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新任リーダーは最初の90日間が勝負

2003/11/14 10:05
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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ハーバードビジネススクールのWorking Knowledgeの最新記事、「A Fast Start on Your New Job」を読んで、ブルースという元同僚を思い出した。この記事のテーマは、新しい環境にリーダーとして飛び込んだら、最初の90日間が勝負だ、という研究についてである。面白い研究をする先生が居るものだ。まずは、僕が2年くらい前にフォーサイト誌の連載「シリコンバレーからの手紙」の中で、ブルースについて触れたくだりを引用しておこう。

『「ブルースは本当にCEO(最高経営責任者)タイプだな。いつかフォーチュン500のCEOになるんだろうねぇ」

上司や顧客から陰でいつもこんなふうにささやかれていたブルースは、昔勤めていたアーサー・D・リトル(ADL)というコンサルティング会社での同僚だった。大学時代にバスケットボール選手だったブルースは2メートル近い長身。アメリカ人の父親とスウェーデン人の母親との間に生まれたが、父親が早くに他界したため若い頃はずいぶん苦労したらしいと人づてに聞いていた。ハンサムな容姿だが、彼が心から笑った顔は一度も見なかった。

二十代のときに創業した小さな会社をADLに売却した後、ADLに残り、経営を任されたスカンジナビア三国での事業を急成長させた。そしてその貢献と実力を認められて、33歳という若さで北米全体の事業責任者に抜擢された。チャーリー(当時のCEO)も「ゆくゆくはブルースにCEO職を譲ろう」と考えていたに違いなかった。

ADLという会社は、HPや日本企業にも相通ずる「老舗のよさ」を内包したおっとりとした社風で、競争が激化するコンサルティング業界では厳しいポジションに追い込まれていた。ブルースにはそれが我慢ならなかった。

「どいつもこいつもどうしてこうバカばかりなんだ」

ブルースはいつもこう思っていた。仕事はもちろん私生活に至るまで自分が関わることのすべてに勝たなければならないというのが、彼の信条だったから。北米事業責任者に就任するとまもなく大リストラを敢行、厳しい競争原理を組織に導入した。そして数ヶ月で業績をぐっと回復させると、彼はチャーリーに迫った。自分をCEOにしろと。任せてくれれば必ずADLを立て直すと。ブルースを高く評価していたチャーリーも、さすがにそこまでは飲み込めなかった。「それならば他に行くところはいくらでもある」と、ブルースは退社していった(驚くべきことに退社する数日前までブルースはレイオフを止めなかった。それが彼のポジションに付与された権利だったからだ)。』

ブルースが「33歳という若さで北米全体の事業責任者に抜擢された」とき、僕はこの会社のシリコンバレー事務所の責任者をやっていた。僕は当時35歳で、彼は2つ年下だったのだが、年齢差を意識したことなど一度もなかった。「カテゴリーが違う人間」という印象があまりにも強かったからだ。

そして彼が「北米事業責任者に就任するとまもなく大リストラを敢行、厳しい競争原理を組織に導入」するプロセスを、彼の間近で見た。「欧米大企業のCEOの器たる人間」と一緒に仕事をする機会を得たのは、後にも先にもこのときだけで、この経験は、僕にとって本当に得がたいものだった。今も、米国企業の経営を考えるときに、僕は頭の中でいつもブルースという辞書をひく。

全てのリーダーにとって最初の数カ月が最も重要

「Leaders, regardless of their level, are most vulnerable in their first few months in a new position. They lack detailed knowledge of the challenges they will face and what it will take to succeed in meeting them. And, they have not yet developed a network of relationships to sustain them.」

この記事は、「The First 90 Days: Critical Success Strategies for New Leaders at All Levels (HBS Press, 2003)」という本を著したMichael Watkinsハーバード大教授との一問一答であり、この文章はその冒頭である。

要するに、新しい環境にリーダーとして飛び込んだ場合、直面する挑戦についての詳細な知識に欠けているから成功のための手立てが見えず、挑戦を遂行していく支えとなる人間関係も構築できていない。だから、最初の数カ月が最も無防備で脆弱。

「Failure to create momentum during the first few months guarantees an uphill battle for the rest of their tenure in the job. Building credibility and securing some early wins lays a firm foundation for longer-term success.」

最初の数カ月でモメンタムを作るのに失敗すれば、その後ずっと悪戦苦闘を強いられるに違いない。クレディビリティを築き、短期間での成功をいくつか実績としてあげる(securing some early wins)ことで、長期的成功のための土台が出来上がる。

不振だった北米事業を建て直すために欧州からやってきて、ブルースが、まず一瞬のうちにやってのけたのが「組織に緊張感を漲らせる」ということだった。これは本連載11月12日「年月を経ても色あせないアンディ・グローブのIT産業経営論」でご紹介したアンディ・グローブとも相通ずるけれどなかなか真似できる話ではないのだが、「ブルースは北米事業不振という現状について、本気で怒っている、心から憤っている」ということが、組織全体に一瞬のうちに伝わったのが凄かった。こういう感じというのはなかなか言葉では説明しがたいのだが、「CEOの器」として必要ないくつかの条件の1つだろう。むろんスタイルはいろいろあるのだが。

ブルースの憤りが伝播したことで、組織に緊張感が戻れば、いたるところで「some early wins」(新しいコンサルティング・プロジェクトを成約するというのが最も目に見える成果)が生まれた。でもそんな程度のカンフル剤だけでは会社は立ち直らない。次に、彼は自分の手足となって再建に奔走する人間を選ぶ、という作業に着手した。そういうプロセスで彼とは何度も話をしたのだが、彼の口癖は、「Just fix it.」であった。

だいたいダメになっている組織というのは、言い訳が多い。これができないのはこれこれこういう理由だ、というような話が延々と続くもの。ブルースは、時には20歳以上年上の部下のそういう言い訳を丹念に聞きながら、ポイントポイントで、「Just fix it.」と命じた。「(壊れているんなら)四の五の言わず、直せ、修理しろ」という意味だ。

彼の「Just fix it.」に対して前向きな提案のできる人間だけをピックアップして、彼はプロジェクトチームを作り、新しい戦略を組み立てた。顧客の戦略立案プロジェクトならばもう少し時間をかけて環境分析するであろうことも、ずいぶん短期間で結論を出して走った。組織内の人材評価基準を一新し、3カ月後に大型リストラを行なう旨、宣言し、ある日、スタッフの15%以上を解雇した。

その一環で「誰を解雇するか?」の幹部会議に出たときのこと。部門長レベルの人間は、自部門のスタッフを擁護するのが普通。僕が今でも忘れられないのは、こんなシーンだった。「Aは、ハーバードビジネススクールを出て、こういうプロジェクトを歴任して、顧客にいい仕事をして、云々かんぬん」という部門長からの説明を聞いていたブルースは、「Aはmediocreだ」と断じた。平凡、月並み、可もなし不可もなし、というような意味でよく使われる言葉だが、こういう場面で使われると反論のしようがなくなる。「それだけの経歴と潜在的能力がありながら、今程度の仕事(数字、給料)で満足しているような奴はmediocreなので、この組織には要らない」と、ブルースはAを解雇者リストに入れた。

リーダーが直面する4つの状況

Michael Watkins教授は、リーダーが直面する状況として、(1)startup, (2)turnaround, (3)realignment, (4)sustaining successと4つがあり、そのそれぞれで発揮するリーダーシップのあり方が違うと述べているが、ブルースの場合の(2)turnaroundについては、こんなふうに書く。

「The four broad types of business situations that new leaders must contend with are startup, turnaround, realignment, and sustaining success. In a startup, the new leader is charged with assembling the capabilities (people, funding, and technology) to get a new business, product or project off the ground. In a turnaround, the new leader takes on a unit or group that is recognized to be in trouble and works to get it back on track. Both startups and turnarounds involve much resource-intensive construction work - there isn't much existing infrastructure and capacity for one to build on. To a significant degree, the new leader gets to start fresh. But both require that the new leader start making tough calls early.」

ブルースは、この文章に書かれている「making tough calls early」を、激しく発し続けるオーラとともに、やってのけた。

でも結局ブルースが会社を去ることになったのは、教授が以下に指摘する「カルチャーとポリティクスに配慮せずに突っ走るリスク」を冒したからに他ならなかった。

「Learning about the culture and politics of a new organization. It's so easy to fall into pitfalls in these areas and really damage your credibility.」

「Regardless of what the situation is, I advise new leaders to spend some time learning about culture and politics, even if they think they have been brought in explicitly to change them.」

何はともあれ、米国企業のCEOというのは、本当に大変な職業。ブルースのような、選ばれた「CEOの器」たる人間が、こうした様々な苦い経験を積みながら最終的に到達する、高級専門職なのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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