お使いのブラウザは最新版ではありません。最新のブラウザでご覧ください。

CNET Japan ブログ

e-mailへの参入は変わり始めたGoogleの新たな挑戦

2004/04/05 09:20
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
ブログ管理

最近のエントリー

先週金曜日の本欄でご紹介したGoogleのGmailはやはりエイプリルフールではありませんでした。というわけで、4月1日には半信半疑で黙りがちだったメディアも、4月2日(金)からは意見を表明しはじめている。

高まるプライバシーへの懸念

San Jose Mercury Newsの「Google's `Gmail' raises concerns」が包括的でよくまとまっている。

「Google -- the company whose founders vowed to ``do no evil'' with their products -- is raising concerns about privacy with a new e-mail service that will include targeted advertising based on scans of private e-mail messages.」

「悪をなさない」が創業者の公約だったGoogle。そのGoogleによるGmailのビジネスモデルは、「プライベートなe-mailを読み取った上でターゲット広告を入れ込む新しいe-mailサービス」。それは間違いなく、プライバシーについての懸念を引き起こす。これがこの記事での冒頭の問題意識。

「Google officials, including co-founder Larry Page, said such concerns are unfounded, noting that company computers, not people, will be analyzing the e-mail messages and matching them to ads in a database. The company posted a privacy policy on its Web site Wednesday night that promises that ``No human reads your mail to target ads or other information without your consent.''」

一方、Google側の言い分は、すべての作業はコンピュータによって行なわれ、そこに人間は関与しないから大丈夫、というものだ。

しかし、ターゲット広告の精度を上げていくことがe-mail事業の根幹になるのであれば、当然のことながら、プライバシーの塊たるe-mailの中身の意味をより深く理解して最適な広告を配信するという方向に、技術開発のゴールが向けられていくに違いない。利便性の代償に、我々はそこまでのことをGoogleに許すのだろうか。我々の社会というのは、Googleのギークたちが考えるほど、シンプルにはできていない。ひとつは我々1人1人の不安。もう1つは法律の問題である。まずは不安の方から。

「``It's an interference into an area where people have enjoyed a great deal of privacy,'' Hoofnagle said. ``It's like a telemarketer listening in to your phone call and then trying to sell you something.''」

これは明らかにプライバシーの侵害。テレマーケターが、顧客の電話の中身を聞いたうえで、モノを売りつけようとするのと同じだ。

「Don Cooper, a Web site operator and technical consultant in New Orleans, said he worries Google will pull information from e-mail messages and create a database of users' personal information.」

Googleがe-mailメッセージから情報を取って、それをもとに個人情報のデータベースを作ることを心配する。

この不安・2例は、これからわきあがってくるだろう議論の中で、繰り返し、語られていくに違いない。

法的な問題

もう1つは法律。この記事では、

「``If they're not sharing information, if it's staying inside, I don't see a big problem. Just because something is personalized doesn't mean it's an invasion of privacy. In fact, in some ways it's encouraging to know that you could personalize something without invading privacy.''」

「Googleが情報をシェアしなければよい、ただ何かをパーソナライズするだけではプライバシー侵害ではない」という専門家の意見が紹介されているように、Googleは法的な問題はないと判断しているわけだろうが、この問題はこれから、必ずや法解釈の問題と関わってくる。特に、日本の場合どうなのか。Googleがアメリカをベースに、日本語を含むほぼすべての言語でのGmailサービスを開始したときにどうなるのか。素人としては、「Ask right questions」(正しい質問ができるくらい)の準備をして、専門家の意見にこれから耳を傾けていきたいと思う。

Google側の言い分は、

「Page, Google's president of products, said company employees would ``never'' read a user's e-mail, and personal information will not be shared with advertisers. Page likened Google's analysis of e-mail content to that of spam filters, which have been used for years without raising privacy concerns.」

であり、「スパムフィルターだってこれまでずっと同じこと(e-mail分析)をしていて、何も問題を生じさせていないではないか」「我々は絶対にe-mailを読まないし、個人情報を流出させない」と創業者のラリー・ページは言う。

技術的にはそうかもしれないが、スパムフィルターと広告挿入では、一般利用者の印象や不安の質が全く違うことを、ラリー・ページもこれからはきちんと理解した上でしゃべる必要があろう。金曜日の本欄の最後で、

「突き詰めて言えば、Googleという会社が、天才ギーク技術者集団という現在の性格から脱皮して、顧客からの信頼・安心感を勝ち得る真に立派な企業になれるかどうかが、これからのカギを握るのである」

と書いたが、まさにそういうことである。Googleはこれまで、「個人情報に拠らない高収益ネット事業」という、ネット時代が到来して以来、誰にも作れなかった事業を作り上げた。そこがGoogleの凄みだったのだ。しかしこれからは、社会とか人間とかにきちんと向き合うという、Googleのギークたちにとっては未知の分野に踏み入る。そしてこのプライバシー問題は、その痛みの始まりであり、その問題を技術だけでなく企業として総合的に乗り切っていけないと、1兆円とも2兆円とも言われる公開時時価総額を維持し、発展させていくことはできないのである。

コンピュータの可能性とGoogleの信頼性

Google Responds to Gmail Privacy Concerns」は、もう少し踏み込んで、Google側の言い分を載せている。以前本欄でインタビュー記事をご紹介したことのあるWayne Rosing副社長の発言だ。

「In response, Google says what's drawing concern is what computers are capable of doing, not what the company does in reality. "We pride ourselves in protecting users' data and holding ourselves to he highest standard," said Wayne Rosing, VP of engineering for Google.

"We do not keep that data in correlated form, it's separated in various ways and we have policies inside the company that do not allow that kind of correlation to happen. We consider any program or programming that correlates user data with user identity to be a violation of trust and we do not do that," said Rosing.」

コンピュータにどういうことが可能かということと、実際にGoogleが何をやるかということを混同しないでくれ、我々を信用してくれ、ということを彼は基本的には語っている。これから無数のこうした議論が、Googleのマネジメントとユーザや専門家たちによってなされていくに違いなく、Gmailのこれからはそう単純な道のりではない。

エイプリルフール疑惑は変化の証拠

最後に、なぜこのGmail発表が、3月31日に発表されたにもかかわらず、エイプリルフールではないかと噂されたかについて考えてみたい。Googleは、ピジョンランクというエイプリルフールを過去にやったことがあるから、という答えは答えになっていない。これはよく見ればエイプリルフールとわかるお遊びだったからで、今年も同じことは、「Google Copernicus Center is hiring」でやっている。

「Google is interviewing candidates for engineering positions at our lunar hosting and research center, opening late in the spring of 2007.」(2007年春に開く月面ホスティング研究センターでのエンジニア・ポジションのインタビューを始めた)

という書き出しで、すぐにエイプリルフールとわかる。公開間近の企業には、この程度の遊びしか許されていないのである。

しかしそれでもなお、皆が「エイプリルフールではないのか」という懸念を、4月1日が明けるまでぬぐい切れなかったのは、Gmailが「常識はずれ」であること、それに加えて「これまでのGoogleと違う」こと、の2点ゆえと思われる。

「常識はずれ」とは、「e-mailへのターゲット広告」という、踏み込んではいけないのかもしれない領域に踏み込もうとしている危険ゆえの直感だ。そして「これまでのGoogleと違う」のは、前述した個人情報やプライバシーの問題がGoogleにとっては新しいことなのに加えて、製品ローンチの仕方のこれまでとの違いゆえの違和感だと思う。Googleは何か新しいサービスを始めるときには、これまで必ずベータ版を一般公開して、そこからのフィードバックを受けて、公開の場で技術を改善していく、というオープンなアプローチを取っていた。今回はそこがぜんぜん違う。そんなこんなが一緒くたになって、エイプリルフールかもという一抹の不安が残ったのだと思う。

Gmailに対する僕の基本スタンスはポジティブである。ぜひ、ビジネスモデルの今後の変更にも柔軟にしつつ、このGmail事業をきちんと仕上げ、新しいコンピューティング・スタイルの地平(金曜日の本欄もあわせてご参照)を、Googleには切り開いてもらいたい。ただ重ねて言うが、そのために重要なのは、Googleという会社が、天才ギーク技術者集団という現在の性格から脱皮して、顧客からの信頼・安心感を勝ち得る真に立派な企業になることなのである。そしてそれが、株式を公開して、公開企業になることの本当の意味である。しかし、それでいてなお凡庸な会社に堕することなく、活気に満ち、思い切ったリスクをとって冒険ができる、若い魅力的な会社であり続けなければならない。Googleは、そういう挑戦を乗り越えて初めて、IT産業界に10年に1度生まれる「世界を変える会社」になれるのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
運営事務局に問題を報告

最新ブログエントリー

個人情報保護方針
利用規約
訂正
広告について
運営会社