最終更新時刻:2008年7月24日(木) 14時15分

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愛される「時をかける少女」:口コミマーケティングに開かれた新しい道

公開日時:
2006/08/23 15:27
著者:
渡辺聡

時かけ見に行こうか」という話は前からちょこちょことあった。たまたま何人か調整がついたというのと、あずまきよひこ氏の「それはもはやあずまんがじゃないのか?」というイラストに背中を押されて行くことに。
 
結論から書くと、素直に良い作品で十分楽しんで帰れた。同時に、劇場の様子やお客さんの集まり方、来ている人の雰囲気から、自然と輪が広がっている流れがなぜ起きているのかも多少は読み取れた。その辺りをマーケティングの事例としてまとめてみたい。
 
 
口コミで広まったという共通認識
  
上映期間に入った後のメディアの記事やBlogの書き込み(ここに主だったリンクがまとめられている)を眺めていると、「評判を耳にして」、「評判を読んで」「口コミによって」という言葉が頻繁に出てきている。

メディアの記事だとこのあたり、

・シネマトゥデイ::ネットの口コミで大ヒット?『時をかける少女』は連日超満員!
・アニメ!アニメ!ニュース:時をかける少女 上映館拡大中

Blogだと上のリンクのようにたくさんあるが、ブックマーク数の多いところだと

・渦状言論:時をかける少女
・たけくまめも:「時かけ」観てきました

というあたり。ボリューム感としてはテクノラティで検索すると、18,000件ほど。爆発している印象は無いがじわじわと伸ばしている様子が伺える。
 
本作品は公式サイトでまとめられているように、テレビCMなどのマスプロモーションも行っている。しかし、知人友人の動きや実際の体感だとやはり噂と評判を聞きつけてという人が多い印象がある。また、Yahoo!のユーザーレビューでも4.7と高い点が出されている。このあたりはサクラがいるんじゃないかという邪推の余地はあるが、個別のBlogを読み込んでの反応の方を信じたい。
 
上映前後の動きを簡単にまとめると、
 1)上映開始されますというニュース
 2)試写会、イベント参加者の初期口コミと専門誌インタビュー掲載
 3)上映開始後の一般客からの評判が流通し始める
 4)映画専門メディアを中心に「口コミでの評判」との記事が載り始める
というところで、ユーザーの声とメディアでのまとめ記事が何周か入れ替わる形でゆっくりとスパイラル上に広がっていっている。一気に広がらなかったのはやはり上映館の少なさだろう。いまでこそ評価を受けて徐々に増やしていっているが、初期の予定はこれだけだった。東京でもテアトル新宿一箇所。今でも渋谷は始まっておらず、池袋もレイトショーなので、実際のキャパシティはそう変わっている訳ではない。
 
しかし、制約条件が功を奏してか質の良いコミュニティが育っている。たけくまメモにて

「時かけ」は入れ替え制だったんで行列こそできませんでしたが、こう、お客さん全員の顔に期待の色が浮かんでいるアニメも久しぶりでしたよ。

というコメントが載せられているのもしっくり来る。
  
つまり、観に来る人も前評判を見聞きして、映画がユーザーに支えられているという気持ちで来る。実際に来てみると小さな劇場の狭い階段に並び、ロビーから溢れている人たちを目にする。そして、決して大作でもドラマティックなストーリーでもないが、丁寧に作りこまれた作品と少し切ない夏空を焼き付けて帰る(絵コンテ欲しい)。こうして、フィードバックサイクルの環境は整う。
 
作品が愛されているという事実を確認し、見た人同士が何か通じ合ったものを共有してゆく。輪の中に入っていく。スパイラル。
 
 
普遍的な物語とファンの押し上げ
  
涼宮ハルヒの事例と比較するのなら、物語の普遍性が違いになるだろう。タイムトラベルというSF要素は含んでいるとはいえ、物語は純粋な青春映画の作りであり、宇宙人も超能力者も出てくる訳ではない。他愛ない日常生活が描かれた作品となる。その代わり、作り抜けば物語を受け取って共感出来る層は広くなる。
 
現に、ZAKZAKの記事でも触れられているように、40代50代のお客さんが見て分かる程度にぽつぽつといらっしゃった。原作や原田知世版のファンの方が懐かしさも含めて観に来たというところもあるのだろうが、こういった層も受け止められる物語になっている訳でもある。明確なヒアリングデータはないが、断片的に見聞きするところだと、この層にも好意的に受け止められている。
 
まだ上映期間中なため、総括には早いがマーケティングの側面を現時点までまとめるとこのようになるだろう。
 

A:種まき期
 限られた予算内でのイベント、キャンペーン、メディア露出と通常のプロモーションが実施され、作り手としてやるべきことの基本はやり尽くす。(公式Blogもまめに更新されている)
 
B:コアコミュニティの形成
 初期ユーザーを中心に中核のファン層が作られ、ポジティブフィードバックが回り始める。

但し、ここまでは過去あったことであり、例えばアメリトレインスポッティング(そういえばトレインスポッティングはUnderworldの知名度もぐっと高めたことも触れたい)など単館系のヒットというのは過去もあった。しかし、時をかける少女を見ていて、おそらくは今後も様々な形で出てくるだろう構図として、

C:豊かなユーザー体験の共有と伝播

 単に良い悪いの○×一言コメントではなく、観たユーザー本人の声がネット上に溢れはじめる。つまり、評価ではなく体験のシェアが行われる(この下地やBlogとSNSが圧倒的でしょう)。同時に、作品を中心として個々人の体験を積み重ねる形で豊かなコンテクストが集積する。



D:ユーザーコミュニティの面的な可視化

 賛否入り乱れてユーザーコミュニティでの感想が溜まり、全体としてメディアに似た役割を果たすに至る。



E:クラスターを超え始める

 ある特定の趣味のファン層のみではなく、複数の文化層、世代にメッセージが届くようになり、一部はクラスターを超えて共有され始める。つまり、ある範囲でファン層が留まるのではなく、越境して広まっていく

というものが指摘出来る。可視化されたことと、可視化されたものが見つけやすくなったというのはシンプルな変化だが嵌れば及ぼす効果は大きい。結果として、新宿は連日人が行列し、上映館が着々と増えるという結果に結びついている。推定を含むが、当初計画を超えての上映体制になってることだろう。



そして、冒頭にも触れたようにメディア記事の切り口が「口コミによるヒット」というもので揃っている。些細ではあるが、この認知フレームが揃っているのは大きい。マニアックな作品ではない一般作での口コミマーケティングの初期事例(しかもリアルのチャネルも絡めての)として位置づけられるようになっていくだろう。核にあるのはプロモーション技法やツールは何を使ってといった話ではなく、良い作品と良い物語ということになる。詳説はしないがプロダクトが核になっているのはポイントの一つとなる。



世の状況の読みが間違ってないとすれば、CからEまでのステップとパターンがこれから多くの事例で見られるようになる。ある決まった集団の中だけで熱狂的に消費されるものは少なくない、しかし、たとえゆっくりではあっても、幅広い人に自然浸透していく事例はそう多くはない。マスに勝った負けたではなく、ネットマーケティングの技法が云々ではなく、伸びやかな作風も背景に、自然自然と広まっていった場面に今の段階で立ち会えたのを幸せに思う。







プロジェクト設計やファイナンス的な話はまとめられれば改めて。
 
追記:
こちらでも紹介したのですが、本ケース解析が日経MJで紹介されました。石鍋さん、ありがとうございました。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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