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CNET Japan ブログ

ベテランの参入がBlogを活性化させる

2004/03/29 09:27
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プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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今日は、最近始まった吉岡弘隆さんの「未来のいつか/hyoshiokの日記」をご紹介したい(本欄で紹介することについては、吉岡さんの了解を取っています。念の為)。始まったばかりで、吉岡さんの文章書きエンジンはまだ全開していない感じだが、このダイアリーは絶対にお薦めである。吉岡さんは、現在ミラクル・リナックスのCTO。CNET Japanで、末松さんのオープンソース連載に登場したときの紹介文を引用すれば、「ミラクル・リナックス 取締役技術担当 吉岡 弘隆氏。日本ディジタルイクイップメント、日本オラクル(米オラクルよりの出向)を経て現在に至る。YLUG(横浜 Linux Users Group)でカーネル読書会を主催。OSDLのボードメンバーでもある」とある。

ソフトウェア世界で起こっている事象の意味を確実に言葉にできる人

Blogでも日記でも何でもいいのだが、こういう「現場で一流の仕事をし続けて20年以上」というベテランの日記やBlogこそ、日本にもっともっと増えてほしい、と僕は熱望している。ちなみに、吉岡さんと僕は、高校時代からの付き合い(僕が2年後輩)だから、かれこれもう25年以上になる。

僕は、吉岡さんの話すこと、書くことのすべてを勉強したいと、いつも思っている。彼がシリコンバレーから日本に帰ってしまってから、最近は会う機会もうんと減った。だからこのダイアリーが始まったのを発見して、本当に嬉しかったのだ。もちろん「友人として、その人となりを知っているから、彼の言うことなら信用できる、言葉の背景が理解できる、直接質問もできる」ということもあるのだが、彼がこれまでのキャリアで経験してきた現場、見てきた世界の組み合わせが稀有で、しかもその総合的な経験をもとに、今ソフトウェア世界(産業、技術、カルチャー等)で起こっている事象の意味を、確実に言葉にすることができる人だからである。

何が彼のこれまでのキャリアや経験における稀有な組み合わせであるか。

40代で現役のプログラマー

(1) 40代半ばにして現役でプログラムを書いている。アメリカでは当たり前かもしれないが、日本では40代現役一流プログラマーというだけで稀少だ。彼の3月11日のダイアリーでは、

「未踏ソフトウェア創造事業というのがある。IPAと言うところが予算を出して独創的なソフトウェアの開発を支援するとプログラムである。一昨年応募したところ幸いにも採択され hardmeter というソフトウェアを開発した」

とあるが、未踏ソフトウェア創造事業というのは、別名・天才プログラマー発掘プロジェクトとも呼ばれ、組織を対象にして国の予算をつけるのではなく、個人として一流と認められてはじめて助成金が出る仕組みだ。

また、「いい文章を書くにはたくさんの読書が必要なのと同じで、いいプログラムを書くにはたくさんソースコードを読まなければならない」が吉岡さんの口癖で、カーネル読書会なるものを主宰してもいる。彼が、デイタイムはシリコンバレーのOracle本社で開発をしながら、仕事が終わったあとや休日には、UNIXのソースコードを読んでいる、というような話を聞いて、こういう人にはかなわないよなぁ、と心から思った記憶がある。彼の96年の日記「Unixのソースコードの解説本」もあわせてご参照。

異なる組織での現場経験

(2) 80年代のDEC日本、DEC本社(ボストン)、90年代のOracle本社(シリコンバレー)、日本オラクルという、全く異なる組織的環境でソフトウェア開発の現場にいた(しかもそれぞれの会社の全盛期)という経験を持つ。3月24日のダイアリーには、彼のDEC時代のことをこんなふうに書いている。

「わたしは80年代米国系のコンピュータ会社の研究開発センター(日本子会社)に勤務していた。なんで日本に研究開発センターを作ったのか、とかつて所長に聞いたことがある。優秀な人材を雇用するためだと彼は答えた。当時のわたしの初任給がいくらだったかよく覚えていないし、米ドルが何円(200円近くしたと思う)だったかも定かではない。しかし、サマーインターンできていたMITの学部の学生が米国本社に採用されたときの初任給が3万ドルだか4万ドルだか忘れたが我々の給料よりも倍以上高かった事だけは鮮明に記憶している。我々の人件費は確かに安かったのである。わたしは米国本社で働きたいと強く思っていた。それは技術の本場で自分のスキルを伸ばしたいと言う事ももちろんあったが給与水準の高さも魅力ではあった」

そして、90年代後半を最盛期のシリコンバレーで過ごし、Oracle 8カーネル開発チームの一員として、巨大プログラム開発の第一線で活躍された。米国ソフトウェア大手における現代の大規模ソフトウェア開発の実際がどうなっているのかという話は、Microsoft、Oracleなどほんの一握りのソフトウェア企業の中核で仕事をした経験がないとその本質はわからない。そんな大規模開発の現場を経験している最中で書かれた、彼のシリコンバレー日記は、ものすごく刺激的だ。「大規模ソフトウェア開発の実際」「デイリービルド」「ソースコード管理システム」「デバッグ」「ソフトウェアのレビュー」なんてあたりは、米国大手ソフトウェア開発現場における貴重な証言である。ちなみに、吉岡さんがシリコンバレー日記を書いていた時期(96年から99年)は、オープンソース勃興期にもあたるので、公開されたばかりのMozillaのソースコードをダウンロードする話なども含め、勃興するオープンソースといううねりについての彼の新鮮な驚きが実感できる。彼の「モジラの解剖」というページなど、いま読んでも面白い。100万行を超える大規模ソフトウェアをダウンロードしてどう読んでいくか、という指南ページだ。3月27日のダイアリー「この日記で取り上げるかもしれないこと」では、

「オープンソース、Linuxとか、カーネルの話とか、キャリアとか仕事の事とか、シリコンバレー日記で書いていたようなこととか。昔(1998年頃)モジラの解剖という日記をやっていたのだけど、それも取り上げるかもしれない」

と「モジラの解剖」も含めたこれからのテーマ候補が列挙されている。

(3) シリコンバレーに住み、シリコンバレーのソフトウェア開発の現実(大手、ベンチャーの両方)や文化を身体で知っている。個人としてアメリカのたくさんのプログラマー、エンジニア達と深い交流を持っているからだ。

(4) 日本に帰国したあとは、Oracleを退社してミラクル・リナックスというベンチャー組織を立ち上げ、以来、ソフトウェア・ベンチャーの経営経験も積んでいる。ミラクル・リナックスは日本の大手企業から出資を受けているし、各社と提携しているので、日本大手企業のソフトウェア開発現場も熟知している。日本企業の外での多様な経験に基づく視点ゆえ、日本企業を評価する視点が鋭い。

中国のソフトウェア産業に精通

(5) そして、ミラクル・リナックス事業の現場で中国との仕事も多く、勃興する中国のソフトウェア産業の現場にも精通している。アウトソーシング事業で世界を席捲するインドのソフトウェア会社とも付き合いもある。本欄3月24日「シリコンバレーから見える中国の脅威」にもトラックバックをいただいたが、彼が3月24日のダイアリーで語る中国論には現場感覚が溢れている。

「先日インドのソフトウェア開発会社が営業に来たのだがCMM(Capability Maturity Models)のレベル5の組織で一人月30万円からという感じである。30万円というのは確かに安い。しかし驚異はCMMのレベル5という世界最高度のソフトウェア開発体制である。日本でCMMレベル5の組織があるかどうか知らない。あったとしても、せいぜい片手程度ではないだろうか?まあ最高度のソフトウェアハウスの一人月はいくらぐらいだろうか?200万円くらいはするのだろうか?」

「中国のソフトウェア会社もどんどんCMM等の取得をしているが、ソフトウェアの組織的な開発方法論の実践という意味では日本は勝負になっていない」

「最近中国で技術者を募集したところ、北京大学、清華大学卒業の非常に優秀なエンジニアが多数応募してきた。日本では技術者を募集しようにも彼らレベルのエンジニアを採用することは、ほとんど不可能である。そもそも日本では人材が十分流動していないので、必要な時に必要な人材を必要なだけ採用するというのができないのである。ビジネスが急速に発展しているとき、人材供給力、ある種のスケーラビリティがあるのは非常に魅力的である。かつてのシリコンバレー(今でもかもしれないけれど)が持っていた、それぞれの分野のエキスパートの人材供給力と言う点で中国、インドは確かにアドバンテージを持っているのである。シリコンバレーは人材供給力はあるけれどコストが高いのが問題なんだよね」

自らオープンソースに参加

(6) そして、そういう商用ソフトウェア世界、ソフトウェア産業のダイナミクスをすべて知った上で、自らオープンソース世界にコミットしている。たとえば、3月21日のダイアリーで書かれている

「Linuxカーネルの開発者を調べるためにソースコードを検索しメールアドレスをざっとみると、IBMとかHPとかぞろぞろ出てくる。最新のLinuxカーネルは、夜中にハッカーが楽しいからいろいろパッチを作っていると言うスタイルではなくて、IBMのプログラマがお仕事として給料をもらいながらパッチを作っている、とか言うスタイルで開発されているのが大半なのである。昨年Ottawa Linux Symposium http://www.linuxsymposium.org/2003/ というのに行ってきたのだが、発表者の所属で一番多かったのがIBMである。カーネルハッカーは企業に雇用されていてハックで飯をくっているのである。霞をくいながらハックしているのはすくなくともLinux Kernel開発コミュニティのなかでは少数のような気がしている。もちろん例外はいろいろあるけどね」

こんなコメントは、今オープンソース世界で現実に何が起きているかを考える上で、とても重要な指摘だ。末松さんの連載での「コミュニケーション能力がコミュニティ参加への鍵」の項で彼が話している部分などもぜひ再読していただきたいと思う。たとえばこんな部分。

「問題意識を持った人が「オレがやった方がいい」とデビューし、彼/彼女がやっていることを多くの人たちが認知すればどんどん入れ替わります。リーナスが得意でない分野、例えばエンタープライズ系のスケーラビリティやスケジュール云々といった細かいところに関しては、企業でいうとIBMやHPやインテルなどが積極的に機能の追加パッチをコミュニティへ提供し、議論してコンセンサスをとりながら発展させていきます。ですので、リーナスの不得意分野は企業系の人たちが高度な専門性を提供するというメカニズムになっています」

「最終的に選ばれるのは多くの人たちに認知されているものです。技術的に優れていたり魅力的な展望が見込まれるものや、誰かが困っている機能を追加したバグフィクス──ひとつひとつにそういう属性がアタッチされていて、そこで多くの人たちを納得させられないものはどんどん競争から落ちていって忘れ去られるという、非常に厳しい競争があるんですね。その競争が、オープンソースの健全な発展を生んでいるというのが面白いところだと思います」

ベテランの参入がBlogを活性化させる

(1)から(6)までを組み合わせた20年以上の経験を持ち、それをベースにカジュアルに毎日、Blogや日記の形で何かを書いているという人を、僕は吉岡さん以外に知らない。日本とアメリカ、西海岸と東海岸、プログラマーと経営者、大企業とベンチャー、商用大規模ソフト開発とオープンソース。こうしたさまざまな対立軸の両極をすべて経験し、自らの内部でその対立軸を相対化できているところが、吉岡さんの凄みなのである。日本では概して、日記やBlogやソーシャルネットワーキングなどは、ネット・リテラシーの高い若い人達が中心の世界だが、吉岡さんのようなベテランの参入は、絶対にこの世界を活性化することと思う。日々の雑感の中に、豊富な経験に基づく斬新な視点が、知らず知らずのうちに随所に散りばめられること必定だからである。

「この日記を誰に向かって書くかと言うと、一義的には自分に向かって書くのである。未来の自分に書くのである。自分が当事者として見聞きしたもの、経験したことなど、一次情報を発信したい。よくあるBLOG的な、単なる評論、議論のための議論ではなく、荒削りでも自分がやったこと、感じたことを書いていきたい」

これがダイアリーをスタートした3月8日の吉岡さんのコメント。シリコンバレー時代の日記くらいのボリューム感で、ぜひワシワシと書いてください。これからに期待しています。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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