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WWDCのデモにみるジョブズ的イノベーションとリーダーシップ

2004/07/01 09:27
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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昨日に引き続き、今日もアップル「Worldwide Developer Conference」におけるスティーブ・ジョブズの基調講演の話を。

Tigerで最も革命的な機能

Tigerの新機能は150余りあるらしいが、ジョブズが基調講演で取り上げたのは、Spotlight、H.264、Safari RSS、Core Image、Core Video、.mac、Dashboard、Automator、iChatであった。Tigerについての冒頭で、ジョブズは

「Tigerで最もRevolutionaryな機能から話そう。それはサーチだ。」

と言ったあと、Spotlightのデモを、助手にやらせるのではなく、自ら始めた。ところでこの日、ジョブズは大事なデモを自分でやった(グラフィックス関係のデモはスタッフが担当した)。もともとはアップルで長く仕事をして、歴代のアップルCEOのプレゼンテーションを見続けてきたSVJEN代表の外村仁さんはこう言う。

「エンドユーザが触れる部分の説明&デモをすべて自分でやるというのは、実はかなりすごいことだと思います。私はアップル在職中にスカリー、スピンドラー、アメリオ、ジョブズと4人のCEOを経験したわけですが、これをやれるのはジョブズだけです。あんなにうまく説明とデモをやるためにはかなりの時間をかけて新機能を使いこなさないと出来ないと思うのですが。視点を変えれば、社員、特にそれを開発した人たちにとっては、ジョブズが「本当に使ってくれている」ことがこの上ない喜びではないかな。世の中の多くの会社のエライヒトが、細かいことは担当任せなのとエライ違いです」

「プレゼン本番でデモがうまく動かなくて、担当者がクビになった」伝説とか、ジョブズは伝説にこと欠かない人なのだが、月曜日も、担当者は彼のデモを見ながら緊張していただろうな。

Spotlight について、ダン・ギルモア(僕の二列前の席に居た)は「Apple CEO creates a `Reality Distortion Field' that makes even skeptics nod their heads in awe」で

「If the Cupertino company keeps its promises, ``Tiger'' will be loaded with goodies. One is an internal search tool. ``Spotlight'' should make much shorter work of a common woe for computer users: finding what's on our hard disks.」

と書いている。そう確かにSpotlightは、「internal search tool」で、ハードディスク内検索ツールに過ぎない。しかし、アップルの命はユーザインタフェースであり、ジョブズのプレゼンはその部分の秀逸をぐっと際立たせる。それで聴衆は、ジョブズ一流の催眠術にかかってしまうのである。ちなみに、ダン・ギルモアのこの記事のタイトルは、そういう意味がこめられたものとなっている。

ブラウザの最も重要なトレンドはRSS

ジョブズが次に自らデモをやったのは、Safari RSS

「There are a number of third-party RSS tools, and Apple won't be the first to incorporate the technology into the browser. But the company appears to be moving to make RSS an almost integral part of the operating system and content-development tools as well. If Microsoft isn't planning something similar I'll be amazed.」

ブラウザの名前にまでRSSが入ったということは、「ブラウザの機能拡張を考える上で、世の中全体を眺めたときに、最も重要なトレンドがRSS」というアップルの考え(あるいは産業界の常識)が明確に示されたことを意味する。ジョブズは、Google検索などして無制限に検索結果が返ってくるよりも、RSSで検索して意味のあるものが少しだけでもちゃんと返ってくるほうが効率的だ、それがこのSafari RSSではできる、みたいな言い方をしていた。

このSpotlightとSafari RSSを眺めていて、当たり前のことながら、産業全体における競争の存在を、とても意義深く感じた。OSレベルでマイクロソフトと競争するアップルの存在は意義深いし、新しいコンビューティングパラダイムを引っさげたGoogleの華々しい登場も、IT産業全体の競争心を強く刺激している。マイクロソフトの独占を是認し、誰もがマイクロソフトに挑戦を仕掛けることなく諦めて競争をやめていたら、こうした技術革新の歩みは、今よりもうんとゆっくりとしたものとなっていただろう。

iChat AVのユーザインタフェース

そしてもう1つ、ジョブズが自らデモをした重要機能がiChat AVだった。H.264をはじめとするイメージ、ビデオ処理技術の漸進的改良も伴い、iChatは、既存のコンファレンスコール(電話会議: 最大10人)、ビデオコンファレンス(テレビ電話会議: 最大4人)を行うプラットフォームを提供している。再びここでもアップルの命はユーザインタフェース。iChat AVサイトにいくと写真が出ているが、3人を相手に行うテレビ電話だと、コンファレンス会議用テーブルに3人が座っているかのような画面がそのユーザインタフェースとなっている。本当に使ってみれば、カメラのセッティングやネットワークの速度など、さまざまな不確定要素が入り込んで、ジョブズのデモほどにはならないのだろうな、などと頭では理解しつつも、デスクトップ上からカジュアルに無料で世界中どことでもテレビ電話ができる時代が、もうそこまでやってきていることを改めて実感した。

余談だが、以前本欄ゲストブログに登場していただいた川野俊充さんの家では、彼と奥さんが住むサンフランシスコの家の食卓と、奥さんのご両親が住む東京の家の食卓を、iChatを使ったテレビ会議でずっとつなぎっぱなしにして、大家族でときどき食事をするんだそうだ。何せ、テレビ電話の通信に、カネが一銭もかからないんだものね。こういう使い方だってできるわけだ。話を聞いて驚いたけれど。

さて、前出の外村さんは、

「何でもジョブズが決めるというのは弊害もあるかと思いますが、逆に、アップルの戦略に一貫性があり、複数のテクノロジーやマーケティングがシームレスに見えるのは、そのおかげかもしれません」

と言われるが、やはりそれでうまくまわっているのは、ジョブズの頭の中に、常人とは違う切り口で世界を眺める視線があるからなのだと思う。

ジョブズ的イノベーションの本質

持ち歩けるあのiPodのような小型デバイスを個人の音楽環境の中核に据えると決める、そしてiTunesを提供するだけではなく、移動中、家の中、車の中と、人々が音楽を聴く環境のすべてを、だんだんとアップル色に染め上げようとする発想。デザイン抜群の30インチの高画質液晶ディスプレイを、テレビ以外にもう1つ家の中に用意することで、家庭内エンターテイメントにおけるテレビの位置づけを低め、PC、マック周辺にエンターテイメントの重心を移行させようとする発想。徹底的にデザインとユーザインタフェースにこだわり、「個人の創造性」や「楽しさ」を最優先事項にしたアップルワールドにこだわり続けること・・・。

ジョブズの1つ1つの考え方は、うまくいったあとで、うまくいった理由を説明されると「何だぁ」と思うようなことが多い。だからこそ逆に「アイデア段階で誰もが意見や批判を言いやすい」タイプのイノベーションだ(出来上がってみるまで何をやっているのか普通の人にはよくわからない「Googleのイノベーション」とは質がぜんぜん違う)。別の言い方をすれば、アイデア段階でもそのコンセプトがわかりやすいから、あんまり深く考えていないトップが思いつきで否定したりできるタイプのイノベーションなのだ。だから、そういうタイプのイノベーションが官僚的な組織で生れると、そのコンセプトには横槍が入ってふらつきやすく、最後にはエンドユーザの心に響かない製品が往々にしてできあがる。よって、ジョブズ的イノベーションには、「何でもジョブズが決める」的な強いリーダーシップが、よくも悪くも、必要不可欠なのである。当たればホームランも出て、競争者を切歯扼腕させる。でも空振りの三振となる場合もある。それがアップルの危なっかしい魅力なのである。

僕の場合は、1996年まではマックユーザで、1997年に会社を創業したと同時に、世間との折り合いをつけるためにWindowsに転向した。このたび「Worldwide Developer Conference」に出席してみて、アップルワールドにどっぷりと浸かった生活に久しぶりに戻ってみたいな、というような気分になった。まぁ1週間くらいで、ジョブズの催眠術から冷めたときには、やっぱり瑣末でこまごまとした現実的問題に目が行き、相変わらずもうしばらくはWindowsユーザを続けていくことになるのだろうけれど。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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