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CNET Japan ブログ

企業成長とビジネスモデル転換

2007/12/10 10:48
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プロフィール

渡辺聡

インターネット/IT分野で事業開発に携わる渡辺聡さんが、注目ニュースなどを題材に、そのニュースの背後にある本質的な変化とその先行きを、経済や社会との関わりの中で考えていきます。
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先日相談を受けて、ある成長企業の幹部の方を訪問していた。(NDAの手続きはしてないものの)詳しい内容やビジネス状況については、守秘倫理から書けないが、ケースとして良い事例なので差し支えない範囲でご紹介したい。(尚、念のためだが、下記文章についてはご本人の確認の上公開となっている)
 
お会いしていた方は、とあるビジネススクールの卒業生の方だったためか、自然と出た感想が「まるでスクールのケーススタディみたいな状況ですね」、というもの。また、先方もトランジション(変革と移行)の時期なので、大変だけれども面白いという感想を述べておられた。
 
テーマとしては典型的な成長企業のジレンマといったところになる。
 
ここCNETでBlogを書くようになってから、媒体特性もあり、ネットは次どうなる、テクノロジーのこの先はといったトレンド周りのテーマを取り扱うことが多くなっているが、元々の出自は上記のような分野にある。こういったがっしりとした経営テーマは割と好みだったりする。
 
 
成長企業のジレンマ
 
理由は様々あれ、多くの企業は成長を目指す。理由の根っこは経営者の夢だったり、投資家要望との刷り合わせという現実的なものだったり様々だが、成長を経営のテーマに置いている会社はごく一般的にある。
 
この会社も、あるサブセクターの川上付近、素材系で強いポジションを得たあと、エンドの商品販売の側で世の中が変わってきたために、素材売りだけではリスクが高まりうるという読みと、積極的な成長可能性を狙って川下の製品側の方に進出しようと動き始めた段階にあった。
 
ある事業機能で一定の成果を上げたあと、得たアセットを利用して隣接領域に進出という話は珍しくない。例えば、コミュニケーションサービスを提供していた企業がユーザーリーチを生かしてECに進出を企画というのは良くある風景になる。広告ベースで動かしていたところ、トラフィック単価とユーザー単価の向上を考えると頻繁に取られる手である。
 
しかし、当たり前だが、川上の原料素材系のビジネスとモノ作りのビジネスでは考え方もやり方も違う。仕事のやり方や事業管理の方法も大きく変えていかなければならないのが多くの場合となる。
 
川上のビジネスは、素材にある程度の希少性がある場合、調達力とアクセス権といったものをベースとした権益、素材としてのモノの品質管理、あとは、金融に近い感覚で需給やタイミングでの市場価格の動きを上手く機会に取り込んでいくといったところが主なキーポイントとなる。
 
ところが、モノ作りになると、調達力は機能の一部になり、製品に如何に転換するかが勝負となる。転換については、製品企画、製造品質、プロダクトラインナップを整理して提示するといったところが勘所になってくる。製品領域によっては、調達系は外部に任せ、まさに作るところのみに特化している場合も少なくない。サプライチェーンのうち、自社で押さえるべき機能領域が増えることになる。(ベターにポーターのチェーンあたりでも思い浮かべて頂ければ)
 
この両方の領域に手を出すとなると、当たり前だが、どちらも市場競争でも勝てるレベルにまで持っていかないとならない訳である。なんとなくの参入というのであれば、川上のビジネスでの利益が川下で相殺されておしまい、という展開になってしまう。現にそういう会社は世に珍しくない。素材側でのポジションに加えて、モノ作り側がAddValueを加えられなかったら製品製造部分でのマージンが得られず、単にバランスシートは大きくなり、利益は変わらないという経営者からも投資家からもあまり嬉しくは無い状況が生まれる。
 
 
新しいDNAの獲得
 
この際、変換の鍵になるのは、ビジネスのキードライバーが変わる、あるいは複数になるというところに組織として(るいは経営として)どう対応していくかというところになる。
 
川上のビジネスのみで事業を最適化したいという際に重視されるKPIと、モノ作りで重視したいというKPIは違う。また、この機能をコアにして事業が回っているというプロセスも異なる。
 
例えば、上記のネット企業の場合、広告収益で考えるなら、ユーザー数とアクセス数が多ければ多いほど基本としてビジネスは伸びていく。しかし、ECの場合は(概ねアクセスと比例することが多いものの)、結局何人買ったかというところがキーとなるので、買わないユーザーよりも買ってくれるユーザーではユーザー価値(即ち単価)が変わってくる。そして、買ってくれるユーザーに向けて、あるいは増えるように施策を考えていくのは自然な流れとなる。結果、ユーザーの絞込みが発生する。
 
また、更にモノを作るプロセスを内製化してる場合、生産能力を超えて需要があっても、(設備投資をしたとしても)短期的には応えられない。つまり、やたらとユーザーのみを増やしてもあまり意味が無くなる。この場合、供給能力に応じただけのユーザー規模をコストセーブしつつ維持するというのが戦略としてひとつの最適解となる。ただし、特にユーザー側に不満が出ず、維持コストがかからないというのであれば、適度に多いのは事業上問題とならない。
 
 
管理アセットの変更
 
直接モノを扱わないビジネスから、モノを扱うビジネスに進出する場合、バランスシートには仕入れや販売を目的としたモノが在庫や資産として計上されることになる。また、そのモノを取り扱う管理プロセスや加工プロセスが社内業務として発生する。
 
この場合、一般的な傾向としてビジネスは重くなる。仕入れて作って納めて(あるいは販売して)というビジネスサイクルがそもそも長い。そして、生産設備を自分たちで購入するなら、大きな投資と固定資産の長い償却期間が出現する。管理資本は大きくなり、意思決定は長期的なものに傾いていく。
 
様々な業界のいろんなステージの会社さんを見ていてつくづく感じるのが、取り扱っているアセットと事業サイクルにあった重さ軽さの感覚を備えていることが、事業の競争力に如何に繋がるかというところ。こまめに小さくくるくると回さないと成立しない事業に、厳密で重い意思決定や承認プロセスを持ってきてもさっぱり機能しない。逆も然りで、規模の大きいものを取り扱ってるところで、なんとなくその場の雰囲気と感覚のみで動いても上手く行かない。原子力設備の運用を「この雰囲気いいね」などといって気分で対応しても何も良いことは無い。
 
次のステージに行こうと考える会社さんは、現状ビジネスにおいて、ある程度の成功と成功を支える勝ちパターンを持っている。つまり、あるレベルまで会社としては完成されていることが多い。しかし、新規参入を絡めた成長プランを組む場合、この完成した形に手を加える必要が出て来る。
 
上手く行って波に乗れている会社ほど文化が強い。特に短期で伸びたところは、「このやり方なんだ」という合意が無意識に作られていたりする。しかし、自覚されない合意ほど、新しいビジネスでは足かせになりかねない。無意識の勝ちパターンを捨てるのは組織的抵抗も多く、なかなか上手く行かない。結果、新規参入した事業はなかなか伸びない。
 
重み感覚の調整、新しい事業ラインでのやり方の確立。そして、新しい事業ラインを加えた上での会社全体でのあり方の模索。多くの場合は組織規模の成長というそれ単体でも面倒な問題を抱えつつ、これらの課題をクリアしていくことに挑戦することとなる。
 
 
資本と会計
 
資本的にも規模が大きくなると、調達側も重くなってくる。銀行調達にせよファンドのような投資家にしても、会計情報の精度高い開示と事業計画の品質を求められるようになる。どんぶりでは済まない。
 
事業と組織の規模が大きくなると、普通に管理会計の仕組みも必要となってくる。事業部に分かれたり、組織階層が分かれると、事業別や機能別のコストを見ていかないと、モノは売れてるはずなのになんでか利益が出ない、気づいたら資金ショートしそうで急遽銀行にお願いしにいくといったような事態になってしまう。特に製造機能が入った場合、原価管理が甘いと本当に利益が出てるのかさえ分からなくなってしまう。
 
トップと経営陣の仕事内容にしても、事業ラインが複数になり、組織機能も大きくなってくると、現場現場を回ってというところから、いわゆる意味での”経営”というところに重点が移っていくフェーズになる。また、マネージャー層の整備と育成が必須になるステージでもある
 
 
幾度も見た風景
 
上記、いつか経験した、部分部分では既視感も感じる風景である。成長段階の企業でおきる典型的な風景といって良い。産業構造の転換も含んでいたため、若干応用問題的なテーマも他にも出ていたが、基本としては見慣れたものとなる。
 
しかし、見慣れているからといって簡単かと問われたらもちろんそんなことはない。実装と落とし込みについては、個々の会社の癖、陣容、過去の経緯などから細かいところで出来る出来ないや細かいやり方について差が出てくるのが普通であり、しかもその細かいところがちゃっかり成否を分けたりする。
 
また、ここまで広範囲に企業機能を触ることになる場合、パラレルで転換作業が進むことになる。となると、それぞれの進捗や成果を見据えつつ進める作業を入れ替えたり、組み換えを適時行っていくこととなる。一本道の資料を手渡して「じゃ!あとは実行だけ!」などと言って帰れることは普通無い。プランの精度を受けた形で実行の仕方が勝負となる。
 
 
実行方針の設計
 
これら、個々は良いとして、課題が同時に出るのが問題となる。一個どうにかせよ、であれば割とさっくりなんとかなるものも、まとめてモデル転換しなさいと問われると急に課題レベルが上がる。
 
このような場合、どう手を付けていけばいいのか。
 
大きく分けて、実行方針を作るに二つの方法がある。ひとつは、成果の出やすいところから進める方法、もうひとつは、期待効果の高いところから進める方法。
 
いずれを取るかは、トップのコミットと組織の雰囲気から決めることになる。組織として、やるぞという雰囲気が十分出来てる場合、インパクトの高いところを狙っていくのが期間効率からして良い。しかし、組織内で改革への雰囲気が煮詰まってない場合、改めて何かをやるというのは様々な形への抵抗に合うか、仮に合わなくても上手くドライブがかかっていかない。実感の無いことを他人から言われても身に入らないのは人間自然な反応となる。
 
そうなると、まず動かしやすいところから動かして成果を体感して貰うというのはひとつの手となる。動く感触が分かり、きっかけが作られると、その後何かするのに物事を動かしやすい。その後、様子を見つつ徐々に本質的な課題に繋げていくこととなる。この辺はヒアリングしてもデューデリしても、最後の最後まで読みが難しい。
  

 
という感じで、ケースとしても面白く、且つ産業の読みと挑戦課題も面白いこともあり、こういった会社さんとはしっかりとお付き合いしていきたいところである。業界の支えになるような良い会社に、是非育って頂ければ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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