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日本人エンジニア、一万人移住計画

2003/05/30 10:00
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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今週火曜日(5月27日)の日本経済新聞1面の企画連載「働くということ」欄に、「一万人移住計画」というタイトルの記事が掲載され、僕のコメントも引用された。さすがに日経1面となると読んでいる人も多く、問い合わせがかなり来ているので、本欄を借りて、僕がこちらの仲間たちと一緒になって推進しているこのプロジェクトについて、若干補足説明をしておこう。

新聞記事というのは、特に1面企画のようにトラフィックの多い記事は、もともと記者が書いたオリジナルから、文章を削りに削って、最終稿ができあがる。だからインパクトは強くなるが、その分、細部が割愛されて、本当の意味が正しく伝わらない場合がある。

この記事は、冒頭で中川裕人さん(31歳)というシリコンバレーで起業した人の徒手空拳のトライアルが紹介されている。記事には書かれていないが、彼が創業したのはVL Inc.という会社である。もともとはGtonyという名前の会社だったように記憶しているが、たぶん最近変えたのだと思う。マネジメントチームは、こんな顔ぶれである。

そしてこの記事で、僕に関わるところを引用すると、こうなっている(たぶん日経は記事引用に厳しいのだと思いますが、このくらいの引用はお許しください)。

「「技術者一万人移住計画」。中川のような日本人をシリコンバレーに集めようと在米経営コンサルタントの梅田望夫(42)が提唱する。「あえて厳しい環境に身を投じて素手で戦う若者が、日本を揺り動かしてくれるはず」。米国の非営利法人や在米投資家と組み、若手の就職を支援する。」

細かくは、僕は中川さんとはお会いしたことがないので、中川さんはこの記事を読んでどう思っているかなぁ、とか、(42)とあえて書かれてみるとCNET Japan山岸編集長(27)の口癖の「オジさんたち」のカテゴリーに僕は間違いなく入るんだなぁ、とか感慨深く、いろいろと感想はあるのだが、まあ長期的にはこういうことをやろうとして、仲間たちと、JTPA(Japanese Technology Professionals Association)という非営利組織(NPO)を立ち上げたのである。

6月6日には、スタンフォード大学の西義雄教授をお招きしての講演会付きの1周年記念カクテルパーティをやりますので、シリコンバレー在住の読者の方はぜひこのご案内をお読みください。

一万人移住計画の目的

さて、この記事に対して僕がどうしても補足しておきたいと思ったことが3点ほどある。

(1)日本で起業するのも大変なのに、シリコンバレーでいきなり起業するのは容易なことではない。中川さんのような人はごくごく稀な例外なのだ。だから「シリコンバレーで起業」は「シリコンバレーでプロフェッショナルとして働く」ことの一形態だと、僕たちは定義していて、「起業すること」の支援をゴールとしてはいない。また、シリコンバレーに来たら何とかなるからとにかくいらっしゃい、というような安易なメッセージを発信しようともしていないし、徒手空拳の若い人たちを無差別に支援しようなどという考えもない。

(2)その代わり、「シリコンバレーでプロフェッショナルとして働く」ということの意味や面白さを、じっくりと、いろいろな媒体を通して、日本の若い人に伝えていくという活動と、「シリコンバレーでプロフェッショナルとして働く」日本人のコミュニティをきちんと作ることの2つを、まずは地道に始めることにした。この「英語で読むITトレンド」連載を僕が始めたいくつかの理由の1つに、そういう主旨も含まれている。

(3) その「面白さ」を仮に理解して「いずれはシリコンバレーでやってみるのも面白いかな」と思う人がいるとすれば、そういう人には、「極めて戦略的に、しかしときに冒険的に、自分のキャリアを積み重ねていってほしい」というのがキー・メッセージである。

フォーサイト「シリコンバレーからの手紙」連載で、シリコンバレーで活躍する日本人やその予備軍の人たちについてインタビューエッセイを書き始めたのも、多様なロールモデルを具体的に示すことで、若い人にとって何かの参考になればいいな、という思いからである。

「極めて戦略的に、しかしときには冒険的に」という意味についてもう少し詳しく説明してみよう。

研究者・技術者のキャリアには2つのタイプがある

まず重要なのは、自分がどういうタイプの人間なのかを理解するということである。

どういうタイプ、と言っても茫漠としているとすれば、二者択一で次の2つのタイプのどちらですか、という問いを考えてみてほしい。

JTPAサイトでは、シリコンバレーで活動する日本人のインタビュー記事がたくさん載っているが、その中に、僕のインタビュー記事もある。この中で、僕は持論でもある「第一の道」と「第二の道」の違いについて、そのシリコンバレーにおける意味について、できるだけ詳しく話をしようと努力したので、何箇所か引用しておく。

「研究者・技術者の人は、自分が次の二つのどちらのタイプかを見極めることが大切だと思う。一つは、ある特定領域において超一流ともいうべき技術を磨いていく道。もう一つは、技術の強みを活かしつつ幅広くビジネスの勉強をして、技術とビジネスとの接点においてどんな難問が自分の前に現れても解いてやるぞ、というだけの自信をつける道。もう少し広い言い方をすれば、「自分はこれをやりたい。これしかやりたくない。だからそのことについては世界一を目指していく」というのが「第一の道」で、「世の中にはいろいろとおもしろいことがあるからきっとこれからそういうものに出会うはず。そんな機会を目前にしたときに十分に対応できる実力をつけよう」というのが「第二の道」です。」

「「第一の道」と「第二の道」のいずれを選ぶかは個性の問題だと思います。シリコンバレーには、この「第一の道」を選んで生きている人と、「第二の道」を選んで生きている人がそれぞれたくさん居て、「第一の道」ですごい人が居ると、そのまわりに「第二の道」の人たちがたくさん集まってビジネスにしてくれるのです。ここがおもしろいところです。」

「「第一の道」タイプの人のストーリーはつぶしが効かないという欠点がある。だから逆に専門性を磨いて磨きぬいてとんがったものにして、ストーリーをアイデンティカルで自分にしかできないものにしていく不断の努力が必要になります。それができないと食えなくなる。ただそれができて何かの旗を立てることができれば人は集まってくる。反面、「第二の道」タイプの人には色々なオポチュニティーがあるのが利点ですが、逆に「第二の道」タイプの人たちはたくさん居ますから、「地頭(じあたま)のよさ」を競う競争が、それはそれでとてつもなく厳しくて大変、というのが欠点でしょう。」

「第一の道」「第二の道」なんてちょっと大仰な表現を使ってしまって恐縮だが、だいたいの感じはつかめていただけただろうか。

すごくシンプルな言い方をすれば、技術系大学院に進んで専門を極めてPh.Dを取って、というような指向性を持つ人が「第一の道」タイプで、MBAをとって幅広く勉強して、という指向性を持つ人が「第二の道」タイプの人である。

「第一の道」タイプの人にとっての「極めて戦略的に、しかしときには冒険的に」は、やはり自分の専門を決めてそれを徹底的に磨いていくということに尽きる。米国留学もいいし、日本の大企業に勤めてもいいし、外資系日本法人に勤めてもいいが、ある特定分野については「世界でトップクラス」という状況にまで自分を持っていくと、シリコンバレーに行ってもきっと通用して面白いことができる。「戦略的に専門を極め、機が熟した時に、それを活かす場については冒険的に決めて、勝負する」ことが大切だ。こちらは案外シンプル。

目の前のチャンスに飛びつくことの重要性

しかし「第二の道」タイプの人にとっての「極めて戦略的に、しかしときには冒険的に」は、ちょっと違うと僕は思う。ベースになる実力をつけた後は、目の前のチャンスに「冒険的に飛びつき」、その環境の中で「戦略的に努力し、自分の実力を理解してくれる人の輪を広げていく」ことが大切なような気がする。「第一の道」タイプと違って、こちらのタイプの人は、常に面白い仕事、面白い場所を探している。でも何だか目移りしているうちに、年だけ取っていくというリスクがある。「第二の道」タイプの人は、コツコツと1つのことをやり続けないから、下手をすると何のスキルも磨かれずに歳月を送るリスクがある。だから重要なのは、いま目の前にあるチャンスに飛びつき、その環境の中で精一杯自分の実力を表現することなのである。そうすれば、その場所でうまくいかなくても、必ずその仕事を誰かが見ていてくれて、次の「面白いチャンス」を提供してくれる。そこにまた飛びつけばいい。「第二の道」タイプは、「まずは冒険的に動くこと」が大切なのだというのが、僕の経験的観察による結論なのだ。

とまぁ、偉そうなことを書きましたが、もちろん人それぞれであります。だから、以上が誰かの何かの参考になればという程度で、軽い気持ちで読んでください。

ただ確信を持って言えるのは、「大企業で、ただただ言われるままの仕事をしていれば、いつか幸せになる」というモデル(特に一流大学を出て同期ではトップを走っていると勝手に思っている自称エリートたちの精神を支えるモデル)は、実はもう破綻していて、リスクがでかすぎるということ。大変に見えるかもしれないけれど、戦略的に冒険的にキャリアを積んでほしい、というのが僕の結論。

そのほうが絶対にリスクが小さい。

そして「第一の道」でも「第二の道」でもいいが若い実力派の日本人が、何らかの縁をたどって、たくさんシリコンバレーに参集すれば、いろいろと面白いことの連鎖が起こり、日本にも好影響を及ぼすのではないかと考えている。そういうイメージの実現のために、いま何ができるだろうかと、こちらの仲間たちと模索する毎日なのです。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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