最終更新時刻:2008年8月29日(金) 7時43分

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いらない顧客を切り捨てられますか?

公開日時:
2003/08/25 10:05
著者:
umeda

顧客を選ぶことの大切さについて今日は考えよう。まずは、Knowledge@Whartonの「Which Customers Are Worth Keeping and Which Ones Aren’t? Managerial Uses of CLV」から読んでみよう。長い論文なので、ポイントのみ引用しながら解説しよう。

タイトルにもあるように、どの顧客はキープする価値があり、どの顧客はキープする価値がないか。CLVとは、Customer Lifetime Valueという物差しのことである。

「“For many companies, their whole business revolves around trying to understand which customers are worth keeping and which aren’t,” says Wharton marketing professor Peter Fader,」

「Although CLV is by no means new - it has long been used in business markets dealing with large key accounts - the concept has been energized by the increasing sophistication of the Internet “which allows companies to contact people directly and inexpensively.” CLV, Dreze says, “sees customers as a resource [from whom] companies are trying to extract as much value as possible.”」

CLVという考え自体は決して新しいものではなく、大口アカウントの管理に使われていた手法だが、インターネットの普及によって、その手法がありとあらゆる場面で有効になってきた、というのがこの論文の問題意識である。

集めた顧客データを行動につなげられるか

そして真の問いは、

「And the basic question becomes, now that you have that data, what are you going to do with it?」

というところにある。「どの顧客はキープする価値があり、どの顧客はキープする価値がないか」についてのデータをあなたが、あなたの会社が持ったと仮定して、それで何をするの? という問いである。

何もしないのであれば、つまり、戦略や行動に結びつける意志がないのであれば、そんなデータは何の価値もないわけだ。

「Some companies use this information to create different programs for different value segments. In the financial services industry, for example, customers get different levels of service depending on how big an account they are. But there is always the risk that by doing this you anger other customers.」

ある会社では、この情報を、違う価値セグメントの顧客に対して違うプログラムを用意するために使っている。金融インダストリでは、たとえば、どれだけ大きなアカウントを持っているかによって、顧客は、全く違うレベルのサービスを受けることが出来る。でも、そうすると、他の顧客の怒りをかう、というリスクが伴う。

この話は、特に日本企業にとっては重要な話である。

日本は、資本主義よりも社会主義的な発想が社会に染み渡っている国だから、すぐに、顧客の選別や弱者切り捨て、みたいな話になることを恐れて、仮に重要な顧客を選別することができても、思い切って重要顧客にフォーカスできない場合が多い。結果として、付き合えば付き合うほど損をする顧客セグメントを切り捨てずに面倒見続けるゆえに、収益の足を引っ張り、全体として沈んでいくという場面すらよく見受けられる。

インターネットの時代は、顧客についての情報が、インターネットがなかった頃に比べて爆発的に増加するという特徴を持つ。それを戦略的に活用できるかどうかが企業の命運を決めるケースも増えてくると思うが、日本企業が「情報収集まではしても、それを活用する段になってためらう」のであれば、それは大問題である。

Dellモデルは顧客の選別から

さて、少し前の論考だが、CNET News.comに掲載されたハーバードビジネススクールの記事「Explaining Dell's transformation」は、Dellが90年代前半に苦境に陥ってからどう変身して復活を遂げたかについて書かれていて面白い。

「In 1994, Dell Computer was a struggling second-tier PC maker. Like other PC makers, Dell ordered its components in advance and carried a large amount of component inventory.」

Dellも1994年には在庫をたくさん持つごく普通の2番手PCメーカーに過ぎなかった。

「At the heart of Dell's profitability management was a seemingly impossible dilemma: The company had adopted a build-to-order system, yet it had to commit to purchase key components 60 days in advance. How did Dell manage this? The answer lay in Dell's tightly aligned business model, which had several key elements.」

Dellがこの収益管理におけるジレンマを解消するために真っ先にやったのが、「Account selection」であったという。

「Dell purposely selected customers with relatively predictable purchasing patterns and low service costs. The company developed a core competence in targeting customers and kept a massive database for this purpose.」

「A large portion of Dell's business stemmed from long-term corporate relationship accounts--customers having predictable needs that were closely tied to their budget cycles. For these, Dell developed powerful customer-specific intranet Web sites with predetermined custom specifications and budgets.」

顧客の選別という概念から、Dellモデルの洗練はスタートしたのだということは記憶しておいていい重要なことだと思う。

顧客を見極める嗅覚を磨け

最後に少しだけ、僕自身の経験をお話ししよう。

僕は1988年にコンサルティング会社に入社して以来、一貫して日本企業のコンサルティングという仕事をし続けているのだが、結局、その間を振り返れば、「顧客を選ぶことの大切さ」ということだけが、One and onlyの最重要事項として浮かび上がってくる。

結局、僕が15年以上この仕事をし続けて身につけたスキルといえば、膨大な量の人と遭遇する中から、大切な顧客としてじっくりと長く付き合っていく価値がある人(若い人でもそういう潜在的なものを持った人)を見分ける直観力だけだ、という気がする。

日本企業と一口に言っても、社風は人格と同じだけ多様だ。さらに、日本企業というのは、肩書きやポジションと関係なく、実力を持った人が散在している上、コンサルティングという機能を米国のようにカジュアルに使うという発想がない。どんなに偉い経営者に会っても、この人とは絶対に仕事上の関係は発生しないな、と直感する人のほうが圧倒的に多い。

そんな中、この会社とはきちんと付き合ってみようかな、と思える会社を見分け、そしてその会社の中でもこの人とはきちんと付き合ってみようかな、と思える人を見分けるのは、論理ではなく嗅覚である。この嗅覚とも言うべきスキルに自信を持ったときに、僕は、独立して会社を作っても、十分にやっていけることを確信したのである。

ではその嗅覚をどうやって身につけたのか。そんなことを身につける王道なんてない。結局は、膨大な試行錯誤からである。大手のコンサルティング会社に居た間に、本当にたくさんの人に会い、本当にたくさんの売り込みをし、たくさんの失敗をして、多くの無駄な時間を過ごした。それが僕の嗅覚を磨いてくれた。

ではなぜこの嗅覚が大切なのか。企業にとっても個人にとっても、突き詰めれば、もっとも重要な希少資源が時間だからである。この嗅覚こそが、時間の効率性を飛躍的に向上させ、ひいては企業の収益に大きく貢献するのである。

僕の場合は小さい事業だから、嗅覚とは、文字通り僕個人が感じる本当の嗅覚のことを言っているのだが、企業が大きな事業を展開していく場合には、それに相当する能力を、CLVがいいのかどうかは知らないが、企業のシステムや戦略の中に作りこんでいくことが重要なのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

3

Hiroyuki Itohさんの意見に共感します。

企業にとって、クレームこそが戦略をチューニングするためのドライバーなのですが、面罵される担当者は
かなりの度胸と精神力を試されますね。この苦しいシチュエーションの中で相手の言っていることの「本質」
が見抜ける人が、嗅覚を身につけていくのでしょう。かくいう私も「うるさがた」を敬愛してやまない一人です。

よくある事業ポートフォリオの「金のなる木」「負け犬」「問題児」「花形」という4象限は、顧客セグメント
についてもほぼ一致するので、ここに射影すると実はクリシェな話題であることがわかります。

むしろ顧客選別の考え方というのは、戦略の転換期に新しいマーケットセグメントに入っていくときには
既存顧客の意見にとらわれるな、今までの成功体験(および嗅覚)にとらわれるな、というメッセージ
ではないでしょうか。ただし、だからといって新しいマーケットに入っていくときの王道なんてありません。
方法論なんてまるで役に立たないでしょう。ただ一つ明らかなのは、今までの市場での経験が必ず悪い
方向に作用するということだけです。

同じマーケットにいる限り、顧客選別の嗅覚は貴重な財産です。マーケットが存続する限り価値があります。
でも、本当に必要な嗅覚というのは、世の中の変化を嗅ぎ分ける嗅覚の方じゃないでしょうか。

失礼ながら私の意見では、コンサルティングというのはほとんどが「枯れた知見」の横展開によるビジネス
をしており、梅田さんのように最先端を追求する人というのはかなり例外的と感じています。枯れた知見に
新鮮な味付けをして面白くするとビジネスになるというのがコンサルの本質だと思っているのですが、これ
はキャラクター次第ですから、向いている人なら脊髄反射でも仕事ができます。悪い言い方をすると、少数
の「うるさく金も出さないが意識は高い顧客」に学び、数多くの「カモ」で利益を出す、という構図でしょう。

さらに枯れると「標準化された手法」に辿りつきます。これなら、かなりの高齢でも仕事ができますし、ビジ
ネスとして安定します。弁護士や会計士なんてのは「法と資格によって標準化(保護?)された手法」の
最たるものですよね。顧客の産業・業種への依存性が極めて低く水平展開が可能。あたりまえの存在であり
抵抗感なくサービスをカジュアルに利用する。

余談が過ぎましたが、私はマーケッター兼エンジニアとして、常に市場を開拓し、最先端を追求する側です。
デリバリ初期の顧客からのフィードバックを取捨選択する上では「顧客」の選別ではなく「意見」の選別の
嗅覚が重要になってきます。属性としては「企業」ではなく「個人」です。

行き着くところは「キーパーソン」を嗅ぎ分ける嗅覚ですか。結局同じようなことを言ってるんですかねぇ。

  Kenn on 2003/09/03

2

「いらない顧客を切り捨てる」

この不景気の世の中、かなりセンセーショナルな言葉である。

「いらない顧客」をどう捉えるかがなかなか難しい。
収益につながる優良顧客・・・はとうぜん「いらない顧客」では無いわけだが、いつもクレームばかり投げつけてくる顧客、もうけは薄いが手のかからない顧客・・・このあたりをどう捉えるかがポイントとなろうと思う。

「うるさがた」をいらない と断ずることは簡単だが、果たしてそれは正しい選択なのか?
文句を言えない(あるいは文句を言うことをあきらめた)顧客の声の代弁者ではないのか・・・?間違いを正す道標としての価値のある顧客ではないのか?

もうけが薄い顧客に費やす時間を、もっと別の顧客に使えれば、より多くの利益が得られるのではないか?

自社のおかれた状況を真摯に捉え、表面的な事象・関係のみで顧客を選別することなく(かつ、顧客選別自体にコストをかけすぎることなく)、自社にとって有利な顧客を選んでいく・・・まさに嗅覚!!

自分自身は、まだまだ嗅覚を磨き切れていないが、「うるさがた」として社内で煙たがられている顧客に好感をもつ今日この頃です。

  Hiroyuki Itou on 2003/08/28

1

コンサルタントの山崎です。

今回、臭覚を磨いて自立されたお話は、とても共感でき、感銘したのが実感です。
多くのコンサルタントやエンジニアは、極めて限定された顧客との接点が強いため、社外への人脈を拡張するとか、リレーションを増やして行くことが困難であると思われます。この視点からは、各個人が自分自身で努力して始めて「臭覚」を身につけることができます。

3〜4年前に、ドットコム・ブームに乗り、
幾つかのポータルを国内で立ち上げようとも考えましたが、大企業のEC担当セクションは大抵、自社のポータルを見よう見真似で様子を見るアプローチを取っており、大きな賭けに出るベンチャーが少なかった。
現在はADSLなどの高速ネットワークが各家庭の電話回線で利用可能となったが、当時、多くはダイヤルアップであったからだ。この観点で見れば、ドットコム・ポータルはこれから日本国内に普及するのでは?、
と考えてみたが、米国企業のドットボム淘汰の嵐を見ると投資家(個人でなく、大企業)はアクションが取れないのも事実だろう。

ただひとつ分かったことがある。
つまり、既存のビジネスをネットワークで置換することが出来れば、顧客や利用者にとって大きなメリットをもたらすことができるからだ。
具体的には、マスコミへ参入したリクルートや
ベネッセのビジネスプロセスやビジネスモデルは、
Webポータルへのマッチングは高いと予想される。

また、ホテル予約や航空券、コンサート・チケット販売ばかりがECでなく、今後、NIKEやミズノなどの
スポーツ関係や玩具などにも波及すると予想される。

その際、話は戻るが『顧客リストを活用できるか』
といった壁にぶつかるに違いない。
「salesforce.com」では業種別アプローチによって、
顧客リストの有効活用を安価なASPで利用ができる点でCRMのお試しアプローチができる。

「臭覚」を磨くことは、経済のノウハウ本を学習することやMBAタイトルを獲得する次元とは異なっており、
そこには第三者との体験・経験の蓄積と個人の絶え間ない努力と「Mind」が必要と思われる。

もしかすると、最後の「Mind」が成否を分けることになるのではないか。

  山崎牧雄 on 2003/08/26

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