お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

プライベートエクイティから見たベンチャー投資の新発想

2004/04/07 09:26
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
ブログ管理

最近のエントリー

今日はベンチャーキャピタル投資について取り上げよう。少し前になるが、Tim O’ReillyのEtech(Emerging Technology Conference)というコンファレンスがサンディエゴで開かれた。そのときに、Warburg PincusのWilliam H. Janewayが、「Alternative Models of the Venture Investing Process」というプレゼンテーションを行なった。Warburg Pincusは、本欄3月17日「日本企業の40代に提案-バイアウトを活用して外に出よう」の中でご紹介した「EDSの子会社UGS PLM Solutionsを買収したバイアウトファンド連合」の1つ。

VCの段階的投資に対する疑問

よって純粋なベンチャーキャピタルではなく、ベンチャーキャピタルもやっているPrivate Equityファンドがベンチャー投資をどう考えるかが、このプレゼンテーションから読み取れる。

プレゼンテーションの紹介文から読んでみよう。

「Most IT start-ups are product-driven: the goal is to deliver an innovative product to a defined market. The conventional venture capital model - multiple funding rounds, multiple investors per round - evolved to address the operational risks of this sort of venture. But failure to execute operationally is not the only source of risk; every venture is also subject to volatility in the price and availability of capital due to the volatility of the stock market. After the collapse of the Internet Bubble, many promising companies foundered because their funding dried up.」

この文章で書かれているように、ベンチャーキャピタル投資というのは「multiple funding rounds, multiple investors per round」が常識である。つまり、投資はラウンドごとに行われ(Aラウンド、Bラウンド、Cラウンド・・・というふうに)、それぞれの段階で複数の投資家(主にベンチャーキャピタルだが、エンジェルや企業も入る)が参加する。この段階投資手法にはリスクが内在するというのがWarburg Pincusの発想の原点だ。

つまり、Aラウンドで100万ドル集め、Bラウンドで300万ドル集め、Cラウンドで800万ドル集め、というふうにやっていくやり方だと、それぞれの投資ラウンドが行なわれるときの外部環境要因(主として株式市場の乱高下)に、そのラウンドの条件が左右されすぎるリスクがある。たとえばバブル崩壊後はベンチャー投資全体が干上がってしまって、多くの有望なベンチャーが、個々の進捗に関わらず、投資を受けられずにつぶれてしまったではないか。そこで、Warburg Pincusは、違った発想のベンチャー投資プロセスの考え方、つまりはタイトルの「Alternative Models of the Venture Investing Process」を提案する。

「By contrast, our biggest successes at Warburg Pincus (VERITAS, BEA) have come from inverting the normal venture funding model, with the visionary investor as company co-founder. Starting with the identification of a major market discontinuity, we have teamed with experienced operating executives to assemble the components of a complete business - technological base, product development and management, channels to market; buying what we can, building what we have to - in order to establish positive cash flow from operations as rapidly as possible. And we have supported the multi-year process of building a sustainable business by underwriting all of the capital needed to reach positive cash flow, thereby not only enabling management to focus full-time on the business but also insuring against the risks generated by a volatile stock market.」

投資家も共同創業者として参画し、まずは市場の大きな不連続性を同定し、オペレーション経験豊富な経営者(experienced operating executives)とチームを組み、事業に必要な要素(技術、製品開発とマネジメント、チャネル等)で買えるものは買い、作るものは作ることで、a complete businessを作り、できるだけ早くキャッシュフローをポジティブにするまで持っていく。事業創造プロセスをこう規定し、従来のベンチャーキャピタルのように段階ごとに成果を見ながら投資するのではなく、最初からこのプロセスに必要なカネを全部用意する。こんな一括投資手法によるベンチャー立ち上げを、Warburg Pincusは提唱する。そうすれば、マネジメントチームは、株式市場の乱高下ゆえの外部環境変化に影響など受けずに、ビジネスに専念できるというメリットがあると言うのである。

リスクを回避する投資手法自体がリスクに

さて、この新しいベンチャー投資プロセスの提案をどう読み解くべきだろうか。この話は、ベンチャー投資、新事業創造に関するさまざまな要素が複雑にからみあっていて面白い。

ベンチャー投資総額は、インターネットブームが到来する前は全米でせいぜい数千億円レベルだったが、どんどん増えて2000年には10兆円を越すまでに膨れ上がり、今は1.5-2兆円レベルに落ち着いてきた。この過程で、直接金融の世界では「ニッチ」と位置づけられていたベンチャーキャピタル事業が脚光を浴びるようになり、Private Equityを専門としていたWarburg PincusのようなPEファンド大手も、「ニッチ」市場たるベンチャーキャピタルに参入するようになったわけだ。

ところで、「ニッチ」たるベンチャーキャピタル世界には独特のルールがあった。それが、先ほどご説明した「multiple funding rounds, multiple investors per round」という段階的投資手法である。

もともとこの手法は、テクノロジーベンチャー創造のリスクはあまりに大きいので、少しずつ投資して、そのカネを使って投資先企業が成し遂げた成果を見ながら再投資することでリスクを軽減させる、という考え方である。しかしWarburg Pincusが指摘するように、段階的に投資する場合、投資基準が外部環境要因によって厳しくなったとき、せっかくそこまでにいい成果を出している企業にカネが集まらなくなるというデメリットは確かに存在する。特にこのデメリットはバブル崩壊後に顕著になり、今も株式市場が低迷しているために、大きな問題であり続けている。

たとえば、共同経営しているPacifica Fundをスタートしたのはバブル崩壊後の2000年8月であった。よって時期的に、我々がこれまでに行なったすべての投資案件に関して、最大の悩みは「その投資先ベンチャーが次のラウンドで、果たして好条件で投資を受けられるだろうか」ということに尽きた。Private Equityファンド側からベンチャーキャピタル特有の段階投資手法を見たとき、この悩み(デメリット)こそが大きなリスクに見えた、ということなのである。

そこで、本欄3月17日「日本企業の40代に提案-バイアウトを活用して外に出よう」を思い出していただきたい。この買収案件では、バイアウト(Private Equity)側は一気に約20億ドルという資金を投じてしまっていたでしょう。段階的ではなく。いい案件だと思ったら、一気に必要なカネを全部出す、というのが、Private Equity側の常識。つまり、この「Alternative Models of the Venture Investing Process」は、Private Equityの発想ならではのベンチャー投資プロセスだと言えるのである。

1年前(昨年4月2日)の本欄「Wi-Fi投資には危険が一杯」の中で、ベンチャーキャピタル産業について、

「ベンチャーキャピタルも産業である以上、当然のことだが、競争が存在する。それぞれのファンドが持っている資金の大きさ、パートナーの強みなどなど、手持ちのリソースに違いがある。自らのリソースの現実をベースに、それぞれの世界観を構築し、それに賭けて、投資対象を決めていくところが勝負の分かれ目である。(略) 多様なベンチャーキャピタルが多様な価値判断で多様なベンチャーに投資する姿は、健全な競争であると言えるだろう」

と書いた。今も考えは変わっていない。よって、当然、段階的投資手法を取る一般的なベンチャーキャピタルのやり方もあれば、Warburg Pincusのこのやり方もあるわけで、それぞれの世界観に基づき、競争していけばいいと思う。

事業再生とベンチャー立ち上げは違う

ではWarburg Pincusの提案する投資プロセスが抱える問題点とは何か。それは、ベンチャー成長の不確実性、事業創造の不確実性というものを、この新しい投資手法が軽視している点である。「新事業創造というのは、頭のいいビジョナリーと、経験豊富な経営者と、豊富な資金があればできる」というやや傲慢な思想が、この一括投資手法の陰に隠れている。しかし、新事業創造なんて、そんな奇麗事ではいかない。

バイアウトの場合は一気にカネを入れても、その代償に、たとえば先の例では「EDSの子会社だったUGS PLM Solutions」という事業が丸ごと手に入る。そこを足場に会社をよくしていけばいい。しかしゼロからのベンチャー創造は話が違う。「the identification of a major market discontinuity」を決めて、「experienced operating executives」を連れてきて、技術やら製品やらチャネルやら「the components of a complete business」を集めて、事業を創造するという彼らの発想。足場となる事業がないのに、コンセプトから、こんなふうに調子よく新事業が作れるなんて、ちょっと虫が良すぎるんじゃないかな、僕はそんなふうに思う。

ただ、この見解の相違は、ベンチャーキャピタルが「市場創造の難しさや試行錯誤の末の失敗」ばかりを見過ぎ、Private Equityファンドが「巨額のカネがあると物事がうまく回る」事例を見過ぎたゆえ、両者が違う世界観を持っているからなのだろうと思う。どちらが正しいというものではない。

解説、感想はこんなところであるが、ダウンロード可能なPowerPointプレゼンテーションもあるので、ご興味のある方はどうぞ。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー

個人情報保護方針
利用規約
訂正
広告について
運営会社