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ITでしかできないことをリアルビジネスで実現するCapital One

2004/09/01 09:22
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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[ゲスト] 村山尚武 Naotake Murayama
8月26日(木)〜9月3日(金)までの間、梅田望夫さんの代わりに村山尚武さんがゲストブロガーとして登板します。村山さんはシリコンバレーのあるベンチャー企業でBusiness DevelopmentのDirectorを務められており、ご自身でも「Sotto Voce」というBlogを運営されています。村山さんの経歴についてはこちらをご覧下さい。

今日は昨日のエントリの延長線上にある話。

昨日はCIOというポジションがこれからは「ITを使い、リアルビジネスにおけるイノベーションを実現する」機能として経営上重要なものとなるという話を紹介したが、これは主に従来型の(IT業界に属さない)企業が「ITは業務自動化」というパラダイムから「ITを使って新しい事をやる」というパラダイムにシフトする過程、というコンテクストでの話であった。

ただし、世の中にはさらに進んでいて、創業時点から「ITを使ってしかできないこと」をリアルビジネスで実現することを目指して、それを実現しつづけている会社もある。昨日の話ではITの世界で活躍する際の選択肢として「(マッキンゼーいうところの)『新世代CIO』を目指す」というキャリアオプションを提示したが、実はその延長上にはこうした「ITの存在を前提とし、その活用を競争力の源泉とする」リアルビジネスの創業者となる、という可能性があるのではないか、と思う。

ITでしかできないことを極めたクレジットカード会社

さらに言えばその中にはネット系の「ITを基盤に既存産業のビジネスプロセス・バリューチェーンをとことん破壊する」タイプの企業(小売業におけるAmazon、eBay、広告・メディアにおけるGoogle)を創業というパターンもあれば、「既存産業のビジネスプロセス・バリューチェーンを最初からITを使ってとことんまで極め、既存プレーヤーには真似のできないことをする」タイプを創業する、という2つのアプローチがあるのかもしれない。

前者については主にテクノロジーサイドからさんざん議論されているのでここでは取り上げないが、今日はこの後者のタイプに属する企業を1つ取り上げたい。その企業とは、Capital Oneというクレジットカード会社である。

なんだ、また金融業界か、と思われるのは仕方が無いが、この会社とは同級生が何人も就職したり、コンサルティングのプロジェクトで調べたり、またその時一緒に働いたシニアコンサルタントがその後同社に転職したりと妙に縁があるため、何か書かれているとついつい読んでしまう、という対象であるのと、最近になってそうして「ついつい読んだ」中にFast Company誌に1999年に掲載された「This is a Marketing Revolution」という記事があったからである。

問い合わせや苦情の電話を新たな商品を売る機会に

だいぶ前の記事なのに「最近読んだ」というのは、最近読み始めたFast CompanyのRSSフィードでつい先日再紹介されていたためである。古い記事ではあるが、この会社のビジネスの本質をよく捉えたものなので、今日の目的には最も適っているため、ご紹介することにしたい。

まずは冒頭の一文から。

「The telephones at Capital One Financial Corp. ring more than one million times a week.(中略) And more than 1 million times a week, here's what happens -- before a caller hears the first ring:

The instant the last digit is punched, high-speed computers swing into action. Loaded with background information on one in seven U.S. households and with exhaustive data about how the company's millions of customers behave, the computers identify who is calling and predict the reason for the call. After reviewing 50 options for whom to notify, the computers pick the best option for each situation. (中略)They even predict what the caller might want to buy -- even though he or she isn't calling to buy anything -- and then they prepare the customer-service rep to sell that item, once the original reason for the call has been addressed.」

Capital OneのITシステムは、週100万件のカスタマーサービスからの電話を、架けて来たカードの持ち主の属性と取引状況、自社の発行したカードの持ち主全ての取引データ、家計などの人口動態データを組み合わせて、瞬時に「何の用件でかけてきたか」を判断して電話がつながるまでの(1/10秒で)に対応する体制を整えると共に、「ただの問い合わせ」や「苦情」の電話を保険や通販カタログなどの「新たなサービスを売る機会」に変えてしまうのである。

新商品開発とロールアウトの速さが競争力

これだけなら、ただの高速自動化であるが、この会社の凄みはこの裏にある、「徹底したユーザー理解と、大量のユーザー情報を解析する実験による新商品・サービス開発とその素早いロールアウト」を絶え間なく続ける能力にある。

「The real secret of Capital One's success, though, has been its commitment to endless innovation. Lots of companies claim that they compete on knowledge. Capital One has enough information on consumers to fill the hard drives of more than 200,000 personal computers. It uses that information much as a physicist uses a particle accelerator: Cap One analysts and product managers come up with an idea for a product, bounce the data a bit, test it, tweak it, and launch it as fast as possible. In other words, they use the scientific method to design credit cards.」

大量の顧客データを「物理学者が粒子加速器を使うように」実験に用い、クレジットカードやその付随サービスのアイディアを試し、良さそうだとなったらすぐに最も適切な顧客に対しそれを提供できるのである。

ITを使ったカスタマイゼーションで急成長

Capital Oneの創業は1994年だから、この記事が書かれた時点でまだ5年目の若い会社であったが、既にこの時点でクレジットカードの発行数では米国市場のトップ10にランクインし、大手・古参で強力な信用とブランドを有するCitiなどと肩を並べていたのである。それだけの実績を短期間で挙げられたのは、ユーザーのニーズにきめ細かく対応した「クレジットカードの少量多品種化」を実践したからであるが、そうしたビジネスモデルの採択は、創業者2人(これまた身内びいき的だが、スタンフォードのビジネススクールを卒業後、Signet Bankに入社し、そこで画期的なクレジットカード商品をいくつも開発してからSignetからカード部門ごと独立した「社内起業家」である)「ITを使えばこれまでに無かったマスカスタマイゼーションが可能だ」という洞察に由来する。

「"Credit cards aren't banking -- they're information," declares Rich Fairbank, 48, chairman and CEO, whose father is a physicist. "When we started this company, we saw two revolutionary opportunities: We could use scientific methodology to help us make decisions, and we could use information technology to help us provide mass customization."」

以上はその洞察を創業者の1人が語った言葉だが、昨日のエントリに書いたState Streetの人の発言とほぼ同じ発言をしているのが自分にとっては感動的であった。(それとも、同じ人に会っているのだろうか?)

「Last year, the company performed 28,000 experiments -- 28,000 tests of new products, new advertising approaches, new markets, new business models. As a result, it can deliver the right product, at the right price, to the right customer, at the right time. It offers 6,000 kinds of credit cards, each with slightly different terms, requirements, and benefits, and each requiring a slightly different monthly statement.」

上記によれば、年間に2万8000の新製品やサービス、新市場、新ビジネスモデルに関する実験を行い、その中から生き残ったものを実行しているのである。その結果、6000種類もの、それぞれ違う特徴を持つクレジットカードを発行している。「アイディアは数が勝負」とは言うものの、「出たアイディアを全て実験する」ということを可能にしているのは「自分のビジネスが情報産業である」「ITを使えば大量の情報処理ができる」「情報処理による実験を大量に行えば、新たな商品を矢継ぎ早に出せる」という哲学を持って、会社をその哲学の上に作った(後付けで事業の情報化を行うのでなく)ゆえであろう。

「For Fairbank and Morris, the credit-card business has been a grand experiment in using information technology to figure out what people want to buy and how Capital One can sell it to them. (中略) "I want us to become the place where people go to find anything they want to buy."」

創業者の2人からすれば、クレジットカード事業を行うことが目的だったのではなく、カード事業はITを使った「新たなマーケティング手法」を実現するための実験の場であったということである。

ITが強みではなく、ITの使い方を考えていることが強み

この「アイディア→即実験→売れるものの創出」を徹底して行うという哲学は組織内では徹底的に実践されている。冒頭に挙げたコールセンターシステムも、元々は「顧客からの電話をどう効率的にさばくか」という問題解決を出発点として、「ちょっと待て、これ、ITを使ったビジネスの新しいやり方につなげられないか?」という発想に転換され、それが「顧客と接する全ての機会を『何かを売る機会』にできないか?」という発想に結実したのである。

「"This started as such a simple problem," says Donehey, "but IT enabled us to go back to the business side with a solution that went beyond solving that problem. (中略)A lot of the stuff that really makes our technology work has nothing to do with technology -- it has to do with attitude."」

上の引用部分の後半(中略以降)を読めば、「Cpaital Oneは凄いITを持っているから強い」という評価でなく、「同社の強みは、ITを使ってどうイノベーションを行うか、を社員全員が常に考えている点にある」という評価こそが正しいのだと思う。昨日の話に絡めて言えば、Capital Oneは、社員全員が「新世代CIO」である、と言う事も可能であろう。「ITシステム」が競争力の源泉であればそれと同じものを作るか買うかすれば真似はできるかもしれないが、「哲学と発想力の浸透」という形のないものに根ざした競争優位というのは、真似のできないものなのである。

この記事が書かれてから5年が経過したが、Capital One、途中バブル崩壊の煽りを受けて株価が下落したり、ITとは全然関連のない引当金会計上の問題により一時的な業績悪化はあったようだが、米国クレジットカード業界の雄として、依然健在である(顧客数だけで当時の3倍近くなっているようだ)。

Capital Oneのシステム、ビジネスの仕組みにの詳細についてはこの記事に様々な例が紹介されているので、細かい話はそちらに譲りたいが、「経営哲学」と「ビジネスのやり方」が「情報・データ」という要素で不可分に繋がれた、何ともユニークな会社である。そのユニークさは、同社の入社面接時にも現れていて、インタビューの大部分は「こんなビジネスアイディアがあるけど、その妥当性を検証するにはどんな情報が必要で、どんな条件が揃えばビジネスとして成立すると思う?」といった話を、実際に「実験」を行っているマネジャー達と行う、というものだそうである。かように、自社の競争優位の源泉がどこにあって、それを維持し、発展させるために必要な人材はどのようなものか、がかっちりと定まっているのである。こうした「戦略からオペレーション、企業文化までの首尾一貫性」というのはアメリカの「凄い会社」に共通に見られる特徴だと思う。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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