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デザインがビジネスに与える力

2004/05/20 09:17
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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Business Week誌が、IDEO社を「The Power of Design」というカバーストーリーに持ってきた。IDEOというデザインファームはシリコンバレーのパロアルトにある。「知る人ぞ知る」と「けっこう有名」の間くらいの会社だ。熱狂的支持者も多い。「発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法」という、えらく贅沢な作りの本も日本で出版されているので、ご存知の方も多いかと思う。産業が成熟化してくると、付加価値創造は、デザインなどインタンジブルな価値の比重が高くなってくる。IDEOを題材に「The Power of Design」(デザインの力)を議論するのが、この特集の狙いである。

へぇ、でもビジネスウィークがカバーストーリーで取り上げるほどの会社になったのかぁ、と正直いって驚いた。日本にもオフィスが一時あったはずだが、どうなったんだろう。今は、パロアルトが本社で、サンフランシスコ、ボストン、ロンドンとミュンヘンに事務所があるとのこと。

「The 350-person design firm has offices not just in Palo Alto but also in San Francisco, Chicago, Boston, London, and Munich. Office-furniture maker Steelcase Inc. (SCS ) owns a majority stake in the firm, which operates as an independent unit. By design industry standards, IDEO is huge, though its $62 million in revenues in 2003 are puny by most corporate measures. But IDEO's impact on the corporate world is far greater than the sum of its sales.」

この文章がIDEOのショートサマリー。Steelcaseというオフィス家具会社が資本のマジョリティを持ち、その独立ユニットとして運営されているのだそうだ。350人のスタッフで売上高6200万ドルというのは、デザインファームとしては立派なもの。かなり儲かっているはずだ。でも製造業などの売上数字に慣れている人にとっては6200万ドルなんてゴミみたいな数字だから、あえて記事でも「IDEO's impact on the corporate world is far greater than the sum of its sales.」なんて書いている。

デザイン会社流のサービス産業化への適応

そして、この記事のポイントは、

「IDEO redefined good design by creating experiences, not just products.」

IDEOは、製品ではなく経験を創造することで「良いデザイン」を再定義した、ということ。製造業を相手に商売を続けてきたIDEOが、世界のサービス産業化の流れにどう対応したかの物語として読むこともできるだろう。なかなか面白い特集記事だ。

記事の冒頭には、Kaiser Performanceという米国最大のHMO(Health Maintenance Organization)がIDEOのクライアントとして、どんなプロジェクトをやったか、という話が描かれている。製品デザインではなく、サービスデザインの典型例として。

「For starters, Kaiser nurses, doctors, and facilities managers teamed up with IDEO's social scientists, designers, architects, and engineers and observed patients as they made their way through their medical facilities. At times, they played the role of patient themselves. Together they came up with some surprising insights.」

で始まる冒頭の数パラグラフは、Kaiserの看護婦、医者、設備管理者が、IDEOの社会科学者、デザイナー、アーキテクト、エンジニア、認知心理学者らと一緒にチームを組んで、ロールプレイなどしながら、患者の病院での経験を考えていき、最後にはある発見に至るという話である。

そして7週間に渡るプロジェクトの結果の発見というのは、

「What it needed was to overhaul the patient experience. Kaiser learned from IDEO that seeking medical care is much like shopping -- it is a social experience shared with others. So it needed to offer more comfortable waiting rooms and a lobby with clear instructions on where to go; larger exam rooms, with space for three or more people and curtains for privacy, to make patients comfortable; and special corridors for medical staffers to meet and increase their efficiency.」(患者に医療をショッピングの如く感じてもらえるような各種改良)

で、クライアントであるKaiserからは

「"IDEO showed us that we are designing human experiences, not buildings," says Adam D. Nemer, medical operations services manager at Kaiser. "Its recommendations do not require big capital expenditures."」(IDEOは、ビルを設計するのではなく人間の経験を設計するのだということを、我々に示してくれた。提言の実現に大きな設備投資は必要ない。)

という感想が語られている。

日本企業はIDEOのプロジェクトに金を払うか

ここまで読んだ読者の方は何を感じられたであろうか。僕の感想はちょっと特殊かもしれないけれど、「こういうプロジェクトを、日本企業に売るのは難しいだろうなぁ」というのが、条件反射であった。IDEOの日本担当でもないのに、余計なお世話ではあるが(笑)。どうも昔、大手コンサルティング会社の日本法人に勤めていたときの癖が抜けず、こういう類のインタンジブルなプロジェクト(しかも、かなり高いプロジェクト)の話を聞くと、「日本企業に売るのは本当に難しかった」という当時の「苦い思い出」が甦ってきてしまうのだ。

プロジェクトのアウトプットがいかに正しかろうと、そのアウトプットがいかにトータル・コストを押し下げる効果があろうとも、「社会科学者やらデザイナーやらアーキテクトやら認知心理学者やらがたくさん現れて(しかもその連中がけっこう高い時間単価をドカドカとチャージする)、ああでもないこうでもないと調査も含めて議論をした挙げ句に(それが創造的プロセス!)、こういうインタンジブルなアウトプットが出てくる」というプロジェクトに、日本企業はなかなかカネを払わないものだ。

「As the economy shifts from the economics of scale to the economics of choice and as mass markets fragment and brand loyalty disappears, it's more important than ever for corporations to improve the "consumer experience." Yet after decades of market research and focus groups, corporations realize that they still don't really know their consumers -- or how best to connect with them.」

日本企業の場合、仮にこの文章で描かれるような世界観に共感し、「consumer experience」が大切だ、顧客をより知らねばなぁと思っても、IDEOのような外部リソースを、欧米の会社のようには使わないのが普通。欧米企業に比べ、平均的に優秀な人たちが広くあまねく存在する日本企業の場合、内部ででもできそうなこういう仕事に(しかもアウトプットがインタンジブルな場合は特に)、高いカネを支払う気にならないのもよくわかるけれど。今は、少しは変わったかなぁ。

IDEOのアプローチを買う欧米企業

「It has a client list that spans the globe, including Hewlett-Packard (HPQ ), AT&T Wireless Services (AWE ), Nestlé (NSRGY ), Vodaphone (VOD ), Samsung, NASA, and the BBC. More than half of the firm's revenue comes from European and Asian clients or work done overseas by U.S. corporations.」

でも、欧米のそうそうたる企業が、こういうIDEOのアプローチ(こういうアプローチの末に製品デザイン等に落とすのがIDEOの得意技)に結構なカネを支払っている。欧米企業は、一般的にスタッフ人件費のような固定費を嫌い、一時的な変動費ならば驚くほど高いプロジェクトでも外部に発注することが多いのである。

「In the roaring '90s, IDEO was best known for designing user-friendly computers, PDAs, and other high-tech products such as the Palm V, Polaroid's I-Zone cameras, the Steelcase Leap Chair, and Zinio interactive magazine software. It also designed the first no-squeeze, stand-up toothpaste tube for Proctor & Gamble Co.'s (PG ) Crest and the Oral-B toothbrushes for kids. Now, IDEO is transferring its ability to create consumer products into designing consumer experiences in services, from shopping and banking to health care and wireless communication.」

そして、ここに例が語られているような多くの製品デザインの仕事から、サービス業における消費者経験のデザインへと、IDEOは多角化し、製造業だけでなく小売、ヘルスケア、ワイヤレス領域へと事業を拡大しているらしい。この記事の後半は、そういう具体例がいろいろと出てくる。

各社のIDEOプロジェクトの具体例(インテルやサムソンの例も出ている)も図にまとまっている。

また、この記事の画面右側に、「PHOTO ESSAY: This Is The IDEO Way」というところがあって、そこをクリックすると、

「This is the IDEO Way : Five steps in the process of designing a better consumer experience」

より良い顧客経験をデザインするための5つのステップ(Observation、Brainstorming、Rapid Prototyping、Refining、Implementation)が、写真入りで詳しく紹介されている。何だか楽しそうだ。興味のある方はじっくり読んでみてください。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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