こういうのをBlogって呼ぶのかねぇ、と思うような長い考察を書いているBlogに出会うことがある。今日はそんなものの1つをご紹介しよう。「Life with Alacrity」の「Tracing the Evolution of Social Software」である。
「The term 'social software', which is now used to define software that supports group interaction, has only become relatively popular within the last two or more years. However, the core ideas of social software itself enjoy a much longer history, running back to Vannevar Bush's ideas about 'memex' in 1945, and traveling through terms such as Augmentation, Groupware, and CSCW in the 1960s, 70s, 80s, and 90s.」
「ソーシャルソフトウェア」という言葉が、グループインタラクションをサポートするソフトウェアを定義する言葉として使われてからまだそれほど月日が経っていないけれど、「ソーシャルソフトウェア」の核になるアイデアは、1945年の「memex」以来、オーグメンテーションとかグループウェアとか、CSCW (Computer Supported Collaborative Work) という形で、追求されてきた。
ソーシャルソフトウェアにつながる60年の進化
こういう冒頭からわかるように、このBlog筆者Christopher Allenは、60年にわたるソーシャルソフトウェアの進化の歴史を長文で綴っている。そしてこのBlogの隠れたテーマは、ある事象に名前をつけることの意味や、つけられた名前が時代の流れの中で新しい名前に置き換えられなければならない時についての考察である。
「By examining the many terms used to describe today's 'social software' we can also explore the origins of social software itself, and see how there exists a very real life cycle concerning the use of technical terminology.」
今はソーシャルソフトウェアと称されることに対して過去に使われてきた数々の言葉を検証することで、ソーシャルソフトウェアの起源を探索しようともしている。なかなか複雑なBlogである。
そして普通は1つのBlogに章立てなどないのであるが、このエントリーは次のような章立てになっている。
第1章「1940s — Memex」、第2章「1960's — ARPA and Licklider」、第3章「1960s — Augmentation」、第4章「1970s — Office Automation」、第5章「1970s — Electronic Information Exchange System (EIES)」、第6章「1980s — Groupware (Part 1)」、第7章「1980s — Computer-Supported Collaborative (or sometimes Cooperative) Work (CSCW)」、第8章「1990's — Groupware (Part 2)」、第9章「1990s — Origin of Social Software」、第10章「2000s — Evolution of Social Software」、第11章「2000s — Changing Definitions of Social Software」、第12章「2010 — Future Thoughts on Social Software」。
これ全部で1つのBlogです。興味のある方は、好きなところから読んでください。
ビジョンの提示とキーワードの隆盛
第1章の「Memex」だが、Memexとは、1945年にVannevar Bushによって書かれた有名な論考の中でビジョンとして提示されたパーソナルコンピュータの原イメージのようなものである。この論文の中に既にハイパーテキストに近い概念も含まれているが、Memexという名は定着せずに時代は流れていく。
第3章で紹介されるのが、それから17年後の1962年、つまり今から42年前にDoug Engelbartによって書かれた「AUGMENTING HUMAN INTELLECT: A Conceptual Framework」という論文である。当時Doug EngelbartはSRIに勤めていたわけだが、このアイデアは結局、Tymshareという会社に売られてしまい、AugmentationというDougの考えは、Automationという凡庸な言葉に置き換わり、
「However, Englebart's work was ultimately sold by SRI to Tymshare, where they commercialized it under their newly formed "Office Automation Division". Thus it appears that term 'automation' won over the term 'augmentation', and Englebart's ideas of integrating psychology and organization development were lost.」
その後、OA(Office Automation)というキーワードが隆盛を誇るようになる。
「グループウェア」の定義
そして今でもよく使われているグループウェアという言葉が定義されるのは、1978年のこと。Doug Engelbartの論文から16年後のことだ。そのときのグループウェアの定義を、このBlogの筆者は高く評価している。
「They defined groupware as:
"intentional group processes plus software to support them."
I have long preferred this definition for two reasons -- first, the word intentional implies conscious design. Second, this definition also contains the important distinction that group processes come before the software.」
「計画的なグループプロセスとそれをサポートするソフトウェアのこと」という定義は、(1)「意識した設計が必要だ」という感じがあっていい、(2)プロセスがソフトウェアよりも先にありきだということが明示されているからいい、という2点で彼は評価する。
ただ、この時のグループウェアの定義では、
「I felt that this definition properly excluded multi-user databases and electronic mail that are not designed specifically to enhance the group process.」
トップダウンに設計されたプロセスとはいえない「multi-user databases」とe-mailは除外されている。それ以降の定義で、新しい現象が包含されていくようになる。
以降、時代はPC産業の隆盛に入り、グループウェアという言葉の本来の定義が、Lotus Notesをはじめとする商用製品を説明するマーケティングキャッチフレーズに変質して、何のことかよくわからない使われ方をしていってしまう流れが解説されている。
そして今使われるソーシャルソフトウェアという言葉は、1990年にはじめてUSENETの上で提案されたというが、10年間、細々と使われていたに過ぎなかったという。
ただ、1990年代後半のインターネットブームの時期についての言及がほとんどないのはなぜだろう。確かにあの狂騒期、あんまりこういう話はきちんと議論されていなかったような気もするが、ちょっとよくわからない。
Clay Shirkyによる「ソーシャルソフトウェア」の復活
そして2002年にソーシャルソフトウェアという言葉をコンファレンスの冠にして甦らせたClay Shirkyの話になる。Clayについては本欄でも何度かご紹介したことがあるが、彼がどういう意図でこの言葉を甦らせたのかについての詳細が書かれている。さらに本文中には、ソーシャルソフトウェアについてのさまざまな定義が出てくるので、原文をあたってみてください。
さてこの歴史を俯瞰した長文Blogに対しては、予想通り、たくさんのコメントとトラックバックがついていた。全部を精緻に読んだわけではないが、ざっと読んだ感じとしては、日本もアメリカもよく似ているなぁ、という感想を持った。
本欄に寄せられるコメントやトラックバックの中にも同じ傾向が認められるときがあるのだが、最近起きている事象を解説したり、面白がったり、その意味を考えたりするときに、その現象の新しさを少しでも過大評価すると(つまり全く新しい現象だという面を強調すると)、日本にもアメリカにも「怒る人」がいるということである。その「怒り方」というのは、「そんなものは別にインターネットが出てきたこの十年に始まった話ではない。パソコン通信のときから・・・」とか、「俺はもうずっと前からそういうことを考えてきたし、書いてきたのに、今頃になって何を言うか・・・」というような感じかな。
たとえばこのChristopher AllenのBlogへの反応においては、過去からある事象に対して、ソーシャルソフトウェアなどという新しい名称をつけようとするClay Shirkyらの行為に対して、どうも嫌悪感を抱く人がいるようなのである。
新しいキーワードの持つ意味
まぁその気持ちは確かにとてもよくわかる。ソーシャルソフトウェアと言ったって、このBlogに書かれているように、memexまで遡らなくても、この20年ほどだけでも、同種のコンセプトの周囲で膨大な営みが行われてきたわけだものな。そして過去に同じようなことを書いたり、考えたりした人はいるに決まっている。でも皆、そんなことは承知の上で新しいことについて書いたり、確信犯として新しい名前をつけようとしたりするのには、それなりの理由もあるのだ。
このBlogへのいくつかのトラックバックを読んでいて、ああそうそう、と思ったのが、「Social Software: What's New」というトラックバックだった。
「The question underlying Chris Allen's valuable essay on the history of social software is, why do we need a new term? Is there anything new going on, or there just a new generation of people discovering the same old thing, like each generation of teenagers discovers sex.」
本当に新しいことが起きているのだろうか? それとも、いつの時代もティーンエージャーがセックスを発見するのと同じように、新しい世代の連中が、昔と全く同じ事(the same old thing)を発見したつもりになっているだけじゃないの?
冒頭でこう問いかける。うまい書き方だ。
「People who've been pioneering online collaboration say that they've seen this all before: on Plato, in MUDs, on the Well, in Usenet, in academic writing for decades.
Is there anything new about what we're doing now? Chris Allen's question prompted some reflection. The answer, I think, is yes. And the measure of the answer is the internet and the web. 」
そしてその自問に対して、このトラックバックの筆者Adina Levinは、PlatoやMUDやWellなんかでずっとオンラインコラボレーションをやってきたパイオニアたちは、今話題になっていることを全部もう既に見てきたと言うだろう、でもじゃあ何も新しいことはないの? いや答えは「新しい」なのだ、インターネットとウェブゆえの「新しさ」なのだと、主張する。
インターネットがもたらす変化
つまり、仮にそれが過去にどこか限定的な環境で起きたのと同じような現象でも、広く多くの人々を巻き込み何事においても量が膨大だという性格やその他の新しい性格を持つインターネット上で起きているから、それが質的変化をもたらす。
彼は、「A network of networks: multi-scale design patterns」、「Addressibility」、「Loose coupling and social decoration」という3つのキーワードで、詳しく解説している。そして結論として、
「The internet and web embed powerful technical design patterns: a network of networks; addressible microcontent, loosely coupled services. These design patterns facilitate new social patterns: multi-scale social spaces, conversation discovery and groupforming, personal and social decoration and collaborative folk art.
There's a generation of innovation and experimentation that is new, that's going on around us, and that's worthy of a name.」
今起きている新しい現象には新しい名前が必要なのだとAdina Levinは言うのである。元のBlogが異常に長いので、こちらも書き出したら、何だか長くなってしまいましたね。詳しくは原文をどうぞ。ではまた明日。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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