「産学連携ブーム」を斬る!-RIETI産学連携実態調査から

この記事は『RIETI(経済産業研究所)』サイト内に掲載された「「産学連携ブーム」を斬る!-RIETI産学連携実態調査から」を転載したものです。

 TLO法の制定や拡充、日本型バイドール条項、国立大学教官の兼業規制の緩和など産学連携推進策が次々と打ち出される中、産学連携は一種のブームといえる活況を呈している。

 特に最近は、来年の国立大学の法人化に向けて、大学サイドの動きが活発化している。また産学連携関係の話題はマスコミによっても連日のように取り上げられ、シンポジウムや各種講演会も頻繁に行われている。

 このようなブームの一方で、その実態や効果に関する客観的なデータや定量分析は驚くほど少ない。そこで、RIETIにおいては今年2月に企業サイドから見た産学連携の実態を把握するためのアンケート調査注1)を実施した。ここではそのデータを用いて産学連携の実態について客観的に見てみたい。

裾野は広いが規模は小さい産学連携

 調査結果の最初のポイントとしては、産学連携はすでに中小企業も含めた幅広い対象に広がっているが、その規模は非常に小さいものにとどまっている点が挙げられる。

 経済産業省の企業活動基本調査の対象企業(従業員50人以上でかつ資本金3000万円以上の製造業、卸・小売業に属するすべての企業)のうち、研究開発を行っている8000以上の企業に対して調査を行ったが、そのうち約4割が大学との何らかの連携を行っている。

 しかし、その内容は、共同研究の他、技術相談や研究員交流まで多種多様である。共同研究について見ると、実施している企業は全体の27.7%となっており、平均で実施企業の年間予算が約6000万円、件数としては4.5件(1件あたりの平均規模は1400万円)のプロジェクトを行っている。

 この結果から、サンプル企業全体における産学連携に関する予算は、共同研究と委託研究を併せて約2000億円と推計される。これは、サンプル企業の研究開発費の合計額である約8.6兆円の約2.2%であり、金額面からいうと産学連携が企業の研究戦略上重要な位置づけを示しているとは思えない(注2)。大手の総合電器メーカーは1社で数千億円の研究開発投資を行っているが、サンプル企業の共同研究や委託研究の合計額はその1社分にも満たない。

企業は長期的な研究ポテンシャルの向上を期待

 しかし、企業サイドで期待している産学連携の目的について詳しく見ると、重要なのは投資金額ではないことがわかる。企業の研究開発の外部連携について産学連携と企業間連携を比較すると、産学連携は「自社にはない専門的知識・技術の習得」を狙ったものが中心となっており、「新商品の開発」のような短期的利益を狙ったものは比較的少ないという結果が出ている。また、産学連携の経済的効果として、売上や利益に研究費以上の効果を示していると答えた企業は全体の17.6%に過ぎない。

 その一方で、今後産学連携を強化するという企業は42.3%存在することから、企業の狙いは短期的な経済的効果にはないようである。もちろん私企業において最終的には利益への貢献が重要であるが、産学連携の強化を望んでいる企業は、大学と共同研究を行うことにより、新たな技術を習得し、自社の研究開発ポテンシャルを向上させることに主眼をおいている。

 そうであれば大学サイドにおいても、私企業では取り組むことが困難な長期的で基盤的な研究開発を行っていくことが重要である。大学改革の議論の中で産学連携の重要性は常に強調されるが、国のイノベーションシステム全体における大学の役割をしっかり踏まえた上で新たな制度の設計が行われることが重要である。

産学連携をより活性化させるためには

 産学連携プロジェクトが企業にとって自社の研究開発能力やポテンシャルを向上させるものであるとすれば、その金額的規模が小さいことは当然である。従って、産学連携をより活性化していくためには、金額的規模の増大ではなく、特に中小企業などに対してその裾野を一層広げていくために何をしたらいいのかについて考えることが重要である。

 産学連携調査においては産学連携についての障害についても調べたが、多くの企業が「自社が産学連携に不慣れ」であることを挙げてきている。産学連携を効果的に行うためには、大学の技術を吸収するために自社内においてもある程度の研究開発能力(absorptive capacity)が必要であることを示しているが、興味深いのは自社の能力不足で産学連携を行っていない企業でも相当程度、研究開発費売上高比率が高いものが存在することである。

 このように情報の非対称性から、実力はあるが産学連携に対して「敷居が高い」と感じている中小企業が多いことが考えられる。これを解決する為には産学連携の事例や大学における技術の紹介などの情報提供を活発化させることが重要である。

 また、産学連携を経済全体に浸透させるためには、少しでも多くの企業のabsorptive capacityを高めるために中小企業におけるイノベーションを活発化させるための政策も重要である。特に社歴の若いハイテクベンチャーの振興は、自前主義で硬直的なイノベーションシステムを大きく変える起爆剤となることから経済的な意義も大きい。

著者略歴
元橋 一之
一橋大学イノベーション研究センター助教授 、RIETI(経済産業研究所)上席研究員

(注1) 調査結果については既にRIETIウェブサイト「日本のイノベーションシステム研究」で公開しているので、ご参照頂きたい。
(注2) 「科学技術研究調査」(総務省)による「会社」の研究開発費総額(平成14年度調査)は11.4兆円となっていることから、「企業活動基本調査」のサンプルは研究開発費に関して相当程度の額をカバーしている。ちなみに2.2%という比率を11.4兆円ベースに用いると、共同研究、委託研究の合計額は約2500億円となる。


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