GoogleのGmailに引き続き、AmazonのA9と、重要な新しいアナウンスが続いている。
ちなみに、A9は、「Algorithm」(Aで始まる9文字の言葉)の省略語である。
A9開発の責任者は、本欄2003年9月26日「Amazonの参入でますます加熱する検索市場」や2003年10月28日「アマゾンが仕掛ける「書籍のグーグル」は成功するか」でご紹介したUdi Manber。元は、Yahoo!のチーフ・サイエンティストだった人である。
「Widely respected for his elegant approaches to intractable software problems, Manber was a magnet for Silicon Valley talent.」
Udi Manberはシリコンバレーの才能をひき付けるマグネットである、と「John Battelle's Searchblog」のJohn Battelleは言う。
「インタラクションの歴史」を格納するHistory Server
このUdi ManberにそのJohn Battelleがインタビューした記事がBusiness 2.0誌に掲載された。この記事「Can Amazon Unplug Google?」については、たぶん色々なところで参照されるだろうけれど、簡単にご紹介しておこう。Business 2.0記事にしては珍しく、今のところ全文を無償で読める。ポイントは、「History Server」をフル活用した、サーチのパーソナライゼーションということである。僕も、この「History Server」という象徴的な言葉は、この記事で初めて読んだ。Johnの
「I understand much of the personalization is made possible by what you call a "history server." What exactly is that?」
という問いかけに対して、Udi Manberはこう答えている。
「The history server stores -- on our servers -- your history of interaction with us for the purpose of bringing that back to you in a very convenient way. Whenever you come to the site, we can show you what you searched for in the past in a very easy-to-organize fashion. If you want to hide some of that, you can opt out at any time. If you install the toolbar, then all your Web browsing, as well as all your searching, is stored as well. And we are working on many different ways to improve that.」
つまりAmazonの「History Server」には、「インタラクションの歴史」が格納される。そしてその「歴史」で、気に入らない部分はユーザが自由に削除できる。知られたくない過去は消せる、というわけだ。もしツールバーをインストールすれば、すべてのブラウジング、すべてのサーチの「歴史」も格納される。
正直に感想を言えば、これは嫌だなぁ。Gmailの話を最初に聞いたときよりも嫌な感じを強く持った。それは、e-mailという「他者」の存在を前提とした行為のプライバシーと、ブラウジングやサーチといった「他者」の存在を意識しないで行なう行為のプライバシーは、ちょっと違うからなのかもしれない。
Johnもこの答えに対して、すぐにプライバシー問題についてこう問う。
「So there is a massive repository of data, held on an Amazon server, that tracks where I've been on the Web. Isn't that something of a privacy nightmare?」
対するUdi Manberの答えは、
「Our privacy policy is very clear on this subject -- we will never share this data with third parties. Also, having the data of what users search for or where they go is not a new concept. Any site that requires registration -- AOL or MSN, for example -- already has this information. What is new is that we're taking this information and giving it back to the users to make their search experience better and more useful. It gives them more power.」
であり、ポイントは、第三者にそのデータはシェアしないよ、ということと、AOLやMSNだってもう同じことをやっているよ、ということだ。
Googleの「Orkutとサーチの将来的統合」や「Gmail参入」の流れ、Yahoo!のサーチ強化、Amazon A9のすべてが、同じ方向に向かっていることがよくわかると思う。
Gmailを全面的に支持するO'Reilly
Gmailについては今月に入って何回にもわたって書いたので、今の時点であまりもう補足することはないのだが、Tim O'ReillyがそのBlog「The Fuss About Gmail and Privacy: Nine Reasons Why It's Bogus」で、Gmailについて総括的に書いているので、これも簡単にご紹介しておく。本欄でこれまでに指摘してきたことと内容がかなり重複しているが、いくつか補完的となる部分をあげておこう。
まず、プライバシー問題については、Timは冒頭でこう書くのだが、
「There are already hundreds of millions of users of hosted mail services at AOL, Hotmail, MSN, and Yahoo! These services routinely scan all mail for viruses and spam. Despite the claims of critics, I don't see that the kind of automated text scanning that Google would need to do to insert context-sensitive ads is all that different from the kind of automated text scanning that is used to detect spam. (And in fact, those oppressed by spam should look forward to having Google's brilliant search experts tackle spam detection as part of their problem set!) Google doesn't have humans reading this mail; it has programs reading them. Yes, Google could instruct a program to mine the stored email for confidential information. But so could Yahoo! or AOL or MSN today. (Perhaps people feel Google is to be feared because they seem to so good at what they do. But that seems rather an odd point of view.)」
これは、本欄4月5日「e-mailへの参入は変わり始めたGoogleの新たな挑戦」でご紹介した「Google側の言い分」を100%支持した文章である。(1) 既存の「hosted mail services」だって、ウィルスやスパムの除去のために、日常的にメールをスキャンしているじゃないか。(2) 「context-sensitive ads」をGoogleが入れることは、それと同じことじゃないか、(3) Googleがスパム除去の性能だってもっと上げてくれるかもしれない、(4) Googleのプロセスには人間が関与しないぞ、(5)やろうと思えばGoogleは機密情報に触れるわけだが、条件は現在のYahoo!やAOLやMSNと同じじゃないか、というものである。ここでの論点は、Udi Manberの議論の展開の仕方と酷似している。
そして続けて、もともとe-mailというのはそういう性格のものであること。さらに、実世界での信用情報機関やダイレクト・マーケターが持つ個人情報など、プライバシーという観点から見たら、Gmailなんかより問題の多いもののほうがたくさんあることを挙げて、
「I have a lot more trust in Google to do the right thing to protect my privacy than I have in credit card and direct marketing companies!」
とまで書く。さらに、
「Gmail's offer of extended storage means that hosted email accounts might appeal to more than the casual home user, resulting in the storage of more mission-critical messages, but considering that many businesses are already hosting critical business data at outside service providers like salesforce.com, I hardly think that is a show stopper.」
Gmailは、カジュアルなホームユーザだけでなく、ミッションクリティカルなビジネスユースにも使われていくだろうと言う。
「No one is going to be forced to use gmail. If you don't like ads in your mail, don't use the service. Let the market decide.」
そして、使いたくない人は使わなければよいのだから、マーケットに決めさせよと、法律で縛るべきと考えるプライバシー活動家を牽制する。
そして、そこから先は、いかにGmailが歴史的にも意味が大きいかをまとめているので、その部分は、本欄で議論してきた内容と照らし合わせながら、原文をお読みください。文中には、
「Pioneers like Google are remaking the computing industry before our eyes.」
Googleのようなパイオニアが、我々の目の前でコンピュータ産業を作りなおしているのだ、というような文章も現れる。
僕も同じ問題意識を持っており、Timの論には同感する部分が多い。
GoogleやAmazonやサーチの世界に興味のある方にとっては、今日ご紹介した2つの記事は、原文にあたって通読する価値のあるものだと思います。
開発プロセスこそがGoogleの開発力の源泉
さて最後に、Googleについて書かれたWindchaseの「Googleの現在と未来」も合わせてご紹介しておくことにしよう。「シリコンの谷は、いま。」の「スタートアップはなぜ速く動けるのか?」を参照しながら、
「僕は,Googleは小さなところから始めることができたがゆえに,理論的な仮定に基づいてアルゴリズムを調整し,それを検証して洗練していく,やわらかい開発プロセスを確立できたのだと思う.そして,この開発プロセスこそが,Googleの競争力の源泉だと思うのだ.
できあがったもの(大規模ストレージあるいは分散コンピュータ)だけ見れば,既存の大企業が秘密裏に作り上げてきた箱モノと似ているかも知れない.それは,木を見て森を見ずではないのか.箱モノが重要なのではなく,それを作り上げた環境的要因とプロセスにこそ,Googleの真の価値があるのではないだろうか.」
と、書かれている。重要な指摘であるが、もしこの「やわらかい開発プロセス」を、時間をかけて作り上げてきた「環境的要因とプロセス」にこそ「Googleの競争力の源泉」があるのだとすれば、今見えている競争相手たる列強がGoogleに追いつくのは、より難しいという結論になるのかもしれない。
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