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一流の学者起業家が考える半導体のイノベーション

2004/03/30 08:32
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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米国学会誌ACM Queueの今月(DSP特集)のインタビューは、半導体ベンチャー、Atheros創業者・Teresa Mengのインタビューである。

海外出身で起業家としても成功した大学教授

彼女は、台湾生まれで台湾育ち。国立台湾大学卒業後、UCバークレーに留学し、コンピュータ・サイエンスと電気工学で博士号を取った。その後スタンフォード大学に移り、1999年にスタンフォードを休職(leave of absence)してAtherosを創業。

「In 1999, Teresa Meng took a leave of absence from Stanford University and with colleagues from Stanford and the University of California, Berkeley, founded Atheros Communications to develop and deliver the core technology for wireless communication systems.」

Atherosは、これまで3回にわたる資金調達で、9830万ドル、ざっと100億円を集め、

「Funded by August Capital, Fidelity Management & Research Company, Foundation Capital, New Enterprise Associates and others, Atheros has raised a total of $98.3 million in three rounds of funding.」

この2月にIPOしたのを期に、Teresa Mengは、スタンフォード大学に教授として戻った。一流の学者としてばかりでなく、

「As a result of this effort, Meng was named one of the Top 10 Entrepreneurs by Red Herring, Innovator of the Year by MIT Sloan School eBA, and received the CIO 20/20 Vision Award.」

起業家としても高く評価された。ホームページに行くと、エジプトで馬に乗っている写真が出てくる。なかなか格好いい。

シリコンバレーというのは、その才能や実績に応じて、目に見えない階層社会が形成されているところだが、今や彼女は、「殿堂入り」こそしていないけれど、「シリコンバレーのメジャーリーガー」という、上から第二階層くらいのところにおり、大学院くらいからアメリカにやってきた技術指向の若者にとってのロールモデルの1つとなっている。

彼女のキャリア「台湾生まれで台湾育ち。国立台湾大学卒業後、UCバークレーに留学し・・・・」の「台湾」を、「東京」や「京都」などに置き換えた若い日本人が、これからたくさん出てきたら面白いじゃないか、というのが、僕たちがJTPAを始めた理由の1つである。Teresa Mengのような日本人はまだほとんどいないが、それはたまたま日本人の多くが、これまでそういうキャリアを目指さなかったからというだけに過ぎない。70年代、80年代の日本大企業でのキャリア環境は、右肩上がりの時代特有の、素晴らしく手厚いものだった。そこが変わってしまった今、機は熟した。こういうアメリカでのキャリアをトライする人さえ増えれば、必ず、Teresa Mengのような日本人が増えてくるに違いないのである。

何年も先を読んで賭ける半導体ベンチャー

ところで、彼女が創業したAtherosという半導体ベンチャーの記述は下記の通り。

「Using a combination of signal processing and CMOS RF technology, Atheros came up with a pioneering 5 GHz wireless LAN chipset found in most 802.11a/b/g products, and continues to extend its market as wireless communications evolve.」

「Atheros as a company has endeavored to be the technology leader in wireless systems design—architecture, circuit design, software, system performance, and all that. When we talk about wireless today most of us think about cellphones—which use licensed band and deliver low data rates and very limited service capability. Atheros was founded to provide the technology to change that view so that when people think about wireless in the future, they won't feel its presence, as there will be almost unbounded, unlimited capacity everywhere, and it will be much cheaper and easier to use.」

Wi-Fiが、ビジネスマンやベンチャーキャピタリストの間で「Next Big Thing」ではないかと騒がれ始めたのが2001年の初め頃だったから、Atherosはそれよりも2年以上前からビジョンをチップに仕込んでいったわけだ。

今、メモリー以外の世界半導体大手(特に日本の半導体大手)の戦略は、インテルやTIのような分野特化専業ジャイアントを除けば、ほぼ大手顧客密着のソリューション事業がその柱となっている。そんな中、半導体ベンチャーの役割とは、何年か先に広く普及するだろう標準や機能を、リスクを取って、大手よりもうんと早くスタートして先に作りこんで、その世界が立ち上がってくることに賭けることだ。いくら技術がすぐれていても、世界の先を読む力がないとつぶれる。だから彼女のようなテクノロジー・ビジョナリーの存在が、成功には必要不可欠だったわけだ。

興味のある方は、ACM Queueの5ページにわたる彼女のインタビューをお読みください。JTPAを始めてから約1年半にわたって、若い人たちにとってのロールモデルになればいいなという意味で、シリコンバレーで活躍する日本人を紹介する文章をいくつも書いたのだが、日本人ばかりでなく、Teresa Mengのように海外からアメリカにやってきてそのまま残って成功した人でこれはと思う人がいれば、これからは本欄で積極的にご紹介していきたいと思う。

学問の境界・融合領域にこそイノベーション機会がある

さて、3月18日の本欄「コンピュータ・サイエンスの発展を説くビル・ゲイツ」では、ゲイツがイメージする次のイノベーション領域が、「コンピュータ・サイエンスと他の学問との境界・融合領域」であるという認識をご紹介したが、Teresa Mengがインタビュアーの「あなたの信号処理研究のこれからの方向は?」と尋ねられて、やはりこんなふうに答えているのが面白かった。

「Probably something bio-related. I do feel that signal processing is the basic tool that can be applied to many different areas. We have applied it to low-power circuit designs, video processing, and, most recently, wireless communication. I think in the next several decades signal processing will be widely used in the bio field—for example, genome analysis or diagnostics. Signal processing is after all a science for optimal detection. I think there might be some interesting developments in those areas.」

たぶんバイオ関連。信号処理は、多くの異なる領域に応用できる基本ツールだ。最初は低電力回路設計、次にビデオ処理、そしてワイヤレス・コミュニケーションへと応用分野を広げてきた。次の数十年は、信号処理が広くバイオ領域で使われるだろう。たとえばゲノム解析や診断。信号処理というのは突き詰めて言えばoptimal detection(最適探知とでも訳すのだろうか)だから、そういう領域で面白い発展があるだろうと、彼女は言っている。

スタンフォード大学の西義雄教授(JTPAの主旨に賛同してアドバイザーになっていただいている)に今から1年半くらい前にお話をうかがったときも、

「半導体産業は、次の十年の間に大きな技術的転換点を迎えます。この二十年間続いてきたCMOSというドミナントデザイン(半導体産業を支配する半導体そのものの概念)が六〇%くらい変わってしまう可能性がある。ドミナントデザインが崩れていく過程では新しい材料が登場しますが、そこに対応できる人材が旧来の半導体企業にはいません。電気・電子工学を背景とした技術者だけではブレークスルーを生み出せないからです。

電気・電子だけでなく、化学、化学工学、材料科学、生物学、応用物理、機械工学といった学問の最先端を学んだピンの頭脳を一カ所に集めて融合させることにおいてのみ、ナノサイエンスの新しいイノベーションが生まれます。それは大学でなければできません。この若い技術を生んで育てていくのは二十代、三十代の若い人たち。だから私はスタンフォードに来たのです。

半導体がシリコンから作られるということに変わりはありません。それが六〇%くらいと言った理由です。直径三十センチ、厚さ五百ミクロンのシリコンウェハーのうち、今実際に使っているのは表面から一ミクロンくらいの部分。その表面がこの十年で大きく変化するのです」

と、学問の境界・融合領域にこそイノベーション機会があるのだと、おっしゃっていた。

ビル・ゲイツ、Teresa Meng、西義雄。コンピュータ、電気工学、半導体分野出身の最先端頭脳に共通するのは、他の学問との境界・融合領域にイノベーション機会を狙う視線なのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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