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4人のゲストブロガーの皆さん、計14回、本当にどうもありがとうございました。
さてその中で、伊藤さんと吉岡さんの文章の中に「高速道路」という比喩が出てきました。
伊藤さんの「インターネット時代のエンジニアの価値」では、
「先日梅田さんにお会いしたときに「(人の成長に影響を与えるものとしての)インターネットは、高速道路だ」と仰っていました。プログラムのソースコードのように、「ネットワーク上を伝播することが可能な物」がナレッジの基礎となるような分野においては、その道のプロになるための高速道路が敷かれているのが昨今の状況なのです。」
「プロになるための高速道路が整備されたということは何を意味するでしょうか。それは、エンジニアの相対価値の低下を意味します。これまでその道のプロだとして希少性をもって価値を発揮していた人々は、後続の高速道路乗りたちにあっという間に追いつかれてしまいます。そこから先はもう大混雑。数歩先に抜きん出るのも大変な状況です。」
「対外的な交渉能力や管理能力などのメタな知識を除いた、いわゆる技術に関しての能力という意味では、高速道路の登場により各個人間での差がどんどん縮まってきているのが今の状況なのです。」
というふうに。また、吉岡さんの「スパコン開発にもコモディティ化の波」では、
「梅田望夫流に言えば「高速道路」が整備されたおかげでスーパーコンピュータ製作という敷居が劇的に下ったということか。」
というふうに。
「高速道路」のオリジナルは将棋の羽生善治さん
今日は、この比喩としての「高速道路」ということについて、補足しておきたいと思う。
11月の東京出張中に、高林さんは残念ながら海外出張中で欠席だったが、今回ゲストをお願いした宮川さん、伊藤さん、吉岡さんと、CNET Japanの山岸編集長らも交えて、あれこれと話をする機会を得た。そのときに話題になったのが、この「高速道路」という比喩だったのだ。
ただ実はこの「高速道路」の比喩は僕のオリジナルではなく、将棋の羽生善治さんに教わったことだった。
東京で久しぶりに羽生さんと食事をしていたとき、ごくごく自然に「ITやインターネットが将棋に及ぼす影響」へと話題が展開していった(今日ここでその話の内容について書くことは、羽生さんの了解をいただいた。念のため)。
ITの進化とインターネットの普及で変わる将棋
この10年のITの進化とインターネットの普及によって将棋の世界の何がいちばん変わったか。
羽生さんは簡潔にこう言った。
「将棋が強くなるための高速道路が一気に敷かれたということだと思います。でも、その高速道路を走り切ったところで大渋滞が起きています」
羽生さんは1970年生まれの34歳。彼は15歳のときにプロになった。彼の修行時代たる10代は1980年代にあたっている。1980年代といえば、IT化がそれ以前に比べれば少しは進んでいた時期。でも自分は、「IT化以前(特にインターネット以前)の環境で強くなった」というのが羽生さん自身の認識である。そして今の若い人たちの将棋の勉強の仕方は、自分たちの頃のやり方と全く違うと彼は言った。
本欄は将棋にあまり興味のない読者が大半だろうから、その話の詳細は割愛するが、要は「情報の整理のされ方と行き渡り具合の凄さ・迅速さ(序盤の定跡の整備、最先端の局面についての研究内容の瞬時の共有化、終盤のパターン化や計算方法の考え方など)」と「24時間365日、どこに住んでいようと、インターネット(例、将棋倶楽部24)を介して、強敵との対局機会を常に持つことができる」という2つの要素によって、将棋の勉強の仕方が全く変わってしまった。そしてそれによって、将棋の勉強に没頭しさえすれば、昔と比べて圧倒的に速いスピードで、かなりのレベルまで強くなることができるようになった。そこが将棋の世界で起きているいちばん大きな変化なのだ、と彼は言った。
アマチュア最高峰までの高速道路が整備された
僕は思わず、
「それで、かなりのレベルまで強くなるって、どのくらいのレベルのことをおっしゃっているんですか?」
と質問した。羽生さんの答えは、
「奨励会の二段くらいまででしょうか」
だった。制度的には、奨励会は三段までで、四段からプロ棋士になる。
ただ羽生さんの言う「奨励会の二段」の強さということをざっくりと解釈すれば、アマチュアならほぼ最高峰の強さ、現実の制度としてはプロ棋士の一歩手前、でも実際は弱いプロよりはかなり強い、そんなレベルの強さという意味である。
そのレベルまで強くなるための道具立ては、ITとインターネットによって整備された。
それを羽生さんは「高速道路が一気に敷かれた」と表現するのである。
「将棋の駒の動かし方すら知らない小学校高学年生が5年くらいでプロ棋士にまで駆け上がる」ということが将棋界では起きているそうなのだが、そのことは、天才・羽生善治をもってしても、
「自分たちの世代の感覚からすると、全く信じられないスピードなんです」
ということになる。
高速道路の後の大渋滞
つづいて僕は、
「でもそれで、そのあとの大渋滞って、どういうことなんですか?」
と問うた。
彼の答えは、言葉の表現までははっきりと覚えていないのだが、
「確かにそのレベルまでは一気に強くなれるのだが、そこまで到達した者たち同士の競争となると、勝ったり負けたりの状態になってしまい、そこから抜け出るのは難しい。一方、後ろからも高速道路を駆け抜けてくる連中が皆どんどん追いついてくるから、自然と大渋滞が起きる。最も効率のよい勉強の仕方、しかし同質の勉強の仕方で、皆が、高速道路をひた走ってくる。結果として、その一群は、確かに一つ前の世代の並のプロは追い抜いてしまう勢いなのだが、そうやって皆で到達したところで直面する大渋滞を抜け出すには、どうも全く別の要素が必要なようである」
ということであった。
なるほど最高峰の人が語る内容は深いなぁ、とその場で思ったばかりでなく、噛んでも噛んでも味が出てくる含蓄のある内容であったと、あとになって思う。
ネット産業にもあてはまる「高速道路と大渋滞」
羽生さんと別れたあと、僕はこの「高速道路と、その先の大渋滞」という話が、頭にこびりついて離れなくなった。
それで、ゲストブロガーの皆さんと会ったときに、この「高速道路と大渋滞」の話を、ネット産業の発展やエンジニアのキャリアに置き換えてもかなり共通点があるのではないか、というようなテーマを視点として提供したのだった。伊藤さんと吉岡さんが、それに反応してくださって、冒頭に引用した文章になったという経緯であった。
伊藤さんは、「インターネット時代のエンジニアの価値」の中で、プログラマにとっての「高速道路」の一例としてネット上に溢れるソースコードを挙げ、また、大渋滞を抜ける彼なりの戦略を語ってくれている。たいへん貴重な内容である。まだの方は是非、ご一読いただきたい。
吉岡さんが、「スパコン開発にもコモディティ化の波」で提示された、広島県立広島国泰寺高等学校のPCクラスタも、間違いなく「高速道路」の一例であろう。
何かを学ぶことにおいて「高速道路を走る」競争というのは、それをやり遂げる意思の強さを競うということなのかもしれない。意思さえあれば、かなりのところまで一気に行ける環境が整ったことが、「高速道路が敷かれた」ということの意味なのだろうからだ。
「大渋滞を抜ける」には
しかしその先の「大渋滞を抜ける」競争を抜けるためには、それだけではない、もっと違う何かが必要になる。
羽生さんと会って以来、僕は毎日、この「高速道路と、その先の大渋滞」の意味を考え続けている。
結局、羽生さんとの議論でも容易に言語化することができなかった「では大渋滞を抜けるためには何が必要なのか」ということについては、いずれ考えが深まって、いつかどこかに書ける日が来たらいいなと思う。ITやインターネットの意味を考えていく上で、ものすごく本質的な問題提起だと思うからだ。
JTPAセミナーと12月の更新のお知らせ
最後に、JTPA運営メンバーの大澤弘治、村山尚武両名が年末年始を日本で過ごすために帰国するのにあわせ、暮れも押し迫っての時期ではありますが、12月27日(月)夕、東京(早稲田大学学生会館)で第2回JTPAセミナーを開催します。詳細はJTPAサイトをご覧ください。また、第3回JTPAシリコンバレーツアー(2005年3月10-14日開催)の詳細も、まもなく同サイトで案内されますので、興味のある方はそちらもチェックしてください。
さて、12月は昨年同様、不定期更新とさせていただきます。ただ少なくとも週に一度は更新したいと思っています。
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