最終更新時刻:2008年10月10日(金) 23時50分

「あなたの知らないICタグの(本当の)話」

澁川修一

2004/10/18 10:01  

3.周波数とタグを巡る課題

--タグが実際に普及して行くには、周波数の開放がきちんと行われることが重要だと考えています。現在利用可能な帯域は2Ghzオーバーでかなり特性が厳しいという話もあります。国際的に使われているUHF帯の開放が課題だと思うのですがその辺りの取り組みはいかがでしょうか。

新原: ICタグと周波数の問題については、総務省がUHF帯を空ける作業をしていますが、まだ不十分だと思っています。國領先生、村井先生、総務省、さらには携帯電話キャリアともお話をしているのですが、UHF帯のメリットを最大限に引き出すためにはどのような環境で使えるのかがとても重要です。「スプリアス規制」という言葉があります。いわゆる「電波干渉を避けるための出力規制」ですね。隣の帯域に漏れ出す電波(スプリアス)による影響が出ないように干渉レベルを定めて、出力の規制をするというものです。

 いくら回り込み特性に優れる900MHz帯といっても、電力が弱すぎては電波が飛びません。去年タグの実証実験をしたときは、干渉相手の「言い値」で実験をしてみたのですが、在来帯域と比べても相当に効果が悪いことがわかりました、また、ドコモの基地局に近い場合には影響が出ないように遮蔽(シールド)する必要があるなど、実用にはとうてい使えない条件であったので、今年の実験に際して総務省電波部やドコモと交渉しました。米国企業からも不満があることを伝えたり、KDDIがそれまで使っていた時と比べて何百倍もスプリアス規制が厳しいなんておかしいじゃないか、と。それでもドコモは難色を示したのですが、素人目で考えても、携帯電話よりタグの方が距離は出ないと分かります。だいぶ総務省も善処していますが、まだまだ不十分だと考えています。電波の問題は各国毎の事情が複雑に絡む問題だとは思いますが、少なくとも米欧と同じ条件で使えるようにして欲しい、と思っています。この議論はまだ決着していなくて、ちょうど6月にUHF帯における電子タグについて、情報通信審議会に諮られているところで、年内に議論を取りまとめて、来年の通常国会で(技術企画を定める)政令の改正、つまり年度内の実用化を目指すというスケジュールになっています。ただし、実用化が可能になった、という事と、実際に使われるようになったというのは全然意味が違いますから、そこはしっかりやってくれ、と注文を付けています。

プライバシー問題への対処

--実際にタグが使われるようになった場合の課題として、プライバシーの問題がありますよね。実際に活用が進む中で、無防備にプライバシーに係る情報がタグ経由で読みとられてしまうことについては、根強い懸念がありますが。

新原: ICタグについてのプライバシーの問題はまだ問題は顕在化していません。リーダ/ライターがそこら中で売っているわけではないですから。ただし、消費者が不安に思う点があっただけで売れなくなるのがマーケティング的な鉄則なので、ここは予め不安を封じなければなりません。一般的には役所は問題が起こってから対処するという事後対応が多いのですが、このようなルールメイキングの局面においては、もし不安があることが想定されるなら、もう先に作ってしまえば良いだろうと。実際に運用して、まずいところが有ればフィックスしていけばいいだろうという発想で対応しました。行政法の言葉で「公定力」という、役所は絶対に間違っちゃいけない、役所の決めたことは絶対正しいという議論がありますが、米国のようにルールを作って、うまくいかなければどんどん直せばいいのです。将来的な課題ではありますが、そのような方針でプライバシーとICタグに関するルールを作りました。ただし、霞ヶ関の中での統一が重要なので、経済省と総務省で政府としての統一ガイドラインとして公表しました。(※注6

 このガイドラインの中身ですが、消費者が何を不安がっているかといえば、例えばタグ付きの本を持ち歩いているときに、自分が何の本を読んでるかを誰かに読みとられてしまうのではないか、という類の話ですね。つまり、気づかないうちに読みとられる不安です。これに対応するために、電子タグを装着したまま売るときは、その旨を告知しなければならず、そのタグの中にはどのような情報が格納されているのかも知らせなければなりません。これは消費者の知る権利の確保という趣旨です。

 その上で、リサイクルや安全性確保のためにタグをつけている場合であっても、消費者がイヤと言った場合は、その機能を停止させなければならないと定めています。つまり、最終的な選択権を消費者の手に委ねる、この2点が根幹になっています。

今年度の実証実験

--今年の実証実験についてはどのような展開を考えられているでしょうか。今年は、昨年よりも拡大した形で実施されるというお話を聞いているのですが。

新原: 今年の実証実験については(※注7)、家電業界、電子機器、産業機械、書籍、業務用の医薬品、陸海運、CD/DVDレンタルの7業界に参加してもらいます。

 中でも書籍は、ブックオフが入りましたから、中古書店業界も含めた形での参加になります。医薬品ですが、これは病院向けの生物由来医薬が対象で、薬事法で定められたロット番号や卸先などをしっかりと管理するために利用します。百貨店関係は、衣類とか靴ですね。物流業界はとても大きな実験規模になります。全国で東京・横浜・名古屋・大阪・神戸などの各地の物流拠点を指定して、国内はもちろん、海外から実際にタグ付きのものを通関させるというものです。

 この実証実験に当たっての基本的なポリシーは、「ユーザ省庁の協力・承認を取り付けてからじゃないとやらない」というものです。要するに、僕たちは単なるイベントをやろうと思ってるんじゃない。実際に業界に導入されていくプロトタイプを作りたいわけです。そうなると、経済産業省だけで出来ることには限界があるし、それぞれの業界の所管官庁の支援がないと絶対にいいものは出来ない。だから、業界団体で足並みを揃えて(所管官庁の承認を含めて万全の体制で)出てきてもらわないとダメだし、業界の一部の会社だけとか、シンクタンク等からの申請は申し訳ないですけれど、お断りさせて頂いたのです。例えば、医薬品の実証実験は厚生労働省と、物流は国土交通省と完全にジョイントプロジェクトになっていて、それぞれの役所の中に、実証実験を担当するオフィスを作ってもらいました。

まとめ

新原: 経済産業省のICタグに関する政策については、インフラ周りの課題、すなわちコード体系の標準化、及びエア・インタフェースの互換性という国際標準化という政策、および価格低減という政策課題の二点に集中して、民間企業の邪魔はしないというのが基本的な方針です。

 やや詳しくその理由を申し上げれば、この図を見て頂きたいんですが、

この図で赤で示したインフラ周り、すなわち周波数とか通信コードはレントがない分野だと言えます。使ってもらわないと話にならないから標準化を進めますし、そこで開発した技術についてのライセンスもフリーかRANDしかないでしょうね。そういう考え方で、「5円タグ」を推進しているわけです。一方でこの図で言うところの上の青い部分、ソフトウェアとかノウハウの部分についてはレントが出るので、それはビジネスモデルとしてどんどんやっていただいて、そこを政府が口出しするべきではない。むしろそれは発展を阻害します。このように、赤と青の部分をしっかり切り分けていくことがとても大切です。

 このような、経済産業省の進めている政策について、よく言われるのが、この赤と青、全部経済省がやろうとしているんじゃないか、という批判です。つまり、政府は何もするな、ということですかね。また、インフラだけじゃなくて、ソフト・ノウハウ部分も標準化するべきじゃないか?という、全く逆の方面からの批判もあります。

 しかし、我々としては、このようなレントが出る部分、出ない部分をきちんと分けて、政策対応を進めていくことこそが、ICタグの普及促進政策にあたって、一番重要なことではないかと考えているところなのです。

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※注1:経済産業省の電子タグ実証実験。16年度事業の詳細はhttp://www.meti.go.jp/information/data/c40329bj.htmlにある
※注2:Le souk((株)先端情報工学研究所のウェブサイトに取材記事あり
※注3:EPC globalは国際EAN(European Article Number
※注5:Reasonable And Non-Discriminatory:「妥当な価格かつ非差別的に」という意味。
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筆者プロフィール
澁川 修一
1976年生。1999年慶應義塾大学総合政策学部卒業。同年、国際大学GLOCOM Research Associates。2001年より独立行政法人経済産業研究所(RIETI)に所属し、情報通信関連政策を担当。

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