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CNET Japan ブログ

GoogleとMicrosoftに見るソフトウェアの基礎研究

2004/06/09 09:30
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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CNET Japanのサーチエンジン特集の最新記事「「今後も予期せぬサービスが生まれる」:クリエイティブ戦略を貫くグーグル」は、GoogleのWayne Rosing副社長へのインタビューだが、彼は冒頭で日本に開設する開発センターで求める人材について、こう語っている。

「求めている人材は、コンピュータサイエンス分野の経験が豊富でアルゴリズムが得意な、博士号または修士号保持者、つまりしっかりしたアカデミックバックグラウンドを持っている人です。そして、コーディングが得意でソフトウェアの開発方法をよく理解している人、ハッカーとでも言いましょうか、とにかくマニアックなほどにコーディングがわかる人も必要だと感じています。そして、さまざまな才能を持ち合わせていてほしいですね。常に問題意識を持ち、チャレンジ精神があり、失敗してもそれを次のステップに生かせることが重要です。単に「こういったソフトウェアを作れ」と言われて作ることができるだけの人材は必要ありません。自分からどういったソフトを作ればいいのか、提案できなくてはいけないのです。創造性を持ち、自ら進んで仕事を進めていく、これがGoogleの方針ですから。」

企業や事業におけるPh.D(博士)の意味

今日はこのことと関連して、まずNew York Times誌の「What's Google's Secret Weapon? An Army of Ph.D.'s」を読んでみよう。この記事の主題は、企業や事業におけるPh.D(博士)の意味である。

記事の冒頭は、

「HEY, it's not rocket science. And it's not brain surgery. But if your background is in either, you're welcome to take a shot and apply at Google. The company's employees include a former rocket scientist and a former brain surgeon.」

難しく思えてもそこそこ時間をかければ解決できる問題に直面したとき、英語ではよく「it's not rocket science」という表現をよく使う。そんなフレーズを使って、Googleには本物の元ロケットサイエンティストもいれば元脳神経外科医もいるぞ、とにかくGoogleはそういう人材を集めているけれど、その心は・・・という話である。

「Founded by two near-Ph.D.'s who have purposely placed Ph.D.'s throughout the company, Google encourages all employees to act as researchers, by spending 20 percent of their time on new projects of their own choosing.」

Googleは意図的に全社にあまねくPh.Dを配置し、すべての社員に研究者のように行動するよう求めている。20%ルールについては本欄で既にご紹介した。記事では、Googleのこの体質を「a Ph.D.-centered culture」と称し、

「Google's co-founders, Sergey Brin and Larry Page, have assembled the industry's most unorthodox portfolio of human capital since Microsoft began intense recruiting of computer science majors at top undergraduate schools in the 1980's.」

1980年代にMicrosoftが学部卒のコンピュータサイエンス専攻の学生を大量に集めて(Gatesクローンを作ろうとした)以来の「unorthodox portfolio of human capital」だと書いているが、この指摘は的を射ている。Microsoftの人材戦略については、90年代に入ってから研究が進み、「マイクロソフト・シークレット」や「ビル・ゲイツの面接試験」に結実したが、Googleの人材戦略はそれ以来のユニークさと言って間違いないだろう。Bill Gatesがハーバード・ドロップアウトで、学部卒のフレッシュな頭脳を求めたのに対し、スタンフォードのPh.Dドロップアウト(博士課程に進まずにGoogleを創業)のSergey BrinとLarry Pageと、Ph.Dを持ったCEO、Eric Schmidtが、Ph.D人材に傾斜しているところが、とても面白い。

Ph.Dはクリエイティブ

この記事では、Ph.Dの価値について、スタンフォード大学教授がこんなコメントを寄せているが、

「Rajeev Motwani, a computer science professor at Stanford, says: "Good Ph.D. students are extreme in their creativity and self-motivation. Master's students are equally smart but do not have the same drive to create something new." The master's takes you where others have been; the doctorate, where no one has gone before.」

おそらくGoogleのトップも、同じ質問をされれば、似たようなことを言うだろう。

Ph.Dは創造性と自主性において極端に優れている、修士の学生は同じように優秀でも「全く新しい何かを創造しよう」というドライブを持たない、Googleは誰もやったことのないような未踏領域を極めるための存在なのだから、Ph.Dを大量に雇うのだと、まぁそういうことなのだろうと思う。よって、冒頭でご紹介したWayne Rosing副社長のインタビュー記事のタイトルが「「今後も予期せぬサービスが生まれる」:クリエイティブ戦略を貫くグーグル」となっているわけである。

このNew York Times記事はなかなか面白いので、興味のある方は、ぜひ早いうちに原文をお読みください(New York Times誌の記事はしばらくすると有料になってしまいますので)。

Bill Gatesが考えるソフトウェアの基礎研究

さて、Bill Gatesがつい最近「Scientific American」誌の長時間インタビューを受けた全文がPDFファイルで読むことができる(今のところ)。その中でGatesは「なぜ、Microsoftは基礎研究を重視するのか?」と問われる。90年代に入って、米国企業の研究開発戦略は大きく変化した。自社に研究所を持たずに、研究行為を何らかの形で外部にアウトソースするオープンイノベーション戦略が大きな流れになってきたからだ。このことについては、「Open Innovation」という研究書がよくまとまっている。しかしGoogleが今やろうとしていることはこの「Open Innovation」の対極にあり、Microsoftも自社で基礎研究を強化し、米国、英国(ケンブリッジ)、北京に研究所を充実させている。そのあたりのことについてのGatesのコメントが非常に印象的だったので、その部分だけ全文引用する。

「We're in the building software business. We've got to do at least what is for software basic research. We've got to do it because these basic advances need to be in our products. We understand the scenarios that demand the simplicity. Who has the patience to take visual recognition and really make that breakthrough? We've been working on that for eight years. We've got good results. You could have seen in a few of the booths some great progress there.

But Butler Lampson, who's one of the researchers here, said why do there ever have to be car wrecks? Why isn't there just a little bit of hardware and software that says that you shouldn't have car wrecks? Well, he's absolutely right. That's a nice easy-to-describe goal. And yet vision is just one component that would have to be dramatically better to achieve that. And, of course, you would use it for a thousand other things besides avoiding car wrecks, but it just calls to mind and says, wow, with what the hardware people can do, what prevents that goal from being achieved? Just the need for miracle software. Who's going to take on those various pieces?

The universities are a very, very important part of the ecosystem, but they tend to do things that are kind of small scale. You've got to really do large scale things, like an ink recognition or like the ultimate step in speech or natural language-translation type work. Those things need risk-taking and drawing large groups together and getting big field testing with tons of feedback that is more appropriate for a commercial organization. So that's the kind of thing where we come in and do things that are both the same as the university but also some very unique things.」

やや饒舌ないつものGatesの語り口だが、Gatesが言おうとしていることは、次のようなことである。

(1) 最終的に極めてシンプルな価値(例、自動車事故を起こさないシステム)に落とし込み、製品の一部に組み込むところまで到達するソフトウェア(miracle software)の研究にはおそろしく時間がかかる、

(2) 大学は研究エコシステムの重要な一部ではあるが、「小さいスケール」での研究になりがちだ。限定的場面を想定してのアルゴリズム研究みたいなものをGatesはイメージしている。

(3) それに比べて、自動車事故を起こさないシステムだとか自然言語翻訳だとか音声言語認識のような「大きなスケール」の問題(対象となる問題のテーマが大きく、なおかつ完璧なソリューションに至らなければ実用化できず、なおかつそこに至るまでの道のりが長い)を解かなくちゃならないときは、大変大きなリスクテイクを必要とする。大規模な研究グループを組織して、膨大なフィールドテストをやって大量のフィードバックを受けた改良を続けなければならない。

(4) それには大学ではなくて企業が向いている。だからMicrosoftは基礎研究に力を入れているのだ。

Googleにも底流する思想

このGatesのコメントは、「ソフトウェアの基礎研究の意味とその商用化」についての至言だと思う。ゲイツのこの言葉を補助線にすると、Googleの人材戦略や今後のサービス創造戦略の背景も、よりよく理解できるのではないだろうか。

Googleは、Gatesの言う(3)のポイントにおける「検索」という「大きなスケールの問題」の研究を、現実にビジネスを執行しつつ(研究の途中経過で大儲けしながら)、現実世界で同時進行的に進めているところが強いのだ。だから、Wayne Rosingは、Googleの真の強みについて、こんなふうに語っているのである。

「しかし本当の強さは、Googleのエンジニアチームが常に機能強化のためにソフトウェアを書き直し、改善を加えている点だと思います。Googleのエンジニアは、100%満足できるサーチエンジンを追求し、常に改善を加えるべく努力を続けているのです。インターネット上にはまだ(Googleが到達できていない)多くの情報が詰まっており、それをよりよい方法でユーザーに届けることがGoogleの使命ですから。そして、Googleの検索結果は非常に新しいものだとされていますが、さらに新鮮な情報を届けたいと考えています。まだまだ検索についてはやるべきことが多いですね。」

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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