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ある日本のベンチャー経営者の本音
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旧知の友人K君が、久しぶりにシリコンバレーに来たので、ゆっくり話をする機会があった。
彼は、シリコンバレーで経験を積んだあと、あるときに日本で起業する決心をして帰国したので、再会は5年ぶりくらいだったかな。とても楽しいひと時を過ごした。彼は立派な「日本のベンチャー経営者」になっていた。
「スーツとギーク」の絶妙な組み合わせによって成功するハイテク・ビジネスというのは成り立っているのだ、という話を本欄ではときどきしているが、そういう意味で言うと、間違いなく彼は「日本のスーツ」だ。本欄のギーク読者の方たちも、へぇ「スーツはこういうことを考えているのか」と参考にしてもらえればと思う。まぁ、スーツとギークは永遠に相容れない存在だが、それぞれ相手が何を考えているのかは知っておいたほうがいい。
K君はシリコンバレーのことも熟知しているし、現実にベンチャーを起こすというオンゴーイングの経験から日本の現実にも嫌というほど精通しているだけに、彼の日米ベンチャー比較論は最高に面白かった。実名や実際の数字をできるだけ排除し、彼に迷惑がかからない範囲で、彼から教わったことをここに再現してみたいと思う。
公開は日本の方が圧倒的に楽
彼の会社は順調に年商を伸ばし成長中だ。「日本だと、年商が10億円あって利益がそこそこ出ていれば公開できるから、うまくいけばあと1-2年でマザーズに公開できる。公開は圧倒的に日本が楽だ」と彼は言う。「アメリカがバブルだった90年代後半を除いては」という注釈つきであることは言うまでもない。
確かに、僕がこちらで共同経営しているファンドで、来年はめでたく第1号IPOが出そうなのだが、そのベンチャーの場合は2004年の年商が40億円くらい。成長率は四半期ごとに20%程度。公開のときにはだいたい50-60億円の年商となる。このあたりが公開の最低ラインだから、確かにK君の言う「公開は圧倒的に日本が楽だ」というのはその通りである。日本もここ5-6年で大変貌を遂げたわけである。
高い創業者の持ち分と借金の個人保証
日本には、ベンチャーキャピタルから資金を調達しない昔ながらのやり方で創業者が大半の株を保有する未公開企業も多いが、K君は日本のVCから資金調達をした。彼の持ち分は30%程度(50名の社員はわずかなオプションを持つだけ)。VCがマジョリティを持っているという。でも資金は潤沢だ。いま銀行に何億円もカネがある。
「だったら、個人保証で銀行から借金しなくていいからいいね」
そう僕が言ったら、彼は、
「いやあ、日本じゃ、そうもいかないんですよ。僕も1億円くらい、個人保証つきで銀行からカネを借りているんですよ」
と言う。
「カネが今要るっていうわけじゃないんです。だから確かに借金しなくてもいいんだ、もちろん。でも、シリコンバレーだと、カネが尽きてくるとまたVCから資金調達して云々というサイクルがかなり迅速に回るでしょう。また、カネが尽きてきて資金調達に時間がかかる場合には、いきなりレイオフして、資金調達できたらまたエンジニアを雇うでしょう。それがやっぱり日本じゃできないんですよ。その上、そこそこ事業がうまくいっていても運転資金が足りなくなるという状態が日本だと起きやすい。そのときに銀行から融資を受けられる仕組みを作っておかないと、やっていけないんですよ。それには社長が個人保証付きで借金をするのが手っ取り早い」
「でも、中でもいちばん大きな日米の違いは、日本のエンジニアのマインドセットですね。彼らはシリコンバレーのエンジニア連中みたいに、よくも悪くも、自立していない。カネのことには概して無頓着で株をたくさんよこせとか言わない。そこはいいんですけれどね(笑)。その代わり、このチームでずっと皆で一緒に働きたいとか、自分が大好きなこの技術に関わっていられれば幸せ、という人がほとんどだ。会社が少し悪くなったとき、自分がレイオフされたり、仲間がレイオフされるかもしれないという環境には、ついてこられない。それが、僕が借金をしたいちばん大きな理由なんですよ」
リスクを取りたがらない日本のエンジニア
彼の話をどこまで一般化できるのかわからないが、動いている現実の中のひとつの意見として、たいへん面白かった。僕は彼の話の先を早く聞きたくなった。
「もちろんIPOは素晴らしいとか、そういうことは日本のエンジニアも皆、理解しているんです。でもそれをカネに還元して考えない。充実感とちょっとのボーナスでいい。その代わり、リスクは社長が全部とってくれと。俺たちにはわからないから。そういう感じなんだな。これは日米の両方を経験してみないとなかなかわからない違いでした」
僕はこんな質問をした。
「でもさ。K君が個人保証で借金をしている。でもマジョリティはVCが持っている。理論的にはVCが社長を替えたいと思えば、社長を交代させられるよね。そんなとき、何が起こるの?」
K君は楽しそうにこう答えた。
「いや、そこがまた日本の面白いところなんですよ。VCが僕を替えたいと思いますよね。そうすると新社長を探すわけです。でも、銀行が、ちょっと待て、社長を替えるんなら、現社長がした借金の個人保証を、新しい社長に付け替えてくれ、と言ってくる。ベンチャーの社長に途中からなるのに、前の社長の個人保証を引き継ぎたい人なんかいないじゃないですか。だから新しい社長なんて、実際にはなかなか見つからないんですよ。VCがマジョリティを持っていたって、首になる心配はアメリカよりも少ない」
個人保証でクビにならない創業者
「VCは首にしたいのに、ダメな社長が、個人保証の借金をしているのを逆手にとってそれを強みにして居続けて、結果としてリビングデッド(生ける屍)になっている例なんか、日本にはけっこうたくさんあると思いますよ」
「シリコンバレーの友達たちからは、個人保証で借金なんかして、どうしてそんなバカなことするんだ、と皆に言われますけれど、日本だと、それさえしちゃえば、ものすごく創業者だけが強くなっちゃうというのが、現実にはあるんですよね。公開すれば個人保証は、はずれますしね。公開までがアメリカよりもうんと楽になりましたしね」
なるほどなぁ。日本の資金調達にまつわる風土の根っこの部分はあんまり変わっていないんだなぁ。そんなふうに思った。
日米の違いは優劣ではなくルールの違い
「日本とシリコンバレーとどっちがいいんだろうって、いつも考えますよ。でも、環境が違う、ルールが違うとしか言い様がないですね。好きなほうを選べばいいってことでしょう。日本っていうのは、やってみないと本当のルールがよくわからない、というのが欠点だけれど、ルールをだんだんに熟知していき、そのルールを最大限利用できれば、結構うまくやれるし、アメリカよりも楽に稼げます。たとえば皆、日本の大半のVCや大半の銀行がサラリーマン的でダメだ、みたいな話をするでしょう。でも、利用すればいいだけなんですよ。それが創業者の甲斐性です。銀行が言うことは、彼らが直近で与えられているノルマとか、そういうのとだけリンクしているから、あるときはもっとカネを借りてくれ、あるときは返せところころ変わる。でもそういう状況の全部を把握して、利用しようと思えば、こんなに簡単な世界はない、っていうのも事実なんですよ。だって相手はサラリーマンなんだから。まぁ一事が万事ですね。日本で起業するのもぜんぜん悪くないですよ。アメリカに比べて、勝ってしまいさえすれば、創業者にだけ圧倒的に有利なシステムが出来上がっていますからね」
むろん、この物語はK君の物語であって、他の日本ベンチャー創業者にはまた別の物語があろう。でも僕にはとても新鮮で、臨場感のある物語で、ものすごく勉強になった。
個人保証ではドライな冒険ができない
僕自身は、個人保証付きの借金をしてまで起業なんてしたくない。ビジネスと家庭生活はきっちりと分けたい。ビジネスの失敗が原因で、倒産前に離婚を余儀なくされたり(配偶者に借金が及ばないように)、その後の長い人生を借金抱えて生きていくなんていうのは絶対に嫌である。だから、そういうことなしで冒険できるシリコンバレー流が好きだ。
でも、K君が言うように、リスク・リターンに対する感性が違えば、そして個人保証付き借金というハードルを乗り越えられれば、日本が創業者にとって圧倒的に有利なシステムができているのも確かだ。
ただ、ひとつの会社の中に、個人保証付きの借金をしている人と、していない人が両方存在するというのも、創業者以外のコア社員にとっては結構きつい話で、最後の最後にはそういうリスクを取っている社長と、取っていないその他大勢、という構造になりやすい。よって、全員参加型のシリコンバレー的なドライな冒険にはなりにくい。日本で、創業社長の株式持分が、その他の社員に比べて圧倒的に大きい背景には、こんな事情もあるのだ。
創業者の持ち分が大きい背景は
先週金曜日の本欄「ベンチャービジネスとスモールビジネスの大きな違い」にいただいたFPNからのトラックバックの中で、
「 ちなみに、この記事を読んでちょっと前にネットエイジの西川さんが書いていた「米国ベンチャーの創業者シェア」という投稿を思い出した。
何でも米国のベンチャーは、IPOまでいく場合には創業者シェアが5%くらいになっているのが当たり前で、現実路線としてM&Aをイグジットとして狙う人が多いということだ。」
「 それに対し、日本の「ベンチャー」は経営者が51%以上持ったままでIPOするケースが多いという。
もちろんこれは会社の支配権を持ちつづけているという意味で凄いことだ。
でも、日本に有能な経営者が多いから、支配権を維持できているという話ではないと思う。
最初は「スモールビジネス」的アプローチだった企業が、結果的に成功してIPOまで辿り着いていることだろうか?
「自分の会社」という意識が強い日本人気質によるものだろうか?
それともVCによる投資やM&Aによるイグジットの少なさなどの環境の違いがこの数字を作っているのだろうか?
どうなんでしょう・・・?」
と書かれていた。この問いに答えるためには本を一冊くらいは書かなければならないだろうが、僕がもしそんな本を書くとすれば、今日ここでご紹介したK君の物語を冒頭に持ってきてみたいなぁ、なんて思いました。
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