今日はMacromediaのCEOインタビューを題材にしよう。半年くらい前に、「従業員の満足度と企業経営の両立を図るAdobe」でAdobeのCEOインタビューをご紹介したが、同じWharton Schoolのサイトで、たぶんシリーズ企画なのだろうと思うが、MacromediaのCEOインタビュー(要無料登録)が掲載された。けっこう長いので、いくつかポイントだけを抜き出して読んでみよう。
CD-ROMからインターネットに転換したMacromedia
CD-ROM関連事業で伸びてきたMacromediaは、7-8年前に、現在のCEO、Robert Burgessを招き入れた。時はちょうどインターネット時代の幕開けの頃。
「Betsey and I joined Macromedia just as the CD-ROM industry was peaking out. And we started investing very heavily in the Internet. Products like Flash and Dreamweaver - and other brands - played a leading role in enabling people to make better experiences on the Internet.」
同社にとってはCD-ROMからの大転換期であったわけだが、インターネットへの重点投資で、製品領域という意味では、全く違う会社に生まれかわった。この十年を振り返って、彼は、
「But a lot of the things we were talking about at that time are happening now. It's just that people thought they were going to happen in a week, and software systems take a while to build.」
90年代後半に「言っていた」たくさんのことが、今になってようやく「起こりつつある」と言う。
これはシリコンバレーでネットバブルの生成から崩壊へ、そしていま再生過程を見続けている者にとっての共通認識であろう。彼は自社の観点から、それを「ソフトウェア・システムの構築には思ったよりも時間がかかった」という表現をしているが、90年代後半に「言っていた」ことが本当に「実現される」までに、色々な意味で「思ったよりも時間がかかった」という感覚は、誰もが抱く思いだと思う。
「Better experiences - having very powerful personal experiences on the Internet, aggregating a number of different media types. It takes time for systems to develop and for people to really understand what effective design is in this new medium. You're seeing all kinds of examples now of incredibly better experiences - and a lot of them are enabled by our technology.」
Macromediaの視点からすれば、「思ったよりもかかった時間」とは、ウェブというメディアのエンドユーザ経験の質を高めるためのソフトウェアが成熟するのにかかった時間なのであった。
転換のキモは「ビジョンに賭ける環境」
面白かったのは、質問者の「CD-ROMからインターネットへの転換を、現実にはいかにして果たしたのか」という問いに対する答えだった。
「You know, in truth, I would say my role was only in creating an environment where the people could bet on their vision. We all saw the Internet coming, and when I got here, when you talked to everybody they would all say, "The web is the future, the web is the future" and then they'd go back to making their CD-ROM tool. All Betsey and I did was to create an environment where they could actually bet on the vision that they had - and that was about the web.」
「the web is the future」とビジョンを口にしながらも日々CD-ROMベースの製品の開発をしていた当時のMacromediaの連中に、彼らのビジョンに本当に賭けることができる環境を用意しただけである。彼はこう語る。
後から振り返れば簡単なことでも、変化と同時代的にシンクロして新しい創造を行うのは、なかなか難しいことだ。こういう言葉を読むときに、常に現在の自分の問題に置き換えて考えると、その難しさがわかるはずだ。
本欄では、今という「時代の変わり目」に生まれているさまざまなビジョンやアイデアを、日々「考える題材」としてご紹介しているけれど、熱心な読者の人たちのかなり多くが、そういうたくさんのビジョンやアイデアに共通する「次の5-10年を形成する破壊的変化の本質」を、もう既に自覚されているのではないかと思う。でもその「破壊的変化の本質」を自覚していても、それを自らの環境にあてはめて、本当に行動に移せているかといえば、かなりの場合、答えはノーであろう。
「At the time we had 10 separate products. In the first six months, we stopped seven of those - they were all CD-ROM based projects. We converted all those resources into projects which were oriented around the Internet.」
彼がCEOに就任して6カ月の間に、10個の製品ラインの7個を止めて、リソースをぐっとインターネットに振り向けるという「行動」があってはじめて、
「[Flash] started as an animation engine. We left it as an animation engine for a while. And then over the last several years we have been investing very heavily to broaden the "platformness" of it. We started being able to run applications in it - we call them "rich Internet applications" - that combine multimedia as well as the ability to execute logic at the client-side. We have built a number of products around [this platform] and we intend for third parties to build products as well. There's an entire Flash ecosystem.」
という、今日のFlashを中核としたプラットフォーム、生態系構築という達成につながったわけである。iPodの成功においても議論したように、新カテゴリーを創出する場合、何事も「小さく」しか始まらないし、そのためには、時代遅れになりそうな「大きなもの」を止めなければならない。しかし未来は不確実である。さてどうする? というところが、5-10年先の「勝負の分かれ目」となる。
今後のカギはインターネットのこちら側
MacromediaはCD-ROM、インターネットという2つの大きな波に乗って成長してきた企業だが、3つ目は何かと問われて、
「Non-PCs - and it's the biggest of them all. It is all of these devices. Pick up any magazine today - filled with all the gadgets and TVs and DVDs.」
と答える。Non-PCの定義は、
「A lot of people are calling that the "mobile" market - including us - but it's so much more than mobile. It involves TV sets and DVDs and game machines and educational toys - as well as phones and PDAs.」
である。
以前、本欄で、日米の昨今のビジョンの違いについて、「インターネットのこちら側」に強い関心を抱く日本と、「インターネットのあちら側」に強い関心を抱くアメリカ、という対比で議論したことがあったけれど、Macromediaの「Non-PCs」は間違いなく前者、つまり日本的な視点であり、明らかに日本が先行する世界だ。インタビューの中ほどでも、ドコモとの関係や日本市場について言及している箇所があるが、「インターネットのこちら側」を「次の大きな波」と考えるアメリカ企業は、日本市場を重視せざるを得ない状況が少なくとも向こう数年は続くであろう。
最後に、ちょっと面白かったのはFlashの成功要因として、こんなことを話している箇所だった。
「What often happens with products that have small file sizes is that everybody thinks of a million other things that they can do, and very quickly the file size balloons, and you lose its essence. We had a great technologist, Jon Gay, and I remember hundreds of conversations where people would go to Jon and say, "What about this?" and "Add this" and "Add that" and he just said, "No." [laughs]」
詰め込むべき機能のアイデアに対して、テクノロジストのJon Gayがただひちすら「ノー」と言い続けたことがカギだったという話。共感される方も多いのではないかと思う。
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