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大リーグ的人材活用のパラダイムシフトは日本企業にも起きるか

2003/10/22 10:05
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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メジャーリーグもワールドシリーズが始まり大いに盛り上がっているので、本連載10月2日「ソフトウェア開発の組織論を野球に学ぶ」に絡めた話題をいくつか。

スキルよりもビヘイビアを重視する人材採用

Naotake Murayama氏 (Murayama氏は、シリコンバレー在住の日本人ビジネスマン<珍しく文系>。博覧強記の啓蒙家なので、 彼がスタートした新しいBlog「Sotto Voce」は要注目) が、そのBlogの中でこんなことを書かれている

「本当に強い企業は「自社にとっての必要人材」というものを上のような「スキル」という観点で無く、「ビヘイビア」で規定しているのでは無いか、と思う。「ビヘイビア」で人を評価する、ということはこの場合「こういう環境に置かれたら、自社にとって望ましい行動を取るか?」という観点で人を見ることである。どんなに素晴らしい肩書きや学歴を持っていても、それが実際のビジネスにどう現れるか、またその現れ方が自社のビジネスにとり望ましいものでなければ、そういう人は採用すべきでは無いのである。」

「「他に類の無いカスタマーサービス」を競争優位の源泉とするサウスウェスト航空などは、そういう観点で人を採用し、また入ったあとも「望ましい」行動を取り続けるような、単なる金銭的インセンティブに止まらない様々な組織上の「仕掛け」を設けているように思える。あるいは、採用時の能力は無くても、「望ましいビヘイビアを取る潜在力のある人」を採用するか、そういうビヘイビアを取り続ける人のみが残るような仕組みを作っている企業もある。」

そしてMurayama氏は、

「「ビヘイビア」を重視した人材獲得の重要性についての認識は高まっているようで、最近はロールプレイの要素を取り入れたsituational interviewというものを取り入れている企業が増えている。」

として、ビジネスウィーク誌の「Improv at the Interview」という記事を紹介されている。

「Whereas the conventional interview has been found to be only 7% accurate in predicting job performance, situational interviews deliver a rating of 54%--the most of any interviewing tool.」

と、このsituational interviewという方式を絶賛しているので、興味のある方はぜひ原文をどうぞ。

さて、「ソフトウェア開発の組織論を野球に学ぶ」に対しては、Geek/Wonkのsakawa氏より、こんなトラックバック「お金がなければ頭を使おう-「Moneyball」について」をいただいた。Sakawa氏は、取り上げた「MoneyBall」(マイケル・ルイス著)を原書でもう読まれていたらしく、詳しい解説を書いてくださった。

「オークランド(アスレチックス)のGM、ビリー・ビーンは、MLBの世界にある種のパラダイムシフトを起こしつつあるのではないか。」

とあるが、僕もまったく同感である。

遅ればせながら、僕も「MoneyBall」を読み始めて、やっと読了したところだが、本当に面白い本だ。どこかの出版社がもう準備しているかもしれないが、ぜひ日本語訳が出版されることを望みたい。

過去に、マイケル・ルイスの「ニュー・ニュー・シング」を絶賛したこともあるのだが、どうもマイケル・ルイスとは「興味のツボ」みたいなものがぴったり一致しているみたいだ。

過小評価されている人材をデータから見つけ出す

価値ある選手とは何かについてのビジョンを定め、そのビジョンに基づいたデータ分析をすることによって、まったく新しいタイプの選手が活躍できる余地が生まれ、野球が大きく変貌しようとしているというところが大変面白い。

Sakawa氏は、

「「如何にも将来大成しそうな、優れた資質を持つ」と評される高校生とかとは、天地ほどちがうけれども、実はとびきりのデータを残している、たとえば南部のど田舎で暮らすアマチュア選手やら、カナダの最果てみたいな街でマイナーの試合に出場しているプロ選手にツバをつける。もちろん、そうした選手ならタダ同然で雇えるというのも大きな要因だけれども、それ以上に、いまでも根強く野球界内部に残るある種の常識=実は迷信みたいなものと極力距離を置こうとしているようだ。」

と解説されているが、本書の主人公ビリー・ビーン(現在のオークランド・アスレチックスのGM)が選手をやめてフロント入りしたときに、彼が当時のGMから与えられたミッションが、

「go out and find undervalued minor league players」(過小評価されているマイナーリーグの選手をみつけて来い、同書P63)

であったのだ。そしてどういう選手が過小評価されているかの考え方として、運動能力や体格といった素質面でそれほど優れていなくても、地味な成績(具体的には、たとえば四球が多く出塁率が高い、ゴロを打たせる比率の高い投手など)をきちんと残している選手を高く評価せよ、という新しい評価基準もビジョンとして合わせて受け取ったのだ。

余談だが、仮に僕が日本の大手企業のトップだったとしたら、まずやりたいのは、子会社も含めたグループ企業全体(日本の大手企業の場合、何万人、ときにはもっと多い)の中から、「undervalued playersを見つけて来い」というプロジェクトを起こすことだろうな。「MoneyBall」に描かれる「野球界内部の迷信」(若いときの運動能力、つまり身体的素質への偏向)と、「日本企業の迷信」(若いときの学校や試験の成績ゆえの学歴への偏向)は、おそろしく相似性があると思うからだ。

また、この本にはデータ分析マニアのハーバード卒の若者がGMであるビリー・ビーンの下で活躍する話が出てくるのだが、

「the players’ statistics, before the Internet come along, weren’t available to him to analyze」(分析したくても、そもそも選手の統計数字なんて、インターネットが登場する以前には、手に入らなかった、同書P98)

というわけで、彼のような野球選手でもなかったアマチュアが、若くして、メジャーリーグのチーム作りに大きな役割を果たすようになるなんてことは、インターネットが登場する前は難しかっただろう。この話は、本連載9月18日「ネットがもたらすプロフェッショナルへの新しい道」とも相通ずる。

企業は社員のデータを持っているか

さて企業における人材評価に話を戻せば、「価値ある選手とは何かについてのビジョンを定め、そのビジョンに基づいたデータ分析をする」に相当することができるためには、「価値ある人材とは何かについてのビジョン」「個々の人材についてどういうデータが必要か」という二点が重要となる。前者について言えば、冒頭のMurayama氏のように「スキルよりもビヘイビア」という考え方もあるだろうし、ハイテク産業最先端では「いやいや絶対にこういうスキルが・・・」といった議論もあるだろう。ただより深刻なのは後者。いったん採用した社員がこれまでどういう仕事をしてきたか、いま本当にどういう能力を持っているのか、についてのデータを持っている企業など、あんまりないのではないか。

ただ、そんな問題意識を経営者が持ち、今までとは違った評価基準をイメージできたとき、新たな人材が発掘され、古い価値観が壊れていくかもしれない。そういうことがまずグループ企業内でできることがマイナーリーガー探しと等価であり、そこができたあとで、米国プロ野球業界外(アマチュア選手や海外のプロ)の発掘へ、つまりは社外人材の採用にまでその手法を展開できたとき、きっと企業はまったく新しい人材の集団に生まれ変われることができるのかもしれない。オークランド・アスレチックスのように。でもそのときには既得権益層が厳しい局面を迎える。果たしてそういう変化は、日本企業にこれから起こるのであろうか。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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