2,000年の悪夢を越えた米国ハイテク産業は大きくターンアラウンドを果たしつつある。企業業績や株価も持ち直したセクターが多く、メディアでの報道姿勢も様変わりしてきた。また、日本もネットバブルの象徴的に扱われたYahooの株価1億円も分割後の調整を追えると今同額ぐらいであり、Valuationの問題を別とすると別のステージに移行しつつある感触も受ける。
実際のところどうなのか。ピーク時に事業会社の側から、波が過ぎた現在はキャピタリストとしてビジネスの現場を見つめている池上重輔氏を訪ねた。
キャリアをざっとまとめると、
ボストン・コンサルティング・グループ、 マスターフーズ株式会社(ペティグリーチャム,カルカンのブランドマネージャー)、GE(英国法人にてプロダクトマネージャー)、ソフトバンク・ECホールディングス株式会社(新規事業統括部のディレクター)、ニッセイ・キャピタル株式会社(チーフ・ベンチャーキャピタリスト)。
同じく学歴は、
早稲田大学商学部、英国国立ケント大学大学院(国際関係学科修士)、英国国立シェフィールド大学大学院(国際政治学科修士)、英国国立ケンブリッジ大学(MBA、トップ3で卒業)
見事とはこのことである。
--ご無沙汰しています。経歴は大丈夫ですので、最近の動きで何か新しいところ、特にニッセイキャピタル以降のところを簡単にお願いします。
ニッセイキャピタルでの自分が担当した直接投資社数は10社。うち、役員として一社。グロービスで講師をしているのは知ってると思うけれども、他にもベンチャーキャピタリストの育成講座の講師を受けたり、去年は5冊本を出したりと社外活動が増えた。
--ウェブでニッセイキャピタルの投資実績を拝見していると、上場率の高さが目に付きます。組織として、バックエンドのオペレーションが長けているなど何か特徴的なところはあるのでしょうか?
レイター・ステージの良い案件に投資できる機会が多いことと、日本生命のブランドの影響ではないだろうか。キャピタルとして特別なことや秘密があるというのではないと思う。
--ソフトバンクでの事業開発の現場にいた頃と、今のキャピタルの仕事は役割として逆になるわけですが、移ってから見えてきたこと、感じる違いなどありますか。
何もかもが違う。お金を貰う側と渡す側のロジックでは真逆になる。例えば、資本の形態でも産業資本というのは、資金を投じる時に何がしか付加価値をつけようとする意識がある。金融資本の基本発想はアービトラージ。体を動かさないで済むのならそれでよしとする価値観が根底にある。VCも産業資本寄りなところはあるけれども結局は後者。
違いというのは、例えば話す順番でも違って、VCの側は基本的に投資額、期間、リターン、リスクというこの四項目、端的に言うと’どのくらい儲かるか’を見る。どのような事業か、どの程度出来るのか、なぜ成功すると言えるのかなどの説明は副次的なものとなる。ソフトバンク時代だと、まずあったのが、事業としてどのくらい面白いか、意味があるのかという視点。孫さんを見ていても感じると思うけれども、世の中にどのようなインパクトを生むのかというところが参入の判断としてある。
この両者の違いは実は決定的で、例えば資本の収益率といった同一のツールを使って話しているようでもコンテクストが全く違って実は全くもって両者でコミュニケーションが成立していないことがある。なまじ同じようなことを話しているかのような気分になってしまっているとしたらそれはどちらにとっても不幸なことで、お互いに違う世界の人だという前提で話をするくらいで実はいいのかもしれない。
個人としての違いで言うと、プレイヤーとしての役割は前が圧倒的にあった。ソフトバンクは動きのダイナミックな会社で、しかも最後は個人の力に集約されてくるため出来ることは大きく面白い。(世の中に対しての)インパクト感も必然出てくる。影響の大きさというところで言うと、今も決して小さくはないが、やはり違う。
それから、ベンチャーの成長過程を幾つも見てきて最近気づいたのは、バランスのいい成長というのは無いものだということ。新しいことを始め、何か挑戦するというのは自然といびつな方向に向かうことになる。まず、これをやりたいというWhatで会社が引っ張られていく。細々としたことは気にしない。この段階で企業は大きく成長する。しかし、成長が進むと効率の悪い部分が足を引っ張るようになってHowの出番となり内部を整えるフェーズに入る。ここで企業の成長は止まり、どーんと落ち込む。落ち込んで中身がある程度出来てきたところで、再度何かを目指して走り始める。ファンクションとして両方必要だが、成長過程は必然ジグザクになる。
--バランスが良くて成功している企業とかあるのでしょうか。
バランスのいい企業はあるけど、そういうところって大きくなれないよね。昔のソニーやホンダで良くパートナーシップでバランスが良かったという話がされるけれども、あれも実はジグザグだったんじゃないだろうか。
--バブル崩壊後に日米ともにハイテク・インターネットセクターが復調の傾向を示していますが、今の状況をどのように見ますか。
確かに、環境は良くなってきている。インフラが整ってきた。例えば、日本でも接続環境は過半の家庭にあるし、その内半分はブロードバンドになっている。決済なども揃ってきている。ようやく、ネットが本格的に普及しようとしている、本気で産業としてビジネスとして考えていい時期に来ているのではないか。思い返せば、バブルの頃は勢いに乗ってあちこちでたくさん会社が作られたけれども、インフラが整っていなかった。
これからネットがまた面白いというのは確かだと思う。ただ、この時にベンチャーが伸びるかというと必ずしも層とは限らなくて既存の大企業が上手くウェブの力をビジネスに取り入れていくという展開かもしれない。どちらにせよ、上手くビジネスの中に取り入れていく動きは出てくるだろう。
--日本のベンチャーの世界を見ていて思うのが、EXITとしてのバイアウト(事業を別の会社に買ってもらう、M&A)が少ないなというところです。ベンチャーが出てくる上での一つボトルネックになっているという指摘があります。また、イノベーションが小規模企業から起こる米国型にシフトすべきではないだろうかという意見も耳にしますが、何か現場で感じてますでしょうか。
最近は事業売却も出てきて投資ファンドも作られたりと流れが変わってきているところはあるが、企業を売ることへの罪悪感があるのではないか。買われた方も買われた後にドライに新しい会社に混ざりにくい。買う方も買う方でM&A後のエグゼキューションのノウハウも確立されておらず投資に見合うだけのものを得られるのかはっきりしない。
ベンチャーというか、日本の企業社会という枠で最近考えていることがあって、日本の会社はなかなか変わらないのだということ。大手でも変わろうとして変わりきれなかったところ、中堅でも小さくまとまってしまっているところが結構ある。右肩上がりの成長が本当にいいことなのか、という議論は脇に置くとしても、とりあえず変わるということはあまり実現されていない。
状況は様々でも、上の変わろうとする意識と組織の下のギャップが大きく埋まっていない。下が「それなら俺たちも変わろう」と思えるだけの態度とメッセージを伝え、責任なりを果たせているかどうか、感受性のギャップがネックになっているのではないか。
過去50年「暮らしを豊かにしよう」という発想で走ってきていた。結果豊かになったが、今同じ事業目的で走ろうとすると矛盾を起こしてしまう。豊かになった人に何を届ければいいのか。また、現在売れている商品でも売れた後のインパクトにまで十分目が行き届いているのかがはっきりしないものがある。売れたことによるユーザーへの影響がどのようなものであり、文化形成にどのように影響するのかまで考慮せずに進めているビジネスはどのような意味があるのだろうか。これから50年どうするのか。これを真剣に考え始めてしまうと重い。投資先の企業も、成長し、普及した結果なるべく良い結果をもたらすだろうところを選定するようになるべく心がけている。
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話は尽きず、全てを終えられないうちに時間切れとなってしまった。インタビュー自体はハイテク産業論というところからやや広くなってしまったが、最前線からの貴重なメッセージの一つとして、下手に編集的なカットを行わずになるべくそのままの掲載とした。
流れ上本文に掲載しきれなかった、「問題の根っこを探っていくと最後は教育と躾に行き着いてしまう」、「(米国が無条件によいわけではないが)社会貢献への意識、お金を稼ぐことを比較的是としながらも稼いだ人が世の中全体に貢献しようするサイクルが出来ていること」、「携帯とpptで情報処理の速度は早まったが本当に意思決定の質は高まったのか、ネットが今無くなったとして心底困るというのは本当にあるのか」など、脇道のトピックもまた興味深かった。
ありがたいことに時々こうやって時間を割いて頂いているのだが、良く思うのが、こちらからのAddValueは本当にあるのだろうかということだ。本当の意味での恩返しの機会は今後も無く、池上さんなりの社会貢献というフレームの中で全てはまとまっていっているだけなのかもしれない。出来ないことを嘆いても仕方が無いので、せめてこうしてフェアな形で声を届けることを担いたい。
池上さん、お時間を割いていただきありがとう御座いました。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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