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アマゾンの実験に需要サイドからのイノベーションを考える

2003/11/11 10:10
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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アマゾンの新サービス「Search Inside the Book」について解説した、本欄10月28日と29日の「アマゾンが仕掛ける「書籍のグーグル」は成功するか」と、「アマゾンの全文検索で本の売上は落ち込むか」には、たくさんのコメントやトラックバックをいただき、反響が大きかった。日本の日記サイトやBlogでも、ずいぶん話題になっていたようである。

アマゾンは、サービス開始後まもなく、検索結果を印刷する機能の停止を発表したり、今後このサービスの行方がどうなるかはまだ余談を許さないわけだが、それは、アマゾンの新サービスをめぐる議論が、本が売れなくなるのではないか、著作権問題はどうするのか、出版社が立ち行かなくなるのではないか、といった供給サイドの論点が中心であることを意味している。

需要サイドの視点から見た書籍内容検索の意義

そんな中、

「ただ、それにつけても、日本が知的生産性でいよいよ立ち遅れるなあ、という感慨の方が深いです。」

というSansara氏のコメントと、「圏外からのひとこと」が書かれた、アマゾン新サービスとMITオープンコースウェアを結び付けての、

「日本では権利の関係で同様のサービスを展開するのは難しそうですが、そんなこと言ってると日本語が滅びてしまうかもしれません。

現状でさえ、英語圏の書籍の市場は日本語の何倍もあって良書を入手しやすいのに、こういうサービスや無償公開で世界に広がるMITの授業みたいなものが、英語にはあって日本語には無いとしたら、やる気や好奇心や向上心がある若者はみんな英語で勉強するようになるでしょう。そういう層と日本語しか読み書きしない層がはっきり分化してしまうと思います。アジア諸国はもちろん日本の中もそうなるのが必然です。だって、勉強したり何かを考えるのにこういうツールがあるのと無いのでは、全然パフォーマンスが違います。

こういう問題は、国策として英語対日本語のサービス競争と考えるべきだと思います。」

という問題提起が面白かった。いずれも、供給サイドの視点ではなく、需要サイドの視点での議論だからである。

コンテンツを創造する側が供給サイド。コンテンツを活用することで別の価値を創造するのが需要サイド。こう定義すれば、需要サイドに立ったときの価値創造機会は、英語圏のほうが圧倒的に大きくなる。よって日本語の、ひいてはそういう言語を使う日本人の、国際競争力が落ちるのではないか、という問題提起であるわけだ。

昔誰かが、日本語が参入障壁になっている産業セクターこそが古い体質を維持したまま変化せずどんどん国際競争力を落としている、と主張する中で挙げられていたのが、教育とメディアと政治、の三つだったように記憶しているが、国際競争が起こらないゆえに供給サイドの論理を維持し続けるということがこれからも続いていくとすれば、まぁこの傾向にますます拍車がかかっていくのであろう。

ところで、本連載11月6日「「楽しい日本の会社」にアンチテーゼを突きつけるデル」の中でご紹介したビジネスウィークの「What You Don't Know About Dell」で、デルとIBMとHPを比べるくだりがある。

「Dell also faces an innovation dilemma. Its penny-pinching ways leave little room for investments in product development and future technologies, especially compared with rivals. Even in the midst of the recession, IBM spent $4.75 billion, or 5.9% of its revenues, on research and development in 2002, while HP ponied up $3.3 billion, or 5.8% of revenues. And Dell? Just a paltry $455 million, or 1.3%. Rivals say that handicaps Dell's ability to move much beyond PCs, particularly in such promising markets as digital imaging and utility computing. "Dell is a great company, but they are a one-trick pony," says HP CEO Carleton S. Fiorina.」

研究開発費を三社で比べて、デルが圧倒的に少ないことを論拠に、フィオリーナはデルのことを「偉大な会社だが、芸が一つしかないポニー(馬)」だと言う。イノベーション可能性は研究開発費をたくさん投じているIBMやHPの側にあるという論理。それはまぁそうだよな、とごく自然に思ってしまうとすれば、それは、IT産業を供給サイドの論理でしか眺めない癖がついているからなのかもしれない。

イノベーションの主体は供給サイドから需要サイドへ

ソフトウェアのデル・モデルの追及者として以前にもご紹介したIan Murdoch(7月14日の「コモディティ化時代のソフトウェア開発」、8月26日の「今までのLinuxビジネスは革新的じゃない」)は、そのBlogで、「Commoditization vs Innovation?」というタイトルをつけて、こんなことを書いている。

「I don't think innovation and commoditization are at odds at all, although those to whom "innovation" means refining the wheel over and over to their own benefit might lead you to believe otherwise.」

Ian Murdochは、「SoftEdge 2003 conference」というコンファレンスに招かれて、「Innovation or Commoditization: Can Open Source Meet Technology Innovation?」というパネルのパネラーになった。このパネルのタイトル、つまりコンファレンス主催者の問題意識が「イノベーションとコモディティ化は対立概念」というものであったことに対して、「コモディティ化とイノベーションというのは対立する概念では全くない」と主張するのである。対立すると考えるのは、供給サイドの論理なのだと。そしてこう書く。

「Here's an example: Many say the commoditizers of hardware have hindered innovation. Yet, what did the commodization of hardware enable? The proliferation of millions of PCs around the world. And what did that enable, in turn? The proliferation of the Internet, which spurred one of the great periods of innovation of the 20th century, a period of innovation that continues to the present day with, among other things, the proliferation of commodity (i.e., open-source) software.」

多くの人々はハードウェアのコモディタイザー(インテル、マイクロソフト、デルといったところを指していると思われる)がイノベーションを妨げたと言っている。でもその結果、何が実現されたんだ? 膨大な量のPCが世界に溢れかえっているじゃないか。そしてインターネットの普及はさらにこれからも続く。そしてこれから、「the proliferation of commodity (i.e., open-source) software」、コモディティ・ソフトウェアが溢れかえる世界もくる。

そしてMurdockは、その結果として生まれたのが、グーグルであり、アマゾンであり、eBayなのだ、と主張するわけだ。

現在のIT産業が完全にコモディティ化して (供給サイドから見れば) しまった先に、グーグル、アマゾン、eBayに象徴される需要サイドに寄り添ったところでのイノベーションが百花繚乱のごとく咲き乱れる世界(これからのIT産業のイメージ)へと、Murdockの視線は向かっているのである。

本欄10月20日「雇用なき景気回復とITエンジニアの雇用をめぐる大転換」で、

「これまで、ITエンジニアにとっての花形の職場、就職先はITベンダーであったわけだが、ひょっとするとこれからそれがITユーザの方に移行していくのではないか。それがITエンジニアの雇用をめぐる大転換なのではないかというのが、いま僕が考え始めている仮説である。間違っている可能性はかなりあるのだが、今のところ、こういう仮説を置きながら、しばらく考え事をしてみようかという気分になっている。」

「「自社の事業にITを活用してその結果自社事業を繁栄させることに対する対価を得る」ユーザでの仕事に、「ITを道具やインフラや技術そのものとして他社に提供して対価を得る」ベンダーでの仕事よりも、少なくともシリコンバレーでは、ITエンジニアが魅せられ始めているという現実がある」

と書いたのは、このMurdockの視線の先にある世界を、僕なりに、IT産業における雇用とかエンジニアの生き方やキャリアパスにあてはめて考えてみようとした途中経過であった。幸い、あながち的外れな仮説ではなかったようで、ITエンジニアとして最先端の現場を知り尽くす何人かの方から、それは自分の感覚にも合っている、というポジティブなトラックバックやコメントをいただき、大変有難かったのだが、供給サイドではなく需要サイドからモノを考える癖をつけないと、これからのIT産業やコンテンツ産業の行方を見誤ってしまうのではないか、最近そんなふうに考えることしきりなのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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