西川 潔
2003/07/31 09:56
最後の起業手段:ガレージベンチャー
やっとの思いでエンジェルに紹介され、いろいろな投資家にプレゼンしたのに誰もとりあってくれないというときは、あなたの人格的魅力欠乏か、ビジネス経験不足か、あるいはビジネスアイデアがよほどイケテナイかのどれかでしょう。
その場合、当面の起業をあきらめて雌伏するのが一般的ですが、「いや、このビジネスは必ずいける。世の中の人が理解するのは5年先だ」と確信している「孤高の人」型起業家のあなたのとりうる方法は、ただひとつ。ガレージベンチャーをおこすことです。
ガレージベンチャーとは何か?文字通り、自宅のガレージ(といっても日本では自宅そのものとなるでしょう)か、極めて家賃の安いオフィスで資本金300万円の有限会社でもいいから、とにかく会社を興すのです。そして、名刺だけはきちんとしたものを作り、「代表取締役」の肩書きをもって社会と対峙するのです。
もちろん、最初から自分のビジネスアイデアをセッティングするには到底お金が足りないでしょう。ですから、徹底的にアライアンス戦略をとり、他企業の門をたたき、正々堂々と自分のビジネスアイデアを訴え、パートナーになるよう要請するのです。そうしているうちに、運命の扉が開かれるはずです。
もしその扉が開かなかったら?そのときは直ちに方針転換し、本当にやりたいビジネスは3年後、5年後にとっておいて、最初は小資本でできるビジネスから徐々にふくらませていくのです。考えてみれば、ほとんど無資本でできる会社も世の中にはあります。たとえば、ネーミング・コンサルタント(商品名を提案する人)などはまさに自分の頭脳とセンス以外、ほとんど何もいりません。失敗しても怪我は少ない。またチャンスがめぐるまで食いつないでもいいのです。
ガレージベンチャーの実例
かく申す私も、まあ、スタートの実態はガレージベンチャーだったといえます。友人・知人に創業目論見書をもって回り、なんとか1500万円を集めて渋谷のぼろい歯医者の2階で創業しました(詳しくは、連載の3回目をご覧ください)。
起業家同士で話していると時折ガレージベンチャー自慢になることがあります。「創業当初、いかにうちはぼろかったか」を競うのです。ぼろいところからはいあがったほうが偉い、という暗黙の前提があるのです。
わたしが知るかぎり最高のガレージっぽいベンチャー創業はメールニュースの才式祐久さんです(メールニュース社は、その後サイバー・コミュニケーションズに買収されました)。
彼は新宿6丁目の青梅街道の裏にある「あおい荘」とかいう典型的なぼろアパートの日の差さない4畳半の一室で創業したのです。トイレは共同で外についていました。創業パーティと称して起業家志望者たちが5人くらいでそのアパートに集まり、鍋パーティをやったのを思い出します。それが4年後には、資本金3億円、売上げ2億8000万円、社員43名となり、2001年にはサイバー・コミュニケーションズに買収されるまでに大きくなりました。まさに創業期を知る人にとってはすごい発展です。
「どん底」時代を耐えられるか?
最近は豊かな社会に生まれ育ったせいなのか、このような「どん底」的な環境にはとても耐えられない、という人が多いようです。起業には、いままでの快適で優雅な生活を一時ストップする覚悟が必要です。オフィスもぼろいし、休暇も満足にありません。収入もある程度成功するまではかなり減らすことが多い。一流企業の名刺をだすだけで得られた会社の威光もありません。多くの人は「そこまでしてやるか?」と手が止まってしまう。日本で今、起業というチャレンジが少ないのは、豊かな社会特有の必然的な病理なのかもしれません。
アメリカは常に一定量の移民を受け入れます。移民は失うもののない強みで、どん底から自らの人生をアメリカという土地でつくりあげようと努力します。そんな彼らのうちで、最優秀なひとたちが狙う最高の夢が「起業家として成功すること」なのです。いかにすさまじいハングリー精神に満ちているかは想像に難くありません。
しかし日本の豊かな社会にも、まったく裏側にもうひとつの副産物があります。つまり「人生不完全燃焼症候群」「何かに熱中したい病」「自分探し症候群」です。それらの人たちは、「豊かだが平凡で刺激のない人生」より、「不安定だがエキサイティングな人生」を志向しているのです。「豊かな社会では起業家が出にくい」という定理を打ち破るとしたら、彼らのような人々かもしれません。豊かな世界に育った恐れを知らない新世代起業家たちの出現を期待しましょう。
ガレージベンチャーに栄光あれ!
いまは世界に冠たるHewlett-Packardだって、Appleだって、そのスタートはガレージベンチャーです。Amazonはシアトルの貸家についていたガレージでの創業、Yahoo!は、Stanford大学のキャンパスにうち捨ててあったトレーラーハウスが発祥の地です。
甘やかされないほうが強くなるのは、会社も人も同じこと。最初からそこそこきれいなオフィスでお膳立てをととのえてスタートするよりも、天井と床が落ちてきそうなぼろぼろのオフィスでスタートしたほうが、どんな環境にもサバイバルできる強靭な会社になるような気がします。
ガレージベンチャーの精神は、どこかアントレプレナーの原点に通じているような気がします。ガレージベンチャーに栄光あれ!
(以下つづく)
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