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CNET Japan ブログ

文科系のためのナノテクビジネス入門

2004/02/03 08:50
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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[ゲスト] 村山尚武 Naotake Murayama
2月2日(月)〜2月10日(火)までの間、梅田望夫さんの代わりに村山尚武さんがゲストブロガーとして登板します。村山さんはシリコンバレーのあるベンチャー企業でBusiness DevelopmentのDirectorを務められており、ご自身でも「Sotto Voce」というBlogを運営されています。村山さんの経歴についてはこちらをご覧下さい。

昨日のエントリーを読まれてチェック済みの方はお気づきのことと思うが、Scobleのblogが先週金曜日以来「休暇中」である。

休む理由はScoble本人がこちらに挙げている。個人的な理由、仕事の都合など7項目が挙げられているが、最大の理由はバーンアウトのようだ。

「I'm addicted to the blog and it's started hurting my work relationships, my personal relationships, and skewed my judgment. Translation: I'm a blog addict and need to work on the rest of my life for a little while.」

「ブログ中毒」になってしまったお陰で、仕事にも、プライベートにも悪影響が生じたばかりでなく、自身の判断力も歪みかけていることに気づき、生活のバランスを取り戻すために少し休みたい、ということである。

この「判断力が歪む」云々に関しては、別の項目として、「意見がマイクロソフト寄りになりすぎている」とも書いているので、今回の音楽ファイル論争がだいぶこたえたのではないだろうか。

毎日のように世の中から膨大な情報を吸収し、それを変換してまた吐き出すという形で知恵の形成に尽くしていることに快感めいたものを感じながらも、いつしかそれが自分のエネルギーを吸い取っている、ということに気づいたのだろう。

「How long will I be gone? I'll try for a week. That'll be hard enough for me to do.」

と「1週間休むのも辛い」、と書いているので、これは本物の中毒症状である。早く復帰してほしいと思う一方、自分も似たような状況に陥る可能性もあるので、ゆっくり休んでほしいとも思う。

ナノテクはバブルか?

ここで話はがらりと変わって、今日はEntrepreneurship、それもテクノロジーベースのビジネス作り、というテーマで、ナノテク関連の話題を取り上げたい。

以前、自分のブログでも取り上げたChurchill Clubというシリコンバレーのネットワーキング団体があるが、1月にここ主催のイベントで、 John Doerr、Tim Draper、Jim Breyer、Esther Dysonというそうそうたる顔ぶれのシリコンバレーのVCを揃え、「2004年に何が起きるか」というテーマで座談会が行なわれた。

この時の話では、ナノテクはまだビジネスにならない、という結論だったようだ。

「John Doerr of Kleiner Perkins Caufield & Byers in Menlo Park says nanotechnology -- the fanciful notion of building objects one molecule at a time -- still isn't a real business, despite the buzz. ``I think we're in a nanotech bubble now. A very, very small bubble.''」

「ナノテクはバブル、しかもとても小さいバブルだ」と言われている。

確かに、ネットバブルの崩壊後、その残骸の中から(また、その残骸があったからこそ)Googleのようにインターネット関連のビジネスが姿を変え、より強くなって登場している中では、VCにとってはナノテクはあまり「美味しい」ものではないのだろう。もちろん、これまで投資したインターネット関連産業の再興を機に、かつて投資したままぱっとせずにお金だけ費消しつづけていた会社を何とかしよう、という方に意識が向かっているのかもしれないが。

Doerrの発言はまた、3〜5年というベンチャーキャピタルの投資サイクルの中で「大化け」するものに投資することにより出資者への責任を果たさなければ行けない、という立場からも来ているように思う。

Forbes誌のこちらの記事にもあるように、ナノテクを使った製品は確かに登場しているので「still isn't a real business」というのは極論だと思う。ただ、ここに挙げられたものを見ると、どれも素材関連、しかも既存の素材の性能と同じ機能をより優れた形で果たす手段としてナノテクが使われているにすぎないので、このままでは世の中を変えてしまうような「The Next Big Thing」になるとはとても思えない。

コンサルタントだった時にとあるディスプレイメーカーの依頼で「ナノテク」の代表格であるカーボンナノチューブ(CNT)を利用したディスプレイを作ろうとしているさまざまな企業の競争力分析を行った事がある。ここでのナノテクの「売り」は、CNTをディスプレイの基板上に「生やす」ことにより、より大きな表面積をもったディスプレイを安価に製造することを可能にする、というものであった。この時の印象では、CNTいう素材自体はとても興味をそそるものだが、アプリケーションとしてはやはり「既存技術の置き換え」であり、そんな革命的なものかな、と首を捻った覚えがある。

私生活でも、チノパンを買った時についつい好奇心に負けて10ドルほど余計に払って(従って、私は「新しもの好きで、価格プレミアムを払うことも辞さない」セグメントに属することになる)上の記事でも紹介されているNano-Texという会社のNano-Care素材を用いたものを購入してしまったが、そうそう何かをこぼしてしまうわけでもなく、まだナノテクの「恩恵」にはあずかっていない。

このような経験から、ナノテクというのは「サイエンス」としては面白そうだけど、私のような「ビジネス」のスキルしかない人間にとってはいささか縁遠く、かつまた「既存技術の置換え手段」に終始する動きの遅そうな業界に思え、そこで起業している人々に対しても「科学者の集まり」という印象しか持っておらず、あまり興味が持てないものであった。

そんな考えが変わったのは昨年5月、UCバークレー校の卒業生会の主催したセミナーに参加してからである。

ナノテクに見る、技術経営のあり方

このセミナー、パロアルトで開催されたので、スタンフォードの卒業生会のメンバーにも招待が来た。タイトルは「Nanotech for Biotech: The Next Big Play?」というものであったので、バイオと全く無縁でも無い仕事をしている関係上、「面白そう」という感覚で参加したが、どうも主催者側とスピーカーの思惑にずれがあったようで、バイオ関連の話はほとんど出ず、「ナノテクとは何か」「ナノテクにおけるスタートアップ固有のチャレンジは」といった話題に終始した。ただし、そのおかげで、ナノテクに対する新たな見方と、ナノテクに限られない、技術ベースの起業に関する洞察を得る事ができた。

当日のスピーカーは4名、構成はFluidigmNanosysというスタートアップから創業者が1人づつと、VCが2人。

まず最初の1時間ほどは、「ナノテクとは何か」という話で費やされたが、ここでNanosysのCEO、Stephen Empedoclesの用いた説明が非常に明快であった。 正確さには問題があるが、当日のメモから書き起すと:

「Nanotechnology is the synthesis and manipulation of materials at the micro level, and any technologies enabled by the unique properties of such materials. Silicon semiconductors may be manufactured at a nanometer level, but Intel is not a nanotechnology company.」

ナノテクとは、微小な大きさの物質の合成と組成操作、そしてそういった微小な物質の持つユニークな特性により実現される技術である。従って、シリコンを用いていくら微細な回路設計を行っていても、インテルはナノテクではないのである。

次に、「ユニークな特性」の例として、Empedoclesは以下のような例を引いた。

「We identified a material with size dependent optical properties. By bringing down the size from t nanometers to 2 nanometers, the material changes the color of the light it emits. The application? We might be able to make RGB displays using just one material, using the same manufacturing process because the chemical properties stay the same.」

同じ物質の大きさを縮小するだけで発光する色が変わることを発見したので、単一素材で、しかも同じ製造プロセスを用いてRGBによるカラーディスプレイが製造できるようになるかもしれない、という趣旨である(彼の会社でどこまで実用化しているのかはともかく)。

「何だ、結局素材の話じゃないか」と思われるかもしれないが、そうではない。とかく「ナノマシン」であるとか「ナノコンピューター」というSFめいたコンセプトを前面に出すのでなく、こういう本質的、かつ私のような科学の素人にもわかる説明であれば、ナノテクは応用範囲が広く、かつ速やかにビジネスになりそうなものに思えてくるのである。しかも、「色の変わる」材料のような説明であれば、ビジネスとして成長させるためのマイルストーンも立ちそうである。

別に私が感心するか否かはどうでも良い事であって、「応用範囲の広さ」「速やかな事業化可能性」「明確なマイルストーン」、この3つはまともなVCであれば、必ず事業のアイディアに求める事である。Empedocles、本職は科学者であるが、これまで2軒のナノテク関連のスタートアップに関与しており、また現職もBusiness Development担当であるだけあって、ビジネスのセンスもそうとう磨かれているのだろう。技術のすごさだけではお金が集まらないことを良く理解し、ビジネスのツボを心得た説明をしている。

また、Nanosysのビジネスモデルも、「製品事業」という図式ではない。

「We focus on developing broad range of core technologies. Our partners will do the commercialization based on them.」

上の発言だけでは不十分だが、同社について書かれた記事を読むと、「ナノテクにおけるインテルを目指している」ということである。

パートナーシップを活用し、「モノ作り」を行うことによる固定費負担を避け、身軽なままでテクノロジー開発に特化し、業界の基幹技術の提供者となることにより通じて収入を得よう、という狙いである。

「A lot of nanotechnology companies make the mistake of being too ambitious and shoot for something like nano-computers which won't be feasible for a long time. We try to find low-hanging fruit, applications that can enable new things but will bring in money in the near term.」

多くの会社がいつ実現できるかわからないような製品を目指すという間違いを犯しているが、当社は短期的に実現可能な事、すぐおカネになるものを考えている。

これらの発言を聞き、同社について書かれたさまざまな記事を読むと、Nanosysというのはなかなか面白いぞ、と思えてくる。

固定費負担を避け、短期的に収益の出せるもの(しかも、固定費が少ないぶん、さほど大きくない事業でも儲けが出る)で着々と稼ぎながら「ナノテク製品の基幹技術」の提供者としての大化けを目指す…なんだか、Googleの話を聞いているようではないか?

バブルの時も、そして「ポストバブル」の今でも、「○○の分野のインテル(またはマイクロソフト)を目指す」という企業は沢山あった。最近では「ウチの会社は○○のGoogleを目指している」という発言も良く聞く。加えて、インターネットとナノテクでは業界のあり方が全く違うので、Nanosysについてものすごく興奮するには時期尚早だと思うが、私としては、Empedoclesの明晰な語り口にすっかり感心し、注目している次第である。

ナノテクが持つ特性ゆえのリスク

といったことを書いていたら、日曜日のワシントンポストに、ナノテクの未来に波乱を引き起こしかねない不確実性を指摘した 記事が掲載された。題して「For Science, Nanotech Poses Big Unknowns」。

長い記事なので、引用は以下のパラグラフにとどめるが、ナノテクに対する「懸念」がこの一文に集約されている。

「Scientists have known for years that tiny particles such as soot or metal powders can, when inhaled, cause lung disease, cancer and other ailments. But the laws of chemistry and physics work differently when particles get down to the nanoscale. As a result, even substances that are normally innocuous can trigger intense chemical reactions -- and biological damage -- as nanoscale specks.」

ナノテクに使われる微小な材料が、人体に入り込み、蓄積されて悪影響を及ぼす危険性がある、ということである。しかも、先のEmpedoclesの発言にもあったように、ナノサイズにおいて物質の特性に変化が見られるのであれば、通常人体にとって無害な物質が、ナノサイズになったとたんに有害なものになることもあり得るのではないか、ということである。

この記事では、「ナノテク素材が細胞の中まで入り込み、DNAなどに影響を与えるのではないか」という意見まで紹介されている。マイケル=クライトンが「Prey」で「人を襲うナノマシン」というアイディアを使っていたが、こちらはより現実性を帯びた危険性である。

こういった問題に対し、Empedoclesに一度話しを聞いてみたいものである。また明快な議論を展開してくれるのか、それとも言葉を濁すのか…。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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