最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

ファイル交換は悪と言い切れるか

森祐治

2005/07/01 10:00  

ファイル交換はクリエイターの敵ではない

 では、「ファイル交換が活発化するとCDが売れなくなる。だからファイル交換そのものがクリエイターら著作者たちの敵である」という経済的な損失を根拠にした主張は正しいのだろうか。そもそも判断基準が難しい話なので、せめて議論の根拠を何とかして得たいと考える人は多いに違いない。

 実際に、その経済的な損失の推定を行った研究がある。NTTドコモが設立したモバイル社会研究所の支援を得て、慶応義塾大学経済学部助教授の田中辰雄氏が行った「著作権の最適水準を求めて」という一連の研究がそれだ(研究の概要は情報通信学会のサイト内に掲載されている「ファイル交換は音楽CDの売り上げを減らしているか?」という研究論文から知ることができる)。

 田中氏はこの研究において、「ファイル交換によるCD売り上げ減少が大きければ(中略)禁止されるべきである。しかし、ファイル交換による売り上げ減少がほとんどないならば、(中略)経済厚生上はファイル交換を禁止するべきではない」という極めてわかりやすい主張をしている。

 同論文によると、David Blackburnが2004年に行った先行研究では、ファイル交換サービスの普及によって「ビッグアーティストのCD売り上げは減少するが、中堅以下のアーティストの売り上げは増加する」という結果が得られたという。そこで、田中氏は日本におけるWinnyの利用がCD販売に対してどのような影響を及ぼしているかについて検証を行った。

 詳細は上記論文にあたっていただきたいが、結論はWinnyによる音楽ファイル交換はCD売上を減らしておらず、「現状のファイル交換は音楽業界に有意な被害を与えていない」「ファイル交換は経済厚生をむしろ向上させており、禁止すべきではない。現在のファイル交換への否定的な対応(開発者の逮捕や個人訴追)は再考すべきであろう」としている。

ファイル交換とどう付き合っていくべきか

 もっとも、最近の「Star Wars, EpisodeV」のネット上へのファイル流出やカムコーダーによる映画の盗撮のように、明らかに違法なソースのファイルを交換することについては、田中氏の音楽に関する研究と一様に議論すべきではないかもしれない。

 WinnyがCD売上に影響を与えない理由として田中氏は、3つの仮説を挙げている。「そもそも需要が異なり、ファイル交換とCD購入は代替関係にない」「Winnyなどファイル交換で気に入った音楽を知り、それをCDで購入する」「ファイル交換ユーザーの数は全音楽CD購入者のなかに占める割合が低く、まだ統計誤差の範囲内である」というものだ。

 田中氏が考察として述べているように、ファイル交換を利用するのはそもそも異なる需要を持った人々であり、CDを購入する層とは異なっている可能性があること、ファイル交換で気に入った音楽を探してそのCDを購入するといった行動の存在の可能性があることを考慮すると、むしろ音楽業界としてはファイル交換を積極活用すべきであるという発想が出てくるのではないか。

 実際、ファイル交換ではないものの、同じノンパッケージ流通であるiTunesなどの音楽配信事業は非常に大きな成功を収めている。そして、縮小気味であった米国音楽業界に朗報をもたらしたといわれている。であれば、PtoPテクノロジーに対してももぐらたたきよろしく、根拠がないままに「ファイル交換憎し」と叫び続ける理由はないはずだ。

 米国最高裁の差し戻し判断が今後どのような結論になっていくのか、それは現時点ではわからない。しかし、テクノロジーそのものを、一種の先入観で判断することは非常に難しい。日本ではより積極的にPtoPと小額決済などを組み合わせることで、iTunesのように産業の活性化へと導く方向性を議論すべきではないのではないだろうか。

追伸:
 28日の古川享氏の卒業式で、主役の古川氏からヘッドロックをくらいそうになりながら、古川氏とMSXについての記述は適切ではないというお叱りを受けた。お詫びをして、古川氏はMSX規格では中心的な役割を演じたわけではなかったと訂正したい。

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