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グローブ流経営術「変化を察知する予言者を社内に見つけろ」

2003/11/21 10:05
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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アマゾンの「Search inside the Book」サービスを活用して、アンディ・グローブ著「Only the Paranoid Survive」を読み解く第2回。第1回は本連載11月12日「年月を経ても色あせないアンディ・グローブのIT産業経営論」をご参照ください。

カサンドラを見つけることが大事

今日はまず、「cassandras」というキーワードで「Search inside this book検索」して、この本の本文108ページに行ってみてください。

「Helpful Cassandras in your organization are a consistently helpful element in recognizing strategic inflection points. As you might remember, Cassandra was the priestess who foretold the fall of Troy. Likewise, there are people who are quick to recognize impending change and cry out an early warning.」(同書108ページ)

このカサンドラとは、ギリシャ神話でトロイ陥落を予言した女司祭で、凶事の予言者の意。アンディ・グローブは、「迫り来る変化に誰よりも早く気づき早い段階で声を大にして警告を発する」カサンドラを、組織内に持つことの重要性を説く。それは、組織内のカサンドラこそが「strategic inflection points」(戦略的転換点)を認識する最大の助けとなるから。日本企業のトップでこんなことを言っている人は誰もいない。そこがアンディ・グローブのParanoid(病的なまでの心配性)たる所以なのである。

前回解説したように、この「Only the Paranoid Survive」という本に一貫して流れるテーマは、激動するIT産業における「変化の予兆」を組織としてどう感得し、その認識をもとにいかに戦略転換を果たし、どうその戦略転換を執行しきるのか、ということである。

このカサンドラの話が出てくるのは第6章。それまでの5章を費やして、IT産業における「strategic inflection points」(戦略的転換点)の重要性がずっと語られてきた。この第6章は「”Signal” or “Noise”」というタイトルの章で、さまざまな「変化の予兆」を指し示す情報を、いかにシグナルとノイズに分解し、シグナルのみを感得するのか、という話である。そこで組織内のカサンドラ、が出てくる。

ではどうやって組織内のカサンドラを探せばいいのか。

「You don’t have to seek these Cassandras out: if you are in management, they will find you. Like somebody who sells a product that he is passionate about, they will “sell” their concern to you with a passion. Don’t argue with them; even though it’s time-consuming, do your best to hear them out, to learn what they know and to understand why it affects them the way it does.」(同書110ページ)

「カサンドラは探す必要はない。もしあなたがマネジメントの一員ならば、カサンドラこそがあなたを見つけるであろう。」というのは、組織内のカサンドラが、トップマネジメントのところにちゃんと話をしに来るような会社にしなければダメだという意味である。そしてトップが、どんなに時間の無駄遣いに思えても、カサンドラを説き伏せたりせずに、訴えかける声に耳を澄ませて、何が起ころうとしているのかを理解しなければならないと、アンディ・グローブは説くのである。

この「カサンドラ」というグローブの秀逸な表現を借りれば、僕の経営コンサルタントとしての仕事は「カサンドラのアウトソーシング」である。シリコンバレーは良くも悪くも、ITのフロンティアについての実験が日々行なわれている場所。すべて未知の分野の実験だから後から失敗だったとわかるノイズもたくさんあるが、迫り来る変化の予兆に耳を済ませてシグナルを探るには絶好の場所である。ここで日々シグナルとノイズを仕分けて、「変化の予兆」の意味を考えて顧客と議論するのが、僕の仕事である。

こういう仕事をしていていつも思うのは、日本企業をさらに強くするには、組織内部の最優秀な人材(それが20代の若い人であるケースがこの世界では往々にしてある。Googleの創業者を見よ、2人とも30歳そこそこだ)が、自らの「point of view」と言語表現能力を磨き、自らカサンドラとなってトップに進言する姿勢をいつも持つ、トップはそういう声に耳を傾ける姿勢をいつも持つ、ということなのではないかと思う。企業のトップというものは、最後の最後には、外部の意見よりも、自社のトップ人材の意見を重視するものだからである。

ビジョナリー社員が経営に及ぼす影響力

再び、「Search inside this book検索」のキーワードに、「Avoiding the trap of the First version」と入れると、110ページから114ページまでを読むことができる。

「Sometimes a Cassandra brings not tidings of a disaster but a new way of looking at things. During the height of Intel’s RISC versus CISC debate, when I was most confused, our chief technologist asked to see me. He sat down and methodically took me through his point of view while at the same time representing the other side’s argument in the most objective way that I heard. His knowledge and insights made up for my own lack of self-confidence and expertise in this area and helped me listen to the ongoing debates with a better grasp of what I was hearing.」(同書118-119ページ)

この箇所は、特に技術についてのビジョンを持つ優れた社員が、経営に及ぼす影響の多大さを指摘する重要な部分だ。アンディ・グローブは、過去に最も迷った「RISC対CISC」論争のさなかに、chief technologistが彼に与えてくれた「point of view」によって、重要な意思決定ができた経験をここで語っている。

日本企業の研究所などに行くと、ものすごく優秀で「point of view」を持った人たちなのに、「いろいろな人に何度も話をしたが、誰も俺の話をきちんと理解しようとしない。だからもう諦めた」とか言って、トップ批判をしつつくすぶっているなんて勿体ないケースがけっこうある。以前本連載のどこかで「ギークとスーツは絶対に理解しあえない存在」というのがシリコンバレーの常識だと書いたことがあるが、この引用部分のようなことが、インテル以外のどこの会社でも起こるわけではない。だから逆にインテルは強いのである。このアンディ・グローブ著「Only the Paranoid Survive」は、「あっ、こういうことを当社でも起こさせるにはどうしたらいいんだろう?」という目で読むと、いたるところに新しい発見がある本だ。

「Helpful Cassandra are quick to notice the first signs of “10X” forces but those signs are often mixed in with symptoms of forces that might appear to be “10X” but aren’t」(同書112ページ)

「A danger in assessing the significance of changes lies in what I call the trap of the first version.」(同書112ページ)

「My point is that you can’t judge the significance of strategic inflection points by the quality of the first version.」(同書113ページ)

組織内のカサンドラたちは「変化の予兆」を早くにかぎつけるが、その中にはノイズもシグナルもある。ここでいちばん重要なことは何か。世の中に新しく登場した製品やサービスの第一バージョンを見て、それが「strategic inflection points」(戦略的転換点)かどうか判断することはできないということを知れ、とアンディ・グローブは言うのである。

最近で最も面白い例は、1999年から2001年にかけて、Yahoo!をはじめとするポータルのすべてが、Googleの登場を「strategic inflection points」(戦略的転換点)とはとらえ切れず、検索エンジンの重要性を見誤ってGoogleへ機能をアウトソースしてしまった失敗などは、この例にあてはまろう。

インテルは、半導体というやや外からは見えにくいプロフェッショナルの世界で、地道にこつこつと、シグナルとノイズをかぎわけ、日々「strategic inflection points」(戦略的転換点)の模索を続けているわけだ。本連載4月16日「VC投資が減少する中で、インテルが積極的に投資を続ける理由」で、インテル・キャピタルが旺盛な投資をし続けている話に簡単に触れたけれど、インテル・キャピタルの活発な投資活動は、「変化の予兆」をかぎつけることへのアンディ・グローブの異常なまでの執念を、オリジナルで斬新な経営戦略に結実させた稀有な具体例である。

ところでシグナルとノイズについて言えば、いま世界中のITベンダーのほぼすべてが、Amazon, eBay, Yahoo, Googleらネット列強を、自らとは別の業態の企業だと認識しているが、そのこと自身もう既に「strategic inflection points」(戦略的転換点)を見誤っている証拠なのかもしれない。そんなことも思う昨今であるが、僕のこの発想がシグナルなのかノイズなのかは、実は後からしかわからないところが、面白くも難しいところなのである。

さて、またおいおい、アンディ・グローブ著「Only the Paranoid Survive」を読み解く試みは続けたいと思う。

来週から充電期間に入ります

さて、最後に、ひとつ、お断りがある。

僕は、毎年、Thanksgiving(感謝祭)からクリスマスまでの1カ月を、完全な休暇ではないが、小説をたくさん読んだり、のんびり過ごしたり、1年を振り返って来年の構想を立てたり、日々の仕事のスケジュールの制約に縛られずに考え事をする充電期間に充てることにしている。

ということで、本連載も、感謝祭の来週は1週間お休み。12月は毎日更新ではなく「週2回を目標とする不定期更新」とさせていただきます。毎日更新はまた来年1月からということで、どうぞよろしく。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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