マイクロソフトのCEO・バルマーがマイクロソフト全社員に宛てて出したメモが話題になっている。
ウォールストリートジャーナルが、このメモの全文を7月6日にネット上で公開したのだが、公開からほんのわずかの時間で、たぶんマイクロソフトからクレームがついたのだろう、ネットから消去された。「これは消えるかもしれないなぁ」と思ってコピーしておいたので、僕の手元にはその全文があるのだが、それを引用して解説するのはルール違反だろうから、今日はこのメモについて書かれた記事をいくつかご紹介することにしよう。
普通の会社になったマイクロソフト
ウォールストリートジャーナルの記事(要有料登録)の紹介文は、
「MICROSOFT'S CEO SENT employees a memo laying out $1 billion in cost cuts and what he promised would be stepped-up innovation to boost sales. Steve Ballmer's 4,900-word memo comes as the company is believed to be weighing radical action to address shareholder concerns.」
とある。
「Mr. Ballmer's message is the latest sign that Microsoft, high-technology's greatest success story, must cope with slower growth and other issues common to maturing companies.」
マイクロソフトというハイテク世界での大成功物語企業が、成熟企業に共通な「成長の鈍化」などの課題に対応しなければならないことを意味している。同社のコアイシューは次の5つの問い
「Will we be first with important innovations?」
「Will process excellence lead to greater ability to make an individual difference?」
「Will our focus on costs hurt employees personally and will it hinder new investments?」
「Will we grow and will our stock price rise?」
「Will the PC remain a vital tool, and will we remain a great company?」
であり、そのそれぞれに「YES」と答えつつも、本当に「YES」とするためには大きなハードルを越えなければならない、とバルマーは認める。この記事を読むと、マイクロソフトも普通の会社になってしまったのだな、と感慨深い。
有償のウォールストリートジャーナルではなく、無償で読めるマイクロソフト地元シアトルの新聞記事に移ろう。
内向きになるメッセージ
まずはシアトルタイムズ「Microsoft CEO tries to "rally the troops" in cost-conscious time」は、このメモにおける過去との違いについてこう指摘する。
「Previously, Ballmer and Chairman Bill Gates used the memos to change the company's course and tackle challenges such as computer security, customer satisfaction and the potential of the Internet. This year, Ballmer directed the memo inward. He explained changes that have been happening, acknowledged concerns, highlighted accomplishments and outlined priorities in the year ahead.」
ゲイツが1995年に、「インターネット軽視で出遅れてしまったけれど、これから本気でキャッチアップするぞ」と宣言したのも、同じ社員向けメモだった。しかしそういう「会社の方向性を変えるような戦略」についてではなく、コスト削減とか社員の報酬とか組織的課題といった内向きのことが、今年のこのメモの中心になっている。ここが、極めて重要である。
ウォールストリートジャーナルが並べた5つの問いの2つ目だけが少しわかりにくかったかもしれないが、その点については、
「"I had heard from a number of people that it was getting harder and harder that a single person could make a positive difference," said the executive, who asked not to be identified. "People were feeling more and more like a smaller piece of a bigger machine, which you might think is natural for a company that is growing."」
「The executive said it's a challenge for Ballmer because he has to create a culture that encourages new ideas, but he also has to have strong processes to run the sprawling company and to improve the quality of its software engineering.」
この文章を参考にするといい。大企業になればなるほど、個人は組織の歯車になっていく。大企業対ベンチャーが常態のハイテク産業では、個人のアイデアがものすごく大切であるにもかかわらずだ。バルマーは、個人の新しいアイデアを奨励するカルチャーと同時に、「強いプロセス」を作らなければならない。そこに挑戦がある。ということで、マイクロソフトは日本の大企業と全く共通の課題を抱えているわけ。Googleのような若い会社には、こういう悩みはない。もっともっと成長してから直面する課題なのである。
コストカットと資金の使い道
さて、シアトルポストインテリジェンサー紙の「Microsoft's Ballmer pushes cost savings」は、バルマーが宣言した10億ドルのコスト削減目標についてこう書く。
「He also expressed optimism about the company's prospects for growth, and he defended its effort to save nearly $1 billion in costs this fiscal year.
"Over the past three years, Microsoft has invested significantly and as a result our expenses have grown faster than revenues," he told the company's more than 56,000 employees. "This obviously is not a trend we can continue."」
バルマーは、売上の伸びよりも経費の伸びのほうが上回ったというここ数年のやや「たが」が緩んだ状態に、カツを入れようとしている。そして、この経費削減のかなりの部分が、社員の報酬に関わるカットになるという話だ。
また、産業界の皆が関心を持っているマイクロソフトが持つ莫大な現金については、
「Ballmer characterized Microsoft's more than $56 billion in cash as shareholders' money, saying that "we need to either invest in new opportunities or return it to them." He declined in the interview to outline the company's plan for the cash. Microsoft is expected to give new details on its plan later this month.」
と明言を避けた。560億ドル以上というから、現金が6兆円以上。半年少し前の「Googleを100億ドルで買おうとして断られた」という噂も、あながち嘘ではないほど莫大な資金が眠っている。これをどう投資するのか。それとも株主に還元するのか。バルマーは7月末までに何かを発表することになるはずだ。
マイクロソフトの現金については、少し前の英エコノミスト誌「Loadsamoney!」という記事もあわせてご参照ください。この記事はマイクロソフトがSAPを買収する交渉をした云々という話が出た頃に書かれたもので、この現金でSAPのような大企業を買収するのはあまり効果的ではないと書いている。
大企業病を克服しなくては
最後に、サンノゼマーキュリーニュース(AP配信)の「Microsoft must stay flexible, says Ballmer」は冒頭で、
「Microsoft Corp. needs to avoid "big company ills" if it wants to beat competitors and boost its long-stagnant stock price, chief executive Steve Ballmer told employees in an annual memo Tuesday.」
「In a Tuesday interview with The Associated Press, Ballmer said the world's largest software company cannot be run like the startup it once was. But he added, "We have to avoid becoming a certain kind of big, process-bound bureaucracy."」
「大企業病を克服しなければならない」「大企業の官僚化を避けなければならない」という部分を、バルマーの記事から引っ張り出している。
「Such flexibility is especially important as Microsoft goes up against companies like Apple Computer Inc., whose iPod music player has become a hit while Microsoft has lagged in online music distribution.」
アップルが引き合いに出されているが、1975年創業のマイクロソフトも、1976年創業のアップルも、同じように中年期を迎えているというのが真実だ。でも、いっときは追放された創業者ジョブズが舞い戻って異常に強いリーダーシップを発揮しているアップルは、中年期を迎えた企業の例外的存在と言えるのかもしれない。そしてそれは、マイクロソフトに比べ「紆余曲折があり過ぎたアップル」の苦い歴史の副産物なのだろうと思う。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
maki on 2004/07/11
いつも楽しく拝見させて頂いています。
先日のCNET主催のセミナーで、MicrosoftとGoogleの今後について質問させていただいた際に、梅田さんがきっぱりとMicrosoftの変化の理由について答えていたのが非常に印象的でしたが・・・
今回のこういったメモにも、それを裏付ける徴候が明らかに出てきているものですね。
大企業出身者としても、あのMicrosoftもこの穴に陥るのかどうか非常に興味深いです。
Tokuriki on 2004/07/09
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IT産業の変化は、スピードだけでなく、その情報量におかれても、われわれが従来に体験したことのなかったものだ。
多くの識者やメディアは、将来あるべき企業や業界の姿を模索し、時に示唆してくれる。
企業は『技術』や『サービス』を活用して、結果として数値に反映しなければならない。
ベンチャーは大抵、新種の技術がベースにあるだろう。
ところが、大企業の場合、そのビジネス・カバー範囲が広いために、市場アクションへの意思決定・判断が遅れるケースが出てくるからだ。
米国の大企業は、この施策としてベンチャー企業をM&Aによって自社組織にインプリメントしている。
さらに、社員の向かうべき方向性・意識を
ひとつのベクトルに収束するリーダーシップが必要とされる。
むしろ、バルマーCEOの今回の指摘は、
IBMとのビジネストリガーを活用し、
米国IT産業を牽引するIT企業に成長したMSまでもが
現代のIT業界の顕著な変化へのアダプションが難しいことを意味していると予想される。
組織の官僚化は企業活動にとって、大きな課題であることを再認識できた。
ある意味でIT業界は最初の成熟期に来ていると思われる。これが正しいとしたならば、来たるべき次のビジネス果実を獲得できるか否かは、自社組織の意志決定プロセスをスピードアップ図り、社内コンセンサスを持つことが必要だ。