最終更新時刻:2008年10月8日(水) 7時34分

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インターネットが埋もれた名作を掘り起こす

公開日時:
2004/10/18 09:10
著者:
umeda

いやぁ驚いた。何に驚いたのかと言えば、インターネットのもたらしてくれた意外で楽しい発見にである。何を大仰な、何をいまさら、と言うなかれ。それが理由で、僕はこの週末、けっこう嬉しい気分だったのである。

金曜日の本欄「欧州の個人が持つ力強さの源泉」で今北純一さんを紹介したときに、さらっとこう書いた。

「もう絶版になっているが、昭和58年(1983年)に今北さんが書いた「孤高の挑戦者たち」という処女作がある。彼がジュネーブのバッテル研究所で働いた経験をベースに、「真のプロフェッショナルとは何か」という問いを胸に、バッテル研究所のプロフェッショナル群像を描いた名著である。僕が20代後半で経営コンサルティング会社に就職したのは、この本を学生時代に読んだときの「ひりひりするような感動」を記憶していたからだった。」

心の底からすっと出た文章で、あんまり練って狙って書いた記憶はない。あとから考えれば、今北さんの本としては、文庫にもなった代表作「欧米・対決社会でのビジネス」を紹介するのが筋である。失礼ながら、20年以上前の「孤高の挑戦者たち」はあまり売れた本とは言えないし、大きな話題になった本ではなかったと記憶するからだ。

あまり売れなかった20年以上前の本への鋭い反応

でもこの「孤高の挑戦者たち」という言葉に、鋭く反応する人がいた。

まずは「未来のいつか/hyoshiokの日記」の吉岡弘隆さんのエントリーから。

「 孤高の挑戦者たち

 梅田望夫・英語で読むITトレンドで、今北純一が紹介されている。奥付をみると昭和58年2月25日。わたしがそれを読んだのは修士2年の春である。何度かの引越しの度に大量な書籍を処分してきたがその中で20年以上の歳月を越え生き延びた至高の一冊である。わたしの本棚の一番いい場所に鎮座している。

 とてつもない衝撃を受けた事を覚えている。プロフェッショナルというものの凄みを感じた覚えがある。すっかり黄ばんでしみもついた本を再び開いた。ところどころに書き込みがあり印象深かったページの耳は折れている。」

吉岡さんについては本欄で以前もご紹介したことがあるが、僕の高校時代の2年先輩で、今も親しい友人の1人。でも彼と「孤高の挑戦者たち」の話なんかしたことがなかったし、そもそも昭和58年(1983年)には彼との接点はもうなかった。彼と再会するのは、90年代後半、十数年ぶりにシリコンバレーの寿司屋で偶然会ったときだったからだ。でも、その長い音信不通の間に、同じ本を読んで、同じように「とてつもない衝撃」を受けて、以来その感動を大切にして生きてきたのか、この人も。そう思うと、改めて一気に彼への親近感が増したような嬉しい気分だ。

一方、全く知らない方、ぺーすケさんからもトラックバックをいただいた。

「その中で今北純一さんの著書「孤高の挑戦者たち」を紹介されているところがあったので、思わずトラックバックをさせていただきました。私がこの本を読んだのはちょうど大学4年で、卒業研究をするために研究生として宇宙科学研究所に行っていた時期です。梅田さんのおっしゃっているような「ひりひり」する感動もわかるような気がします。自分自身はコンサルタントになるとは思っていませんでしたが、この本に紹介されているような仕事はしてみたいと常々考えるようになりました。

この本で私が好きになった言葉は「ロコモティブ」です。なんのことかというと、

ロコモティブ研究員とは、自らのノルマを達成するに留まらず、顧客のニーズを先取りして、革新的なアイデアをベースに、グループの核になるプロジェクトを企画、成約、遂行する能力を実践で証明している研究員のことだ。

ということです。

このような人にも何人かお会いしたこともありましたが、残念ながら自分の今の組織ではまだあらわれていません。というか、このような攻めの仕事をすることそのものを認めていない風潮があります。そこを変えることがまず課題ということだと思いました。」

なんてのを読むと、同世代と思われる見ず知らずのぺーすケさんという人を、あぁこの人は信用できる人なんだろうな、なんて、何だかそんな気持ちになってくる。

忘れ去られたマイナーだけれど素晴らしい本。そういう本に強い思い入れを抱く人々のコミュニティというのは、とても強いものなんじゃないだろうか。ソーシャルネットワーキングやらBlogなどの新現象が、これから若い世代だけでなく、世代を越えて大きな広がりを見せていくのだとすれば、そういう新しいつながりがネット上に生まれる可能性は明らかで、それがちょっと楽しそうに思えたのだ。

「人と人との出会いを偶然だと言う人がいるけれど、御互いに何かを持っているから出会いがあります。個人が皆、何か総合的な信号を出している。そんな皆の信号の何を掴み取るかが、ある個人の選択だということです。一本の筋がどこかで通っていると、そのことは別のところで何か一本通している人には必ずわかるものです。」

という今北さんがこよなく愛する「ヨーロッパ的な在り様」が、これから案外ネット上で実現可能になってくるとすれば、またそれも面白い。若い世代が当たり前に使うツールが、世代を越えて使われるとき、全く新しい効果を生み出すことを期待したい。

Amazonがきっかけで旧作に脚光があたる

ところで、CNET Japan「情報化社会の航海図」の渡辺聡さんが、「インターネットは80対20の法則を越える」を書かれている。その中でテーマとなったVentureBlog「The Internet And the Death Of 80/20」は、もともとはWired誌の長文記事「The Long Tail」に刺激されて書かれたものだ。「孤高の挑戦者たち」への反応は、この記事「The Long Tail」冒頭のエピソードを思い出させてくれた。

「In 1988, a British mountain climber named Joe Simpson wrote a book called Touching the Void, a harrowing account of near death in the Peruvian Andes. It got good reviews but, only a modest success, it was soon forgotten. Then, a decade later, a strange thing happened. Jon Krakauer wrote Into Thin Air, another book about a mountain-climbing tragedy, which became a publishing sensation. Suddenly Touching the Void started to sell again.」

「Into Thin Air」(邦訳「空へ」)が書かれてベストセラーとなる10年前に、「Touching the Void」(邦訳「死のクレバス」)という本が書かれていたが、そこそこ売れたけれど忘れ去られてしまっていた。でも「Into Thin Air」の登場で再び売れ始めたという話。そして今は、「Touching the Void」のほうがずっと売れているという。映画にもなった。

「What happened? In short, Amazon.com recommendations. The online bookseller's software noted patterns in buying behavior and suggested that readers who liked Into Thin Air would also like Touching the Void. People took the suggestion, agreed wholeheartedly, wrote rhapsodic reviews. More sales, more algorithm-fueled recommendations, and the positive feedback loop kicked in.」

なぜそんなことが起こったのか。結局はAmazonの推薦ゆえだったのだ。Amazonのソフトウェアが、顧客の購買行動パターンに気づき、「Into Thin Air」の読者に「Touching the Void」を薦めるようになったのである。そして薦められて読んだ人々が熱狂的レビューを書き、云々かんぬん、ということでポジティブフィードバックがかかっていったというのが経緯だったらしい。

ぜひ「孤高の挑戦者たち」の復刊を

「孤高の挑戦者たち」(日本経済新聞社刊)は、時代的にあまりにも早く書かれすぎたゆえに、忘れ去られてしまった本である。今は学生がプロフェッショナルファームを自分のキャリアパスの選択肢に入れる時代だが、出版された当時はそんな機会はほぼ日本には存在していなかった。大企業内でプロフェッショナルとしてのキャリアを志向することも、今では当たり前になったけれど、当時はそんな感覚は薄かった。時代が流れ、プロフェッショナル論も多く書かれるようになったが、「孤高の挑戦者たち」を凌ぐ本にはまだお目にかかったことはない。間違いなく古典と呼んでいい本である。テクノロジーとビジネスの接点におけるプロフェッショナルを志す若い友人たちに、絶対読んでみてよ、と薦めたい1冊なのです。

是非どこかの出版社が文庫か何かにして復刊してもらえないでしょうか。絶版じゃあAmazonにもどうしようもないから。ダメ元を覚悟で、今日はそう書いておくことにしよう。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

3

「復刊ドットコム」について遅ればせながら今日はじめて気がつきました。まだまだ復刊までにはリクエストが足りません。私のようにトラックバックやコメントまではあまり読まない人も多いと思いますので、是非梅田さんの本文の中で触れていただければと思いますがいかがでしょうか?

  daichon on 2004/11/08

2

金曜日のエントリで「孤高の挑戦者たち」の話に出会い、軽いショックを受けておりましたが、コメントはこちらで.

わたくしは1984年から数年間、当のバテル・ジュネーヴ研究所と仕事をする機会を持ちました.全くの偶然で「孤高の挑戦者たち」を読んだ翌年、というタイミングでした.ジュネーヴの西隣に有ったバテルのキャンパスも二度訪れています.

今北さんの著書自体は、社会に出たばかりで、仕事をする喜びに浸っていた身にとっては、極めて刺激的ではあっても、そこから自身のキャリア形成の発想には繋げることはできませんでした.しかし、異文化の有能な人々と一緒に仕事をすることの喜びはきわめて大きく、以後一貫して社内外のパワーを結合するプロジェクトおよび組織に関与しているのは、「孤高の挑戦者たち」がもたらした感動がきっかけでバテルとのプロジェクトに勇んで志願した事が始まりだったのです.

プロジェクト自体は難産の後、およそ10年後に製品として結実し、以後不可欠な機能として今もその発展形が実装されつづけています.

  toru on 2004/10/18

1

「孤高の挑戦者たち」ぜひ読んでみたくなりましたので、「復刊ドットコム」(広く復刊希望のリクエストを受け付けて無料でリクエスト者のかわりに出版社に復刊の希望を伝えてくれるサイト)にリクエストしてみました。このコラムを読んだ人の復刊希望が集まって復刊の運びとなるとうれしいです。それとも日経の人が読んでいてあっさり復刊されてしまうかもしれませんね。

  ロープブレーク on 2004/10/18

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