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CNET Japan ブログ

観察者としてシリコンバレーを記録する私

2003/10/17 10:00
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プロフィール

umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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今日は英語ネタお休み。最近考えたことや自分のことをあまり脈絡なく、本来のBlogっぽく、書いてみることにする。

僕のBlog実験もそろそろ1年がたとうとしている。4月に個人サイトからCNET Japan本欄に移行してからは、CNET Japanの読者層に合わせて、テーマを絞って書くように心がけているのだが、知人からは「たまには、個人サイトのときのように、決まったテーマにこだわらずに書くことがあってもいいんじゃない?」なんて言われることもあるので、まあいいか、ということで書いてみる。興味のない方は、また来週、お立ち寄りください。

「観察者」としての自分を発見

じつは「ケータイを持ったサル」(正高信男著・中公新書)を面白く読んだのがすべての始まりであった。

著者の正高信男氏はサル学者で京大教授。この本は、その彼が、若者の生態を、サルを観察するように観察して書いた本である(内容についてはここでは触れない)。じつは読後すぐに、この正高先生の「観察者」(じっと何かを観察し続けることから法則性を考える)という立場に、ひどく共感している自分を発見したのである。なるほど僕がいまやっていること、僕が面白いと思うこと、僕が情熱を傾けられること、僕があまり意識せずにこれまでずっと続けていた営みは、すべて「観察者」という言葉に集約されるような気がしてきたのである。特にこの本の

「今を去ること二十年近くも前、私はアメリカで、十頭から成る飼育リスザルを相手に、誰がチャックとなき、それからどれほどの時間間隔をはさんで誰がチャックとないたかを、丹念に記録するという気の遠くなるような作業をしていた。(中略)。あてのはっきりしない仕事を一年もやって結果をまとめてみると、意外な事実が判明した。」

というようなところに妙に共感してしまったのだ。僕の場合、相手はむろん、リスザルではない。観察対象は、シリコンバレーやIT産業やその周辺にいる人間や、そういう人間たちが作る会社や組織の生態なのだが、やっていることは同じじゃないか、とふと思ってしまったのである。

もしそうならば、動物行動学者にフィールドが必要なように、僕にもフィールドが必要なわけだが、なるほどそのフィールドを求めて「人間の珍種が多いシリコンバレー」に自分はやってきたのかと、改めて自分のことを理解できる気になった。そしてまた、本業であるコンサルティングやベンチャーキャピタルの副産物として僕が従来から持っている観察フィールドに加えて、この連載を毎日続けているおかげで、ネットの向こうにいる目に見えない人々の生態を観察するための貴重なフィールドを、やはり副産物として持ちつつあることにも、改めて気づいたのである。

その意味ではトラックバックという仕組みは本当に面白い。コメントだとそのコメントがすべてだが、トラックバックだと、どんな人がどういう理由でそのトラックバックを打ってきたかを、その人のBlogや日記を観察することで、あれこれと考えることができるからだ。

切込隊長からのトラックバック

最近でいちばん面白かったのは、切込隊長という方(投資家として、そして2ch運営などで有名な人と知った)からいただいたトラックバックであった。この人は不思議な面白さを持っている人だなと思ったので、どうやら日本でとても人気があるらしい「切込隊長BLOG 俺様キングダム」のアーカイブを約半年分全部読んでしまった。彼のBlogへ寄せられる、2ch書き込みにも似たコメント群も面白く、それも全部目を通し、リンクされているサイトはできるだけ見たりして、といろいろやっていくと、彼がある種独特な才能とエネルギーを持った人であることがよくわかり、へぇー面白い人が居るんだな、と何だか頭の中が、しばらくの間、切込隊長のことで一杯になってしまった。

こういう何時間もかけたそれ単体ではほとんど無意味な人間観察というのは、正高先生の「リスザルが鳴く時間間隔を観察して記録する作業」におそろしく似ているなぁ、と、「ケータイを持ったサル」を読んで、僕は感じいってしまったのだ。フィールドがなければ動物の行動観察ができないように、フィールドがなければ人間観察はできない。トラックバックシステムに感謝感謝である。ただ、正高先生のように「あてのはっきりしない仕事を一年もやって結果をまとめてみると、意外な事実が判明した」なんてことには、僕の場合、あんまりなりそうもないけれど。

野球と将棋と読書の共通点

さて、僕の趣味は、メジャーリーグ観戦と将棋鑑賞と読書なのであるが、それもすべて「観察」というキーワードで説明できることがわかった。

メジャーリーグ観戦の場合は、試合を一心不乱にじっと何時間も観察し続けていて、苦にならない。野球が他のスポーツと違っていいのは、毎日試合があることだ。それも一日にだいたい12試合から15試合ある(ちなみに、DirecTVの年間サービスでは毎日ほぼすべての試合が見られるパッケージがあり、僕はそのサービスに加入している)。東海岸のデイゲームから西海岸のナイトゲームまである週末など、朝から三試合か四試合をぶっ通しで見続けるときがある。十時間以上はかかり、最後の試合が延長戦にもつれ込んだりすると、心身ともにボロボロに疲れ果ててしまう。野球の本質とは何か、勝負の流れとは何か、みたいなことを考えながら、いつも何かを観察し続けている。一球一球、投手や打者が何を考えているかを想像しながら、そして試合の大きな流れの変わり目を探しながら次の展開を予想しつつ見るから、けっこう疲れるのだ。ジョージ・ウィルが書いた「野球術」()という本と出会ってから、メジャーリーグを見る喜びは倍化したのであるが、じつは疲労も倍化するようになった。

将棋鑑賞も大好きなのであるが、自分ではあまり将棋を指さない。だから弱くて、棋力はアマチュア初段くらいしかない。けれど将棋の新しい時代を切り拓いた羽生・佐藤・森内・藤井・丸山といった天才たちが、そしてそれに続く渡辺・山崎に代表されるさらに若い世代が、毎日何をテーマに研究を続け、いま何が争点になっていて、将棋の本質を考える拠り所とは何で、将棋というゲームがこれからどういう方向に向かっていくのか、また将棋産業というのは今後どうなっていくのか、ということに、ものすごく興味がある。今週は羽生さんが19歳の新鋭・渡辺五段と王座戦の最終戦を戦っていたので、その日は早朝三時に起きて、ネットでその終盤をリアルタイムで観戦した(羽生さんが勝って本当によかった!!!)。また、最近のある日曜日は、深浦康市「最前線物語」という名著が出版されたので、それを片手に、「8五飛戦法」という、現在の将棋界を席捲している新感覚戦法の歴史的な意味は何なのか、そしてその研究が誰によってどんなふうに行なわれているのか、勝負と研究はどう両立するものなのかといったようなことを、PC上にインストールしてある棋譜データベースと照らし合わせながら考えているうちに、一日が終わってしまったのだが、振り返れば、至福のときであった。

読書でいえば、最近いちばん感動したのが、遅ればせながら出会った車谷長吉(くるまたに・ちょうきつ)である。気になると、一人の作家の作品をほぼすべて集中的に読んで、その人の人生や創造エネルギーの源泉について考えるのが僕の読書パターン(最近では、笠井潔と石田衣良と大崎善生を全作読んだ)なのだが、考えてみればこれも「観察」ということに括ることができるのかもしれない。

いやしかしそれにしても、車谷長吉は本当に身体に悪かった。読んでいて病気になるかと思った。寝る前に読めば夢に出てくるし、朝起きれば、足を掴まえられたような感じで目覚めて、続きを読まなくちゃならない。車谷長吉・初心者は、「赤目四十八滝心中未遂(あかめしじゅうやたきしんじゅうみすい)」から読んだらいいと思うが、もっと怖いのもいろいろある。

さてさて、何だかだらだらと与太話を書いてきてしまったのは、正高先生のユーモラスな文章で書かれた「ケータイを持ったサル」の中に、こんなドキリとするような文章があったから。

「われわれが霊長類の一種であるにもかかわらずサルと区分され得るのは、自己実現を遂げて人生を送るからではないだろうか。つまり、ひとりひとりが、その個人にしかできないユニークな何かを達成して生活する。」

そして、この文章を読んで、「その個人にしかできないユニークな何か」って何だろう、「俺はなんでシリコンバレーにやってきて、こんなことをして毎日を過ごしているんだろう」なんてふと考えてしまったから、なのであった。だって、それがなければ、サルと同じ、なんだそうだから。

そして、いろいろ考えて、そうか、僕は「観察者」なのか、毎日「リスザルが鳴く間隔を観察して記録しているのだな」、と、不思議にきっちりと納得してしまったのであった。

これでおしまい。来週はまた、ちゃんとしたテーマのある話を書きます。

Have a nice weekend!

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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