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Winny事件とP2Pの未来:アリエル・ネットワーク小松社長インタビュー

2004/05/27 00:47
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渡辺聡

インターネット/IT分野で事業開発に携わる渡辺聡さんが、注目ニュースなどを題材に、そのニュースの背後にある本質的な変化とその先行きを、経済や社会との関わりの中で考えていきます。
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Winny事件が起きて考えたのは、P2Pそのものがどこに行こうとしているのかということだった。メディアの報道を追っていてもは著作権や事件性の有無に集中してしまっており、技術としてどのような影響が出ているのかはなかなか見えてこない。

折りしもGoogleのプラットホーム「Google File System」が明らかになるなど、ウェブベースにコンピューティングの中心が移行していくのではないかという議論が盛んに交わされているところでもある。

このような状況下で、実用レベルのP2Pに何が起きているのか、今のコンピューティング環境の中でP2Pがどのような役割を果たしているのか、ビジネスの前線で何が起きているのか生の声を聞くべく、P2Pグループウェアのベンダーであるアリエルネットワークの小松社長を訪ねた。

代表取締役社長 小松 宏行 氏

--まず、背景から伺います。市場参入当時、つまり設立当時の事業機会の認識と今の認識に何か変化はありますか。

設立の経緯から順にまとめます。設立メンバーはロータスノーツに関わったメンバーで、2001年に創業されました。私は資金提供を行ってはいましたが、初期メンバーではなく後から加わっています。当時、日本ではサイボウズが生まれ、運用の軽さからノーツが負けていく状況を見ていました。同時に、P2P技術に注目が集まり始めた時期でもあり、ノーツで熟成していた技術をP2Pの体系に落としこんで現代版を作っていくことを意図して会社を作りました。狙っている市場で言うと、市場はサイボウズと似ていると言えます。

ご存知の通り、コンピューティングの歴史で分散技術が過去主流になったことはないことから技術的には挑戦課題でした。まずLAN内で動く動くプロダクトを作り、プロキシを越えてネットワークを意識せずに繋がるところまで発展を遂げてきています。正直なところ、Ver1は出来としてはまだまだ不十分でした。顧客ベースは仕上がりが良くなり、アリエル独自のフレームワークが出来て来たVer2から徐々に伸び始めて、現在15,000ベースくらいのユーザー数となっています。

--同時期にGrooveも出てきていますが、市場と狙いは違うのでしょうか。

Grooveはファイルの共有に初期力を注いで、離れた場所でも同時に作業が出来るような機能を提供していましたが、私たちはプロジェクトベースのコミュニケーションを元々狙っていたのでスタートは違うと言えます。しかし、最近は似たようなところに落ちてきていると感じています。

当初はサイボウズを意識してのスタートでしたが、最近、営業の現場だと、サイボウズよりも、Grooveと比較されることが多いです。元々、組織やネットワークに依存しない柔軟性の高い環境を提供することが目的であり、既存のグループウェアとは違うニーズを満たしていることから、乗り換えに限らず、グループウェア未導入のお客さんも少なくない。

Grooveは競合は競合ですが、まずは全体の認知が重要であり、ライバルとして競争しているよりも市場全体が伸びていくようにむしろ一緒頑張っていくパートナーのように思っています。

 
--現在までの市場をどのように捉えていますか。 

P2Pはナップスターを頂点に波が何度か来ていますが、話題になる割には、ビジネスアプリが出てきていないのが現状です。フリーのソフトばかりがメインだった。ナップスターをきっかけに、コンテンツ配信やグループウェアへの世に試みが為されるようになってきました。ある意味ビジネス化したとも言えますが、企業ではプロダクト名にも技術が出てこないようになってきて盛り上がりは欠けるようになり、フレームワークの登場の頃は逆風下だったと言えます。当時、P2Pを謳っていたソフトベンダーは他になく、キーワードとして前面に出していたのはイノベーター向けのマーケティングの狙いもある。

アーキテクチャーが特定のサーバーに依存しないピュアモデルにしたのは、後からサーバーを足すのは一応出来るが、サーバーを前提としたモデルからサーバーを外すのは難しいことからより拡張性を持てるようにからです。

--今、ウェブベースのコンピューティング環境に注目が集まっています。GoogleのGmail、IBMが月2ドルで発表したデスクトップ・アプリケーションのサービスなど象徴的なサービスも出つつあります。ローカルかウェブかという構図はここ何年かずっと問われていますが、その中でP2Pがどのような役割を果たすとお考えでしょうか。

まず、コンピューティングの歴史が中央処理と分散処理を行ったり来たりしているという大きな流れと合わせて、達成したいことそれぞれにサーバー側が得意なもの、クライアント側が得意なものとがそもそもあります。管理、時系列が大事なものや大量のデータを保存する場合はサーバー側の方が良いです。全体の管理は集中した方が楽になります。また、エクセルなどのスプレッドシート計算は手元ローカルの方が便利です。サーバー側が強くなる動きはありますが、大量のアクセスやトランザクションを捌くシステムを設計する時にはキャパ設計の難しいなどの欠点も持っています。

P2Pはネットワークの変更に強く、ダイナミックコミュニケーション、不定形データの取り扱いに向いています。元々個別要素技術の変化でインターネットを含めたアーキテクチャ全体が変化していくことから、どういう形に落ちるか全部予測することは難しいです。とはいえ、データはローカル、認証のみサーバーに置いてデータのやり取りについては、各自で行うことで負荷が軽減するなどは出てくるのではないでしょうか。

--ユーザーの利用用途によって使い分けられるようになっていくということでしょうか。

それぞれ向き不向きがあるので、用途に応じてP2Pも含めて採用技術を変えるハイブリッドな形に落ちていくのでは。会社としては、OSのようにP2Pのインフラを押さえることが目標です。これまでのOSは個別のマシンを前提としてそこにネットワークの機能が加えられたものでしたが、ネットワークを前提とした、コンピューティングのベースを提供していくことを目指しています。近いところでは企業間でのやりとりのニーズに、柔軟性の高いネットワークを提供することで応えていくこと。

気になるのは、無線技術を考えると、ネットワークに常に繋がっていることが世の中で普通になってきていることです。ネットワークの柔軟な管理を可能にするという点ではぶつかっているところと言えます。

--現在の話に絡めて、今の環境要因としてWinny事件があります。事件後ビジネス上の問題が起きていますか、また、P2Pのコミュニティ全体への影響は感じられますか。

コメントを述べる等でコミュニティからの離反を招くリスクは負う訳にも行かず、会社としての意見は難しいのであくまで個人的な感想となりますが、事件となったことは残念です。技術的課題に向かうべきところを技術以外で解決しようという動きになったことで、例えばP2Pに限らずコンテンツ管理技術などの発展を阻害する可能性を持っていると考えています。

短期の経営的には大きく問題となってはいません。焦点となっている匿名性については、プロダクトでは匿名ユーザーは存在しない仕組みとなっていますし、お客さんもその点を理解していることから動揺が起きているということはありません。

話として微妙なのは、用語にだけ反応して予断を持って反応される場合です。社名とP2Pというキーワードのみで一緒のものとして問い合わせが来るケースはあります。業界全体で言うと、P2P技術へのコミットが失われてしまう可能性はあります。例えば、研究所でP2P技術を利用したアプリケーションをインストールすることを禁じたケースが過去にありましたが、同様な展開になると技術開発の流れが弱まることになります。P2Pの研究者、コミュニティ側での動きは特に感じられません。
 
立件されるかどうかは判断の難しいところですが、結果の如何に関わらずその後の本人へのサポートによってP2Pへの評価が決まると言えます。どっちに転ぶかは現時点ではなんとも言えず、状況としては揺れているところではないでしょうか。

今回の事件の根っこには、著作権管理技術が未成熟であることと、コンテンツ提供側の不安があると考えています。P2Pプラットホームを用いたとしても、利用者と利用履歴履歴の追跡が可能になることが普及するかしないかの条件だと言えます。

--情報家電、ネットワーク家電が普及するにつれて、家庭内で先ほどおっしゃった不定形なネットワークが出現しようとしていています。P2P技術はここで何か役割を果たせるものでしょうか。

P2PはDNSが無い仕組みです。機器の入れ替えが頻繁に起きる情報家電でネットワークの仕組みを上手く隠蔽するには、向いているところがあるかとは思います。
 
 
--世の中全体というか、インターネット全体がどのように進化していくとお考えでしょうか。

未来学のような話で、個人的な感想になるのですが、インターネット全体の影響はまだこれからだと考えています。個人からの情報発信が出てきたのは実質つい最近のことです。個人がネットワークの力を得てから時間がないので、スプレッドシートの普及により個人が力を得たような動きがこれから起こるのではないかと考えています。

--ローカルに向かう力が強いのか、セントラルに向かう力のどちらの力を感じますか。

一箇所に集めると管理がしやすく、分析もしやすいことから、一旦セントラルに向かうのではないでしょうか。

 
--個人の発信力が高まり、分散的にデータが増殖していくところで整理するのはどのような方法があるでしょうか。
 
数学的には、全体の構造が類似な場合、一部が理解できれば全体も同時に理解出来るというモデルがあります。ウェブ全体を取り込んで中央集権的に集中管理せずとも、個人周辺のネットワーク構造が分かれば、全体も類推して適切なナビゲーションが行えるといったことももしかしたら可能になっていくかもしれません。

--最後に、ライフワークとまでは行かなくていいですが、個人として何か目標はありますか

自分の持ち家と家族が海の向こう、シリコンバレーなのでいずれは帰りたい。出来れば帰る際には日本発の技術を持って行きたい。そんなことを言いながらまた日本市場へのソフトの輸入屋さんをやっているのかもしれませんが(笑)

〜〜
インタビューを終えて:

小松社長はラフな格好で現れた。挨拶もそこそこにといった感じでいきなり本題に入り、終わりまであっという間の時間だった。技術畑を歩んできたことが経歴だけでなく、話し振りからも伺える。将来を見据えつつ現場から直接発せられる洞察はやはり面白い。

分散と統合という歴史に照らし合わせると、P2Pは分散の極に位置づけられる。PCベースで発展してきたネットワークが家電から車までを巻きこんで拡張すしようとするなか、拡張したネットワークを上手く統合する仕組みが出てきていないのが現状である。インタビュー中、ネットワークの柔軟性というのがキーワードとして何度も出てきた。中央管理が必要なく、末端での機器の追加が手軽に行えることは運用維持の手間を大きく下げることが出来る。ソフトに収まるのか、それとももっと進んでハードウェアに収まるのか先は読めないがネットワークを巧みに隠蔽することは今後の技術課題である。末端の機器間で大量のデータをやり取りすることが日常となった場合、P2Pは舞台の中心で大きな役割を果たすことになるのかもしれない。

小松社長、突然の申し出にご対応頂きありがとうございました。またいつかお邪魔します。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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