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顧客志向の製品開発は、正しいけれど、つまらない

2003/06/06 10:05
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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「顧客が大切だ」「顧客を重視せよ」「顧客満足を最優先に」。評論するのは簡単だが、企業が顧客をどう考えるかというのは永遠の課題だ。

先週の「先進的オタクユーザーは危険なお客」では、Early adoptorと呼ばれる先進ユーザにコミットしすぎると、一般顧客から乖離して製品やサービスが失敗に終わる危険について議論した。今週火曜日の「Apple、Google、USAiに学ぶ、正解が見えない時代のリーダーシップ」では、ネット事業の成功要因は、初期顧客からのフィードバックから真摯に学ぶ以外にないという話をした。

今日は、顧客について考える題材をもう1つ、という意味で、エリック・ニーの「The Customer Is Always Right」を読んでみよう。

冒頭は、Intuitの話。

顧客を徹底的に分析して商品開発をするIntuit

「I was having dinner with a couple of friends recently when one of them mentioned that a team of engineers from Intuit was going to visit his house and spend a couple of hours watching him use Quicken. Intuit has been doing this for years as part of its "follow me home" program. Instead of sitting around an office dreaming up new features to add to the money management program, Intuit's engineers hit the road to see how customers actually use the software, then use the insights they gain to improve the next version of Quicken. Intuit's constant efforts to improve the program go a long way to explain why it still holds the lion's share of the personal finance software market.」

Intuitのエンジニアは、顧客のところに出かけていって、実際に顧客がIntuitソフトをどう使うのかを観察して、次のバージョンにフィードバックをかける。こうした地道な仕事を何年も何年も続けてきたのが、Intuitの強さである。

「I then asked my other friend, who had been the chief technology officer at a once-sizable Silicon Valley business software company, whether his firm ever did anything like this. He laughed and answered no. "I'm not sure I'd want to be around when they were trying to use it," he chuckled.」

そこで、エリックは、シリコンバレーのソフト会社のCTOだったことのある友人に、そんなことを、お前たち、やっていた? と尋ねる。答えはノー。そして元CTO氏は正直にこう言う。「そんなことやりたくねぇよなぁ。」

エリックは、ここに、Intuitと他のソフト会社の差を見るわけだ。普通の人がやりたくないことをやるから成功する、というわけだ。

さてこのコラムは「CIO Insight」というサイトに掲載されたものなので、企業のIS部門の最新ニーズがテーマになっている。

「Ask corporate CIOs what their most pressing needs are today, and they'll probably say something like this: "We need to find ways to cut costs and to make better use of the products we already have, and we aren't interested in new technologies unless they are proven and can provide a quick payback."」

「When asked what the top three challenges were in 2003, these same CIOs said, "maintain operations with lower budget," "cut costs," and "complete major projects." In other words, they aren't much interested in speculative new technologies from Silicon Valley.」

IS部門は新しいテクノロジーなど欲しがっておらず、既存の製品やサービスをうまく活用して、コスト削減し、動いているシステムは低予算できちんと動かし続けたい、これが真のニーズだ。

AlwaysOnがやったEsther Dysonの最新インタビューの中で、Estherも、

「The customers want to integrate what they've already got. They've got all this data and they want someone to come and help and make it useful for them.」

既に存在しているものをきちんとインテグレートしたいという企業顧客の強いニーズについて触れている。

顧客志向のイノベーションと技術主導のイノベーション

そしてエリックは、こう言う。

「But if you ask a Silicon Valley entrepreneur what he's up to these days, too often the response is something along these lines: "We have invented a hot new technology no one else has thought of. We know what customers need even if they don't realize it yet." What corporate America wants more than ever are products that solve problems. Call it customer-driven innovation. Too often, Silicon Valley delivers products dreamed up in a room full of engineers. Call it technology-driven innovation.」

それなのにシリコンバレーの起業家連中と来たら、「誰も考えたことがないような新しいホットな技術を我々は開発した。斬新過ぎて、顧客すらその意味(潜在ニーズ)に気づいていないから凄い」みたいなバカなことを言う。大企業が求めているのは製品じゃなくて問題解決なのだ。これを「customer-driven innovation」と呼ぼうじゃないか。シリコンバレーの典型が「technology-driven innovation」であるのに対して。

このコラムの後半は、「customer-driven innovation」の話が出てくるわけだが、実はあまり面白くない。お決まりのデルの話や、シリコンバレーのレストランがコスト構造を変えてメニューに安いものを載せただとか、そういう話。

実は、このエリック・ニーのような深くIT産業を知り尽くしている人たちも含めて、こんな視点で現在のIT産業を見ている人たちが、アメリカには相変わらずとても多いのである。面白くなかったのに敢えて取り上げた理由はここにある。

シリコンバレーの役割は「Vision-driven」

僕自身はと言えば、シリコンバレーは、このコラムが主張するような「customer-driven innovation」ではなく、あくまでも「technology-driven innovation」を追求し、その前提を崩さないまま「どのようにして顧客から学ぶのか」を考えるべきだと思う。そうでないと、シリコンバレーらしい会社は生まれてこない。また、Customer-drivenかtechnology-drivenかという切り口よりも、ひょっとすると「vision-driven」(シリコンバレーの役割)に対して「Execution-driven」(IT産業全体の潮流)みたいな対立軸のほうがこれからを考える上でよりしっくりするのかもしれないと、思ったりもする。

さて、今週火曜日の「Apple、Google、USAiに学ぶ、正解が見えない時代のリーダーシップ」に対して、eNatural.orgのKogureさんからこんなトラックバックをいただいた。

「全く個人的な話ですが、ありがちかもしれませんが、ぼくはAppleとGoogleが好きなのです。」

この1行の文章に、僕も強く共感する。コンセプトとテクノロジーの圧倒的な個性とパワーで、顧客をぐいぐい引っ張っていくアップルやグーグルのような会社には、その製品ゆえに「会社を愛する」熱狂的な顧客が生まれる。

Intuitも尊敬に値する会社であることは間違いないのだが、やっぱりシリコンバレーは、顧客の横でソフトの使い方をじっと観察するなんて「そんなことやりたくねぇよなぁ」と思う凄腕エンジニアたちが、顧客をびっくりさせ、そして感動させる製品やサービスを生み出すために存在しているのだと、僕は思いたいのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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