最終更新時刻:2008年8月30日(土) 2時12分

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MITの試みはノーベル賞に値する?

公開日時:
2003/09/09 10:05
著者:
umeda

昨日に引き続き今日も、MITのオープンコースウェアについて、Wired誌「MIT Everyware」を読んでいこう。記事のサブタイトルに

「Every lecture, every handout, every quiz. All online. For free. Meet the global geeks getting an MIT education, open source-style.」

とあるが、2000年から2001年にかけて構想されたこのMITオープンコースウェアの思想には、ソフトウェア世界におけるオープンソース・ムーブメントの強い影響があったことは間違いない。

昨日は、人気のあるコンピュータサイエンスの授業をご紹介したが、これだけリッチなコンテンツを、全2000科目すべてにわたり、ウェブ上に展開していくにはカネがかかる。そのカネはどうするのか。

「The idea quickly attracted outside funding. The William and Flora Hewlett and the Andrew W. Mellon foundations ponied up a total of $11 million for the first two-year phase. (MIT kicked in another $1 million.) Those organizations are likely to continue supporting the initiative, which is expected to require an additional $20 million or so before the rest of the courses are posted by the end of 2006. The money will underwrite everything from helping faculty develop and digitize their materials to designing Web sites and hosting servers.」

資金を出しているのは財団である。ヒューレット財団とメロン財団が最初の2年間の開発に1100万ドルを拠出。さらに2006年までに必要となる2000万ドルもこの2つの財団がたぶん資金を出すことになるだろう。このカネで、教材開発、教材のデジタル化からウェブデザイン、ホスティングまでのすべて賄う。

オンラインコンテンツと実際の授業の違い

「In September, as students arrive on the Cambridge campus for the start of school, MIT will officially launch OpenCourseWare with 500 courses, offerings like Nuclear Engineering Course 22.312: Engineering of Nuclear Reactors, and Political Science 17.251: Congress and the American Political System. (Like everything else at MIT, classes are typically referred to by number.) The school expects to add the remaining 1,500 courses over the next three years.」

今年の9月には500コースのオープンコースウェアが完成。あと残りの1500科目が次の3年間で完成する。

確かに昨年9月のパイロットプログラム公開時に比べて、ずいぶん充実してきた。

ただやはりどうしても、現実にこのコースをMITの学生として勉強するのに比べて、たとえ無償とはいえ、ネット上で勉強するのは苦しい。周囲に良き指導者なしに、勉強し続けていくのはなかなか大変だからだ。

「Most nights, Lee logged on to a PC in the computer lab and worked through problem sets. Even at 3 am, she had ready access to help via Zephyr, MIT's internal messaging system. "If I have a question or a problem I don't understand, I can send an instant message to a teaching assistant or a lab assistant," Lee tells me. "I can usually get an answer right away." Each of the 10 teaching assistants for 6.170 was available several hours per week. In addition, at least one of the six lab assistants was on call to sit down with students or respond to IMs. And then there was the give-and-take of interacting live with a professor - a boon not just to students but also to faculty.」

これがリアルMITでの教育の現実だ。Leeというのは学生の名前。毎夜、彼女がこのコースを勉強しているとき、たとえ朝の3時でもインスタントメッセージングでわからない箇所を質問すると、だいたい瞬時に答えがTA(Teaching Assistant)か研究助手から戻ってくるという。コンテンツは無償公開するが、リアルの教育は人をたっぷりかけて行なう。これがMITの戦略である。

「"OpenCourseWare is a snapshot of the way a particular subject in a particular discipline was taught at one period in time at MIT," says project director Margulies. "It isn't an MIT education."」

オープンコースウェアは、MITの教育をスナップショットして切り取ったもので、MITの教育そのものではない、というMargulies氏の言葉はそういう意味。しかし、オープンコースウェアのこの限界を克服するアイデアについての次の箇所が、この記事でいちばん面白いところだ。

コミュニティがオンラインの限界を超える

「Ultimately, MIT officials know, OpenCourseWare's success depends on the emergence of online communities to support individual courses. Margulies says MIT is eager to find third parties to create tools that would enable learners or educators to easily organize and manage discussion groups using OpenCourseWare content. "We'd like to see self-managed OpenCourseWare communities," says Margulies. "Our vision is to have this open source software on the site, as well as information that helps people build a learning community, whether it's in Namibia, Thailand, wherever."」

「オープンコースウェアの成功は、それぞれのコースを支援するオンラインコミュニティが勃興するかどうかにかかっている」という認識は素晴らしい。オープンコースウェアのコース1つ1つに、オンラインコミュニティができれば、わからない箇所をリアルタイムで確認しながら勉強したり、ネット上でどこかの誰かと共同で課題に取り組むことだってできるだろう。そうなれば、リアルMITでの教育に限りなく近い環境がネット上で実現する。まさにオープンソースによるソフトウェア開発の高等教育版。MITはそういうことが実現するためのプラットフォームを提供しようということなのである。

英語という言語の壁についても、翻訳という動きが出始めている。

「In January, Universia, a Madrid-based consortium of universities, approached MIT about translating the material into Spanish and Portuguese. MIT signed a deal to authorize and vet the translations, and the first 25 courses will be available this month. The university has received similar requests from the Middle East, Ukraine, and Mongolia, but it won't forge any more official partnerships until it sees how the Universia deal goes.」

翻訳はまずスペイン語とポルトガル語に。その成果次第で、多言語展開も進めていくという構想だ。

Wiredの記事の3ページ目には、人気のコース、トップ10と各国からのアクセス状況のトップ10が掲載されている。人気コース第2位は、昨日ご紹介した「Electrical Engineering and Computer Science 6.170: Laboratory in Software Engineering」だが、第1位は哲学。「Philosophy 24.00: Problems of Philosophy」だそうである。現段階で完成しているコースリストは、ここで参照できる。MITスローンスクール(ビジネススクール)のコース内容も徐々にアップされ始めているようだ。

「In some academic circles, MIT was viewed as making a masterful PR move. If so, the scheme worked brilliantly, because most of the world applauded; when I explained OpenCourseWare to a Turkish journalist, his immediate response was, "They should give the Nobel Prize to whoever came up with that idea."」

トルコのジャーナリスト一個人の意見とはいえ、オープンコースウェアの構想者にノーベル賞を与えるべきだ、というコメントなどを見るにつけ、MITの試みが世界から絶賛されていることがよくわかるのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

1

いつも拝読しております。過日、masayama8として長々投稿させていただいたものです。今回もすこしお時間を下さい。

前後半併せての感想として、すごい事態が起こっているのかもと期待が高まりました。

私はいわゆる文系の人間ですが、前回投稿させていただいたお題のブログや、リナックスなどの「閉じてない」運動そのものにはずっと注目してきました。各社製品のスペックや、コードの違いなど細かいポイントはよくわかりませんが、共鳴するのは背後の思想ですから、前回あえて投稿させていただく意味があると思っていました。

今回も、そういう思想への共鳴ということで投稿したものだとご理解いただければ幸いです。

あらゆる思想(思想というのが胡散臭ければ思考でも可なのですが)が通過点として通ってきた「世界を一つに結ぶこと」は、実際には文化や言語があって不可能だと誰もがわかっています。言い換えますと、「完全な一致」などできないということです。

それでも、「一つに結ぶこと」の理念は有効です。南北格差や環境問題のように、先進国がエゴで設定した、地球という場全体の未来へのコードを書き換えるためには、世界に連帯が必要だという形で、問題解決のための理念の共有の素地になります。その意味で「一つに結ぶこと」の有用性は絶えません。

文化や言語は、グローバリズムを商業的な画一化とみた場合、その波に対抗できる「積極的な差異」だと考えることができます。すると、「壁」というより残すべきものだと見ることができます。

それらの積極的な差異を残したまま、消極的な差異を解消できるかを考えるべきです。つまり、その差異を設けていること自体、南北格差のような「先行して手をつけたのだから、お前らの土地にあろうと、この資源は俺たちのもの」式のやり方の歪みを助長することにしかならない差異をどうしたら解消できるか。それをみなで模索しているのが現状だと思います。

技術や知識、モラルや法が「できうる限り」共有されていく流れがいま生成しているということで、それをこの連載から感じ取っていました。テクノロジー系の連載ですが読み手は制限してないですよね・・・「文系お断り」とか(苦笑)。

リナックスやブログ、ひいては今回のMITというエリート集団までもが、知識格差の是正に貢献すべきだと言う発想を持って動き出していることを知り、とても興奮しました。地球規模の問題解決のためには、優れた技術が結集する必要がありますから。

別にこれは環境に限った問題でなく、政治や経済にも関わる問題ですよね。各国の文化を殺さずに世界規模のデータベース(とても広義で使っています)を共有できないか、みたいな形の。そのためにも前提として格差は是正されねばならないですし。

それにしても、これは恥ずかしながら、この記事を読むまで全く知らなかったムーブメントでした。今回改めてこの連載に感謝します。

微妙なニュアンスの違いはあれ、翻訳によってカバーできることはどんどん共有されていくべきです。別に個人財産を共有しろと入っていないのですから。ただ個人財産の元になる知識については保護の必要性もあるので、一概には全面公開しろとは言えないかもしれないですが、それを言ったらリナックスのプロトタイプ(?)はありえなかったわけですよね。

この例からもわかるように「知を共有するという認識」が先に共有されないといけないのですが・・・納得済みで歩み寄っていかないと、共有することを相手に要求すること自体がファシズム的になってしまうのが難しいところですね。どこからどこまでなのかの線引きが。

ともあれ、最小限共有すべきことすら共有されてこなかった現実に対して、一人でも多くの人間に対して知の共有(の可能性)の門戸を開くこの一連の動きはすばらしいと思います。先進国の贖罪的な動きでもあるのかもしれませんが・・・。

比較的短くしようとしたのですが、短いといえない状況です。すみません。

伝えたいことは大体、以上のようなことです。イメージが共有してもらえればと思います。お付き合いくださりありがとうございました。失礼いたします。

  山口将俊 on 2003/09/09

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