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「価格破壊の10年」を面白くするシリコンバレーの反権威的パワー

2003/05/20 10:00
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umeda

シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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4月3日の本欄「IT産業に迫る『価格破壊の10年』」は、「The Cheap Decade」というRich Karlgaardの文章を取り上げたが、その続編「The Big Cheap Chance」が出たので読んでみよう。

「At Fry's Electronics, a California store chain, you can buy an elephant's memory's worth of disk space--a 120-gigabyte hard disk drive from IBM/Hitachi--for $113. Welcome to the Cheap Revolution! The sum of this revolution is greater than its parts, as you'll see.」

いきなり余談だが、この冒頭のFry's Electronicsに行くと、シリコンバレーのGeekたちの生態を観察することができる。中には、日本人駐在技術者で「シリコンバレーの悪いところは秋葉原がないところだ」なんて内心思っている連中も、仕事帰りに家に帰らずにこのFry’sでよく遊んでいる。

もうFry’sでは、120GBのHDDを113ドルで売っている。1GBあたり1ドルを切った。「Welcome to the Cheap Revolution!」というわけ。興味のある方は、バックナンバー「ストレージコストの低下と著作権問題」もあわせてご参照。

さて本題に戻ろう。この「The Big Cheap Chance」は、3つのパラグラフに分かれていて、3つ目は全く別の話題なので読まなくていい。1つ目のパラグラフは、本編の「The Cheap Decade」を読んでいる人は飛ばしてしまっていい。

「価格破壊の10年」を生き抜く方法

本稿のポイントは第2パラグラフ、「Three Paths to Success」にある。

「The Innovator's Dilemma」(日本語訳は「イノベーションのジレンマ」)のClayton Christensen教授のスピーチ内容のエッセンスをまとめたものだ。

「As Harvard Business School's Clayton Christensen told the crowd last month at the Third Annual Gilder/Forbes Storewidth Conference, you can escape the Cheap Revolution's unrelenting margin pressure in only three ways: 」

「価格破壊の10年」を生き抜く3つの方法がある。

第1のポイント。

「Improve your product offering faster than anybody else can.」

誰よりも速く製品提供できるようプロセスを改善しろ。でもこれはIntelのようなマーケットリーダーにしかあてはまらない。

第2のポイント。

「Sell fast custom solutions that answer a customer's needs.」

顧客ニーズに応えるカスタムソリューションを迅速に売れ。例としてXilinxとIBMを挙げている。日本企業が皆、口をそろえて言うSolution事業への転換を本気で果たすならば、スピードこそが命であるということだ。

第3のポイント。

「Find an unserved market and serve it cheaply.」

まだserveされていない市場を見つけて、そこに安くserveしろ。昔々のソニーの話を例に取っている。

大企業にとってはつまらない時代

クリステンセン教授を悪く言うつもりはないが、ずいぶんぬるいスピーチをしているなぁ(ぬるいスピーチを長々やりつつ聴衆の評判を取るというのも実はものすごい技術なのだが、僕にはそれがどうもできない)、というのが正直な感想だが、逆にいえば、IT産業が成熟化して「価格破壊の10年」を迎えたときの現実的な戦略の選択肢というのは、普通に考えるとそうたくさんはない、ということなのである。一点突破のベンチャーならばまだいいが、大企業にとってもそうエキサイティングな時代ではなくなってしまったということなのかもしれない。残念ながら。

「Want to be a billionaire? Use the Cheap Revolution to de-liver a cheap product to the unserved.」

というのも何だか寂しい結論である。

ではIT産業とシリコンバレーはこれからどうなるのか。

僕は、1年少し前(2002年2月)に、「非常に重要な論考」と勝手に自分では思っている文章を、日経ビジネスに書いた。「『IT後』のシリコンバレーの役割」という文章だ(僕の個人サイトには、過去に書いたものはほぼ全部、間違っていたものも含めて、検証のために残してある)。

IT産業とシリコンバレーの今後

当時の僕は、ITバブル崩壊の長期化と、その中でベンチャーキャピタルを経営する重圧と、9/11同時多発テロの直後のショックで、今から考えるとかなりエネルギーレベルが落ちており、やや弱気なことを書いている、と今からは思う。ポイントは「IT産業の成熟化」であり、世界にIT技術は広く拡散し、IT産業は各国ごと、顧客ごとの応用的発展の時代に入った。だからシリコンバレーの相対優位はITに関しては低下し、シリコンバレーの役割は「生命と物質の解明という最先端基礎研究の成果から巨大新産業を生み出すこと」になると結論付けた。

今、この文章を批評するとすれば、「IT産業の成熟化」は間違いなく進んでいるから、そこはいい。IT技術におけるシリコンバレーの相対的優位も落ちている。

そこもいい。しかし、そこから短絡的に、バイオ・ナノテクの方にのみ(バイオ・ナノテクが重要なのは変わりないけれど)、シリコンバレーの役割を持っていったのは、間違っていたと思う。

では何が僕を間違えさせたのか。当時の僕は、シリコンバレーの「反権威的性格」を過小評価していた、つまり「既存産業を破壊するためにネット、ITを使って戦い抜くイニシアティブ」の力強さが、バブル崩壊でかなり萎えてしまった、と感じていたのだ。

シリコンバレーはIT技術を使って既存産業を破壊する

ところがどっこい、Wi-Fiにしても、Googleにしても、音楽配信にしても、ドットコムの再興にしても、やはりシリコンバレーの「反権威的性格とIT最先端を結びつけて、既存産業を破壊する」という力強いイニシアティブは生きていたのだ。

不況期が続くシリコンバレーで、シリコンバレーのそういう本質から遠いものはどんどん崩落し、今はかなり研ぎ澄まされて先鋭化した本来のシリコンバレーが戻りつつある。そういう意味で、クリステンセン教授の本来の主張であるDisruptive technologyの広義の供給源として、シリコンバレーは重要な役割をIT産業で果たす、と思うようになってきた。再び面白い時代がやってきたと思えるようになったのだ。

それが、この毎日更新の連載を始めることにした動機の1つでもあったのです。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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