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マーケティングは変わろうとしているのか:『テレビCM崩壊』と『ブログスフィア』

2006/08/01 18:08
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プロフィール

渡辺聡

インターネット/IT分野で事業開発に携わる渡辺聡さんが、注目ニュースなどを題材に、そのニュースの背後にある本質的な変化とその先行きを、経済や社会との関わりの中で考えていきます。
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随分前の本Blogでインタビューさせていただいた、著名BlogであるAd Innovatorの主である織田さん監修でタイトルの書籍が翻訳された。ちなみに、『アルファブロガー』のインタビュー役も私だったりと妙なところで縁がある。
 
テレビCM崩壊』とはまた関係者にとってみればショッキングなタイトルなことである。監修の言葉にもあるが、この日本語タイトルは敢えて意図を明確化するために選ばれたということで、原題は『Life After the 30-Second Spot』となっている。意図は同じ。どう表現するかの違い程度となる。
 
最近、メディアとマーケティング絡みのテーマに良くぶつかる。手にとって買っている資料も割と周辺のものが多い。専門分野となる情報系の資料と合わせて大量の本が仕事机の脇に積まれており、仕事資料でもあるので、案件の締め切りと合わせて物量的なプレッシャーを与えてくる。ソファにもたれかかって、リーンバックの上でテレビをゆっくり楽しむという時間はなかなか取れない。ニュースも手早くポイントだけ見てしまうし、テレビCMどころかという見事に本書に出てくる消費者像を地で行く状況にある。
 
本書は
 ・問題の認識(テレビCMって危ないよ)
 ・解決策のフレーム(消費者や業界のことを見直してみよう)
 ・具体的なアプローチ(10個まとめてみる)
という形を取られているが、解決策をどうしようかというのを軽く脇に置くと、

もともとマス・マーケティングは、産業革命から生まれた大量生産・大量消費(ヘンリー・フォードによって築かれたフォードシステム)のためのものだ。現在、我々は情報革命の真っ只中にいるはずだ。情報が社会を左右する今もなぜか、マーケティングや広告の手法は一向に革命がみられない。需要側である消費者は後戻りすることが出来ないほど変わってしまったのに、供給側であるマーケティングと広告は変わっていない。このギャップは埋めなければならない。

というところにメッセージは集約される。あるいは、更に集約して目次にも出されている「問題の根本はテレビにあることに気付いてほしい」という一文でも良い。
 
 
広告は変わった(らしい)、ではマーケティングは?
 
著者の主張は、広告は変わったのだから広告手法も広告業界も変わるべきだというところとなる。この手の変革を促すメッセージは度々出されており、以前はネットバブルの頃にも似たような話が出ていた。もう一歩遡ると、統合マーケティングのフレームにたどり着くので、そういう意味では『統合マーケティング戦略論』のドン・シュルツがコメントしているのも良く分かる。
 
しかし、最近気になっているのは、マーケティングはどうなのだ?というところにある。難しい説明をする必要は無いと思うが、広告(あるいはプロモーション)とマーケティングは一部重複しているが違うものとなる。あるいは、広告とはマーケティングの一機能となる。
 
広告には意味が無いというつもりはない。また、マスコミュニケーションにもマス媒体にも価値は無いと無条件にいうつもりもない。広告という範囲で捉えるよりも、マーケティング全体的な動きとして捉えた方が理解が楽になるのではという話を各所で繰り広げている。手前味噌にはなるが、先日取り纏めた『マーケティング2.0』もこの問題意識を軸にしている。
 
 
入れ子構造
 
広告とマーケティングの話をもう少し掘り下げてみたい。『テレビCM崩壊』の目次を参照すると(テレビCMを取り扱った項と合わせてこちらよりダウンロードできる)、第三部の「10の新しいアプローチ」で出されているテーマは以下のようになっている。

11 インターネット
12 ゲーム
13 オンデマンド視聴
14 体験型マーケティング
15 長編コンテンツ
16 コミュニティ・マーケティング
17 消費者作成コンテンツ
18 検索
19 Mで始まるマーケティングツール
20 ブランデッド・エンターテイメント

いろんな方のいろんなリストを見てきたが、このリストは良く出来たもののひとつだろうと思える。特に、ゲームが入っていることと、簡便ではあるもののデバイスの話が混じっているのはあまり見ない。
 
このリストを眺めて分かるのは、製販分離が前提となっていることである。しかし、ユーザーコミュニケーションの頻度と濃さが高まること、ユーザーイノベーションの視点が捨て置けないものであることを踏まえると、広義のプロモーションの範囲だけ考えを進めるのが適切だと言えるだろうか。
 
というところから、『ブログスフィア』で掲載されているマイクロソフトのチャンネル9のケースについて簡単に触れたい。ちなみに、この資料は原題が「Naked Conversations」となっている。これは邦題が惜しい。エッセンス情報を落としてしまっている。
 
マイクロソフトのケースは、従業員による映像付きBlogの導入となり、上記の10のアプローチとは少し趣が異なる。敢えて分類するなら、11のインターネット16のコミュニティマーケティングの組み合わせだろうか。チャンネル9というユーザーコミュニケーションサイトがマイクロソフト社内で立ち上がるのとはまた別に、主メンバーであるロバート・スコーブルは一人のBloggerとして名が通っており、マイクロソフトの製品の良くないところ、これからやろうとしていることをフランクに取り扱い、競合の製品でも良いところは素直に評価するといった過去の典型的なマイクロソフトのイメージ「悪の帝国」の従業員とは思えないような発言を繰り返してきていた。
 
実際にサイトを見たことのある方はご存知と思うが、チャンネル9でやっているのは自分たちが今何をやっているのかを素直に綴った、いわゆるBlogである。スコーブル本人達がカメラを持って社内を歩き回り、エンジニアにどういうプロダクトに関わっているか、どのような問題に取り組んでいるのかを聞いてついでにちょっとしたデモを見せて貰ったり、何で困っているかまでも語ってもらう。また、一方的に見るだけではなく、コメントを送ることも出来、コメントへも反応が返ってくる。会社内の動きを個人の目線と語り口で伝えている。
 
こう書くと特に変わったことはない、上手く行ったBlogの成功事例である。しかし、ソフトウェアプロダクトだから出来る面があるかもしれないが、実際作っているものや課題を一部ユーザーと共有し、なぜ自分たちがある方向に進もうとしているかについて語り、違うと思ったことには違うと言い、良いと思ったことはすぐにではないかもしれないが取り込もうとする。製販の完全な切り分けは行われていない。既にあるものを何らかの方法で消費者に届け伝えるという形をチャンネル9は志向していない。
 
2冊を比べてどちらが優れているといった風なことを言いたい訳ではない。ある一連のテーマの部分部分をそれぞれが語っていると受け取るのが正しい。しかし、『テレビCM崩壊』では部分にあたるところを取り扱っている『ブログスフィア』の方が全体性をもったテーマを取り扱っているようにも見えるところが両者入れ子になっていて面白い。
 
スコーブルは広告の専門家ではなく、厳密には広告について語っているものではない。自分たちがやったことと類似事例を整理してまとめてみせている類の本となる。教訓めいたものやセオリーもまとめられているが、これらも同じく経験を体系化させたものになる。彼のメッセージからエッセンスを引くと、

どんな革命にも、犠牲者がつきものだ。この場合は、一方通行で指揮統制型のブロードキャスト・マーケティングに胡坐をかく今日のマーケティング関係者たちが、犠牲者の筆頭になる。彼らはきっと、家に帰って家族に、テレビ広告やジャンク・メール、バナー広告についてどう思うか、聞いてみるべきなのだ。彼らに将来はない。マーケティングそのものが消滅する運命にあるとは思わない。そのブロードキャストな側面に明日はないといいたいだけだ。つまり、「話すのは我々だ。君たちは聞きなさい」といわんばかりのやり方は、もうおしまいなのだ。

というところになるだろう(本箇所はDESIGN IT! w/LOVEでも同様に引用されている)。
 
 
というような話をしていると度々聞かれること
 
「では、私たちはネットのマーケティング予算を増やし、2.0と呼ばれる流れに飛び込んでいけば良いのか。全社的にBlogを始めれば良いのか。」という問いが自然と出てくるだろう。この問いは一部にはYesだが答えの全てではない。
 
実務レベルで嘘やごまかし無く答えるなら、いまだと「では、ビジネスシステムがどうなっているのか一度洗い出してみましょう」と答えるのが一番フェアに思える。表面上ネットを取り入れました、2.0的なサイト設計を取り入れてみましたという部分の話は単体ではさして意味がない。ウェブサイトの話にしても、すぐに組織とビジネスモデルの問題が出てくるのと、結局はそこまで手を入れて動き方を変えないと目一杯の効果を引き出せそうにない場合がある。というところで、一見回り道に見えるが、仕事の仕組み全般をチェックするところを先に置き、ネットにしてもシステムにしてもその後というのが一番すっきりと進められる。
 
そういう時、『テレビCM崩壊』のような良くまとまったマップがあると助かるというのが現場で苦労している身から言いたいことでもある。
 

 
そして、これも単体の話として深めたいところだが、本編に入る前に「アイデアは無料ではない」とこっそり記されているあたりには強く賛同したい。話が脱線するので深入りは避けるがこのあたりをどうクリアするかは悩ましいところである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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