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本連載10月6日「ソフトウェアエンジニアのオープンソースへの相反する感情」について、「Matzにっき」(Rubyの作者で有名な、まつもとさん)から、大変貴重なトラックバックをいただき、その内容についてさらに「Matzにっき」上で議論がなされて、「筆者(梅田)がどういう意図で、どんな読者を想定してこの文章を書いたのかよくわからんが・・・・」みたいなことが書かれていたので、この連載全体の意図も含めて、若干補足しておきたいと思う。
議論の内容をここで要約すると、それがまた恣意的だと感じる読者もいらっしゃるだろうから、その内容は「Matzにっき」でお読みください。
変化の方向性と対応策を考えつづけたい
この文章に限らず、本連載で僕が強い関心を抱いて考え続けているのは、(1)産業構造<社会構造も含め>がこの先どう変わっていくのかということと、(2)その変化の潮流を感知したときに我々はどういう生き方ができるだろうか、という2点である。
(1)に関連して言えば、僕が研究対象とする産業構造をIT産業に求めているのは、IT産業というのが他産業に比べて圧倒的なスピードで、本当に変化するからである。変化の萌芽を見定めて、産業構造の変化を考えたときに、それが当たるにせよはずれるにせよ、同時代的にその結果を検証しながら、さらに考え続けることができる。僕のオープンソースへの興味もその一点にある。
また(2)については、本連載では「その変化の潮流を感知したときに我々はどういう生き方ができるのだろうか」とテーマ設定をして、個人に焦点を絞って書いている。ちなみに、「その変化の潮流を感知したときにXXX社にはどういう戦略が取り得るのか」というテーマが、コンサルティング会社を経営する僕の本業である。そして、本欄の対象読者には、勝手に、ものすごく若い人をイメージしている。早熟な高校生にこそ、本当はいちばん読んでほしい。
また、毎日更新の連載(Blog)というスタイルで続けているこの実験は、ひとつの文章をスタンドアローンとして完結させないという実験でもある。僕がこれまで十年にわたって紙媒体向けに書いてきたコラムや論文は、その文章だけを読めば筆者の意図が伝わる (つまりスタンドアローンである) ということにいちばん気を配った。でも、この連載の1回1回は、毎日更新でそんな大変な作業はできない、というのもあるが、より積極的な言い方をすれば、毎日毎日の断片が、張ったリンクやいただいたコメントやトラックバックと共に、半年とか1年とかまとまったときに、何かまったく違った意味を生み出してはくれないものか、という期待をこめながら続けている実験だ。そこに某かの意味が生まれるとすれば、Blogでもネット・パブリッシングでもバズワードは何でもいいが、新しいメディアの上でモノを書き、それがただの垂れ流しにならずにすむかもしれない。
また、よく誤解されるので蛇足ながら追記しておくと、商業メディア(新聞、雑誌、本、このCNET Japanも)の場合、筆者が責任を持つのは文章だけで、タイトルや見出しや小見出しというのは、すべて編集部の責任でつける。だから僕も毎日、編集部に送った原稿にどういうタイトルや見出しがつくのかを楽しみにしている。つまり、タイトルや見出しは、おっ読んでみようかな、と思わせるものになっているのであり、内容の要約や筆者の意図のサマリーになっているわけではない(むろん、たまたまなっている場合もある)。その点はぜひご理解いただきたいと思う。
「正解」ではなく「考える材料」を
さて、本題に戻って、10月6日の「ソフトウェアエンジニアのオープンソースへの相反する感情」はどんな意図で書いたのか。冒頭の(1)の意味では、オープンソースがこれからのソフトウェア産業を大きく変化させる最大要因であることは間違いなく、そしてその変えていく方向を考える一つの材料を提示しようという意図で書いた。たまたまMitch Kaporと会う機会があり、「彼の意見」(つまりは彼の仮説であり彼の偏見)を把握できたので、それもあわせてご紹介しようと思った。冒頭の(2)の意味では、今アメリカで、特にシリコンバレーで最もホットな話題「ソフトウェアエンジニア、プログラマーという職業は、これからどういうタイプの職業になっていくのか」を考える一つの材料を提示しようという意図で書いた。
Mitch Kaporは「ソフトウェア・スタートアップを起こせるという時代は終わった」という仮説を持ち、NPOを作って、Chandlerという名のOutlookキラーのアプリケーションをオープンソース・プロジェクトとして始めようとしている。むろんこれが成功するかどうかなどまったくわからない。うまくいく会社とつぶれる会社があるように、うまくいくオープンソース・プロジェクトもあれば、失敗に終わり何も起こらないオープンソース・プロジェクトだってある。Mitchも言っていたが、アプリケーション分野での大型ソフトではまだオープンソースの成功例はない。オープンソースは、基本ソフト系でしかあり得ない、という仮説を持っている人も多い中、Mitchの実験をドンキホーテ的試みと批評する人もいる。まぁ、何も答えなど存在しないのだ。あるのは考える材料だけである。
ただ日本と違って、アメリカ、特にシリコンバレーでは、ソフトウェアエンジニアの生涯プランの中に、ソフトウェア・スタートアップを起業して、IPOするか、大手に買収されるという道、つまり若いときにファイナンシャル・リターンを大きくし得る人生計画が存在していた。一流どころのエンジニアを集めてホットな領域を選んで起業して戦えばかなりの確率でいい線までいける、というのが、ここ15年くらいの常識だったからだ。だからもともとソフトウェアエンジニアを志した人のロールモデルのひとつに、ソフトウェア・スタートアップを起こして成功した先達たちの生き方があった。「それがオープンソースによって崩れたんだよ」と、ロータスを創業して莫大な資産を築いたMitch(まさにロールモデルの人)が言っている、ということにとても大きな意味がある。そう思ったので書いた。
10月6日の項で、日本と米国のこうした違いにまで言及すれば、もう少しわかりやすかったかもしれないが、せっかくいい刺激をいただいたので、ここで補足しているわけで、こういうことができるのが新しいメディアの可能性である。
ギークとスーツの微妙な関係
さて最後に、一般論として。
シリコンバレーでは、ギーク(技術者)とスーツ(経営者やビジネスマン)は永遠にわかりあえないものなのだ、という達観がある。
わかりあえない、なんて生易しいものではなく、互いに憎しみあっている場合も多い。
サイエンスとテクノロジーがこれだけ進歩を続けているから、技術者の知識やスキルは高度化の一途をたどる。一方、ネット普及とグローバル化が進む中で、経営やビジネスだって同じようにものすごく進化している。だから、何から何まで全部わかっている人など、どこを探してもいやしない、という時代である。
ベンチャーというのは「時間を区切ったプロジェクトにしなければ、ギークとスーツが喧嘩せずに協力することなんかできっこない」という達観ゆえに生まれたものなのかもしれない、と冗談にも思うことが多いほど、最先端でのギークとスーツの確執は深いものがある。
それでもなお、ギークとスーツが協力しないと何も生まれない、という矛盾の中で、ありとあらゆる企業が七転八倒しているのが、現代ハイテク産業の業のようなものである。このことを、我々はいつも明示的に意識しなければならないと思う。
ただ七転八倒する中では、いろいろな知恵も生まれる。どういう知恵かなんて言葉では説明できないほど微妙なことなのだが、何とかその雰囲気は、本連載の中で、いろいろな形で表現していきたいと思っている。
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