消費者がブランドをコントロールする

横山隆治(ADKインタラクティブCOO)2007年11月12日 11時00分

 総務省が3月に発表した「平成17年度情報流通センサス報告書」には、平成7年(1995年)から平成17年(2005年)までの10年間の情報流通量の推移が示されている。

 これによると、平成7年を100とすると、平成17年には原発信情報量が2704、発信情報量は2086、選択可能情報量が41030、消費可能情報が1527、消費情報が1312となっている。これを取り上げて、電通の秋山さんが近著「情報大爆発」で、「この10年で情報の流通量は410倍になりました。」と書いている。

 実際にはこの調査でいう「情報量」は人が介在しない機械と機械がやりとりするものも含まれているので、410倍とそのままでは解釈できないものの、情報の需給ギャップが爆発的に大きくなっていることは事実である。そして重要なのは(これは私の仮説だが)、こうした現象によって消費者の情報接触態度が大きく変わったということである。

 ひとつは情報に対して概して鈍感になっているだろうこと(これは当然)。もうひとつは、情報は興味関心が顕在化したときに、こちらからアクセスするものである(ネットに情報があるから、常に注意してテレビを見ていなくてもいい)、という意識が形成されていることで、関心のスイッチが入った時と、そうでない時に無視される度合いがあからさまになったのではということだ。

 これはテレビのようなプッシュ型のメディアはだめだと言っているのではない。広告メッセージが消費者にとって(有益か、楽しめるものか)スイッチが入るコンテンツになっているかどうで全然違ってくるということだ。もう広告効果をただ単に接触量でカウントすることはできない。「エンゲージメント」という概念が出てきたのもこうした時代を反映したものである。

 こういう状況になると、悲しいかな、従来の広告のつくり方、すなわちマーケティングメッセージの「What to say」、「How to say」を送り手側の論理で一生懸命考えることがむなしくさえ感じる。広告を送りつけるという態度と手法は、恐ろしいほど力を失っていることに気付くことがまず第一歩だ。

 私も昔クライアントから「このブランドでしか言えないことを」とよく言われた。しかし送り手がUSP(Unique Selling Proposition:自社や商品、製品、サービスなどの特徴、差別化するポイントなどを相手に伝わるように表現すること)だと思って一生懸命言っていることは、ほとんどの場合受け手にはどうでもいいことだったり、端から「売らんかな」の姿勢に自動的にシャッターが降りていることが多い。情報として受け入れてもらえなければ(スイッチを入れてもらわなければ)何も始まらない。

 情報の受け手が主導権を握る状況下で、まずはどうやって関心をもっていただけるかを、我々は謙って考えなければならない。そしてもし関心をもって情報にアクセスしていただいた時に、どういう態度で対応するかをもっと真剣に考えなければならない。

 拙著「次世代広告コミュニケーション」でも触れたが、ユーザーにせっかく興味を抱いていただいてウェブサイトにアクセスしていただいたのに(せっかく「買う理由」を求めてきていただいたのに)、従来の送り手側のトーン(「売る理由」だけの)ウェブがいかんせん多い。

 極端に言えば「消費者がブランドをコントロールする」時代にあって、どんなコンテンツでいかにプッシュし、いかにプルを引き出し、いかに「買う理由」を見つけて決心してもらえるかをキャンペーン全体でインタラクティブに構成することが、我々に求められる。この時必要なものは従来の「広告クリエイティブ」ではなく、「ブランデッドコンテンツ開発」である。私が提唱している「クロスコミュニケーション」とは、こういう考え方だ。

 最近「クロスメディア」というワードが私にはしっくり来ない。これはどうも広告スペースを売る側のワードになってしまっている。どんなコンテンツをもってして消費者とコンタクトするかがプランニングされる以前に、ネットとモバイルとOOH(Out of Home:屋外広告など家庭以外で接触するメディアによる広告の総称)と新聞とか、メディアだけ決まってくる訳がない。

 まずコンテンツ発想ありきでスタートする「クロスコミュニケーション」思考が大事であり、だからこそ、今後広告コミュニケーションを開発する者には、100%クライアントをレップし、またある意味それ以上に消費者をレップするスタンスが重要なのである。

横山隆治
株式会社アサツーディ・ケイ
執行役員 ADKインタラクティブCOO

青山学院大学文学部英米文学科卒。1982年に株式会社旭通信社入社。営業職を経て、1996年同社サイバービジネス開発室室長。同年デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社の設立に参画。設立時に同社代表取締役副社長に就任。黎明期にあったネット広告の普及、体系化、理論化に取り組む。JIAA(インターネット広告推進協議会)のガイドライン作成や新人研修テキストなどの多くを執筆するほか、著書多数。2006年7月からADKインタラクティブCOO兼デジタルアドバタイジングコンソーシアム株式会社取締役。「インターネット広告革命」(2005年宣伝会議)、「Mobile 2.0」(2006年インプレス)、「究極のターゲティング」(2006年宣伝会議)、「次世代広告コミュニケーション」(2007年翔泳社)など。

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