書作成のための税務実務
主催:あずさビジネススクール株式会社

CNET Japan セレクション

ココが変わった、新型「ニンテンドーDSi」--「ニンテンドーDS Lite」と比較
任天堂が11月1日に発売する新型ゲーム機「ニンテンドーDSi」はどんな点が新しいのか。既存のニンテンドーDS Liteと比較するとともに、新機能を紹介する。
フォトレポート:本体が分離するNTTドコモの「セパレートケータイ」の謎に迫る
NTTドコモは家電展示会「CEATEC JAPAN 2008」において、端末が2つに分離できる携帯電話「セパレートケータイ」を展示している。どのような仕組みなのか、何ができるのかを、写真で紹介する。
話題のスマートフォン、写真で見るBlackBerry Bold
RIM製スマートフォン「BlackBerry」の新モデル「BlackBerry Bold」を2008年度第4四半期にも発売すると発表したNTTドコモ。話題のBlackBerry Boldを写真で紹介する。
こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち
幕張メッセで開催されている展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、幅広い分野の最新技術が一堂に会している。ここではその中でもユニークな新技術や展示を紹介する。
「iPhone 2.2」アップデートの概要が明らかに--App Storeのインターフェースなど変更
アップルは、新たな「iPhone 2.2」アップデートのリリースに向けて準備を進めている。Safariに加え、App Storeのインターフェース変更などが予定されている。
ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術
幕張メッセで開催されているデジタル家電の展示会「CEATEC JAPAN 2008」では、携帯電話関連の新技術が数多く展示されている。その様子を写真で紹介する。

今日の見どころ

こんなものもありました--CEATECで見つけたオモシロ新技術たち

ケータイはまだまだ進化する--CEATECで見た未来の技術

まるで「宇宙ケータイ」--太陽電池で発電する、au端末のコンセプトモデル

レビュー

[レビュー]2011年画質を備えた高画質、多機能Blu-ray--ソニー「BDZ-X95」
ソニーのBlu-ray Discレコーダー新製品が登場した。2007年から引き継がれる「やりたいことから選ぶ」シリー
今週の新製品総チェック:よりモバイルPCとして進化した「Let's note」が登場
松下電器産業の「Let's note」、デルのデスクトップPCとPC新製品が数多く登場した。Let's noteは9時間駆動
今週の新製品総チェック:フルサイズCMOS搭載のキヤノン「EOS 5D Mark II」が登場
キヤノンからもフルサイズCMOSセンサを搭載した「EOS 5D Mark II」が登場した。合わせてコンパクトデジカメ
今週の新製品総チェック:第4世代iPod nano登場、ソニー「α」、松下「LUMIX」に新機種も
デザインを一新したiPod nano、容量増されたiPod touchなど、新iPodファミリーが登場した。その後を追うよ

CNET_ID

メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。